within spitting distance ◆b8v2QbKrCM
「判断を誤りましたね」
無残にも崩落した橋を前に、
ロベルタは呟いた。
B-4エリア南端、5つのエリアを横切る川の北岸。
詩音をその手にかけたロベルタは、更なる標的との遭遇を求めて市街中心部を目指していた。
山頂付近から移動を始め、西端から東端へ通り抜け、キャンプ場を経由して湖へと至ったのだ。
そこからの移動で西進を選ぶのは当然であり、川に沿って橋を目指すのは必定だ。
誤算だったのは、今から4~5時間前ほどに橋が破壊されていたということである。
「無理にでも鉄橋を渡っていればよかった」
このフィールドでは全部で六箇所に橋が架けられている。
B-4、E-8、F-2、F-6エリアの人間用の橋。
F-1からF-2にかけてと、C-5エリアに設営された鉄道用の橋。
ここにくる直前、ロベルタはC-5エリアの鉄橋の前を通り過ぎていた。
そのときは列車の運行と重なることを懸念し、迂闊にも素通りしてしまった。
もし最初からここの橋が落ちていると知っていれば――
ロベルタは縁に立ち、橋の破壊状況を観察した。
橋は、何かしらの物理的な衝撃によって崩壊させられたらしい。
間違っても自然に壊れたわけではない。
周辺には血痕が残されており、ここで戦闘が行われていたことを物語っている。
死体が見当たらないのは、死者を出さずに終わったのか、或いは死体を片付けたのか。
橋の破壊と血痕が無関係である可能性もあるが、どちらだろうとロベルタには関係のないことだ。
「爆破……でしょうか。あるいは砲撃を……」
ここに至るまで、ロベルタが出会ってきた人間は、ある意味で尋常の範疇にいる者ばかりであった。
ハナハナの実。
月霊髄液。
不死者。
名前も知らない異能の数々。
このように、超常的な能力と交戦したこと自体は少なくない。
しかしそれらの持つ破壊力は、一個人が成しえる限度を越えるものでは決してないのだ。
故にロベルタは誤認する。
この破壊は何かしらの兵器によってもたらされたものであると。
兵器にも匹敵する威力を叩き出す『個人』がいるなど、夢にも思わずに。
「渡ろうと思えば不可能ではないのでしょうが……」
橋は崩落させられた。
だが、橋を構成していた建材が消えてなくなったわけではない。
多くは巨大な残骸として川に落ち、水面から氷山のように突き出ている。
小さな残骸は流されるなり水面下に沈むなりしているだろうから、こうして見えているのは安定した巨塊だけのはず。
うまく足場を選べば向こう岸まで渡れるだろう。
しかしロベルタは瓦礫に飛び移ろうとしなかった。
仮に落水してもずぶ濡れになるだけ――けれどそれが致命的。
濡れた服は身体に貼り付き、行動を著しく阻害してしまう。
それは一瞬を争う戦場では大きな痛手となるミスだ。
なるべくリスクの少ない手段を選びたい現状、それは避けたい。
強引な渡河は最終手段だ。
「……」
ロベルタは周囲を見渡した。
辺りの風景と、頭に叩き込んだ地図の内容を比較していく。
地図が正しければ、このまま西に行けば最初の場所へ戻るはずだ。
北へ行けば、かなりの遠回りになるが、市街地の中心へいくことは出来るだろう。
来た道を戻って、危険を承知で鉄橋を渡るのも選択肢の一つではある。
「……あれは」
ふと、ロベルタの目に奇妙なものが映る。
対岸の河原――ちょうど橋の真下にあたる位置。
そこにちょっとしたトンネルのような穴が開けられていた。
水の流れを見るに、川へ排水しているのではなく、川からの水がトンネルに流れ込んでいるようだ。
いわば地下水路への取水口。
ロベルタはしばし口を閉ざし、やがて地面を蹴って宙に身を躍らせた。
メイド服が風を孕み、横帆のように膨れ上がる。
落下距離はおおよそ2,3メートル。
なだらかな放物線を描き、ロベルタは川面から突き出したコンクリート塊に着地する。
十トンは下らない質量は落下のエネルギーを受けきり、期待通りの足場となってくれた。
しかし次なる残骸は難物だ。
元は路面であったらしい、アスファルトの壁。
――そう、壁だ。
