幼女の奇妙な冒険~ファントムリーゼント~ ◆uStZkrHCmI
畜生! 畜生! なんで俺は動かなかったんだ!?
首が飛んだ女の人も、撃ち殺された奴も俺が動いていたら救えたかもしれないのに。
……何がクレイジーDだ、何がこの世で最も優しい能力だ。
結局はこの首輪が怖くって何も出来なかったビビリ野郎じゃねーか!
先刻の事を思い出した少年『
東方仗助』は俯いた顔に暗い表情を貼り付けていた。
生命力に溢れているはずの体からは完全に力が抜け、チャームポイントのリーゼントも心なしか垂れたように見える。
心優しきが故にのしかかる重圧。
死ぬ覚悟さえあれば自分は先ほどの二人を救えたのではないか?
後悔、懺悔、怒り
複雑にミックスされた感情の渦は仗助の心を呑み込もうと襲来してきた。
が、彼は潰れたりしない。
金剛石のような強さと輝き、そして気高さを持つ魂がここで諦める事を拒むのだ。
「そうだ……そうだよな…。俺がここでクヨクヨしてる場合じゃねぇんだ」
ずっと泥を眺めていた視線が徐々に上へと運ばれてゆき、ついにその両目が前を見据えた。
学ランから覗く両手をグッと握り締めて拳を作り出す。
スッ
彼の半身『クレイジー・ダイヤモンド』の腕が音も立てずに仗助の腕から生まれ、分離してゆく。
そして、脱皮するように頭、胸、腰と順にヴィジョンが発生しては彼の肉体から離れていった。
プツンと切れるようにつま先が仗助から抜け出して、クレイジーDの容貌が明らかとなる。
180cmはある仗助よりも更に巨大な体躯。
鋼と呼ぶにふさわしい、高密度でありながらも盛り上がりを隠し切れない筋肉。
所々にハートを模った鎧を着たその姿は例えるなら闘士。
そしてそのスタンドが非常に様になるポーズで拳を構えて―――
「ドラララララララララララララララアアッッ!」
聞く物全てを怯ませる咆哮と共に拳の弾幕を放った。
砕かれ、削られてゆく木、岩、土。
拳が一発当たる毎に原型から姿を変え行く景色。
360°回りながら放たれたラッシュが止まったとき、仗助の半径5メートルからはありとあらゆるものが存在しなくなっていた。
「よっし! このくれーでいいかな?」
破壊しつくされた景色を満足気に見つめる仗助。
「助けられなくて本当にすまねぇ……。
お詫びって言うのもなんか違うけどよ、墓を作るから今の所はこれで勘弁してくれ」
その言葉を言い終わるか言い終わらないかの間に砕かれた岩や木、そして土が宙を舞う。
茶色や灰色といった飛礫のコンラスト決して美しい物ではない。
しかし、一点を目指して飛ぶそれらの姿は散った二人の魂のようで、欠片から生まれた十字架には魂が篭っている様に思われた。
「あんた達が何教徒だか分からないから一応十字架を立てておいたぜ。
大丈夫、あんた達の仲間を見つけたら後でキッチリ直しに来るからよ」
完成した十字架に手を合わせた後、支給品のペットボトルから水を半分ほど十字架にかける仗助。
そして再び手を合わせた後、自分の身長よりふた周りは大きいであろうそれに背を向けて仗助は去っていった。
★ ☆ ★
さて……この状況をなんと言えばいい?
承太郎さん風に言えば非常にへヴィって奴だぜこれは。
まさかこの殺し合いの場にこんな強敵がいるとは思わなかったぜ。
流石の俺もこんな奴に勝てるわけがねぇ……
さて、これから俺はどう対処するべきだ?
