Reckless fire ◆Wott.eaRjU


「衝撃の!ファーストブリットオオオオオオオオオオオオオッ!!」

弾丸だ――見る者に思わずそんな感想を抱かせる程の勢いが其処にあった。
エリアE-5劇場周辺、髪を逆立たせた一人の青年、カズマが吼える。
いや、犬だ。この殺しあいでの優勝を目指すだけのただの野良犬の一匹でしかない。
また青年の右腕には、黄金と橙色の装甲を張り付けたガントレット状の、唯一無二の武器が宿っている。
“アルター”なる一種の超能力に類し、“シェルブリット第一形態”と呼ばれる代物であり、彼の誇りでもあるそれが晒される。

(速攻だ……モタモタしてる暇なんてねぇ!)

右肩から生えた三枚の真紅の羽の内一枚が消えうせ、眩い緑光を撒き散らす。
ファーストブリット射出の勢いに身を任せながらカズマは思考を回す。
人数はまだまだ残っている。最後の放送の時点で残り37人というこの現状。
生き残るためにはこの場からの撤退は悪い手ではなく、寧ろ良い手だとも思える。
簡単な事だ。今現在負っている傷は決して軽くはない。
長期戦になれば不利を強いられるのは誰よりもカズマ自身がわかっている。
だけど出来ない。曲げたくはないという感情が暴れ狂っている。
眼前の敵を、壁をこの拳で叩き砕く。曲がりようのない意思がこの身体を突き動かす。
ならば委ねるしかない。たとえ無鉄砲だとバカだと罵られようとも、やはり自分はこういう生き方しか出来ないのだから。
気に入らないものが、乗り越えなくてはいけないものがあれば。
そう、たとえばこんな眼をしたヤツが目の前に居るならば。
自分は駄犬にでもなんでもなってやる。
その意思に歪みなどはない。

「ほぅ、見違えたぞ。駄犬にしておくには惜しい速さだ」

だが、そんなカズマの覚悟を嘲笑うかのように男は口を開く。
カズマと同じように逆立たせた髪は金色に染まり、真紅の両眼はどこまでも赤みを帯びている。
その男こそ古代バビロニアの王にして最古の英霊、英雄王ギルガメッシュ。
そしてギルガメッシュは何処からともなく取りだした、黄色の短槍の柄でシェルブリットを受け、衝撃を殺していた。
漆黒のライダースーツに覆われたギルガメッシュの細身からは不釣り合いな気迫が周囲に拡散している。
当然、シェルブリットの一撃をあっさりと受けられた事で驚きを隠せないカズマもその内の一人だ。
こいつは強い。楽に終われない展開が今、眼前にあるのだと五感総てでカズマは感じ取る。
驚きはない、まったくもって。シェルブリットを放つ前から予感はしていた。
赤い血で塗りつぶしたようなギルガメッシュの両の瞳を見ればわかる。
この見下したような眼をカズマは確かに知っている。
たとえ色が違えども、込められた感情はあのいけ好かない蛇野郎となんら変わりはしない。
だからむざむざと尻尾を巻いて逃げるような真似は出来ない。

「ッ!うらぁ!!」

カズマが伸びきったシェルブリットを軸に腰を回す。
同時に地を踏みしめていた右脚を振り上げ、ありったけの力を込める。
なにもシェルブリットだけがカズマの全てというわけではない。
生きるだけで精いっぱいだった、ロストグランドでの生活を忘れてはいない。
鍛えざるを得なかった身体もカズマにとっては立派な武器の一つだ。
カズマの右の回し蹴りががら空きになったギルガメッシュの腹へ飛び込む。

「なにをする? よもやこの我の身体に触れるなど度し難い」

しかし、響いた音は肉が潰れるものではなく、ギルガメッシュの怒りが籠った声だった。
見ればカズマの蹴りに合わせるかのように、ギルガメッシュの右脚も振り上げられている。
碌に勢いを乗せていなかったにも関わらず、カズマの渾身の蹴りを止めている。
依然としてシェルブリットの侵攻も抑えており、そのギルガメッシュの力には目を見張るものがあるだろう。
その理由にはギルガメッシュが人間ではない事が絡んでいる。
“聖杯戦争”と呼ばれ奇跡を求めるために、7組の魔術師達が互いに殺しあう戦争。
その戦争に於いて魔術師達に使役される者こそがサーヴァントと呼ばれ、彼らは歴史に沈んだ英霊の魂が具現化した存在だ。
当然、並みの人間はおろか鍛錬を積んだ魔術師でも彼らサーヴァントに立ち向かうのは難しい。
故にこの殺しあいで力の制限を受けようともサーヴァントの、それも最古の存在であるギルガメッシュの力は脅威以外のなにものではない。

(重てぇ……だけどよぉッ!)

