ニコラス・D・ウルフウッドの受難 ◆o64WaCEHNg



水、それもこんな巨大な水たまり――巷では湖とか言うらしい――など存在する程もなく。
つまり泳げるわけもなく。 その類稀な戦闘能力でも現状ではバタ足すら怪しく。
いくら相手の技や癖や呼吸を覚えても敵が大自然では役に立たず。
確かにそうだ。だが、緊急事態の咄嗟の判断力は、初めての環境でもいかんなく発揮された。
肩にかかったディバックを、暴れながらも掻くように爪で引っ掛けて開ける。拳を握りゆっくり開けては沈んでしまう。
デイバックに水が入ろうが、水が入った結果中のものがいくつか飛び出ようが、気にしている暇はない。
どうにか腕を突っ込んで、何かないかとかき回す。
手に当たる硬い感触。指に張り付く濡れた紙か何か。つるつるとしたもの。
どれも、まともに体を浮かせる道具になりそうになる。見て確認すれば実際違うのかもしれないが、今は見る猶予もない。
そんなとき、そこそこ太くて指で押すとへこむ物体を手が握った。
(これや―――!)
瞬間ひらめき、引っ張り出す。それはもういらないほど周りにあるものと同じ――水が詰まったボトル。
(たしか、空気は浮くんや――――!)
そう。湖は見たことはなくても、逆向きにしたコップが浮くなどそのくらいはウルフウッドも知っている。
急いでキャップを親指の力だけで弾き飛ばす。さらに、逆向きに。
もちろん、この間暴れっぱなしだ。子供や並の人間なら体力切れで沈んでいるかもしれないが、この男に限ってそれはない。
水が流れ出ていく。しかし、口が小さく、あまり出ない。
それでも、どうにか――耐えきった。
ボトルの口を手で押さえ、どうにかしがみつくものをこうして手に入れたウルフウッドは、かくして生き延びたのだった。

どうにか、水から上がったウルフウッド。その姿は、ぬれ鼠のようだ。
山中の川辺などによくある高圧電流用の鉄塔に、若干肩で息をしながらも彼はもたれかかる。
どうやら、既に使用されてない鉄塔らしく、触ってもウルフウッドは感電することはなかった。
もっとも、そういう知識も彼はないため、その幸運を知る由もないが……とにかく今の自分の身の不幸を嘆きつつ、息を整える。
触れた服を上だけ脱いで軽く絞った。
やっとの思いで一息つき、彼は自分の命を救ったデイバックの蓋を開ける。
中から出てきたのは……銃が二つ。そして意味の分からない円形のもの。濡れてよれた地図。
銃は、相棒ではないにしろあたりと言っていいだろう。
最強の自動拳銃と名高いデザートイーグル50AE、そして強力なショットガンであるSPAS12。
火力と言う意味では、最高峰だろう。…………ただし、ある懸念を除けば。
これだけだった。せめて水底に先ほど沈んだものはなんだったかも知りたいが、比較対象がない以上何が欠落したのか正確に知ることは難しい。
濡れた頭を掻きながら、半ば理解していながらもデザートイーグルを掴み、無造作に引き金を引く。
反動も銃声も気にしないその所業は、日頃の彼なら考えられないだろう。だが、この行動はある理由からだ。

撃った。しかし何も起こらない。

「やっぱりあかんか……」
やれやれといった調子のウルフウッド。
ある懸念、というのはこれだ。そう、大部分の火器は防水ではない以上、水につかると駄目になってしまうのだ
いくら強力な武器も、使えなければ無用の長物でしかない。
それでも脅しや威嚇には使えるとそれをデイバックに再度詰め込むと、地図を眺め、現在位置を確認する。
後ろの湖を若干憎々しげに見つめつつも、この湖から場所はE-7と分かった。
水につかってしまった火器は、まったく役に立たない。
さしもの彼も、他人は武器を持っているというのに、無手で挑むことの無謀さは理解しているつもりだ。
「でも頭は……ちょっとなあ」
彼が最後に手に持つのは、中心に小さな穴があいた円形の薄い板。
中央の穴に引っ掛かるようについた紙には、
『スタンドディスク 頭に差し込んで使う。取ることも可能。これをつけることで種類によって様々な超状的な力が使用可能になる。これは』
と。これは の次は、紙が濡れてしまったせいか、千切れてしまっている。
分かることは、頭に差し込むことと何やら武器代わりの力が身につく武器らしい。
頭に、差し込むと言うのは不安だし、そんなものは初めて聞いた。
思いきり猜疑心に眉をゆがめながらも、ウルフウッドは現実を鑑みる。
武器になる可能性があるのなら、それに賭けるのは、あながち間違いでなはないだろう。
意味の分からない罠ではないと、信じたい。
いくらこんなけったくその悪いことをやらかす相手とはいえ、今から殺し合いをさせたのに自滅や自爆を誘発する道具を渡すことはまずない――はずだ。
もちろん、まるで理解できない人間が腐るほどいるのも元の世界でいやというほど理解しているが、それくらいの分別はあっておかしくない。
どのみち、武器なしでうろつく危険を考えれば、選択肢はないだろう。
暗闇の中、わずかな光でぼんやりと七色の輝きを照らし返すDISKをまじまじとウルフウッドは見つめる。
くそったれ、もしもこれが頭やなくて腕や足ならとも思いつつ、覚悟を決めた。

そして――頭にDISCを一気に差し込んだ。


















「ってどういうことやねん!?」
今起こったことをありのまま話そう。説明書通り頭にDISCを差し込もうとしたらDISCがあさっての方向にぶっ飛んでいた……
何を言っているのか分からないと思うがウルフウッドもまるでわからなかった。
ただ、この程度で頭がどうにかなりそうなほど、どこかの縦長頭と違い頭はユルくなかったが。
角度や裏表の違いとかチャチな問題では断じてない。けっして、つけられないのだ。

これには、もちろん理由がある。一言に言って―――ウルフウッドには適性がなかった。
千切れた説明書の下を見れれば理解できただろう。
そこには、このような記述もあった。

『もしも適性がない場合は弾き飛ばされます』……と。


彼の受難はまだまだ続きそうだ。


【E-7/湖のほとり/一日目/深夜】

【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン・マキシマム】
[状態]:なんでつけられんねん!?
[装備]: [道具]:基本支給品 デザートイーグル50AE(使用不能) SPAS12(使用不能) スタンドDISC『スター・プラチナ』
[思考・状況]
1:とりあえず、まだ未定


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激流に身を任せ同化できない ニコラス・D・ウルフウッド 残されたものは一つ







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最終更新:2012年11月27日 00:17