闘争と逃走と ◆TEF4Xfcvis



時刻はすでに午前二時を回っていた。
依然として空は暗く、日が昇るにはまだ幾許かの時間を要するだろう。
それまでの間、いかに光を欲しようとも限られただけしか与えられないのだ。
だが、この場ではその限られた光すら許されない。下手に光を求めればその先は、死。
ここはそういう場所だった。

現在、彼らは地図の境目、つまり会場のループが行われる地点にいた。
出発点の映画館からの距離にして約2km。いかに周りを注意しながら慎重に行動してもここまで遅くはならないが、
それには理由がある。彼らはこの境目に着く前に消防署に立ち寄っていたのだ。

結果として其処で大した物は得られなかった。中は完全に無人で、其処に人がいた形跡は無かった。
切嗣は事務所内に配備されている地図を確認したが、ものの見事に支給品の地図と同じものに刷りかえられていた。
車庫にあった消防車についてだが車の鍵は署内にあったし、車にはガソリンも入っておりエンジンもかかった。
それでも切嗣と圭一は消防車を使わないことにした。第一に、圭一の目的である仲間を探すことが難しくなるからだ。
車の音で警戒されて隠れられ、発見が難しくなる。第二に、敵の標的になりやすいということだ。移動手段としては
十分だが移動時の音が大きいことと、いかに車と言えど人間が十分に対応できる速度であり、防弾でないのに真正面
から撃ち込まれてはあまりにも拙いだろうと切嗣が判断したためである。

実際、消防署ではロープ数本、消火器、双眼鏡、ヘルメットと防火服、それにカッターナイフを失敬しただけで後にすることになった。
ヘルメットは既に被っている。無いよりはましだということだろう。
不思議なことに、このデイバッグはどんなに物を入れても重さも体積も変わらない。それなら車も入れてしまおうと圭一が
実行したが、さすがにバッグの口が狭くて車が入ることは無かった。
もし入ったなら上空から車を落として奇襲に使おうと切嗣が考えていたのは秘密である。


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さて、切嗣は双眼鏡で前方を確認していた。暗闇とは謂えど道には街灯が灯っており、それに強化の魔術により
眼を強化していたのである程度は前方の確認が出来た。しばらくして切嗣はあることに気がつく。
「圭一君、この会場はおそらくループしているかもしれない」
「はあ!?」
思わず圭一は聞き返す。
「声が大きい。おそらくだがね、距離的に考えてここは既に地図に載っていない位置になるし、かといって全く別のエリアでも
なさそうだ。遠くだが前のほうにそこそこ大きな建造物がある。ループしているならアレがこの地図のモールになるんじゃないかな」
圭一は地図を確認する。確かに切嗣の言うとおりループしているならば圭一には見えないが其処にはモールがあるのだろう。
ほかにもよく見てみれば、右と左の道がつながっていたりするのできっとそうなのだろうと思った。

「じゃあ切嗣さん。今から向こうに移動するんですね?」
「ああ、そういうことだ。疲れるだろうが、移動するなら日が昇る前の今しかない。」
頭に被ったヘルメットを正し、立ち上がろうとする。

瞬間、何かが地面に当たり弾ける音がした。

圭一が何が起きたのかを確認する前に、切嗣は圭一を引っ張り近くの民家の塀に転がり込んだ。
突然の奇襲で相手の詳しい位置が分からない以上この判断は順当なものだろう。
すかさず切嗣は銃を構え、圭一も刀の柄に手をかける。
「切嗣さん、俺も戦う。援護させてくれ」
「いいや、君はダメだ」
突然の拒絶に圭一は驚く。
「なんでだよ!少しでも手伝えるかもしれないだろ!」
それに対し切嗣は塀の向こうを睨みながら応える。
「あまり思い上がるな。君はあくまでも一般人でしかない」
「でもそれでも……!」
「君にはやらねばならないことがあるんだろう?それなのに此処でみすみす命を危険にさらしてどうする」
確かにそうだ、と圭一は思った。自分の目的は仲間と共にこの殺し合いから脱出すること。それなのに自分が死んでしまっては
元も子もない。自分はまだ此処で死ぬわけにはいかない……が、
「でも切嗣さん、本当に一人で大丈夫なんですか?」
やはり切嗣のことが心配であった。今は切嗣と共に行動しているが出会ってから数時間しか経過しておらず、お互いのことは
まだ知らないことも多い。そういった点で切嗣が果たしてこの危機に対応できるのかは不安ではあった。