右脚に走った衝撃がカズマの意識を揺さぶる。
元より多くの傷を負った身だ。
下手を打てばフラリと気を失ってしまうかもしれない。
同時にそれはカズマの揺るぎない死を示す合図と成りうる。
そんな結果は一片たりとも望んではいない。
よってカズマはただがむしゃらに前へ進むしかない。
シェルブリットに更なる力を込め、槍ごとギルガメッシュの身体を叩くためにも。

「――ッ!」

そんな時、ギルガメッシュがまるでカズマの意図を察したように右へ身を逸らした。
同時に黄色の短槍――必滅の黄薔薇が廻り、シェルブリットの勢いを捌く。
潰すべき対象を見失い、シェルブリットの爆発的な加速に引っ張られカズマは前のめりに傾く。
そしてギルガメッシュは動いた。空いた左腕を軽く上げて、一気に振り下ろす。
背中から襲いかかった衝撃に強く打ちつけられ、カズマは更に体勢を崩した。
前方を映していた視界には土色の地面が映りだし、丁度うつ伏せの状態で屈する形となるもののカズマは直ぐに体勢を起こそうとする。
しかし、ギルガメッシュにむざむざとカズマの好きなようにさせるつもりはない。

「ガッ! てめぇ!!」
「ははははは、良いぞ。やはり駄犬はそうして地に這い蹲る姿こそふさわしいものよ!」

屈辱的な言葉と共にカズマへ投げ掛けられたのはギルガメッシュの右脚だった。
サーヴァントの怪力をもってしてカズマの背中を容赦なく押しつけている。
その力は強大であり、負傷が絶えないカズマの身体には無視出来ない負担となる。
抜け出せない拘束。更にギルガメッシュは、追撃と言わんばかりにカズマの頭上へ黄薔薇の矛先を翳した。
カズマからは死角となっていて、自分の命が既にギルガメッシュに握られていることが確認出来ない。
だが、感じることは出来た。このままじゃヤバイ。このままだと守れない。
譲れないものを、どうしてもこの手に取り戻したい存在を護れない――と。
今現在、刻一刻と身に迫る危険をカズマは確信の領域で感じ取る。
幼少の頃から生きるための闘いを続けた事で、鍛えられた感覚がカズマを動かす衝動となる。
既に黄薔薇は恐るべき速度で振り下ろされ、秒にも満たない内にカズマの脳天を刺し貫くだろう。
しかし、カズマの方も完了している。
なぜなら右腕のシェルブリットはまだ、曲がってはいないのだから。
強引に体を動かして、ギルガメッシュの足の支配を払い、シェルブリットもまた振り下ろされようとしている。
ただし――果てしなく広がる地面へと向かって。

「――なめんじゃねぇ!!」

カズマは力強くシェルブリットで大地を殴りつける。
シェルブリットが生み出す威力は爆弾と称するに相応しい。
制限を掛けられ、不完全な体勢で撃とうとも程度差はあれどその事実に変わりはない。
故にシェルブリットがカズマの身体を持ち上げる。
地に叩きつけたことで生まれ出た反発の力はもはや確認するまでもない。
意に反しながらもギルガメッシュは咄嗟に後方へ身を飛ばす。
その刹那、ギルガメッシュが居た場所を一迅の風が――暴風ともいうべき力が空へ駆け上がった。
シェルブリットを打ちつけ、逆立ちの要領で足を上へ向けて、カズマはそのまま飛び上がる。
華麗さも優雅さもあったものではない。
だが、数十メートル程の距離を悠々と飛び越し回転を挟み、膝から着地する。

「くだらん真似をしてくれるな、雑種ッ!」

立ち上がりながら振り返ったカズマの視界には、やはりギルガメッシュの姿が映っている。
そしてその大きさは今も大きくなっており、黄薔薇が一直線にこちらを向いている。
目を見張るほどの瞬発力は、ギルガメッシュの異常性をカズマが改めて認識するのには十分過ぎた。
しかし、やりあう相手の事についてモタモタと考える暇はない。
苛立ちを感じながらもカズマは生き残ることへ全ての神経を回す。
反撃のタイミングは既に終わり、身を引いての回避を半ば本能に従いながらも選択。
ドンピシャかそれともギリギリか。
そのスリルを楽しむ余裕は生憎この状況では存在しない。
紙一重の差でカズマは黄薔薇の刺突を免れる。
幸いにもそれは短槍が故の黄薔薇の柄の短さも関係したのだろう。
しかし、カズマの表情にはこれといって安堵の色は見られない。
何故ならまだ終わってはいないのだから。

「そらそらそらそらぁ! どうした、もっと踊ってみせよ!」

一撃目の次には二撃目を、そしてその次には三撃目を。
ギルガメッシュは速度を一向に緩めずに、何度も黄薔薇による突きを繰り出す。
その槍捌きはランサーのクラスに召喚された、ディルムッド・オディナのものより鮮やかさは落ちる。
だが、ギルガメッシュはサーヴァントであり、彼の宝物庫にも槍の宝具は眠っている。
並大抵なものではない。
人を殺すには十分すぎる加速が、誰に言うわけでもなく物語っている。
いや、敢えて言うならただ一人にだ。
今も黄薔薇の連撃を無我夢中に避け続けているカズマへ。
一度でも喰らえば決して軽くはない。
まるでそんな事を言っているかのように。

