輪廻-ロンド- ◆YhwgnUsKHs




 がたん、ごとん。
 擬音ならばそう表現される重厚な金属音を響かせ、『それ』はその動きを止めた。

 銀色の箱に穴が横並びに開き、その全ての穴にはガラスが嵌められている。
 箱の下には大きな車輪が数個。
 箱の上には鉄で構成されたパンタグラフという部分があり、それが上を走る電線と接触している。
 その箱はいくつも存在し、それが繋がっている。先頭の箱、その正面にはライトが2つ、その上に大きな枠にガラスがある。
 箱はその動きを止め、その横に小さな入り口をいくつも同時に開けた。

 ある世界では、『電車』と呼称されるものである。


 その電車が入り口を開いている場所、ホーム。
 その反対側にあたるホームに、何者かが階段を昇って駆け上がってきた。
 優男、という印象の顔にコート系の制服をした青年は肩に乗せる形で抱いた人形にぽかすか叩かれながらもホームに滑り込み、目の前の電車を凝視した。
 既に電車は到着している。となれば、発車するのはもう間もなくだ。
 電車と言う機関を知っている者ならばある程度予想が付く。青年もそれに思い当たったらしく、自分がいる側のホームを見渡す。
 反対側のホームへ通じる階段は、青年から大分離れている。しかも、1回上に上がり渡り廊下状の通路を通って線路を横断、そしてまた階段を下りてやっとホームに着くという、回り道の形式だ。
 既に電車の扉が開いている状態ではとても間に合うものではない。朝の通勤命のサラリーマンという人種でも、諦めるしかないような距離だ。

 しかし、青年は生憎『サラリーマン』ではない。

 青年が立っているホーム周辺の物が、突然抉られたような後を残して消え去る。それも一つではなく、いくつも。
 青年を叩いていた肩の人形も、その光景に動きを止め、青年を見やる。
 青年はただ反対側にある電車を見据える。
 目的地は、そこにある。
 迂回? そんなことはしていられない。
 ならば、彼の最短ルートはどこか。
 簡単だ。

「エタニティ・エイト!!」


 直線だ。


 *****

「はぁ…はぁ…」
「……あすか……」
「はい、なんですぐはっ!」

 息を切らした青年、あすかに人形、真紅は容赦ない右平手を叩き込んだ。

「な、何するんです!」
「何ではないのだわ!」


 なぜここまで真紅が激怒しているのかと言うと。

 事の発端は、2人が出会った民家を出てその周辺の家屋をあらかた捜し終えた時のことだった。
 あすかと真紅は地図を見て互いに次の目的地を検討していた。
 すると、突然あすかが地図を凝視し始めた。目線を世話なく動かし、地図の端から端まで見ているようだった。
 突然の豹変に真紅が戸惑い、声をかけたが無視された。
 起こった真紅があすかの足にローキック(あすかにとってはローローキックだが)をかまそうとした瞬間、あすかが突然走り出した。付いてきて下さい、とだけ言って。
 命令されるのにイラっとしつつやむなく真紅もあすかの後を走ったのだが……そこは流石に圧倒的なまでの歩幅の差。あまりに速度が違いすぎて、真紅が遅れてしまった。
 結局あすかが無理やり真紅を担ぎ走ったのだが……その間、『抱き方が違う』と真紅にぽかすか叩かれまくっていた。

 はたかれつつも彼が到着したのは、駅だった。
『G-7駅』
 あからさまな駅名に真紅が呆れるのもあすかは無視し、駅に入って改札を、走る勢いでそのまま飛び越えた。
 そのまま彼が走りこんだのは、ホーム。だがその向い側に電車が既に到着していた。
 それを見たあすかは、自らのアルター、エタニティ・エイトを出現させ、足の下にそれを浮遊させる事で宙を舞い、
電車を飛び越え向こう側のホームへ入ってから電車の中へ滑り込んだのだった。
 その後ろで、電車のドアは閉じた。
 というわけで、真紅とあすかは電車の中にいる。そして今に至る。

