「たまちゃん居ないのかな…」
「わふっ!」
「あ、マサムネ、おはよ!」
いつもみたいに保健室に行くと、そこにはたまちゃんは居なくて。
マサムネが尻尾ふって出迎えてくれた。
もこもこのマサムネを撫でながら、今日の夢を思い出す。
「今日ね、やな夢見たんだ」
金色の目と、白い髪。
何か言われた気がするけど全然覚えて無い…、夢だから仕方ないんだけど…。
なあんか、もやもやするなあ…。
そんな事思いながらマサムネと遊んでると、急に寒気がした。
おかしいな、私、寒いって感じないんだけど…。
でもその寒いは、なんていうか、ゾクゾクするって言うか、鳥肌が立つって言うか。
怖い、って思うときに感じる寒い、って言うのかな…。
「………なんだろ、屋上かな…」
何となくそう思って、保健室を出る。
…何で屋上ってわかったんだろ?
頭では色々考えてるのに、足は勝手に屋上に向かう。
………階段疲れるなあ…。
屋上に続く扉の前に立つと、さっき感じた寒いはどんどん強くなってくる。
……もう寒いじゃない、怖い。
でも、開けなきゃいけない気がして、怖くって震えるけど、そぉっとドアを開けてみる。
ソコには見慣れた後姿が居て。
でも、何時もと違って、あれ?おかしいなって思った。
あれ…、なんで白衣が赤いんだろう。
「たまちゃん!?」
「っ来てはいけない!!」
そんな事言われても心配で怖くてたまちゃんに向かって走り出す。
たまちゃんが居なくなったら、私ほんとに透明人間になる。
それを望んだのに、それが凄く怖い。
そんなの、やだ。
「こんにちわ」
「……あなた、ゆめでみた」
目の前には見たことも無い、会ったことも無いはず男の人。
そのはずなのに、どこかで見た。
金色の目と、白い髪。
あ、この人だ。って直感した。
夢と現実がごっちゃになる、あれ、なにこれ、夢?
違うよね、だってほっぺに当たる風は凄く冷たいし、
雲に隠れてるけど、太陽の光だって本当だもん。
「貴女は僕を殺してくれますか?」
瞬間、世界がスローモーションになる。
濁る金色の目と、私に向けて伸びる手。
よくわかんないし、理由もわかんないけど、死ぬって思った。
あの時の冷たさとか寒さがフラッシュバックする。
いやだ、わたし、しにたくなんかない。
「…氷、これがあなたの能力ですか」
「……なにこれ」
男の人と私を隔てるみたいに、冷たくて分厚い氷が盾になる。
もしかして、もしかして、これやったの私?
「あなたなら…」
か細い声で呟いたのが聞こえたけど。
私もう、誰も殺したりとか、死なせたりしたくないから。
「こ、殺すとか絶対やだけど、けど、怪我してもしらないからね!!」
逃げたらたまちゃんの手当てできないし、だからってこの人殺せないし。
ちょ、ちょっと骨折るくらいだったら………。
な、何とか許してもらお!すっごい謝ろう!!
冷たさと、ちょっとだけ悲しさを思い出して、さっきみたいに氷を作る。
これが正しいのかなんて全然、ちっともわかってないけど!!
今はコレがきっと正解なんだ!多分!私あたまわるいし!!
はあ、と吐く息は何時もより雪が混じる。
それに合わせて、ツララが宙に浮く。
当てない、かするだけ。
何かに弾かれたみたいに、一斉にツララが男の人目掛けて飛んでいく。
それを軽々と避ける男の人。
「あたっ…らなくてもいいけど避けすぎー!!」
困ったように笑いながらも確実に私に近づいてくる。
運動神経よくないから華麗に避けるなんて夢のまた夢…。
氷の盾が私を守る。
バキンってやな音したけど、聞かなかった事にする。もう知らない…!