「ちっ、この野郎が……!」

一方、カズマの方は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべている。
黄薔薇の猛攻に隙は見られず、避けることで精一杯の現状がカズマの焦りを誘う。
こんなことでいいのか。
こんなことで自分は生き残れるのか。
こんなことで本当にこの男に勝てるのか。
当然、いつものように“No”という反逆をそのふざけた問いに突きつけてやりたい。
右腕のシェルブリットを前へ繰り出そうという衝動は、今か今かと出番を待っている。
だが、一度やってしまえば代わりに槍の一撃を貰う事だろう。
それも絶妙なタイミングで、確実に自分の命を刈り取る傷をもってして。
そんな確信が頭からどうにも離れない。

柄にもない不安が時間と共に積み重なっていくのを実感させられる。
このままじゃ駄目だ。
先に倒れるのは自分の方かもしれない。
なんらかの変化が、目に映る行動をしなければ自分は負ける。
依然として力の衰えも見せないギルガメッシュを見れば嫌でもそう思い知らされる。
故にカズマが取る道は――いつもどおりの一本道だ。

(そうさ。迷うコトはねぇ……気にいらねぇヤツは殴る、ただそれだけだろうがッ!)

後ろへ下がっていたカズマが急に前へ踏み込む。
唐突に現れた黄薔薇の連撃の衰えがカズマを突き動かす。
一瞬の綻びも見逃すつもりはない。
ギラギラと鋭さを帯びた瞳が見る先はただの一点だけだ。
それは一発ブチ込みたいと掛け値なしに願う相手、ギルガメッシュの顔面。
余裕そのものでしかなかったギルガメッシュ顔が、ここにきて僅かに焦りで歪んでいる。
みすみすとチャンスを逃すつもりもない。
ここぞとばかりにカズマは二撃目のシェルブリットを撃ち出そうと身構える。

「――は、ここまで我の思い通りになってしまうのでは逆に興ざめというものよ」

しかし、一変してギルガメッシュに余裕が戻り始める。
まるでそれが当然であるかのように、カズマが踏み込む事を見通していたかのように。
誘われた――ギルガメッシュの意図を、カズマは図らずとも間合いにより理解する。
再び向けられた黄薔薇の切っ先はカズマの左胸を正確に捉えている。
貰えば先ず致命傷は免れない。嘆くことよりも憤る事よりもカズマは左腕を翳す。
シェルブリットの大振りな動作は止まらせずに、敢えて直進させたままで。
相打ちすらも辞さない覚悟はとうに済んだ。
ただし、生き残る事だけはなにがあろうとも譲るつもりはない。
闘志を曇らせることはなく、その意思を誇示するかのようにカズマは突き進む。

「言っておくが……この宝具、あまり舐めていては足元をすくうコトになるぞ」
「知ったことじゃねぇッ!!」

肉が裂け、赤い飛沫が地面に飛び散った刹那、ギルガメッシュが嘲笑う。
左胸を護るために犠牲にした、左腕からの焼けるような痛みがカズマの神経を駆け巡る。
その痛みに耐えながら同時にギルガメッシュの言葉の意味に思考を回す。
だが、いい考えは浮かばない。元より考える事は苦手といえども情報が少なすぎる。
それよりもだ。カズマは自身のシェルブリットの一撃の行方に意識を向ける。
確かな手ごたえはない。代わりに視界に映るものが一つ。
首を軽く傾け、さもつまらなそうに一瞥をくれたギルガメッシュの顔がそこにあった。

「そう暴れるでない。我が直々に手を下してやるのだ。むしろ誉と思うがよい、駄犬」

ギルガメッシュの屈辱染みた言葉への感情など二の次だ。
土壇場でしくじった事を嫌でも思い知らされる。
思わず舌打ちするカズマだが、直ぐに左腕を己の方へ引き戻した。
血肉に塗れた黄薔薇がカズマの左腕から引き抜かれ、新たな赤い雫が彼の足元を濡らす。
顔をしかめながらも決して無視出来ないダメージを意識から強引に飛ばす。
両脚で踏ん張り、一度後方へ飛んで腰を落として、右腕を駄目押しの支えとする。
未だ衰えを知らない意思を滾らせる左眼は、しっかりと相手の動きを探るために、前へ。

「俺のアルターはまだまだ燻ってんだ、かってにいい気になってんじゃねぇ!」

もう一度、渾身の力を込めてカズマはシェルブリットで大地を撃つ。
瞬く間に生まれた衝撃がカズマの身体を空高く翔け上がらせ、右腕を突き出す。
さながら強力な力で撃ちだされた弾丸が目標を定めるように、カズマは地上を指し示す。
否、地上ではない。
依然として両腕を組み、さも尊大な様子で立ち尽くすギルガメッシュの元へだ。
カズマが取ったその行動を止められる者はこの場には一人も居ない。