「仕方ないでしょう! 次に来るのを待つよりは、今来たのに乗ったほうがいい!」
「一体私がいつ電車に乗る、などと言ったの?」
「地図を見てた時、僕が決めました」
「……」

 あっさりと真紅の意見をまるで聞いてないことを肯定するあすかに、真紅はため息しかつけない。何しろここまで全く説明もされなかった。
(頼りになると思ったのだけれど……見込み違いだったかしら)
 冷ややかな目で見る真紅を無視し、あすかはデイパックからコンパスを取り出してそれを見ている。
 既に電車は走り出している。駅からだんだん加速し、もう市街から森へと出て行くところだ。
「何をしているの?あすか」
「見てわかりませんか。方角を見ているんです」
 コンパスを見たままそう言うあすかに、真紅はまたもイラっとする。
 どうにもあすかは自分勝手な嫌いがある、と真紅は思った。もっとも、それを彼女をよく知る者がいたなら『人のこと言えない』と突っ込むだろう。

「なら、なぜ方角なんて見ているの?」
「この電車が進んでいる方向を明確にしたいんです。……北よりの東、か……」
「……あすか。そろそろ教えてくれないかしら。なぜこんな電車に乗ったのか、しかもあんな強引に」
「……」
 あすかは無言でデイパックから地図を取り出し、真紅に渡した。さっきまで凝視していた地図だ。
「さっき僕たちが乗ったのはG-7、と書かれていましたね」
「ええ、間違いないわ」
「単純にエリアをあらわした駅名だとしたら、僕らがいたのはG-7ということになります」
 確かに、真紅が地図を見れば、G-7には駅が存在している。さっきまで自分たちがいたのはそこのエリアだったわけだ。
「その駅から僕たちは、北寄りの東に進んでいます。つまり、この北に延びる線路を進んでいるわけです」
「そうなるわね。……あすか」
 真紅が何かに気付いた様子で顔を上げた。それにあすかは特に笑みを浮かべるわけでもなく答える。
「やっとお分かりいただけましたか。そう。この電車はもうすぐ、この地図の東端に到達します。僕の目的は、そこなんです」
「……このまま脱出、できるとでも? 柵かなにか、私たちを阻むものがあるに決まって」
「それならばそれを確かめます。ですが、僕の推測が正しければ……別のものがあるはず。とりあえず、もう少し待ってください」
「……」
 またも説明を先延ばしにされ、不服な真紅は気晴らしに外を眺めて見る。少し傾斜のついた、草ばかりの風景。だが、その中にもいくらか民家が点在している。
「……」
 真紅はその民家をただ、イライラの気晴らしに眺めるだけだった。


 その民家に、いくらか前まで自らがミーディアムの契約を交わした少年、桜田ジュンが居た、などと言うことを彼女は知る由もなかった。

 *****

「……どういうこと?」
「僕の推測どおりだった、そういうことです」

 数分後、2人は既に電車を降りていた。
 そして、ある物の前に立って、それを見上げている。
 エリアを囲む柵? エリアを見張る警備所? いや、どれでもない。

 その入り口の看板には、『E-2駅』と書かれていた。

 唖然としていた真紅が呟く。
「E-2……? なぜ? 私たちはG-7から東に進んでいたはずなのに。
 それに、そもそも……なぜ、エリアの端に辿り着かなかったの?」
 真紅があすかを見上げ尋ねる。これが、彼が見せたかったものであると思えて。
「僕はずっとコンパスを見ていました。その結果、電車は多少北に傾く程度には進路を変えましたが、大きく曲がったりはしていません。
北東方向に進み、このE-2駅に付いたわけです」
「北東方向に、E-2……!?」
 真紅が何かに気付いたように、地図を見た。
 E-2には確かに駅がある。
 北東に進んで、ここに着いた。つまり、自分たちの乗ってきた線路は南に延びているものだ。
 だが、それは。
「エリアの端で……途切れているはずなのだわ」
 そう、このE-2駅南側の線路も、エリアの端に繋がっている。G-7北側と違うのは、自分たちがエリアの端を始点にしたはずだ、ということだ。
「私たちは東端に辿り着いたはず。けれど、柵などはなく、西端で途切れている線路から、私たちはここに辿り着いた……。
 !? あすか……まさか」
「そう、その通りです」
 あすかが真紅の驚愕の表情を見て、全てを悟ったと判断し、ついに自分の推測を述べた。
 いや、それはもはや……彼にとっては、『事実』だ。

