アットウィキロゴ

ミューデの大冒険

一つの影が、その道を走り抜けた。
背の高さからしておそらく男だと思われる。
その男は、目の前にあった十何段の階段を大きく飛躍して飛び越えると、はふ、と気の抜けた息を吐く。
金色の髪に翠の瞳。
男はここまで全速力で走ってきたためか、少しばかり息を切らしていた。
しかし、その口元には笑みが。
もう一度だけ、大きな息を吐いた後、男はこう呟いた。

「……侵入、成功…!」

ここは『いかせのごれ高等学校』
『落ちこぼれ学校』として有名な高校である。
それもそのはず、この高校では生徒が授業中に自由に立ち歩く、物を壊すといったことは日常茶飯事。
所謂、ワルガキの集まる学校である。
そのいかせのごれ高等学校に一人の男が侵入していた。
彼の名前はミューデ
ホウオウグループに所属している青年だ。
彼がこの高校に来ている理由はただ一つ。

『自分もトキコやリオトと同じように、学校生活を楽しみたい!』

(…その為にエドワードから制服も借りたんだし、ね)

…正確には『盗ってきた』なのだがそれは置いておいて。
少し小さめで着苦しい制服にあからさまに不満そうな顔をしながらも、彼の視界に入ってくるものは全て新しいものばかりで。
今にでもスキップをし始めそうな、幸せそうな顔で彼は一人で学校見学を楽しみ始めた。

――――――

「リオトー!パスパス!」
「おう!…おわっ!?ひ、ヒカリ!飛び出してくるなよ!」
「えへへ~、パスなんてさせないの~」

二年二組はグラウンドでサッカーの授業の真っ最中だった。
ハヤトシスイ、ヒカリ、紀伊、ブロント、トキコ、スザクらは元気にボールを追いかけまわし(たまに暴力有で)
ひなた、白奈、エミ、ウミ、アオイは彼らに向かって声援を送っていた。アオイに関してはほぼスザクに対してであったが。
カクマゴクオーはこの場にいない。どうやらまたサボりのようだ。
もうそれもこの高校では当たり前のことなので、先生も特に気にしてはいないらしい。

「うりゃ!」
「あっ!」

リオトとヒカリが睨み合いを続けていると、ばびゅんと音を立てながら二人の間を駆け抜けボールを奪い取った。
ヒカリは呆気にとられ、リオトは少し悔しそうな顔をしながらも心の中ではガッツポーズ。

「決めてやれトキコ!」
「わかってるよ鳥さん!!」

トキコがボールを蹴る体制に入る。
キーパーを務めているキルコが身構えた。

その時だった。
金髪の髪にこの高校の制服を着た男が、運動場を全力疾走しているのがトキコの視界に映りこんだのは。
その男が通って行った場所からは何故か煙が立ち上っている。
その『金髪の男』の正体がすぐにわかったトキコは、思わずボールを蹴り外しその反動で「んぎゃっ!」という悲鳴と共に、
背中を強く地面に叩きつけてしまった。
その派手なこけ方に周りはぎょっとし、すぐさまトキコの周りへ集まってきた。


「い…いたたた…」
「トキコ!大丈夫か!?」
「あ、鳥さん…大丈夫大丈夫―――ってそれどころじゃない!リオくん!!」
「!?お、オレ!?」
「こっち!こっち来て!!」

ぴょいん、と足の力だけで立ち上がったトキコはそれと同時にリオトの腕を掴むと砂煙を立ち上げながら走り出した。
やけに必死な彼女にはスザクの静止の声すら聞こえていないようだ。

「トキコ、どうしたんだよ!」
「いたの!」
「何が!」

校舎裏に入ってから、やっとトキコは口を開いた。

「ミューデくんが!」
「な――!?」

さすがのリオトもこれには驚いた。
自分達の仲間がこの学校に来ているだなんて。
容姿的にはまだギリギリ三年生に見えるぐらいだ。しかし…、ミューデは能力者。しかもまだ上手く能力を制御出来ていない。
そんな彼がもし、この場所で何か起こしてしまったら?能力を発動してしまっているところを誰かに見られてしまったら?
とんでもないことになる。

「大変だ…!」
「でしょ!?早く探して連れ戻さないと!」

こくり、と頷いた。
そして二人同時に駆け出す。

「あいつ足早いからな」
「ね…捕まえられるといいんだけど」

彼らはまず理科室の扉を開けた。とりあえず彼が喜びそうな物がたくさん置いてある場所から探そうと思ったのだろう。
幸い、今の時間帯はこの理科室は使われていないらしく、静かな部屋につん、と薬品独特の匂いが漂う。
トキコが人体模型と睨めっこしていた。

