笑顔 ◆SP/JeyPn5I
「笑顔だ! 笑おうよ! こういう時こそスマイルなんだ!」
殺し合いの場。月光を白く反射するアスファルトの上。そこに酷く騒がしく、場違いな発言をする男がいた。
年中浮かべている笑顔が張り付いたままになっているような、そんな顔をした男の名前は
エルマー・C・アルバトロス。
通称は”笑顔中毒者”。そしてその名の通りの男だ。
幸福の先に笑顔があるとするならば逆も然りと、いかなる状況であったとしても笑顔を要求する……狂人。
「もう、おじさんはいい加減にしてくれよ! 今はそんな場合じゃないんだ!」
繰り返しの無茶な要求に癇癪を起こしているのは、ギラーミンへの怒りも冷めやらぬ少年――
野比のび太だった。
一端の正義漢を気取り、なけなしの勇気を振り絞ってギラーミンの打倒へと燃えている一人のちっぽけな少年。
そんな彼が最初に出会ったのは不幸にも、無害ではあっても決して心強い仲間となる人物ではなかった。
もっとも、背負った鞄の中に武器らしいものが入っていなかったことからすれば、それは幸運とも言えたが。
「ギラーミンとかいう人だって話せば解ってくれるさ。決してその可能性はゼロじゃない。最後は笑顔で終われるよ」
「おじさんはアイツを知らないからそんなことを! それに見なかったの? もう人が死んでいるんだ!」
死者が出ているということに対してはエルマーも顔を曇らせる。狂人であったとしても何も通常の感性までを捨てたわけじゃない。
しかし……だからこそ、それでもなお笑顔中毒者だから彼は空恐ろしいのだが。
「でも笑顔を捨てちゃあ駄目なんだ。僕はのび太くんが幸福を自ら手放すことを望みはしないなぁ」
「だったら、どうしろってのさ!? アイツをどうにかしないとここから帰れもしないのに!」
のび太の剣幕は止まることを知らない。その半分は隣の男のせいで、もう半分はのび太自身のせいだった。
単純にのび太は怖がっていたのだ。
頼りとなる
ドラえもんも隣におらず、秘密道具の一つもない。そして、殺し合いの場に落とされたということ。
隣に感情をぶつけられる男がいなければ、恐らくどこかの暗がりで振るえ縮こまっていたことだろう。
「ともかく、君の言う”ドラえもん”とやらを探すことにしようか。そいつはとんでもない”悪魔”なんだろう?」
「それは賛成だけどドラえもんは悪魔なんかじゃないよ。22世紀からやってきたロボットなんだ!」
「僕から見たら似たようなものだと思うけどね……」
ともかくとして2人は進み始めよう――と、不意にそこへ3人目の人物が現れた。
「――そこの坊やは、さっきギラーミンとか言うのに突っかかっていた子よね? 一つ、私にも話を聞かせてもらえないかしら?」
穏やかでいて、しかし獰猛な獣を思わせる笑顔の女性が街灯が作り出すスポットライトに下に立っていた。
◆ ◆ ◆
「やとわれの用心棒ね……。結局、人間ってのは時代が進んでもやってることは変わりないものね」
のび太よりギラーミンについてのことを聞き出すと女――
バラライカは紅い唇の間から苦笑をこぼした。
彼女こそは犯罪都市ロアナプラに居を構えるロシアン・マフィア”ホテル・モスクワ”の女頭領。
利益を独占しようと目論む悪徳企業やそれに雇われた殺し屋、始末屋などというのは、彼女からすれば日常の言葉であった。
フライフェイスと呼ばれる半ばまでを火傷で覆った顔に柔和な笑みを浮かべると、彼女は続けてのび太に質問を繰り返す。
「それで、この男……エルマーはここで初めて会って、知り合いでもなんでもないのね?」
その問いにのび太がやや怯えながらも頷くことを確認すると、バラライカは肩にかけていた突撃銃を男に向け――撃った。
”AK-47”――通称カラシニコフ。まだ祖国がソビエト連邦であった頃から戦っていた彼女にとっては何よりも手馴れた戦友である。
タタタタタ……という軽快な音と共に音と同じ数だけの穴がエルマーの身体に開き、彼は血を噴出しもんどりうって倒れた。
バラライカは殺した男には目もくれない。
手にした銃が自分が知っている物と寸分たがわないことに満足すると、またのび太の方へと向き直る。