「撃滅の!セカンドブリットオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

二枚目の羽の消失と共に再び爆発的な衝撃が生まれ、轟音が大気を揺るがす。
セカンドブリットが捉えたものは咄嗟に横へ飛びのいたギルガメッシュではない。
彼の後方に位置する建造物、劇場の南館の外壁の一部がいとも容易く粉塵に還った。
右腕を弾丸に見立て、アルターの力でさながら大砲とも思しき勢いをもってして前へ撃つ。
その威力は測り知れるものではなく、ただ判る事は規格外なものであることだけだ。
まさに英霊が用いる宝具にすらも匹敵する脅威――と。
聖杯戦争に少なからず関わる者は感想を漏らすかもしれない。
だが、この男にはそんな考えを思いつく筈はなかった。

「脆弱な犬ほどよく吠えるとは言うが度が過ぎるぞ、駄犬。少し頭を冷やすがよい。
それとざっと検分してみたが、これをキサマが持っていたことは腹立たしいが結果として我の手に戻ることが出来た。
それだけは褒めてつかわせてやろう」
「てめぇ、俺の持ちモンを……!」

カズマが持っていたデイバックの紐をいつのまにか黄薔薇で切り取り、ギルガメッシュは手に取っている
黄金の毛髪が僅かに揺れたかと思うと、ギルガメッシュの周囲がふいに歪み出す。
それは空間の歪み。錯覚ではなく確かにユラユラと蝋燭の灯が風に揺れるような光景だ。
原因はギルガメッシュが奪った支給品。いや、それはサーヴァントが使いし宝具の一種。
やがてその歪みの中から何かが飛び出していく。

「ただし――頭だけとは言わずに、貴様の躯体総てをもってしてな!」

それらの正体は剣、槍、斧などの無数の武器の群れだ。
数は10には満たないもののそのどれもが華美な装飾が施されている。
何故ならそれら一つ一つがギルガメッシュの所有する蔵に納められ、正真正銘の宝具である。
それこそがカズマのデイバックの中にあった、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の中身。
王の宝物庫がデイバックから王の財宝内へ瞬時に移される。
無数の宝具が収められているため一つ分の支給品にしては破格の扱いだろう。
だが、王の財宝の鍵剣がなければ使いものにはならず、一つ一つの宝具の使用にも疲労はついてくる。
よしんば鍵剣と共に手に入れたとしても、並の参加者では碌に使いこなす事は難しいに違いない。
バラバラに支給された支給品を二つとも手中に揃える運、そして宝具の連続使用に耐えうる体力の持ち主。
体力の方はまだしも運の良さなど個人でどうにか出来るものではない。
但し、固有スキルといった絶対的な力で目を見張る豪運を約束されている者以外は――。
そう、該当する人物はあまりにも少ない。
たとえ強力すぎる支給品であろうとも、使い手が限定される形であれば問題はないと主催側は考えたのだろう。
王の財宝の鍵剣、王の宝物庫は最初から英雄王ギルガメッシュのために用意されていた。
そして解放された宝具共がシェルブリットの着弾点に殺到する。
その勢いはまさに疾風怒濤の如く、外壁の残骸を更に砕いていく。
しかし、肝心の標的は其処には居ない。

「そこだあああああああああああああああああああああああああ!!」

ギルガメッシュが見上げた先にカズマの怒声がやかましくも響きわたる。
今までのやりあった事でカズマも、セカンドブリットで終わるとは思っていなかったのだろう。
セカンドブリットの直撃から直ぐにカズマは瓦礫を蹴り飛ばし、飛び込んでいた。
未だに日が差し込む蒼い空へ、ギルガメッシュの上を取れる場所へ。
今度こそ必殺の一撃を、最高のタイミングで撃ちこめる位置をカズマは掴み取る。
だが、ギルガメッシュもただ見ているわけではない。
少し驚いたような顔を見せながらも腕を翳し、再び王の財宝から宝具を射出する。
一方カズマに避ける動作は見られず、愚直なまでに直進するだけだ。
ただし、カズマの方も何もしないわけが――ある筈もない。

「抹殺の!ラストブリットオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

廻る。最後に残った一枚の羽根を使い、緑色の輝きを散らしながらカズマが廻る。
三発の弾丸の内、最後の一発であるラストブリットをカズマは自身の回転の勢いを加えて撃ち出す。
迫りくる宝具はシェルブリットで横殴りに打ち払い、カズマの勢いが削がれる様子はない。
対してギルガメッシュは憎々しげに口元を歪めながら、王の財宝から黄金に彩られた盾を取り出した。
己の鎧が破壊されてしまった今、たとえサーヴァントといえど、生身で喰らえばただでは済まない事だろう。
そのための防衛手段をギルガメッシュは抜かりなく講じる。