そして、次に理科準備室。
その扉を開くと先ほどよりも強い薬品の臭い、そして人影。

「!いた!?」

トキコが我先にと走り出し、その人影に抱き着いた。
人影は声にならない叫び声をあげながら薬品と共に床へと倒れこむ。

「さーぁ観念したまえ!!」
「い、いててて…」
「……あれ?」
「捕まえたか!?」
「え……あれ?」
「っつ…何すんだよ」

トキコの前に倒れていた相手は同じいかせのごれ高等学校の二年生徒、エクスであった。
薬品でべとべとになった制服を見て大きなため息をつく彼。
塩酸等ではなくて本当に良かった。
トキコは暫くそのまま硬直、そしてすぐにエクスから飛び退いた。

「な、なんでエクス君がこんなところに!?」
「それはこっちが聞きたいよ…先生に薬品持ってきてほしいって言われたから此処に来てただけなのに…」
「そ、そうだったんだ」
「っていうか仕事増えたし…めんどくさ」

エクスは自分の服に付着し、床へと零れてしまった薬品を見て苛立ったように頭を掻いた。
そして「お前ら手伝え」と言わんばかりの眼。
だが、この二人がそれに答える筈もなかった。

「リオくん!次行こう!次!」
「あぁ!」
「! おい、お前らーー!!」


次に彼らが向かったのは音楽室。
ピアノ等が置いてあるこの教室、きっとミューデが見たらはしゃぐに違いない。
ここでは先程と違い一年生の授業が行われていた。
コウイチ、冬也、彩香、美琴、花丸が恥ずかしげにだが、一生懸命歌を歌っていた。
この可愛らしい少年少女たちも二年生になれば荒れてしまうのだろうか。
トキコ、リオトの二人はそっと扉についている小さな窓から音楽室の中を覗いてみた。

「どう?いる?」
「……いや、いない」

まぁ此処にいたらもっと大騒ぎになっているよな、と心中苦笑いしながら、二人は扉から離れた。
――次はどこを探そうか。
そう考えていた時、廊下を何かが横切った。
見えた、金髪。
二人は何かに弾かれたように走り出した。
言葉は交わさなかった。
もう、今見えたものが何かわかっているから。

「待てぇええええええ!!!!」
「げ……」

後方から聞こえてきた、二人分の叫び声とも取れるものにミューデは振り返り眉間に皺を寄せた。
そして捕まってなるものかと走るスピードを上げた。
ついに念願の学校へと足を踏み入れることが出来たのだ。
まだ一時間も探索していない。まだだ、まだ帰らないぞ。
二人の足音が段々と遠ざかる。それに安堵しミューデはスピードを緩めた。
それが、いけなかった。

「がッ――――!!?」

直後、背中に強い衝撃。
あまりに突然の出来事にミューデは床へと倒れこんだ。
そしてぐらぐらと揺れる視界の中に。
赤と黄色と黒の消火器が移りこんできた。

「もう!なんで来たの!?」
「…楽しそうだったから」
「お前、能力制御出来てないんだろ?何かあったらどうするんだよ!」
「……見られたら、殺せばいい」

あぁ良かった、何かある前に捕まえられて。

クロウに何か言われなかったのかよ?」
「…モブ子と言い合いしてたから…」
「あー…」

安易にその様子が想像できてしまう二人。顔を見合わせてお互いに表情を引き攣らせた。
その時、突如としてミューデが声を上げ体が跳ねた。
なんだなんだと二人はミューデを見る。
彼の体、いや、正確には服から黒い塊が飛び出してきた。

こーん。

「は?」
「えっ」
「…あ」

黒い毛に白い尻尾を持った動物。

「な、なんだこの…キツネ!?」
「……さっき、見つけた」
「どーして」
「…いや、キツネ好きだし…」
「そーいうことじゃなくて!」

おいで、と一言ミューデが声をかけるとそのキツネはとてとてと自分からミューデに近づいて行った。

「この子、今までの動物と違ってオレに自分から近寄ってきてくれた。最初は人形にしようかなって思ったんだけど
能力使おうとすると使う前に察知できるのかすぐ逃げちゃうし…。今だってほら」

ミューデはキツネを撫でていた手をふっと止めると手に神経を集中させる。
キツネはするりと彼の手から抜けると、少しだけ離れた場所にちょこんと座った。
普通の動物ならばたばたと離れきゃんきゃん吠えて威嚇するところだろう。
ましてやキツネは本来凶暴な動物。時には人間さえ食おうとする時だってある。
しかしこのキツネは違った。
ミューデが能力を使い終えるのを今か今かと待ちわびているかのように尻尾を振りじっとミューデを見つめている。

「オレを待っていてくれるんだ」

ふっとミューデが笑みを零した。
不覚にもトキコとリオトの二人はじーんと何かを感じてしまう。
だが、それどころではなかった。何かがぱちぱちと燃えるような音。
ミューデが手を中心に能力を使用したことで、ミューデが着ていた制服の袖から火が出ていたのだ。

「―――!!!!」

二人は、飛び上がった。
そして飛び掛かるようにして制服の火を消すべくばしばしと手のひらで袖を叩き始める。

「うわあああ!あつッ!あっつうッ!!」
「が、頑張れ!あ、あああつっ、ミューデ下げろ!」
「………こう?」
「冷たい!今度は冷たいよー!」
「さ、寒…でもこれで火が消え…」
「何やってんだお前ら?」


騒がしい空気は一瞬にして消え去り、三人の背筋が凍った。
恐る恐る振り返るとそこには、灰色のパーカーに黒のニット帽に身を包んだ、クラスメイトであるカクマが立っていた。

(見られた―――!!?)