「大丈夫だよ、いざとなったら逃げることも出来る。自分の状況くらい判断できるさ」
切嗣のこの言葉と落ち着きように圭一は少し安心する。
「信じていいんですね?」
「ああ、何せ僕は魔法使いだからね。」
「え?」
冗談なのだろうか。勿論否である。それを知らぬ圭一はいささか突拍子の無い言葉にポカンとしたが、なんとなく納得させられた。
「それじゃあ塀をつたって家越しにあの場所まで戻るんだ。6時までに戻らなければ僕のことは無視して行動してくれ。」
「分かりました。必ず生きてください、切嗣さん。」
そう言うと、圭一は民家の裏に行った。

「ククク……話し合いは済んだか?」
圭一とは違う低い男の声が塀の向こう側から聞こえてきた。
「―――――何者だ?」
切嗣は姿の知らぬ声の主に問いかける。
「馬鹿が。今から死ぬ人間にそんなことを答えると思うか?」
「同感だ、だが……」

「馬鹿はお前だ」

そういい終わる前に家の門より飛び出し、ちょうど飛び込み前転のような形で相手の銃弾を避けながら正確に相手の心臓部に
スプリングフィールド弾を命中させ、向かいの民家に身体を隠した。
遮蔽物の無い場所にいる以上相手に声で位置を悟らせるようなことをしてはいけない。その時点で声の主は切嗣にしてみれば
馬鹿としか形容出来なかった。
だが、すぐに切嗣はその意味を理解する。
「見事に命中させたのは褒めてやる。だがな、その程度では俺は死なねえんだよ」
違和感は銃弾を命中させたときに感じた。見間違いかとも思ったが再び塀にに隠れるときに眼の端で貫通した相手の傷口から
砂のようなものが出ている気がしたが、確かに銃弾は命中したはずだ。少なくとも立っていられる筈が無い。
だがそれはあくまでも普通の人間の話であった。切嗣は失念する。そう、彼のように魔術師が呼ばれているのなら
別に超常の者がいてもおかしくは無い。だが、彼もいつまでも動揺はしない。彼は今まで常に条理の外の敵と戦ってきたのだから。


「どういうことだ?」
「いちいち無駄な行動されるのもうっとおしいから教えておいてやる。俺の能力はスナスナの実によるものだ。
それを食って俺は砂人間になった。銃だろうが刀だろうが俺には全く通用しねえ。つまりだ……何を言いたいかわかるか?」
その発言にいくつかの疑問を切嗣は感じたが、おそらく取り合わないだろうと判断し、彼は自らの呪文を呟く。
「大人しく俺に殺されろ」

同時に、男の姿が切嗣の後ろに現れる。
身の丈は切嗣より高い。髪はオールバックで、肌には血の気の色があまり無く、傍目から見れば病人のようにも見えるかもしれない。
左手には黄金のフックをつけており、右手には拳銃を握っている。
決して切嗣が知ることの無い世界において、七武海として名を馳せたサー・クロコダイルそのものだった。

クロコダイルの拳銃から銃弾が発射される。常人では避わすことすら不可能な距離。銃弾はこのまま切嗣の胸と頭を貫くのだろう。
だが、切嗣もまたそのような条理にある者ではない。
銃弾が発射される前に超人的なスピードでその場から脱出し、路上に飛び出る。
すかさずクロコダイルも身を翻し残りの銃弾を放つがそれすらも切嗣によって回避された。
今度は位置が逆となり、二人は向き合う。