アイヌ風の服を着た獣耳の幼女によぉ~。
先ほどから無言で仗助を見つめる
アルルゥ。
仗助の方からは何度もコンタクトを取ろうと図ったはずなのだ。
だが、そのどの質問にもアルルゥは答えようとしない。
物珍しそうな顔でボーっと仗助を眺めているだけ。
幼女相手に顔を真っ赤にするほど気が短いわけではない
そうなのだがやはり無視されるのは腹が立つわけで。
腹が立てば、ムキになりやすい性格の彼は何とかして気を引こうと必死になるわけで。
だけど自分のスタンドを軽々と出すほど仗助の頭はマヌケではないわけで。
結局、彼は自分のディバッグから支給品を漁る事となった。
「さぁて、な・に・が・で・る・の・か・な・っ・と」
彼の手が触りなれた感触―プラスチック―の手触りを感じた。
形状は恐らくは箱。
更に中身を確かめるように軽く指を中へと入れる。
「あれ?」
指に感じるのは冷たく、ベタッとした何か。
危険を感じて即座に指を抜き出す。
付着した黒い何かの正体はすぐに分かることとなった。
……ビンゴッ!
黒い何かの中にあるのは黒い豆。
仗助が知る限りはその豆が使用されるのは食べ物だと確定されている。
子供ならお菓子か何かで釣れるだろう。
ニヤニヤとPTAがその場にいたら即刻通報物の笑みを顔に貼り付けて袋の端を掴んだ仗助。
「きたぜ!君に決めたッ!!」
おどけた調子で思いっきり箱をディバッグから引きずり出す。
でてきたものは―――おはぎの入ったタッパ。
なにゆえおはぎが出る?……
そんな疑問を余裕でぶっちぎるほどの歓喜が仗助の胸に押し寄せる。
露伴にイカサマで一杯食わせた時よりもスッキリしたかもしれない。
さぁ、反応を示すのだ幼女よ。
仗助の頭に浮かぶ思考は只それだけであった。
「んん?」
初めてアルルゥが反応を示した。
「これはな、おはぎっていうとっても美味しいお菓子なんだ」
美味しいお菓子。
その一言だけでアルルゥの視線はおはぎに釘付けだ。
目はキラキラと輝き、口端が微妙に濡れだしたのを仗助は見逃さない。
「いや~本当においしいんだよな~俺も食べたいな~」
いやらしい口調でアルルゥを挑発する仗助。
しかし、よくよく見ると既に彼女の視線はおはぎから外れていた。
……いや、正確に言うと、おはぎとその上を交互している。
おはぎの上にあるのは仗助の顔。
そして更にその上にあるのは大きく前に突き出した髪の毛。
「なぁ、もしかしてお前俺のリーゼントが気になってたのか?」
頭を指差しつつアルルゥへと話しかけた仗助。
「ん!」
表情をあまり変化させないまま頷いたアルルゥに思わず苦笑いが零れた。
杜王町では既に誰も気にしなくなってたのだが、ここはそうではない。
殆どが見知らぬ参加者なのだからリーゼントを見たら表面上はどうであれ内心驚くだろう。
アルルゥの場合は子供だから好奇心丸出しだっただけ。
その事に気が付かない自分が何となく恥ずかしくて少し笑ってしまう。
「ほら、意地悪して悪かったな」
少し身を屈めておはぎをアルルゥへと手渡した。
おずおずと仗助の手からおはぎを受け取ってアルルゥは問う。
「もらっていーの?」
「あぁ、俺からのプレゼントだ。ところでお前なんて名前なんだ?」
「アルルゥ!」
仗助から受け取ったおはぎを掴んで、掌に付く餡子も気にせずに大きく口を開けておはぎをほお張る。
アルルゥの目が大きく見開かれて、尻尾がぶんぶんと振り回された。
(おいしそうに食べる子だな)
もぐもぐと咀嚼するアルルゥの様子を仗助は微笑ましそうに眺めた。
そして、アルルゥの喉がゴクリと鳴って、記念すべき奇跡的御萩初体験は終わりを告げる。
「どうだ? おいしかっただろ?」
「ん!」
「そうか、そりゃよかった。そういえば自己紹介が遅れたな。
俺は東方仗助。呼び方は……まぁ好きなように呼んでくr「「仗助おにーちゃん」」おにーちゃん!!?」
「ん、仗助おにーちゃん」
「あのよぅ、お兄ちゃんはちょっと勘弁してくれないか?」
「や」
周りは皆野郎。
もてるとは言っても意外と純情派で彼女いない歴=年齢。
その上不良もやっている彼からしたら『おにーちゃん』という呼ばれ方は耐えがたかった。