「この地図で示されている地域は……ループしています。
 西は東に、東は西に。そしておそらく、北も南に、南も北に、ね」


 *****

「それならば、僕たちがG-7からE-2にたどり着いたのも説明できます。
 この電車は、G-7を北方向に発車し、東端でループ、西端につながり、E-2駅へ。そのまま北進してC-4駅、そしてまた北進し……A-6の北端でループ。
 H-6南端につながり、G-7へと戻ってくる。
 時刻表を確認した限り、どうやら電車は北方向へ走る一つのみ。
 1周30分程度しかかからないようですから、それで充分なんでしょう」
 あすかの説明を聞き、真紅は沈黙した。
 確かに、ここへ来る途中、河を越えた。地図で言えばF-1、F-2境目のものだろう。
 周りの風景も、市街と言うよりは、木々に囲まれた草地。地図で示された3つの駅のうち、市街にないのはE-2のみだ。
 極めつけは、南のほうに見える観覧車。観覧車、といえば遊園地。比較的遊園地が南方向に近く見えるのは、E-2だ。
 やはり、自分たちはG-7を出て……E-2に辿り着いた。それは間違いなさそうだ。

「なぜ、ループを推測できたの?あすか」
「最初は線路でした。貴方に会う前に、僕は駅を一度見かけていたので、そこでどこへ向かおうかと思って、線路を目で辿っていたんです。
 そうしたら……G-8で途切れている線路の位置と、G-1で途切れている線路の位置が」
 そう言って、彼は地図を縦に折りたたむ。
「……同じね」
「そう、平行的に見た場合、同じ位置だと気付いたんです」
 折りたたまれた地図の端、線路と線路がぴったりとくっ付いている。
「そこからはあっという間です。線路の北端A-6と南端H-6もまた同じでした」
「それだけ?」
「いえ、後は……車道と河です。
 これも、ほら」
 あすかが地図を縦に、横に折りたたみ真紅に見せる。
 確かに、学校から延びる白い車道、もしくは歩道をあらわすであろう道は、北はA-5、南H-5、西はF-1、東はF-8で途切れていて、位置も一致。
 河も、西がE-1、東がE-8で途切れている。折りたたんだ時の位置も、やはり一致。

「電車の途切れた場所、2組。車道の途切れた場所、2組。河の途切れた場所、1組。
 僕にはこれがとても偶然とは思えなかった。だから、駅に向かい、電車でエリア端に向かうのが1番と考えたんです」
「説明も禄にしなかったのは何故?」
「その時間も惜しかったんですよ。この事実は、早くに確認しておいた方がいいと思いました」
「……その結果は、あまり良いものではないのに?」

 真紅としては、それはとてもプラスの情報ではない。
 エリアが柵で囲まれ、警備している人間がいるならば、集団による襲撃など野蛮ではあるが強硬手段はあった。
 だが、エリアの端がループしているとなると……どうしようもない。
 端には何もなく、出ても戻るだけ。
 行く先にあるのは暗雲だけではないのか。

「そうとも限りませんよ。そもそも、ループなんていうのは自然を完全に捻じ曲げている。
 となれば、それを起こしている何かがあるはずです。
 僕としては、『アルター』と言いたいところですが。貴女のような存在もいると考えると、一概にそうとはいえないみたいですし」
「ローゼンメイデンといえど、現実世界の空間を歪めたりはできなくてよ?」
「一例として、です。人としてもつ能力かもしれないし、何か装置かもしれない。
ともかく、そんなものがいる、あるとすれば、この地図内にある可能性が高いとは思えませんか。
 このような大規模なループ。離れてできるとは思えません」
「易々と発見される所にあると思って?」
「そう、ですが……それを見つけなければ……脱出などできませんよ」

