(しかし……)
廊下を歩く
クロウは、ポケットに突っ込んでいた手をだし、掴んでいたものを見た。そこにあったのは、皺だらけになった一枚の紙。アッシュこと
AS2への監視命令だ。
それだけなら納得はできるのだが、続く一文。「最悪の場合生死は問わない」。
これが問題だった。
(……警戒するのは当然だが、拙速にすぎないか?)
今の所、彼の行動はグループに対しての利益となっている。造り主である
ジングウに関しても
サヨリという監視がついてはいるが、特段敵対行為を取っているわけではない。
だからこそ、なぜアッシュを、彼だけをこうまで警戒するのかがクロウには理解できなかった。それならばむしろ、ジングウ自身をこのレベルで警戒すべきだろう。
歯車を自認するこの男はしかし、
(総帥の命令ならば、裏に何らかの意図があってのことなのだろうか……?)
その命令によって、彼に注目させようとしている。そう読んだ。絶対者たる
ホウオウの真意など、自分には関係がない。そうしろというなら、そうするだけのことだ。
それでも、理解できないものについて考えを巡らせることはある。
命令の意図は何か、あのアッシュという男に注目すべき何かがあるのか。
つらつら考えつつ、廊下を歩いていく。
と、
「ん?」
窓から覗いた学校前の通りを、見覚えのある顔が通り過ぎて行ったのが見えた。
今となっては何の意味もないことだが、UHラボの調査中に資料で顔を見たことがある。それとは別の機会にちらりと見たこともあるが、もはや関係はない。
(まあ、いい)
アッシュに対する不可解な命令。そこに何らかの意図があるのならば、いずれわかるだろう。そう考え、クロウは非常勤教師としての顔に戻りつつ、廊下を歩く。
家路についていたアカネは、先ほどまで話していた人物……
笠村 夕陽と名乗った人物のことを思い出していた。
年に見合わぬ老成した喋り方と、性格。わざわざ話しかけたのは、
ヴァイスを追い続けるシドウが何の目的で接触したのか、が知りたかったためだ。
しかし実際に話してみると、どうも夕陽の方から接触して来たらしいことがわかった。名前は言われなかったが、彼女(だと思う)の友人がヴァイスらしき男に拐かされたらしく、それについての話が聞きたかったのだとか。
(無茶はしないって言ってたから、大丈夫だとは思うけど)
中途半端にあの男に関われば、待っているのは死、あるいは破滅。どちらにせよ、終わりだ。
夕陽に関してはその心配はなくなった……とみていいだろう、恐らく。
「あら?」
ふと視線を投じた先に、アカネは見た。何やら、血相を変えて走っていくゲンブの姿を。
(最近見なかったけど……どこにいくのかしら)
彼女は知らないことだが、この時彼の前を「アルマ」こと一条寺 正人が疾走しており、こう言っていた。
「97.823%の確率で、ストラウル跡地で何かが起きています。しかも二つ」
関わらぬ者、急ぐ者
(急がせる原因)
(片方は既に解決した)
(片方は今まさに、始まっていた)
最終更新:2012年03月11日 14:36