「ハッ! 恥を知れ、雑種! 英雄王たる我にここまで見苦しい真似をしてくれるとはな!」

だが、ギルガメッシュの浮かべる表情に焦りは見られない。
カズマの反撃には驚かされたものの、己の財宝が負けるとは露にも思っていないためだ。
それらの財はギルガメッシュの選定を受けて王の財宝に納められている。
当然、今現在カズマのシェルブリットの直撃を受け止めている盾にもその事は言える。
たとえ、予期していたものよりも遥かに膨大な衝撃が盾越しに襲おうとも構わない。
ギルガメッシュが想像する結末に、自身が押し破られる光景などありはしないのだから。

しかし、それはあくまでもギルガメッシュ側だけの考えである。
そもそも完全なものではなくとも、誇りの塊ともいえる彼が敗北を認めるわけもない。
故に必ずしもその考えが来るべき結果を指し示すとは限らない。
その答えを示すかのように、拮抗し続ける状況に変化が訪れる。
刻一刻とではなく、まるで不意を突いた形で。
依然として、右腕をギルガメッシュの盾に喰らいつかせるように撃ちつけたままで。
男の――カズマの周囲で地面が唐突に消え失せた。


「恥なんか知ったことか! 壁があるんだ、俺の眼の前にてめぇという壁がな……だったらよぉ!」


カズマのシェルブリットにアルターの象徴ともいえる、虹色の光が収束し出す。
いや、それだけでは終わらない。
一瞬だけシェルブリットが右腕ごと消失し、代わりに新たな腕が生えていく。
手の甲には円形の奇妙な模様が刻まれ、第一形態よりも更に重厚な装甲を纏い、それは右顔面にも渡っている。
それこそが“シェルブリット第二形態”。
かつてアルター結晶体との邂逅により手に入れた力だ。
軽く腕を引き、カズマは再びシェルブリットを前へ突き出す。

「やるしかねぇだろうが! 押し通すしかねぇだろうが!
このシェルブリットで、てめぇに――俺の“反逆”をなああああああああッ!!」

ファーストブリットではなく、セカンドブリットでもラストブリットでもない。
当然だ。カズマの三発の弾丸は既に使いきってしまった。
だが、カズマのシェルブリットには宿っている。
力が、禍々しい程に強烈な力の存在がまるで外観に現れている。
シェルブリットの弾丸は時間が経てば自動的に生成されるというわけではない。
されども弾丸の補充が完了した原因は至って単純なもの。
新たな装填を行うには、また新たにシェルブリットを形成すればいいだけだ。
そう、だからこそ今のカズマには撃つ事が出来る。
新たなシェルブリットを、己の手で造りあげたカズマに――出来ない道理がない。

「もっとだ!もっと輝けえええええええええええええええええええええええッ!!」

ギルガメッシュに向けて突き出されたシェルブリットに変化が生じる。
背中には今までの三枚羽とは違い、プロペラを模した翼が現れ、金色に発光しながら廻り出す。
右腕の二の腕が横へ開き、続けて手甲に刻まれた円状の部分も開き、代わりに漆黒が顔を見せる。
同時に虹色の光がその黒点から旋風を起こしながら吹きあれ、黄金の輝きを宿す。
周囲の地面をアルター形成の糧として巻き込み、眩い程の輝きが黒を完全に塗りつぶした。
一切の躊躇なくカズマはその拳を更に前へ前へと突き進ませ、ありったけの声で叫ぶ。
既に右腕全体が黄金の色に染まったシェルブリットがただ一人の標的を狙う。


「シェルブリットバーストオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


黄金の盾と、黄金の輝きを放つ拳がぶつかり合う。
今までとは段違いの速度を伴い、叩きこまれたものはシェルブリットの新たな威力。
その名はシェルブリットバースト。掛け値なしに一撃必殺に相応しい一撃。
盾の上面から絶え間なく迸る火花が、その暴力的な力をありありと示す。
さすがのギルガメッシュももう片方の腕を添え、両腕で受け止める。
刹那、激突の余波でギルガメッシュとカズマの周囲の大気が震えた。
ついで目下に広がる大地からも地響きが湧く。
その変化は聴覚だけではなく、まるで叫ぶかのように視覚にも訴えかける。
そしてそれはギルガメッシュの持つ盾にも、無数の亀裂という形でハッキリと現れた。
こうなってはもう――カズマのシェルブリットは誰にも止められるわけがない。


「なに、よもやキサマ――――」


ギルガメッシュが驚愕に満ちた声を漏らした瞬間、黄金の盾は完全に砕け散った。
日の光に反射し、黄金色に輝く破片が辺り一面に散らばったかと思うやいなや、シェルブリットが飛び込む。
思わず口を開け、ただ前を見ていたギルガメッシュの顔面にあまりにも強烈な一撃が。
鳩尾を抉るように叩きこまれたシェルブリットは、いとも容易くギルガメッシュを地に伏せさせる。
そしてギルガメッシュの背中を起点に、既にひび割れていた大地に更に負荷が掛かり――