 あすかが真紅を見る。
 真紅は感じる。
 あすかの使命感。それが本気だと分かる。
 けれど、逆に危うさも感じる。
 それは、見る目を変えれば独断的なそれにも思える。
 真紅に今まで禄に説明をせず、時間だけを気にしていたように。
 彼の能力は認める。だが、彼は少し他人への気遣いに欠けている。

(私が、それを何とかするしかないのかしら)
「そうね……その何かを、見つけるのが大事ね」
「ええ。勿論、劉鳳たちも見つけて人手は増やしたいですが」
 そう言って、彼は背後の駅を見上げた。

「僕としては、地図内のエリアを一通りは見ておきたいので、次の電車でG-7まで一周したいのですが……」
「でも、人を発見してすぐに会うのは、電車ではできなくてよ?あすか」
「う……」
 言葉を詰まったあすかに、真紅は提案した。

「1周30分ならば、1,2時間程度このあたりを探索してもいいと思うわ。
 ここからその程度で行く事ができそうなのは、地図で見る限り南の遊園地と北のホテル。
 どちらに向かうか、あるいはここで電車を待つか……貴方の意見を聞きたいわ、あすか」
 そう言って、真紅はあすかの答えを待つ。

 目の前の青年を自分が支える。
 本来ならば逆だが、彼は自分を守る対象として見ている。逆にへそを曲げそうだ。
 ならば、そこはかとなく彼に助言した方がいいだろう。
 真紅はそう決めた。

 あすかがやがて口を開いた。


「僕は……」


【E-2 駅前/一日目 黎明】
【真紅@ローゼンメイデン(漫画版)】
【装備】:庭師の鋏@ローゼンメイデン
【所持品】:基本支給品一式、不明支給品0〜2個(未確認)
【状態】:健康
【思考・行動】
 1:殺し合いを阻止し、元の世界へ戻る。
 2:あすかの意見を聞き、行く場所を決める。
 3:ループを生み出している何かを発見する。
 4:ジュン、翠星石蒼星石、劉鳳、クーガーと合流する。
 5:カズマ水銀燈に用心する。また、水銀燈が殺し合いに乗っているようであれば彼女を止める。
 【備考】
 ※参戦時期は蒼星石死亡以降、詳細な時期は未定(原作四巻以降)
 ※あすかと情報交換し、スクライドの世界観について大雑把に聞きました。
 ※蒼星石が居る事や、ホーリエが居ない事などについて疑問に思っています。
 ※ループに気付きました。ループを生み出している何かが会場内にあると思っています。
 ※どこへ向かうかは次の書き手さんにお任せします

橘あすか@スクライド(アニメ版)】
【装備】:なし
【所持品】:基本支給品一式、不明支給品1~3個(未確認)
【状態】:健康
【思考・行動】
 1:ギラーミンを倒し、元の世界へ戻る
 2:駅で電車を待つか、遊園地かホテルに向かうかを決め、真紅と相談する。
 3:ループを生み出している何かを発見する。
 4:ジュン、翠星石、蒼星石、劉鳳、クーガーと合流する。
 5:カズマ、水銀燈に用心する。特にカズマは気に食わないので、出来れば出会いたくもない
 6:できれば会場全体を一通り見ておきたい。
【備考】
 ※参戦時期は一回目のカズマ戦後、HOLY除隊処分を受ける直前(原作七話辺り)
 ※真紅と情報交換し、ローゼンメイデンの事などについて大雑把に聞きました(アリスゲームは未だ聞いてない)。
 ※ループに気付きました。ループを生み出している何かが会場内にあると思っています。
 ※何処へ向かうかは次の書き手さんにお任せします。

※電車は北方向に1つ分進んでいます。1周30分程度(停車時間含む)。
  詳しい車両数や、車掌や運転手の存在の有無、詳しい内装は後続の書き手に任せます。






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それは不思議な出会い 橘あすか 想いは簡単に届かない
それは不思議な出会い 真紅 想いは簡単に届かない

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最終更新:2012年11月27日 23:08