実際、顔を真っ赤にしてなんとかアルルゥを説得しようとあれこれ言い続けている。
が、アルルゥは頑なに意見を曲げようとはせずに、結局仗助が根負けして『おにーちゃん』と呼ばれることを否定しなくなった。
「はぁ~億泰とか露伴に聞かれた日にゃ自殺もんだぜこれは」
「おくやす?」
「あぁ、元の世界での俺の友人だ。こっちの方には康一って奴だけが呼ばれたみてーだけどよ」
多少忌々しげな声を出しそうになったものの、アルルゥを怖がらせてはいけないと思い極力声を抑える仗助。
だが次の瞬間、彼は溢れる感情を抑えることが出来なくなった。
アルルゥの言った残酷すぎる現実に。
「アルルゥのおとーさんとおねーちゃん、
カルラおねーちゃんに
トウカおねーちゃんもいた。あとは―――」
この場が殺し合いの場あることを分かっていないのか、アルルゥは嬉々として家族達の名前を語りだす。
幸せそうな語り口で優しい父や姉の事を話すアルルゥを仗助の手が遮った。
「もういい」
そう言った仗助の体は小刻みに振動して、内から溢れる感情を発散しようと必死になる。
話を遮られたことで不満そうなアルルゥであったが、仗助の口調、仕草、そして周りにあるオーラを感じて何も言えなくなった。
リーゼントの上部が剥がれて天を突く。
唇は噛み締められすぎて痛々しい色に変色した。
目は見開かれたかと思いきやきつく閉じられるという運動を短いスパンで連続する。
今の仗助は爆発寸前。
いや、もう起爆スイッチは入っているはずだ。
アルルゥが怖がるといけないから。その理由だけが仗助に理性を保たせていた。
おい、あのクサレ外道は何をやってやがる?
自分の復讐の為に? 失った信頼を取り戻すために?
ふざけるんじゃねぇ!
吐き気をもよおす『邪悪』とはなッ、なにも知らぬ無垢なる者を利用する事だ……!!
自分の都合だけのために利用する事だ……あのクサレ外道がなにも知らぬ『家族』を!! てめーだけの都合でッ!
ゆるさねえッ! テメーは今 再び オレを怒らせたッ!
俺はこんなふざけたゲームにゃぜってー乗らねぇぞ!
力が足りない奴がいたら力を貸して、命が足りねぇ奴には俺のスタンドで生命を注ぐ!
ギラーミン! もう一度言うぜ! オメーの企みは警察や法律じゃあ裁けねぇだろうよ……だからこそ俺たちが裁いてやらぁ!!
★ ☆ ★
「おにーちゃん?」
「あぁ、もう大丈夫だぜアルルゥ。心配かけちまったな」
押し黙ってしまい、急に全身を痙攣させた仗助を心配して声をかけたアルルゥ。
仗助もアルルゥの言葉で我に返ったらしい。
次の言葉を紡ごうとした瞬間にアルルゥの視点が一気に高くなった。
「お~」
「どうだ? アルルゥ」
アルルゥが仗助の肩の上に座る、所謂肩車。
急に高くなった世界に嬉々とはしゃぐアルルゥ。
「ん~と、おとーさんよりたかい?」
「そっかお父さんは俺より小さいか~」
嬉しそうに、しかしどこかに寂しさが入った声でアルルゥを担ぐ。
願わくばこの子の家族が皆無事でいますようにと祈りながら。
しかし、センチな思考は何処かへと吹き飛んでいってしまった。
仗助にとっては命に関わる危険。
ヤバイ。脳裏に警報が過った時には既に遅かった。
頭から信号が送られてくる。
(アル……ル…ゥ)
真っ白になってゆく意識の中で彼は幼子の名前を呼んだ。
自分の肩の上にいる幼女の名を。
「俺のリーゼントに触るんじゃねぇーーー!!」
そして仗助は自分の頭の上にいる幼女を下に下ろそうと躍起になる。
が、そう簡単にアルルゥは仗助の髪を放してはくれない。
「イタタタ、マジで止めろって。な?」
「や」
「本当に洒落になんねぇからよ。ほら、悪戯もいい加減にしねぇと怒るぞ?」
そうこういって数分間の格闘の末、疲れきったアルルゥが諦めた事によって事態は収束した。
ちなみにアルルゥ曰く、仗助のリーゼントは意外とフワフワして柔らかかったらしい。
辺りに警戒しつつも木にもたれかかって髪型を手櫛で整える仗助。
最初は手から感じる歪になった誇りに泣きそうになったが、相手は幼子。
怒りは喪失感となって仗助にやってきて彼は完全に意気消沈している。
ちなみに元凶のアルルゥとはいうと?