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


ギルガメッシュとカズマの周囲の地面は崩壊し、二人は暗闇の中に落ちて行った。



◇     ◇     ◇


「ッ……どこいきやがった、あの野郎…………!」


暗闇の中、カズマが一人不機嫌そうに唸る。
明かりはなく、視界が悪いためにギルガメッシュの位置を完全に見失ってしまった。
カズマが歩いているのは駅とは遠く離れ、線路沿いに連なる作業員用の通路のようなものだ。
今のところ運行する地下鉄は見かけてはいない。
しかし、そんなことは正直、今のカズマにとってはどうでもよかった。

「さっさと終わらせねぇとこっちがヤバイな……」

頭が、両腕が、両脚が、身体のそこら中が鉛のように感じられる。
呼吸の音も普段よりも荒々しく、一定の規則性が見られない。
先程のギルガメッシュとの戦い以前に、カズマはあまりにも傷を負いすぎていた。
美坂美琴、カルラ、レヴィ、東方仗助クレア・スタンフィールドグラハム・スペクター、無常矜持。
いずれも一筋縄ではいかない相手だった。
勝敗に差異はあれども貰った傷と痛みは確実に増えている。
そしてそれらは明らかに異常としてカズマ自身の身体に色濃く出ている。
特に右腕の負傷が重い。シェルブリットバーストは強力故に代価となる負荷を伴う。
制御になれたとはいえども、使い始めた頃には激痛のあまりにただ叫ぶしかなかった。
貫かれた左手の感覚にも依然として確かな不快感がこびりつき、拳を握れそうにもない。
笑えない状況に立たされている事を再度確認するが、カズマは歩みを止めるつもりはない。

「まだ終われねぇ。そうさ、終われるわけがねぇじゃねぇか……根性みせろよ、カズマ。
お前の拳はまだ潰れちゃいねぇだろうが……!」

左腕が握れないのであれば右腕がある。
シェルブリット第二形態、他の誰にもないこの力だけが頼りだ。
たとえクソッタレなこの殺し合いで踊らされる事になっても譲れない。
大切な存在を取り戻すまでには進み続けなければならない。
だから今、自分がすべき事はあの金髪野郎を見つけ出し、一秒でも早く倒す事だ。
揺るぎようのない確信が新しい一歩を踏み出す糧となる。
ようやく目が慣れてきた頃だ。
一向に鋭さが衰えない瞳が、つい先ほどまで鎬を削っていた相手を捜すが――不意に視界に揺れが訪れた。

「なっ……?」

カズマの右足に焼けるような感覚が走る。
足元へ目を向けようとするが間に合わない。
右脚による支えが弱まり、疲労も相まってカズマは思わず前のめりに倒れた。
続けて除々に広がり出した生温かい感触が右脚を浸していく。
それが自身の鮮血なのだと理解し、右脚に一本の剣が突き刺さっているを視覚する。
どこから来たかはわからないが、誰がやったのかの見当はつく。
その正体を己の目で確認するために、咄嗟に首を回す。

「がっ!」

だが、再びカズマの視界は先ほどよりも大きく揺さぶられることになった。
後ろを見ようと振り向かせた身体が後方へ吹っ飛ぶ。
既に覚えがある感覚が今度は胸の辺りから広がり、激痛が神経を巡っていく。
胸からは黄色の何かが血に塗れながら生えている。
それが見覚えのある槍だという事にカズマが気づくのは難しくはなかった。
もはや疑問の余地はない。これはアイツだ、と断定出来る。
その証拠に――声が響いた。
気に入ることは出来そうにもない、とある人物の尊大な声が


「さて――そろそろ戯れの幕引きといこうか。なぁ、駄犬よ」


サーヴァントの身体能力は常人のそれを軽く凌駕する。
それは五感にも及び、たとえ漆黒の中であろうとも視界は効いている。
故にギルガメッシュは王の財宝から剣の射出で文字通りカズマの足を止めた。
駄目落しと言わんばかりに黄薔薇の投擲を行ったのは彼の性格ゆえの問題だろう。
そして口振りは相変わらず傲慢そのものであり、声に震えなどはない。
しかし、まったくの無傷というわけではなかった。
ライダースーツの胸のあたりが敗れ、隆々とした肌が顔を見せている。
シェルブリットバーストは伊達ではなく、焼けただれただけで済んだのはサーヴァントである恩恵によるものだろう。
実際にはカズマの頭に入っているスタンドDISC、“サバイバー”による肉体強化も関係している。
更にそこに加えて不完全ながらも不死者であるため、今も傷は修復を続けているのだが。
されども、既に勝敗は決しているこの状況で、そんな些細な事をギルガメッシュが気にするわけもない。
トドメを刺すといわんばかりに、ギルガメッシュは仰向けに倒れたカズマへ近づいていく。