そして、突然の凶行にすくみあがり震えているだけの少年へと”決闘”を申し込んだ。
「あなた、あのギラーミンとか言う男に一度は勝ってるんですってね?」
だとしたならば、その男の技量を測るためにものび太と一度決闘してみたいとバラライカはそう申し出る。
そして、のび太が武器を持っていないことを知ると”2つ”背負っていた鞄の片方を開き、2丁の拳銃を取り出した。
「”さっき殺した白服の男”の銃がちょうど余ってたのよ。あなたにあげるから、さぁ構えなさい……」
拳銃の内の片方であるデザートイーグル――少年には不釣合いの無骨な銃を無理矢理に押し付けると、
彼女は十歩ほど離れてオートマグと呼ばれるこれもまた強力な銃を構えた。
「私はあなたの大嫌いな――悪党。何も遠慮はいらないわ。撃てる時に撃ちなさい」
バラライカは目の前の少年を吟味しながら挑発し、彼が動く時を待つ。
十秒かその倍か、それとも一分か、緊張下において不確かな時間がじっくりと流れ……そして少年は銃を構えた。
それを見てバラライカはニヤリと、顔を歪めて獰猛な笑みを浮かべた、
「どうやらまるっきし口だけって訳じゃあないようね坊や。ちゃんと狙えていることには関心するわ」
でもね――と言葉を発しながら彼女も銃口を少年に向け、場の緊張をギリリと引き絞った。
緊張の糸が破断する直前。追い込んでくる恐怖に少年は引き金を、引く。引いたが、しかし銃口から弾丸は飛び出さなかった。
「――殺し合いに関しちゃ、あなたド素人よ」
銃声。
バラライカの構えた銃からは正しく銃弾が飛び出し、そして一瞬の間もなく少年の身体を貫き、その命を奪った。
◆ ◆ ◆
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――――――――」
獰猛な女傑は少年のちっぽけな死体を前に哂っていた。
「馬鹿馬鹿しい! 馬鹿馬鹿しすぎるぞ!
なんだ、こんなものなのか? 所詮は子供の戦争”ごっこ”の延長でしかないのか?
ギラーミンはこんなものに負けるほどで、そしてこんなものの為に私をここへと連れてきたのか!?
この――偽物の戦場へ!?」
あまりにも可笑しくて、また歯がゆく理不尽な現状にバラライカは笑いが止まらなかった。
のび太とギラーミン。未来の世界とやらの少年と用心棒の因縁。
自分達はその添え物。生贄の祭壇に添えられた彩りにしか過ぎぬのではないかと当初は考えたにも関わらず、
実際にはのび太はただの少年で、ギラーミンとやらはそれにも劣る大間抜けらしい。
これが笑わずにいられるだろうか?
バラライカには未来の人間は退化していると、そうとしか思えなかった。
科学技術が進歩すれば、その分それを使う人間が退化してゆくというありきたりな論は目の前で実証されたのだ。
ならば、後はもう――……
「もっと笑おう! 全部、全部、笑顔だ! スマイルでいこう!」
その唐突にあがった声にバラライカの哄笑はピタリと止まり、姿勢が瞬時に戦争状態のそれへと変化した。
「――貴様」
確かに殺したはずの、いくつもの鉛弾を胴体に叩き込んだはずの男が、”笑顔中毒者”がそこに立っていた。
相変わらずの、変わらない笑顔のままで。
◆ ◆ ◆
タタタタタ……と再びの軽快な銃声。
バラライカは再攻撃を初手のままに繰り返した。
相手がどのような手段を用いて死を免れたかは不明だったが、一度は有効だった攻撃を同じように繰り返す。
そして目の前の不気味な男は先程のリプレイの様に、何を言うでもなく同じようにもんどりうって地に伏せた。
今度は死体(?)より目を離さず、バラライカはその様子を油断無く観察する。
撃たれた傷からは血が噴出しアスファルトをその色に染めている。
血糊が飛び出す手の込んだ防弾チョッキでも着ていたのかとも思えるが、しかしそうではないと彼女は確信していた。
”立ち上がっていた時、男の身体には一切の血の跡がなかった”
付け加えれば、地面を濡らしていたはずの分までもが綺麗になくなっていた。
まるで最初から血などは流れ出ていなかったかのように。