男の人が飛び上がる。高く、高く。
大丈夫、届く。わかんないけど確信して、腕を振り上げる。
想像したのと
同じように氷の柱が男の人目掛けて伸びていく。
私の予想ではちょっとかする位が理想。
なのに、まるで自分から刺さりに行くみたいに男の人が軌道を変えた。
直撃、しちゃった…。どうしよう。
お腹を貫通した私の氷、その赤を見ながら悲しそうに笑う男の人。
またバキンって音がして、氷の柱が折れる。そして、私の目の前に着地する。
どうしよう、今になって凄く怖くなる。
白い肌には沢山の怪我、真っ赤なお腹。
普通なら死んじゃってもおかしくないのに、どうして。
「そこまでだ!!」
凛とした声が、時間止める。
…あの人、誰だっけ…、2年生でよく保健室に来る…。
「…水を差すとは…野暮なことしますね」
「
ホウオウグループだな」
私と男の人の間に入って話す後姿が、夢に見えて。
2年生の先輩が纏ってる金色のキラキラした光も夢だから見えるのかなあ。
……もうわかんないや、頭ぱーんてなる。
「覚悟は出来てんだろうな!」
「残念ながら僕…多分死にませんよ」
「何だと…?」
よく見ると刺さった氷も、斬られた怪我も、
ついさっきのお腹の怪我も、もうほとんど見当たらない。
怖いを通り越して、不思議だった。
…だから悲しそうな顔してたのかな。
「あ、しまった時間だ」
「逃げる気か!?」
「だって怒られるのイヤですし」
肩をすくめて笑う姿は、普通のお兄さんで。
さっきまでの赤色が嘘にみえた。
何か、同じ顔の人が2人居るみたいな違和感。
「今日は新しい能力者に会いに来ただけですから」
私の方を見て笑う。
……多分街であったらドキっとするんだろうけど
今は色んな意味でドキっとする。
「私はもう会いたくないもん!!」
「そう言わず、あ、僕の名前は
ウツロと言います。あなたは?」
「言わない!!」
「ちょっとヘコむな……それでは、失礼します」
優雅に一礼をして、屋上から飛び降りる。
先輩が追いかけるけど、さすがに飛び降りれない…よね。
終わったって思うと、腰が抜けた。
凄く短い時間だったけど、常識じゃ考えられないことが起きて。
相手もそうだけど、私だってありえない事して。
「怖かったあ……」
へたり、と座り込んだ屋上の床は、やっぱり空気と同じ温度。
夢なら冷たいって思ったのにな。
出来たら夢がよかったなあ、こんな怖い夢なんか、
朝起きて学校行って、マサムネと遊んでたら忘れちゃうのに。
手の平を空に向けてさっきのことを思い出す。
パキっと音がなって小さなツララが生まれた。
……夢じゃなかったってがっかりして、俯く。
「わー、玉置先生ボロボロじゃないっすか」
「うるせえ
シスイ次言ったらボコる」
「すいません俺助けに来たんですけど…」
声が聞こえて俯いてた顔を上げる。
シスイ、そうだ、シスイ先輩だ。
先輩に肩を借りながらゆっくりだけど、私の方に歩いてくる。
ホントは立ち上がって走ってたまちゃんの所行きたいけど
とっても残念ながら…ほんっと残念ながら…私まだ腰抜けてる…。
「たまちゃん!!大丈夫!?」
「ええ、生きてますから」
「あはは…」
「ありがとう、ののかさん」
怪我してるけど、それでもたまちゃんが笑ってくれて。
やっと終わったんだって思ったら気が抜けて、私の目の前は真っ暗になった。
「たまちゃん復活してる!!」
「ご心配お掛けしました」
久しぶりに見るたまちゃんは、前と何にも変わってなくって。
いつも通りニコニコしながらマサムネと遊んでた。
それが何かすっごい嬉しくって泣きそうになっちゃって…。
そんな顔見せるの、ちょっぴり恥ずかしいからマサムネに飛びついた。
「私ね、もう一回頑張って生きてみようと思う」
たまちゃんは今更何言ってるんだって思ってるかもしれない。
そもそも私が一回死んだことも知らないのに。
…きっと誰かに聞いて欲しいんだと思う。
私が忘れようって夢にしても、誰かが覚えてたらそれは現実だから。
「確かに私、神様に『ばってん』つけられちゃったけど…」
はあ、と息を吐くと混じる雪。
これは絶対消えない『ばってん』なんだ。
「でも、生きてるから。チャンス貰ったから…頑張ってみる!」
考え方変えちゃえば、この力は神様が大事な物を守るためにくれた力なのかもしれない。
今の私には、大事な物も、人も、沢山あるから。
短い手でどれだけ持てるかわからないけど、少しでも多くの大事なものを掴めたらいいな、って。
「氷は溶けましたか?」
優しく笑うたまちゃんにはきっと、何でもお見通しなんだろうけど
何も聞かないで、私の話聞いてくれる。
それがすっごく嬉しくて、ありがとうって何回言っても足りないくらい。
「…わかんない、でもきっと、春はくるよ」
だって、冬は春になって花咲くための、準備期間なんだから。
溶け出す氷
(もう一度踏み出すんだ、もう大丈夫、怖くなんかないよ!)
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最終更新:2013年06月21日 21:14