眼にも止まらぬ勢い。これは決して常人が発揮できる身体能力ではない。それを切嗣が成し遂げたのは、彼の行う魔術にある。
特定の空間の内側を外界の時の流れから切り離し、意のままにする魔術。切嗣の祖である衛宮家は代々この時間操作についての
魔術探求を継承してきた。だが、この魔術はあくまでも大掛かりな魔術であることが前提とされており、戦闘においては本来
無用の長物でしかない。しかし、切嗣はこの魔術を自らにカスタマイズさせるための応用を編み出していた。
自らの体内のみで時間操作を行うことにより、自らの負担を軽減し数秒の時間を操作する。
これが衛宮切嗣の我流魔術、『固有時制御』である。

先ほどの回避において、クロコダイルの放った銃弾4発を避けるために回避に必要な身体のあらゆる機能を全て倍速に加速した。
銃弾の軌道も十分に読み取ることが出来たため、後は反射速度さえあれば避けるのは至近距離であれ難しいことではない。
実際、すぐに撃たれていれば間に合わなかったかもしれないが、クロコダイルは自らに危険が無いのをいいことに慢心していたため
銃弾も放たれるのが少々遅かったことがより切嗣が弾を回避するのを容易にしたといえよう。

クロコダイルの能力は現時点でのこのバトルロワイヤルにおいてかなり有利なものである。
たとえ能力の正体を知られても対処法まで看破されることはまず無い。いくら砂人間だからといって水をかければ砂にはなれないと
誰が思うだろうか。おまけにその対処法を知っているのはこの会場では麦わら海賊団の一味、いや、モンキー・D・ルフィだけかもしれない。
それ故に、彼の全員皆殺しというスタンスは対クロコダイル作戦等と対策を立てられることを考えれば上策ではある。
ただし、相手を初見で仕留められればの話だが。

「チョロチョロと逃げやがってこのネズミめが……」
何度も標的を仕留め損なったことにクロコダイルは自身に苛立つ。
この男にでは無いにせよ、自分は一度負けている身である。そもそも慢心する余裕などは無かったのだ、と。
彼は切嗣を睨みつけながら銃をデイバッグに収め、乱麻を断つが如く右腕を振り下ろした。
「砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)!」
自らの腕をまるで剣のように変形させ、直線的に対象を切り裂くこの技。
否、切り裂くというレベルではない。
振り下ろされた砂の剣は切嗣に到達する前に路上のアスファルトを抉り砕きながら尚もそのスピードを緩めることも無く切嗣のいる場所に
到達する。しかし、切嗣もただ案山子のように立っているだけではない。すでに2度目の固有時制御を自らに掛けており、容易にその
一撃をも回避した。切嗣は体勢を整えながらもその威力に眼を見張る。
アスファルトに刻まれた亀裂は切嗣の後方にまで伸び、しかも幅も深さもとても一撃で為したとは思えないほどの威力だ。
喰らえばとてもじゃないがただで済むとは思えない。

対峙する相手はもう二撃目を繰り出そうと振りかぶっている。
現状で切嗣の攻撃はクロコに通用しない。持久戦など以ての外。このままではいずれ切嗣が隙を突かれるであろう。
そして切嗣は決断する。
「Time alter ― triple accel(固有時制御、三倍速)!」
先ほどの加速をも更に凌駕する加速。ただしそれは回避のためだけではない。
クロコダイルに向かって逆方向に、全力で駆け出したのだ。つまり、戦闘離脱である。
すかさずクロコダイルも砂の手を伸ばし切嗣を捕らえようとするが、既に切嗣は届かぬ範囲へと逃れてしまった。

「チッ……」
従来のクロコダイルならば切嗣を捕まえることも簡単だったが、このバトルロワイアルにおいて彼は広範囲の攻撃を制限されていた。
前の戦闘で薄々感づいてはいたがようやくクロコダイルは確信した。
「余計な事しやがって……あのギラーミンとか言う奴も殺すか」
無論、彼に他人と協力する気は無い。自分で生き残り、その上で主催を殺そうと考えているのだ。
「とりあえず、あのネズミでも追うか」
そう言うと、クロコダイルは切嗣の逃走した方向に向かって歩き出した。


