貴方を瞼が憶えている ◆pSc/w7EBTk
あァ?
あー。
ああ。
ケッ。
「まあ、見てろよ」
その男を止めるものなど、何もなかった。
人生の内で最も下らない出来事が、人生の内で最も大きな爪痕を残してから。
空腹、痛み、困難、敗北、屈辱、絶望。
死の恐怖ですら、男の足を止めることはできなかった。
そして、男自身に止まるつもりなど毛頭無かった。
「世界一の剣豪になる」という、どこにあるかもわからない目標に向かって突き進むのだから。
止まっている時間など、ほんの一瞬ですら必要無かった。
息を吸い、血が流れ、身が動く限り。
彼は、ただひたすらに前を向いて進むだけ。
足を止めるブレーキなんて必要ない。
あの日、心に誓ったときからそんなものはへし折っていた。
だから男は止まらない、いや止まれないはずだった。
こんな訳も分からないところで、へし折ったはずのブレーキを見つけるまでは。
彼の足を止めたのは「喪失」というブレーキだ。
あの日、大親友かつ絶対に越えると誓った友を失った日にへし折ったはずのブレーキ。
そのブレーキがいつの間にかそっくりそのまま元通りになっていて、今の彼の足を止めていた。
「世界一の剣豪になる」まで、こんな訳の分からないところで止まっている時間などあるわけがないのに。
彼は、止まってしまった。
この場所で、二人の男が死んだ。
嘘が上手くて、逃げ足が早くて、狙ったモノは外さない、行く行くは勇敢なる戦士を志す男が死んだ。
夢に向かってまっすぐで、自分の気持ちに正直で、どこまでも強くなり続ける、自分を海賊に誘った男が死んだ。
死人は蘇らない。
それは、あの日から知っていることだ。
どれだけ声をかけても、どれだけ涙を流しても、どれだけ起こそうとしても。
死人は、起きあがらない。
分かっているのに、分かっているのに。
あの日へし折ったはずの「喪失」のブレーキは、キリキリと金属音を上げながら彼の足を止めていく。
やがて、男はあの日ぶりに完全に足を止めた。
ぐるりと周りを見渡す。
あの日以来目に入れることがなかったモノが次々に飛び込んでくる。
世界で一番の大剣豪になると誓った幼き頃の自分。
腹が減って死にそうなときに食べた砂利まみれの飯。
曲芸士から始まり猫背やなんやと妙ながらも自分の前に立ちはだかってきた敵たち。
戦いの中を共に潜り抜けていった仲間たち。
男のそんな「過去」が視界に広がり、浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。
そして最後に、男の目に映った「過去」は。
鷹の目に斬られる自分の姿と、動かない体となった幼なじみの姿。
その二つが、交差するように同時に映った。
全ての「過去」が霧のように立ち消えた後、遠い遠いところに見覚えのある顔が映る。
長鼻の男を初めとした横一列に並ぶその集団は、彼が「喪」った者達だった。
笑っているのか、泣いているのか、よく分からない顔で。
彼らは、じっと男を見つめていた。
ふと、目を覚ます。
そこに並ぶのは顔ではなく、ありふれた現実。
先ほど同行者と別れた場所、城の入り口から見える風景だった。
「もし、あたりを探索するなら左手を絶対に城の外壁から離さないで下さいね」
史上最悪の方向音痴である彼が、城の近辺の探索という困難なミッションをこなすことが出来たのはそんな一言のお陰である。
別れる間際に何回も何回も何回も重ねて忠告しておいた甲斐があったというものだ。
そんな同行者のお陰で、奇跡的に彼は城の入り口に再び戻ることが出来たのだ。
そして来るべき戦いに備え、城の入り口で精神統一を行っていた。
だが、実際は心を無にして落ち着くどころかこのザマである。
「ガラにもねえな……」
はぁ、と溜息をこぼしながら手で頭を押さえつける。
この殺し合いという場で、近い人間の死をいくつも見てきた。
誰も彼も、強制された殺し合いという「くだらない事」で命を落とした。
男がそれを見届ける度に、ある場面が脳裏にちらつく。
「くだらない事」で命を落とした彼女の姿が、彼らと重なるように浮かび上がって来る。
何故か?