「んふ~」
2つ目のおはぎをご賞味なさっていた。
しかし、半分ほど食べたところでアルルゥの表情が変わる。
美味しいお菓子を頬張っていた至福の笑みから今にも泣きそうな顔へ。
一気にテンションを元通りに復元して、アルルゥへ近寄る仗助。
彼は見た。
吐き出されたおはぎの中に混ざる裁縫針を。
よくよく見たら、餅の白の中に血の朱が混じっていた。
犯人は? 言うまでもなかろう。ギラーミン以外に誰がいるというのだ?
(卑怯な真似しやがってあの野郎)
何度目か分からないギラーミンへの怒りを感じたが、今はそれどころではない。
恐らく針の先端で口を裂いてしまったのだろう。
形のいい唇に少量の血液が流れる。
「おにーちゃん……」
涙目で訴えかけるアルルゥを仗助はそっと抱きしめる。
安心させるため、これから何を見ても不安がらないように。
「アルルゥ。その怪我を治してやるからちょっと目を閉じて口を開けてくれないか?」
「わかった」
そういって言われた通り大きく口を空けて目を閉じるアルルゥ。
仗助はその小さな口にクレイジーDの指を突っ込んで患部に触れる。
「?」
急に口内の痛みが引いた事に驚くアルルゥ。
姉、
エルルゥの薬でもこんなに早く痛みが引くわけが無い。
もう目を開けていいぜという仗助の言葉に従って、瞼を持ち上げた後に、舌で口内を探る。
無い。
血の味がチョットだけ残っていたが、肝心の傷跡が無いのだ。
「おにーちゃんは何やったの?」
「ん? それは秘密だぜ」
訝しげな表情をするアルルゥを誤魔化すために仗助はずっと乾いた笑いをしていた。
★ ☆ ★
彼は森を歩いていた。
自身の正義から外れた男、ギラーミンをどのように断罪するかを考えて。
男は見た、男が幼女の口に異形の指を突っこんでいる場面を。
男にはその異形に見覚えがあった。
銀と青を基調とした制服の男はアルター使い。名は劉鳳。
彼の目には治療をする仗助の姿は、アルターで幼女を襲う卑劣漢としてしか映らない。
そして彼は飛び出した。
一瞬出るのが遅かったら二人の出会いは変わっていたのかもしれない。
昼間で、傷が治った後のアルルゥと仗助の姿をハッキリと見たら二人の出会いは変わっていたのかもしれない。
しかし、勘違いが産んだ悲劇は既に幕を空けた。
舞台に立つのは心優しき少年と無垢な少女、そして正義に縛られた哀れな男。
劉鳳は運命の一言を告げた。
「そこのふざけた髪型をした男! 正義の名の元に貴様を断罪する!」
「俺の髪型が何だって!? もう一度言ってみな!!」
★ ☆ ★
【H-8/森/一日目深夜】
【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康、激しい怒り
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品(0~2)
[思考・状況]
1:俺の髪型がサザエさんみて~だと?
2:ギラーミンを倒し、ゲームから脱出する
3:うたわれ勢や康一と合流する
4:アルルゥと行動する
※アルルゥからうたわれ勢の名前を聞きました
【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:おはぎ@ひぐらしのなく頃に
[道具]:支給品一式、不明支給品(1~3)
[思考・状況]
1:ん?
2:
ハクオロ達に会いたい
3:仗助と行動する
※おはぎは仗助の支給品です
ギラーミン「いや…その針は特に意味がねえ、ただの悪意よ」
※ココが殺し合いの場であることをイマイチ理解してません
【劉鳳@スクライド】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品(1~3)
[思考・状況]
1:そこのふざけた奴(仗助)を断罪する
2:ゲームから脱出する
3:
カズマ達についてはとりあえず保留
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最終更新:2012年12月06日 04:08