つまりは、血糊云々といったチャチな小細工ではなくもっと、そう恐らくは”未来の技術”――それが手品の種なのだろうと彼女は推測する。
1分か2分か……ほどなくして”ソレ”は始まった。
まるで逆再生してるかのように地面に零れた血が逆流し、元の身体の中へと戻ってゆく。
その跡には一滴の血粒すら残さず、本当に逆再生しているかのようで、そしてそれは真実で、倒れていた男は気を取り戻した。
バラライカにはそれがどういった原理に基づくものなのか、いかなる技術の産物なのかも解らない。
だがしかし、何がどうであろうとも彼女がすることに変わりはない――
「やぁやぁ驚かせたかな? 少し特殊な身体をしていてね……いや、まずはそれより笑おう。わら――エグッ!」
再び起き上がろうとした男の胸板を踵で押さえつけ、バラライカは無慈悲な鉄の様な表情で見下ろす。
「エルマーとか言ったか? おまえ――”酒”を飲んだか?」
「……知っていたのかい? 人がわる――ッ!」
そう。彼女がすることに変わりはない。
それが敵なのならば、同じ戦場に立つ者ならば、殺すだけ。不死身というのなら、死ぬまで殺すだけだ。
弾を使うのは勿体無いと、バラライカはサバイバルナイフを懐から抜き出し、月の光でヌラリと濡らす。
「わ、笑おう……、笑え、ば――……」
今から殺され続ける男の最後の懇願を聞き入れたのか彼女は、笑った。獰猛に、とても残虐に――……
◆ ◆ ◆
「――種が割れればあっけないものだな」
バラライカの足元には首を落とされたエルマーの死体が転がっていた。
もう復活する兆しも見えず、流れ出た血はそのままに広がり道路脇の排水溝へと流れ込んでいた。
この催しの根幹が”殺し合い”である以上、”死なない人間がいるはずがない”のだ。
「不死の酒。……とんだ紛い物だわね」
手にした酒瓶のラベルを見て彼女はそう呟く。
不死の酒とラベルに書かれたそれは、先刻彼女が殺した白服の男が持っていたものだ。
あまりにも眉唾なふれこみに最初はそれが全くの嘘だと思っていたのだが、笑顔の男の実証により”それなり”だと気付いた。
「しかし……、だとすると……」
酒瓶の中に酒は一滴たりとも残ってはいない。しかし、バラライカが飲んだというわけでもない。
奪った荷物を検分した時には”すでに空”だったのだ。それは、つまり――……
「よおぉぉぉぉおおやく、見つけたぜ! この糞ババァ――っ!!」
そう。殺したはずの男――
ラッド・ルッソもまだ”殺しきれては”いなかったのだ。
――恐笑を持つ女傑と、狂笑を持つ殺人鬼。それが、月下において再びぶつかり合う。
【野比のび太@ドラえもん 死亡】
【エルマー・C・アルバトロス@BACCANO! 死亡】
【D-3/路上/深夜】
【バラライカ@BLACK LAGOON】
[状態]:健康
[装備]:AK47カラシニコフ(30/40、予備弾40×3)、AMTオートマグ(5/7、予備弾×28)、サバイバルナイフ
[道具]:支給品一式×3、デザートイーグル(0/8、予備弾×32)、不死の酒(空瓶)
のび太の不明支給品(1-3)、エルマーの不明支給品(1-3)
[思考・状況]
1:白服の男(ラッド)を殺害する。
2:戦争(バトルロワイアル)を生き抜き、勝利する。
※のび太から、ギラーミンのことや未来のこと、ドラえもんについてなどを聞き出しました。
※のび太の不明支給品の中には武器、秘密道具に属するものはありません。エルマーの分に関しては全くの不明。
【ラッド・ルッソ@BACCANO!】
[状態]:健康、不死者化
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:火傷顔の女(バラライカ)を殺す!
2:あのギラーミンとかいう糞野郎をぶっ殺す。
3:そのためにこの会場にいるやつを全員殺す。とにかく殺す。
※自分が不死者化していることに気づいているか、いないかは不明。
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最終更新:2012年11月27日 00:18