魔術師と口先の魔術師 ◆TEF4Xfcvis
「……G‐6か」
映画館の前で一人の男が佇んでいた。
男の名は
衛宮切嗣。つい先刻まで、聖杯戦争と云う名のバトルロワイヤルに参加していた者である。
いつもと変わらぬ容赦のない方法でランサーとそのマスターを殺害した後に
自らのサーヴァントと多少の口論となり、別れて廃墟から去った時、突如強烈な眩暈に襲われた。
車の衝突を薄れる意識で危惧したが、何時の間にか見たことのない部屋に放り出されていて
そして今に至る訳である。
「まさか本当のバトルロワイヤルとはね……つくづく僕はついてないな」
口調は軽かったが内心で切嗣は焦っていた。
まず、元々持っていた武器が全て奪われている。
おそらくあのギラーミンとやらが没収したのだろう。
しかしこの場に移動されたときに傍にあったデイバックを漁ってみると
地図やコンパス等の他に一本の日本刀が入れられていた。
おそらくは殺し合いを円滑に進めるために支給されているのだろうと切嗣は思った。
鞘から刀を抜き、それを確かめる。
(軽いな。これなら役に立ちそうだがやっぱり銃が欲しいところだ)
刀は扱えないことはないが、切嗣の専門は銃である。
これから戦闘になった場合少しでも自分の得意な武器を使用したいと思うのは当然のことだろう。
いったん取り出した支給品をデイバッグに詰め込んでいく。
ふと、右手の甲にある令呪が目につく。これが彼の第二の懸念だった。
―――セイバーとの繋がりは感じられる。
今も魔力が流れていってるのがわかる。だけど、問題がある。
(セイバーは此処に喚べるのか?)
喚べるのならそれでいい。他の参加者を一網打尽に出来るだろう。
だが、もしあの主催者が令呪に対して何らかの措置を取ってるとしたら……
令呪を一つ無駄にして喚べないなんてことになったら話にならない。
それに、今はまだアイリの下にセイバーを置いておく必要がある。下手な事はできない。
最後の懸念。それはまさに自分が元の世界に帰れるかどうかだった。
この殺し合いの主催者、ギラーミン。
もし自分が生き残れたとしても、奴の目的に付き合わねばならない。
そもそも自分と決闘する人間に願いを叶えるということ自体がおかしい。
結論として奴には全く期待できない。奴に勝ったとしても帰れるかどうかもわからない。
故に、自らでこの殺し合いから脱出する方法を探らざるを得ないと彼は判断した。
そして切嗣は立ち上がった。
(とりあえず今は誰にも見つからないように探索するか。確かめたいことも―――)
「おい!そこのお前、カバンをを置け!」
バッと身を翻す。
そこには銃を構えた一人の少年がいた。
「何の用だ?」
切嗣はあくまでも冷静に言葉を返す。
魔術を使えば軌道のバレバレな銃弾程度、避けるのに造作はない。
それでも何もしなかったのは、少年の態度に躊躇いがあると感じられたからだ。
「一つ聞きたい。お前は…この殺し合いに乗ってるのか?」
そんな事―――、といつもなら平然と返せる場面。だが、今はとにかく情報が足りない。
迂闊な回答をすればそれだけで致命的なミスになると切嗣は判断した。
「いや、乗っていない。君はどうなんだ?」
「俺は乗ってない。殺し合いなんて、そんなことしたらアイツの思う壺じゃねえか」
切嗣は少し安心した。表情に嘘は見えない。
少なくとも今、この少年に人を殺す気はない。ならば後は話し合いで十分だ。
「とりあえず、君も銃をしまってくれ。何か話したい事があるんだろ?」
そう言われて少年は一瞬何か迷った後、銃をデイバッグにしまった。
人目を避けるため、2人は映画館の中に入っていった。
「僕は衛宮切嗣。僕の事はどう呼んでくれても構わない。君の名前は?」
「俺は
前原圭一だ。好きなように呼んでもいいぜ。あんまりおかしいのはアレだけどな」
チケット売り場の近くのソファに座ってお互いの名前を確認する。
二人ともまだ相手を完全に信用したわけではないが、今必要なものは共通している。
「俺は仲間を探してる。ほら、この名簿の5人。」
圭一はそこを指差しながら切嗣に名簿を見せる。