彼らと少女を結びつける物、こうなるはずでは無かった死に逝く者の「無念」という思いがあったからだ。
何人もの人間がこの場でそれを遺し、ある者はそれを託しながら死んでいった。
この男も例外ではなく、何人もの死を目撃し、何人もの無念を託された。
「無念」が彼に遺される度に、重なるようにもう一度託される「無念」があった。
それは「下らない事」で命を落とし、大きな「夢」を見ていた少女の「無念」だ。
あの日に受け止めた物が再び遺され、一だったそれは積み重なり、やがて「過去」へと姿を変えて彼の足を止めていた。
それを理解しているのか、いないのか。
男はゆっくりと息を吸い込み、少しずつ吐き出していく。
そして目を大きく見開き、一本の刀を横に薙ぐ。
風切りの音だけが、無音の空間に響きわたる。
だが、男はその一薙ぎで確かに"斬って"いた。
男の体に重くのし掛かっていた「無念」を。
「悪いな」
瞳に、迷いはない。
「てめェらにゃ、構っちゃいられねえんだ」
世界一の剣豪になるという、彼の誓い。
他人に引きずられることもなく、何よりも真っ先にかなえなければいけない夢。
そして、何よりも真っ先に晴らすべき無念。
他者の死をきっかけに振り返った過去を通じ、思い出した映像と共に改めて体に刻んでいく。
「俺は先に進む、お前等を置いて行く」
忘れられないことがある。
忘れてはいけないことがある。
忘れられるはずもないものがある。
他の何かを背負う前に、背負えるだけの器を作らなくてはいけない。
そしてそれには、成し遂げねばならないことがある。
「"無念"で終わらしちゃいけねェモンが、あるからな」
あの日の、そして今この瞬間の誓いを胸に、彼は前を向く。
「まあ、見てろよ」
にいぃ、と自信に満ちた笑顔と共に、腕に巻き付けていた黒いバンダナを解く。
それをいつもより少しきつめに頭に巻き付け、軽く頬を叩いて決意の証を作る。
続けて両手と口に刀を構え、彼の象徴である"三刀流"を作る。
だが一つだけ、いつもとは違う事がある。
それは四本目の刀、心の中にある固い"決意"という刀が。
魔神の如く古城の入り口に立ちはだかる彼を、突き刺すように支えていた。
.
来るべき決戦の準備を整え、彼は宣言する。
「零でも何でもブッた斬って、生き残ってやるぜ」
"不敗"を。
止まらない、止まれない、くたばる暇すらない。
もう一度「喪失」のブレーキをへし折り、彼は前へ行く。
進んで進んで進むだけ。
邪魔な物は斬ればいい。
だから殺しに乗る奴も斬る。
この「くだらない事」を考えた奴も斬る。
そして、前に進む。
必ず、手にするために。
【A-2・古城跡入り口/1日目 真夜中】
【ロロノア・ゾロ@ワンピース】
[状態]疲労(中)、全身にダメージ(中)(止血、消毒、包帯済み)、左腿に銃創(治療済み)、右肩に掠り傷、腹部に裂傷、全て回復中
[装備]八千代の刀@WORKING!!、秋水@ワンピース、雪走@ワンピース、治療符@終わりのクロニクル
[道具]支給品一式×2(食料7/12、水7/12消費)、麦わら海賊団の手配書リスト@ワンピース、迷宮探索ボール@
ドラえもん、
不明支給品(1~3)、
一方通行の首輪(血がこびりついている) 、ARMSのコア(ジャバウォック)@ARMS
[思考・状況]
1:"敗"けない
2:"背負う"為、"前"へ進む
3:ルフィ(死体でも)、チョッパーを探す
4:首輪の秘密が気になる。
※参戦時期は少なくともエニエスロビー編終了(45巻)以降、スリラーバーグ編(46巻)より前です。
※雪走が健在であったことに疑問を抱いています。
※八千代の刀@WORKING!!は僅かにですが歪んでいます。
投下順で読む
最終更新:2013年01月10日 01:20