「だが、よくもここまで足掻いたものよ。よって、名乗ることを許す、駄犬。
この英雄王、ギルガメッシュがキサマの名をしかと心に留めておこう」

だが、ギルガメッシュの口から出た言葉は意外なものだった。
英雄王の名が示すようにギルガメッシュは正真正銘、一国のかつての王である。
シェルブリットバーストの威力が王の目に適ったのだろう。
単に気まぐれを起こしただけかもしれないが、ギルガメッシュは問う。
ギラついた瞳に怒りを滲ませながら、喰い入るように見つめている。
少しの間を置き、やがてカズマの口が開き、吐き捨てるように言葉を紡いでいく。

「……カズマだ、クソッタレが」
「カズマ? よもやそれだけとは言うまい。なにか一つくらいあるであろう。
キサマを示す名が、キサマの位を示すものが」
「苗字もねぇ、何にもねぇ、ただのカズマだ……!」
「は――はは、はははははははははははははははははは!! これは実に滑稽なコトだ」

ギルガメッシュの不愉快な笑い声が響く。
カズマはその意思を言葉に込めるかわりに、右腕のシェルブリットを固く握りしめる。
しかし、その拳がギルガメッシュへ届く事はない。
距離が足りない。なにより貰ったダメージが大きすぎる。
おそらくその事をギルガメッシュは承知の上であるので、彼は話を続ける事が出来る。

「無礼なヤツだとは思っていたがまさかこれほどとはな。
碌な名すらもない雑兵如きに、我の財を見せてしまったとでもいうのか?
まったく、この我としたコトがとんだ醜態をさらしてしまったものよ!」

悪意は感じられない。
ただ単にギルガメッシュは自身の感想を述べているだけだ。
対するカズマは沈黙。ただし、反抗を秘めた目線は依然として逸らさずに。
そしてギルガメッシュは再び話を続ける。

「では、問おう、カズマとやら。キサマは何を求め、この英雄王に刃向かった?
そう、どのような理由でこの我に刃向かおうという気になったのだ?
我の臣下となれば褒美も貰え、この殺し合いとやらからも抜け出せただろうに」

ギルガメッシュにカズマを臣下に加える気があったかは定かではない。
しかし、疑問に思った事は確かだろう。
自分に挑み、今も満身創痍の身でありながらも諦めの意思を捨てない姿勢。
並大抵の覚悟では無理な芸当だ。
たとえば聖杯戦争で、聖杯の恩恵を得るために戦ったサーヴァント達のように。
この男が捨てきれない理由とは一体どんなものか。
ギルガメッシュは興味本位でそれを聞き出そうとする。

「……だったらアンタはどうなんだよ。剣だのなんだのポンポン出しやがって。
アンタはその力でなにがしてぇんだ……?」

が、カズマは素直に答えようとはしない。
質問を質問で返すのは時間を稼ぐためなのかは定かではない。
されども除々に立ち上がろうとするカズマを気にすることなく、ギルガメッシュは口を開く。

「この世のすべてはかつて我が支配せしめたものだ。
どれほどの年が過ぎようとも我のものであるコトに変わりはない。
此処がどこであるのかは知らぬ。
だが――あのギラーミン如きに好きにさせてやるのも気に食わん」

酷く傲慢な物言いだが、ギルガメッシュに躊躇している様子は全くない。
土地、人、財宝などのこの世に存在する全ての所有権は自分にある。
あまりにも絶大な、王である誇りがギルガメッシュに自信を培わせた。
たとえ他人にとって思わず頭を抱えるような世迷いごとに聞こえようとも。
ギルガメッシュは彼だからこそ言い切れる。

「たとえばサーヴァント共が求めた、聖杯たる万物の願いを叶える財をギラーミンが持っているというのであれば尚更のコト。
全ての財は我のものであり、我の手に戻ることがあるべき姿というものよ。
ならば我が取り戻すのが道理であろう。英雄王ギルガメッシュがギラーミンの持ちし、ヤツの身には不相応な財をな」
「なんだってんだ……てめぇは何様のつもりなんだよ」
「は――つまらんコトを聞く。我の真名を知らぬとは学がないにほどがあるな。
ならばしかと聞くがよい」

カズマのもっともな問いすらもギルガメッシュには愚問にすら等しい。
何故ならギルガメッシュは――王だ。
誇り高き王はいついかなる時でも己の言葉に自信を持っているのだから。


「我が何様か? 我は我様に決まっているであろう、この痴れ者が。
この世に二人とはいない、最古の英雄王にしてこの世全てを背負いしもの――それが我、ギルガメッシュだ」


逆にここまでくれば清々しいものとも思えてしまう。
真紅に染まった双眸は、当然の事を言ったまでとカズマを見下ろしている。
肝の小さい人間なら失禁をもよおしてしまうかもしれない鋭さがそこにある。
その視線を一身に受け、カズマはただ言葉を漏らした。

「わかんねぇ……からっきしわかんねぇよ。ギルガメッシュだがなんだか知らねぇが、俺にはさっぱりわからねぇ。
だが、一つだけはわかる……絶対にな」
「ほう、申してみせよ。その取るに足らん脳でいったい何を知ったというのだ」
「けっ、わかってんだろ。てめぇにも……どうせなああああああああああああああ!!」