クロコダイルから離れること300メートル。
切嗣は、彼の仮説が正しければ存在するであろうモールへと足を運んでいた。
先の戦闘の所為か、切嗣の呼吸は少し乱れている。いや、正しくは彼の行使した魔術に因るものである。
固有時制御の最大の欠点は、肉体にかかる極度の負荷だ。
時間調整の術は必然的に結界内外の時間流に誤差を生じさせることとなり、結界が解ける、つまり魔術の行使が終了した
途端にその時間差を補おうと「操作された側」に修正が働くことになる。この場合、切嗣の肉体そのものを元の時間流に合わせようと
押し曲げるのだ。肉体を損壊させずに行使できるのは精々倍速止まりであり、それ以上はまさに血肉を削ることになる。
今、切嗣は表情に表れていないものの身体にはかなりの負荷がかかっている。休息もなしで立て続けに戦闘を万全に行うことは
不可能だろう。それでも、切嗣は歩を止めることは無い。勿論一段落着けば休もうと考えてはいるが、彼には
一刻も早くこの殺し合いから脱出し、自らの戦争を終わらせ、聖杯を獲得する使命がある。
それが切嗣の望みであり目標であった。


【サー・クロコダイル@ワンピース】
【1日目 現時刻: 黎明】
【現在地:H-5 路上】
【状態】:ダメージ無し、やや疲労
【装備】:
【道具】:基本支給品一式、拳銃(28口径)0/6@現実、拳銃の予備弾36発、ウシウシの実・野牛(モデル・バイソン)@ワンピース
【思考・状況】
1 皆殺し(主催も殺す)
2 麦わらの一味はやや優先度高く殺害する
3 ネズミ(切嗣)を追うか……
※切嗣、圭一の名前は知りません


【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:コンテンダー・カスタム29/30@Fate/Zero 、防災用ヘルメット
[道具]:コンテンダーの弾薬箱(スプリングフィールド弾30発入り)
    くんくん人形@ローゼンメイデン(支給品はすべて確認済)、基本支給品一式
    ロープ×2、消火器、防火服、カッターナイフ
[思考・状況] 基本:なんとしてでも元の世界に帰る
1:脱出の方策を練る
2:モール?に向かう
3:クロコダイルから逃げる
4:圭一と合流する(余裕があれば圭一の仲間も助ける)
※ギラーミンには全く期待できないと思っています。
 圭一からコンテンダーと弾薬箱を貰い、代わりに雪走を渡しました。
 会場がループしていると考えました。(もう少しで確信するところ)
 クロコダイルの名前は知りません。
 スナスナの実の大まかな能力を知りました。




闇夜を独り、少年が走っている。
「ハアッ……ハァッ……」
彼は切嗣との約束どおり、あの場所まで戻っている。
そこは切嗣と圭一が初めてあった場所、映画館だった。6時までに切嗣が映画館にたどり着けなれば
圭一は一人で行動することとなる。何時までも同じ場所に留まっているよりはいいだろう。だが、圭一にしてみれば
この状況をとても一人では対応できないと考えていた。自分一人では必ず殺される、そう理解していた。
「切嗣さん……必ず戻ってきてくれ……」
そう願いながらも、圭一は切嗣ばかりには頼っていられないとも思った。万が一のことがあれば、
自分で行動しなければならないのだから。
このゲームに二度目は存在しない。消して書き換えることの出来ない時間。
果たして今度も彼に、いや、彼らに奇跡は起きるのだろうか……。


前原圭一@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:疲労(中)、不安
[装備]:雪走@ワンピース
[道具]:双眼鏡(支給品はすべて確認済)、基本支給品
[思考・状況]
1:仲間を助けて脱出したい
2:切嗣と早く合流したい(切嗣のことをそれなりに信用してます)
3: 万が一のときに覚悟が必要だ
4:魔法使い……?
※時系列では本編終了時点です
 切嗣から雪走を貰い、代わりにコンテンダーと弾薬箱を渡しました
 クロコの名前を知りません。







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魔術師と口先の魔術師 前原圭一 使いっぱしりのなく頃に
魔術師と口先の魔術師 衛宮切嗣 同じ夜明けを見ている
(無題002) サー・クロコダイル 同じ夜明けを見ている





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最終更新:2012年11月27日 23:04