「……知り合いがいるのか?ちょっと待ってくれ」
支給品を確認した時は名簿はさして気に留めなかった切嗣だが、改めて名簿を見直すと少々怪訝な顔になった。
圭一もそれが気になり声をかける。
「どうかしたのか?」
「ああ、このアーチャーとライダー、僕が知ってる奴だとしたらかなり厄介だ。
ライダーはまだしもアーチャーに出会ったら間違いなく命はないだろうな」
「……」
聖杯戦争に参加したからこそわかる、サーヴァントの恐ろしさ。
切嗣は自分一人だけでは到底この殺し合いを生き残れないと実感した。
故に仲間が必要となる。少しでも自分を補助してくれる人間が。
「支給品を確認していいか?」
「ん?ああ、構わないぜ」
二人は支給品をソファの上に置いていき、それぞれの品を確かめる。
「地図、コンパス、懐中電灯、筆記用具、水と食料、名簿、時計は共通みたいだな。で、―――これは」
「どうかしたのか?」
切嗣は圭一の支給品であった黒光りする銃を手に取る。
「これは……圭一君、この銃を僕にくれないか?」
彼が手に取った銃、それはまさしく彼が聖杯戦争で使用していたコンテンダー・カスタムだった。
先程は暗くてわからなかったが間違いなくこれは自分の銃だと確信した。
「代わりにこの刀は君の物だ。君にもきっと使えるだろう」
「別にいいけど……切嗣さんは銃を使えるのか?」
「ああ、問題ない。何しろこれは僕の銃だからね」
「ええっ!?き、切嗣さんってもしかしてそっち方面の人なんですか?」
「いや、多分違うけど」
切嗣はやや自嘲気味に言うと刀を圭一に渡し、コンテンダーを右ポケットに入れた。
後は圭一の方に双眼鏡と銃の弾薬箱、切嗣の方にはなにやら犬のような人形があった。
人形を捨てようかとは思ったがデイバッグの重さは特に変わらないし、痕跡を残すのは拙いと判断したので
切嗣はそのまま持っておくことにした。
「さてと、圭一君。少し立ち寄りたいところがあるんだけどいいかな?」
「構わないけど何をするんですか?」
「とりあえず確認したい事があるんでね……」
そして二人は映画館を後にした。
彼らは正義によって動いている。
一人は仲間を守るため。
もう一人は世界そのものを平和にするため。
そして彼らには正義を行う点で決定的な違いがある。
二人の正義への価値感の違いが、今後どのような出来事を引き起こすか。
それはまだ、誰も知らない。
【1日目 深夜 G‐6 映画館前】
【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]:健康
[装備]:コンテンダー・カスタム@Fate/Zero
[道具]:コンテンダーの弾薬箱(スプリングフィールド弾30発入り)
くんくん人形@ローゼンメイデン(支給品はすべて確認済)、基本支給品
[思考・状況]
1:なんとしてでも元の世界に帰る
2:脱出の方策を練る
3:安全な拠点を探す
4:圭一を連れていく(余裕があれば圭一の仲間も助ける)
※ギラーミンには全く期待できないと思っています。
圭一からコンテンダーと弾薬箱を貰い、代わりに雪走を渡しました。
【コンテンダー・カスタム@Fate/Zero】
略称はコンテンダー。単発式で改造済み。狩猟用のライフルの大口径弾を使用できる。
付属の弾丸はスプリングフィールド弾。マグナム弾以上の威力。弾丸は装填済み。
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康(少し不安)
[装備]:雪走@ワンピース
[道具]:双眼鏡(支給品はすべて確認済)、基本支給品
[思考・状況]
1:仲間を助けて脱出したい
2:切嗣について行く(切嗣の事を少し信用してます)
3:???
4:???
※時系列では本編終了時点です
切嗣から雪走を貰い、代わりにコンテンダーと弾薬箱を渡しました
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最終更新:2012年12月06日 04:07