「なーんかうるせぇと思ったらトキコはともかく優等生のリオトまでサボりかよ?」

リオトは体を強張らせながら手中にある焼けた制服の破片をこっそりと、ポケットの中へ移動させた。
こいつにミューデの能力がバレたらまずい、と直感的に感じたのだろう。
彼らの前にいるこのカクマという青年、自分から好き好んでケイイチに付きまとう変わり者だ。
アナボライザーなのか、それ以外の能力者なのか、はたまたただのオカルト好きな高校生なのか…。
それはわからないが、『普通』ではないのは確かだ。それは、わかる。
しかし、何故今日のような日に限って此処に来ているのか。
殆どは学校を休んでいるというのに…実に運が悪い。

「…で、その金髪のお前誰?転校生?」
「オレは……」
「はい!警察に行きましょうねー!!」
「えっ」

トキコが明るい声色でミューデの腕を引いた。凍りつくような手の冷たさに身震いしたが顔色は変えない。
ひらひらとカクマに手を振りながら階段に向かっていった。

「いやーただのコスプレ好きな変な人だよ変な人!これは警察に送り届けないとね!いやー、私偉ーい!超偉ーい!」

あっはっはっは、と高笑いするトキコに引きずられていくミューデ。
何か言い訳をしたらしく、ぽかんと一発殴られていた。

「なんだ――ただの変人かよ、つまんねぇな」
「お前、本当に変わってるよな」
「は?何が」
「いや、『日常』に飽きてる、っていうか…」
「そうだな、俺は」
「あー二人ともいたー!!」

ぱたぱたと体操着の姿で走り寄ってきたのは弐二 簀
かつてリオトと大食い競争をし、見事彼を打ち負かした(というよりもリオトが勝手に気絶した)恐るべき胃袋を持つ少女だ。
二人を見つけた瞬間、簀はがしりと男二人の腕を掴んだ。

「リオトくん戻ってくるの遅いから先生が心配してたよー、僕はね、めちゃくちゃ探したんだから!ほら戻るよ!」
「あー、悪かったな」
「おい、俺は行かねぇぞ、あんなつまらない場所に行って何になるんだよ、飽きたんだよ!離せ!」

――――――

「馬鹿かお前は!!!!」

ビシャーン!とクロウの怒声が部屋に響き渡った。
ミューデは床で正座させられている。
しかしその眠たそうな表情からは「ごめんなさい」という気持ちは全く感じられなかった。

「お前、自分が何をしたのかわかっているのか!?」
「……だって、行きたかったし」
「子供か!!子供かお前!!」
「苦労してるねー、鴉さん」
「……苦労だけに」
「いいか?今度こんなことがあれば外出禁止だ!わかったか!?」
「………うん」

少し沈んだ声で返事をする。
その理由は叱られたからではなく、自分の渾身のギャグをスルーされたからだったのだが。

「ミューデ君、いますか?」

扉を開けジングウが入室してきた。
クロウは腕組みを解かぬまま聞こえないように小さく舌打ち。
ぱっとミューデが顔を上げて立ち上がった。

「…どうでしたか?」
「ええ、何も異常はありませんでしたよ。どうぞ」
「……良かった」

ぴょこんとミューデの胸に飛び込んできたあの黒いキツネ。
心なしかジングウを見て震えているようにも見える。

「あー!ミューデくんそのキツネ連れてきちゃったの!?」
「……コン太がついてきただけ」
「まさかのツンデレである。…って、コン、太?」
「…うん、名前」
「(安直だ…)」

その場にいるジングウ、クロウ、トキコが同時にそう思った。

「でも何故ジングウに?」
「…キツネって、いろいろ危ないっていうから…その、えきの…えきのこ…」
「エキノコックス、ですね」
「…それです」
「大丈夫です、その心配はありませんよ。私がしっかりと診ましたから。
しかしここまで人に懐くキツネとはまた珍しい…実験に」
「…それは駄目」

ミューデの大冒険
(ミューデは ともだちをひとり てにいれた!)
(…今度は、見つからないように気をつけなくちゃ)

「にしても…」
「…どうしたの、トキコ」
「そのキツネどっかで見たことある気がするんだけどなー、気のせいかなぁ」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年01月23日 11:36