匙は投げられた ◆UlsVMqbfYo
ディパックの中にあった地図とコンパスを手に、とりあえず道まで出ようと東へ進路を定め歩く。
単調なリズムで歩き続けるうちにすこしずつ気分が落ち着き、先ほどの男性と普通に会話をしていたことを
思い出した伊波は今更ながら赤面した。
(これも小鳥遊君の特訓のせいかな)
遠い日常を引き寄せるためにとりとめもない思いを巡らせながら伊波は歩く。叫び声が聞こえたのはそ
んな時だった。
※ ※ ※
目覚めてからしばらく、
新庄・運切は混乱の中にあった。
思い出されるのは先ほどの光景、人の命をこともなげに奪ったあの男と、それを自分たちにも行えと
迫る身勝手な命令、そしてそれを強要する首にはめられた枷。
とりあえずディパックの中を探ってみる。何か作業をすることですこしでも落ち着くことができればと
思っての行動だったが、参加者の名前が書かれたと思しき名簿を確認する途中、よく見知った名前を発
見したことにより動揺は一層激しくなった。
(佐山君!?)
血眼になって名簿をもう一度見直す。見覚えのある名前は三つ。佐山と自分、もうひとつは1stGの魔女
ブレンヒルトのものだ。
「どうしてボクたちが……?」
口から洩れる疑問の言葉とは裏腹に、佐山の名を発見したことにより新庄の気持ちは急速に定まっていった。
自分が生き残るためにこの全員の命を奪うことなどできない。ましてや佐山に刃を向けるなどもってのほかだ。
(早く佐山君と合流して、なんとかここから脱出しないと)
全竜交渉の代表者で、自分にとって大切な人。彼を死なせるわけにはいかない。
(きっと佐山君もがんばってるはず……いや)
どうしてだろう、出会った端から女性の尻をなでまわしながら破廉恥行為に及んでいるような姿しか想像
できない。
(そんなことになる前に助けなきゃ)
誰を誰から助けるか、ということについては深く考えず、新庄は決意を新たにした。
改めてディパックの中を確認する。
ランタンが出てきたので灯をともしておく。鉛筆、紙、UCAT製ではない普通の腕時計、食事、水、スプーン、
(……スプーン?)
味より栄養バランスに重きを置いたような携帯食糧はパンに似た固形で、水はボトルに入っている。
スプーンを使う余地などない。というかむき出しのまま入っていたため衛生に悪そうで使いたくない、
などとスプーンをつまんだまま思案を巡らせていると、突然それはぐにゃりと曲がった。
「うわっ」
力を込めたわけでもないのにきれいに直角に曲がったスプーンに思わず声をあげてしまう。とりあえず
戻しておこうとディパックに目をやると、袋の口から一枚の紙片が顔を覗かせていた。
「運命のスプーン……ねえ」
紙片にはスプーンについての説明が書かれていた。運命の人がいる方向を指すというそのスプーンを持って
あちこちにかざしてみると、なるほどぐにゃりぐにゃりと一定の方向に向けて首が曲がる。
「運命の人、か……」
自分にとっての運命の人、少なくともこの空間内にいる自分と深い縁のある人物といえば間違いなく彼だ。
他に当てがなければこのスプーンを頼りに行くのもいいだろう。そう考えてスプーンを胸ポケットに入れ
た。
他にも役立つものがないかとディパックに手を伸ばす。しばらく模索すると、その期待にこたえるように
彼女の手に冷たい鉄の感触があたった。
「なんだろうこれ?……んしょっ、と」
ディパックの口よりも大きいそれを力任せに引っ張りだす。白と茶色でペイントされたそれは一瞬なん
なのか理解できなかったが、よくみるといびつな玩具の小鳥だった。妙に角ばっているそれを矯めつ眇
めつしていると、突然静かな森に機械音声が響いた。
「ようこそバトルロワイアルへ!」
「うわああ!?」
※ ※ ※
行くか否か、伊波は少し考えたがすぐに声のする方向へ足を向けた。
行くと決めた理由は二つ。ひとつはこんなところで不用意に声を上げるような人物が危険とは思えなか
ったから。もうひとつの理由は、単純に一人ぼっちが心細かったからだ。
木々の間を抜けていくと、こちらに背を向けて人が座り込んでいるのがみえた。声を掛けようとするが
そこではたと気づく。長髪でなで肩のその後ろ姿がまとっているのは、どうやらどこかの高校の制服なのだ。
男子の。
※ ※ ※
鳩時計の鳩を大きくしたようなそのメカは己をメカポッポ一号だと名乗った。
「で、その、メカポッポさん。あなたは何ができるの?」
「オレの役目はお前がこのバトルロワイアルで優勝できるように手助けすることだ」
無機質な癖に妙に起伏に富んだ声は感情の有無が判断しがたい。
「ボクは別に優勝を目指してるわけじゃないんだけど、それでも協力してくれる?」
「オレはお前に支給された支給品だ。使いたいように使えばいい」
「うん。じゃあよろしくお願いするよ」
どうにも無愛想な、自分に機械たるべしと努めているようなその言い様にかすかな違和感を感じたが、
かまわず面談を続けようとする。しかし次の質問をしようと口を開いた新庄をメカポッポが遮った。
「気をつけろ、後ろから何か来るぞ!」
「!」
とっさに振り向き身構える。周囲に視線を走らせると、木々の間で何者かががさごそとうごめいている。
ランタンをかざすと夜闇にまぎれて人影が見えた。隠れてうかがっているつもりなのか、木の蔭から頭だけ
出してこちらを覗いているが……まるみえだ。
「誰?」
「
伊波まひる。性別は女性、日本の北海道在住の高校生、趣味はヘアピン集め」
新庄の疑問に答えたのはその人物ではなく、傍らに置いたメカポッポだった。
「……なるほど、そういう使い方なんだね」
メカポッポは趣味やらバイト先やらの情報までペラペラと垂れ流していく。趣味などはともかく、性格
などを聞いていけばに不用意に危険人物と接触することもないだろう。ひょっとしたら自分はとても幸
運かもしれない。メカポッポの声と隠れたままの人影に注意を払いながら、新庄はそんな事を考えていた。
「人見知りだが力は強く、男性を見ると無差別に襲いかかってくるぞ、気をつけろ」
「え?」
「あ、あの、誤解を招くような言い方しないでください!」
顔を真っ赤にして抗議しながら、伊波とよばれた少女が木陰から姿を現した。
【G4/森/深夜】
【新庄・運切@終りのクロニクル】
[状態]:健康
[装備]:尊秋多学園の制服、運命のスプーン@ポケットモンスターSPECIAL
[道具]:支給品一式、メカポッポ一号@ポケットモンスターSPECIAL
[思考・状況
1・目の前の少女に対応する
2・佐山と合流しここから脱出する
3・人殺しはしない
※メカポッポ
参加者のある程度詳細な情報を持っています。他の知識、自我の有無は次回以降に任せます。
【G4/森/深夜】
【伊波まひる@WORKING!!】
[状態]:疲労(中)、足に擦り傷・切り傷
[装備]:学校の制服
[道具]:支給品一式、不明支給品(0~2)、ARMSのコア(中身は不明)@ARMS
[思考・状況]
1・目の前の少女に対応する
2・諦めない
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最終更新:2012年11月27日 00:28