今の足場は垂直に突き刺さっているため、上面に着地するのは容易であった。
だが、目の前の残骸は大きく傾いてしまっている。
それでもロベルタは止まらない。
圧し折れた断面から更に跳躍。
人間の限界に近い幅を跳び切って、黒い壁面に足を突く。
ず、と滑り落ちる感覚。
60度に達しようかという急傾斜は、さしものロベルタといえど容易に踏み止まれるものではない。
しかしロベルタは平静を失うことなく、黒鍵を抜刀。
アスファルトの路面に生じた亀裂に切っ先を突き立て、滑落を強制的に停止させる。
傷が鋭く痛んだが、無視できないほどではない。
黒鍵の柄を握る両手を基軸に身を引き上げ、拵えを踏み台にして最上端へと駆け上った。
足を止めることなく、水面から僅かに覗くコンクリートへ跳び移る。
ここまでくれば難所はない。
ロベルタは軽やかな身のこなしで対岸へ辿り着き、橋の直下に立った。
「やはり――ただの水路にしては大きすぎる」
こうして近付いてみると、その大きさに改めて驚かされる。
まるで川の支流が丸ごと地下に流れ込んでいるかのような規模だ。
トンネルは高さ3メートルを優に越え、水路の両脇には広めの通路が用意されている。
しかし規模に反して、かなり見つけにくい造りになっているようだ。
川岸の一部が凹型にへこみ、奥まった場所にトンネルの入り口がある構造のため、
正面から見据えでもしない限り、穴を目視することができない。
加えて橋や土手の影が常にへこみを覆い隠し、可視性を更に低下させている。
ロベルタが水路を発見できたのも殆ど偶然である。
橋が架かっていた頃は発見不可能に近かっただろう。
「KEEPOUT……ですか」
トンネルの入り口は、腰の高さほどの柵で塞がれている。
柵の片隅には、申し訳程度に立ち入り禁止の看板が提げられていた。
簡単に乗り越えられる柵しか用意せず、立ち入り禁止とはよく言ったものだ。
ロベルタはデイパックから照明を取り出し、水路の奥を照らそうとした。
深い――
光は最奥まで到達せず、無機質な水路を照らすだけ。
これでは先の様子は見当もつかない。
だが、この奥に『何か』があると、ロベルタの直感は告げていた。
問題は、その『何か』が何であるのかということだが。
「さて……」
ここは考えどころだ。
対岸へ渡ったのだから、当初の目的通り市外の中心を目指すべきか。
――彼女は知らない。
目と鼻の先に殺すべき者達がいることを。
それとも、川を遡って北西の山間部へ戻ってみるべきか。
――彼女は知らない。
サカキがそこで息絶えていることを。
或いは、目の前の未知なる空間へ進んでみるべきか。
――彼女は知らない。
地下空間の可能性に関する全てを。
ロベルタはゆっくりと目を瞑り、そして己の行くべき道をまっすぐに見据えた。
【B-4 川 南岸/一日目 午後】
【ロベルタ@BLACK LAGOON】
[状態]:メイド服を着用 薬物依存、疲労(中) 右腕に切り傷(応急処置済み) 、肋骨にヒビ、腹部にダメージ小、眼鏡なし 、
[装備]:パ二ッシャー@トライガン・マキシマム(弾丸数60% ロケットランチャーの弾丸数2/2) コルト・ローマン(6/6)@トライガン・マキシマム
投擲剣・黒鍵×4@Fate/zero
[道具]:支給品一式×3(水1/4消費)、コルト・ローマンの予備弾35 グロック26(弾、0/10発)@現実世界
謎の錠剤入りの瓶@BLACK LAGOON(残量 55%)
レッドのMTB@ポケットモンスターSPECIAL
パ二ッシャーの予備弾丸 2回分、ロケットランチャーの予備弾頭1個、キュプリオトの剣@Fate/Zero 、首輪(詩音)
[思考・状況]
1:サカキとのゲームに乗り、殺し合いに優勝する。
2:必ず生きて帰り、復讐を果たす。
【備考】
※原作6巻終了後より参加
※康一、ヴァッシュの名前はまだ知りません。(よって康一が死んだことも未把握)
※詩音を『
園崎魅音』として認識しています。
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最終更新:2012年12月05日 03:37