刹那。カズマは右腕で思いっきり引き抜く。
手が伸びた先は自身の胸元、黄薔薇の柄の部分に。
赤黒い鮮血を散らしながら、カズマは黄薔薇を力任せに思いっきり叩きつけた。
粉々に砕け散った黄薔薇と同時にカズマは立ち上がる。
依然として刺さったままである剣を気にした素振りはない。
軽く口を開き、少しだけ感心したような様子を見せたギルガメッシュに向かい、カズマは叫ぶ。


「俺とてめぇは絶対に相容れねぇってコトがよぉッ!!
殴り合うか! どっちかが倒れるか! それともどっちかが負けを認めちまうか……どうせそんな関係でしかねぇッ!!」


ギルガメッシュと手を取り合う未来など考えられない。
たとえ命が惜しくとも、ギルガメッシュの臣下になるなど絶対にNoだ。
他人の命令に従って生きるなど、野良犬のように野たれ死ぬ方がよっぽどましだ。
だからこそカズマは立つことだけでも危うい身体を無理やりに動かせられる
止まれはしない。たとえこの身が砕けようとも譲れない道が目の前にある。
そのためになら、カズマはいくらでも限界を超えることが出来る。
それがネイティブアルター、シェルブリットのカズマの生き方なのだから――。
だが、ギルガメッシュの表情には不愉快さが色濃く滲んでいる。


「くだらん――この英雄王に対し、まだそのような戯言を申せる口があるとはな。
やはりキサマと言葉を交わすのは無駄でしかなかった。
キサマの血で相応の償いをするがよい、駄犬よ」


ギルガメッシュが腕を振り上げた瞬間、再び空間に歪みが生じ、王の財宝が射出される。
対するカズマは背中のプロペラ状の羽を回し、後ろへ飛ぶ事で辛くも逃れる。
残りを一つに纏めたデイバックは手に取ったものの、カズマの動きには精彩がない。
羽による浮遊もどこかおぼつかなく、今にも墜落してしまいそうな様子だ。
しかし、ギルガメッシュにカズマに対する慈悲などあるわけもない。
ギルガメッシュは執拗に王の財宝をカズマへ飛ばし続ける。

「がっ!!」

やがてその内の一本がカズマの左腕を突きさし、彼はあえなく地に倒れ伏せる。
持っていたデイバックも思わず取り落とし、更に飛来した王の財宝により引き裂かれ、中身が周囲に散乱する。
変わらない、むしろ先ほどよりも更に悪くなった状況が自分の前にあることがわかる。
左腕が碌に使えなくなったため、右腕一本で立ち上がるしかない。
それも追撃がやってくるまえに、こんないつ事切れてもおかしくない身体で。
思わず弱い考えが浮かぶ。
これは――ヤバイ、と。

「どうした、もう限界とやらがきたか?」

ギルガメッシュが言っていることにも碌な反論が出来ない。
もっと力があればと強く思う。
たとえばあの蛇野郎が事あるごとに言っていた、“向こう側”の力がもっとあればと。
だが、現実はそこまでやさしくは出来ていない。
今のカズマにはただ、既にボロボロなシェルブリットで前方の砂利を掴む事くらいだ。
そんな時、ふいに右腕に砂利以外の感覚を覚えた。

(こいつは……!)

それは一丁の拳銃。
見間違うはずもない。
おそらく少女の持ちものの中に入っていたのだろう。
今は破かれ、碌に確認をしなかったデイバックから外へ飛び出ていた。
目の前に転がっていた、拳銃をカズマは迷いなく右手に取る。
その瞬間、王の財宝の一部が砂利道を串刺しにするが其処にカズマの姿はない。
シェルブリットを利用し、間一髪で前方へ飛びのいていた。
そして今度はシェルブリットをブレーキの要領で使い、ギルガメッシュの方へ振り向く。

「限界ってなんだよ、もしかして喰えんのか、それ?」
「ほう、しぶとさだけは褒めてやろう。が――所詮、そこまでだ」
「かってなコトぬかすんじゃねぇッ!!」

ギルガメッシュの言葉に負けじと、カズマが右腕を突き出す。
固く握られた拳には握られたものが一つ。
もはや言うまでもない。
見間違うはずもない。
それはとある男の形見の品。
唯一無二の親友、こんな自分にも出来た最高の友――。
君島邦彦の愛用の銃をカズマは宙へ放り投げる。


「意地があんだよ!男の子にはなぁッ!!」


君島の銃が虹色の光となり、アルターの糧となる。
実のところギラーミンは支給品のアルター化は制限している。
だが、それは敵対者の支給品をアルター化してしまえば、あまりにも実力に差が開いてしまうためのものであった。
故に幸運にも、アルター能力者の一定範囲内の支給品であればアルター化は可能だった。



「そう思うだろ、君島ああああああああああああああああああああああああッ!!」




――そして光はカズマの左腕に収束し、彼だけの新たな力となる。








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最終更新:2012年12月05日 02:23