性転換ネギま!まとめwiki

小さな花

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
『小さな花』


「あー。いい天気だ」
麻帆良学園内にある教会。その屋根の上で寝転がるバチ当たりな人影が一つ。
スポーツマンらしい短いツンツン頭を指でいじりながら仰向けで空を眺める少年。

出席番号9番 春日空。

教会に身を置く修道士ながらも、その生来の自由奔放さを失うことなく教会の屋根で惰眠を貪る素晴らしい根性の持ち主である。
学校が終わった後家に帰るでもなく、また教会の仕事をするでもなく、こうしてダラダラと過ごすことが彼の日課となっていた。
最近はこの教会の上がお気に入りとなっている。時々聖歌隊の練習が聞こえてきたりして、それがまた心地良い。
ぼーっと、空を見る。
自らと同じ「空」の名を冠するこの広大な蒼は、こうして何をするでもなくただぼんやりしているだけでも小言の一つも言ってこない。まったく器の大きなことだ。
「シスターシャークティもこれくらい心が広ければ助かるんだけどねぇ・・・・」
自分の不真面目さを棚に上げて、叱られるのをシャークティの短気の所為にする空。眼前に広がる「空」の器量までは到底辿り着けそうにない器の小ささだ。
そんなことを考えつつも、ただ空を見続ける。
そうしてる内に思考も頭もぼうっとしてきた。頬を撫でる風も気持ちいい。
(あ、なんか気持ちよく寝られそう・・・)
などと考えまさに眠りにつこうとしていた空の頭に、小さな、しかし彼の意識を引き戻すには十分な声が響いた。

『ソラ』

と、名前だけを呼ぶ声。
声と言っても耳ではなく直接頭に伝わる言葉、「念話」での呼びかけ。
それに答える為に、だらけきった体に力を入れて起き上がらせ、屋根の端まで歩いて下を覗き込む。
「おーう、ココネ」
「・・・」
彼を呼んだのはフードを下ろしたシスター服に身を包んだ黒人の少女、ココネ。
空と同じく教会に身を置くシスターである。
下から常の無表情で空を見上げる。
「ちょっと待ってろー・・・よっ、と」
軽く勢いをつけ、空は地面へと飛び降りた。
普通の人間なら怪我どころではすまない自殺行為だが、彼も見習いとはいえ魔法使いだ。魔力による身体強化を行っているのでこれくらいの高さは問題ではない。
重力に従って落下し、見事に着地。
「へぶしっ!!」
したら格好良かったのだが、そこはそれ空である。着地の際に足を滑らし、盛大にズッコケた。
「・・ばか」
「・・・ほっとけ」
幸い怪我はなく、すっくと立ち上がり服に付いた土を払う。
「こんな時間まで何やってたんだ?初等部の授業はとっくに終わってるだろ」
「・・シスターシャークティのお手伝い」
「おーおーココネちゃんは優等生だねー。えらいえらい」
無造作にわしゃわしゃとココネの頭を撫でる空。褒めてるのかおちょくってるのかは微妙な所である。
「・・シスター、ソラがこの前おそうじサボったの怒ってた」
「おろ?おかしいな急に耳が聞こえなくなったー」
耳の穴をほじりながらそんな事をぬかす空を、ココネも白い目で非難する。
小学生でももう少しマシな誤魔化し方をするだろうに。
「で、なんか用か?」
「・・・いっしょに帰ろ・・・・ダメ?」
「おっけ、いいぜ。俺も暇を持て余してた所だし。一人で帰んのは寂しいもんな」
もう一度ココネの頭を撫でる。今度は優しく。
こうしていればいいお兄さんに見えないこともないのだが。
「それじゃ行くか・・・・・て、あ」
「・・・?」
どうしたの?と言う風にココネは首をわずかに傾けて空をうかがう。
「鞄、屋根の上に置きっぱだ」
確かに空は手ぶらだ。屋根の上には主人に置き去りにされた学生鞄がぽつんと佇んでいた。



「・・・・・ばか」
「・・・・・・ほっとけ」



さて、もう一度屋根と地面の間をジャンプで往復するという無駄な労力を使った後、空はココネを連れて帰路についた。
途中ココネがせがんだ為、空はココネを肩車して歩いている。
すれ違う女学生にクスクス笑われたりもしたが、まあ気にしないでおこう。

「そういや、よく俺がいるの分かるよな。俺だっていつもあそこにいるわけじゃないのに。下からじゃ見えないだろ?」
下から見えないので見つからない、というのも空があの場所を選んでいる理由のひとつである。
しかし、ココネは空があそこにいても、いつも分かるのだ。
「・・・・ソラなら、分かる・・」
「ふーん?ココネは探知能力高いもんな。念話も特殊だし。いいよなーそういう能力があって。俺なんて逃げ足くらいしか能ないもんなー」
「・・・ソラは不真面目。修行しろ」
「ハッハッハッ、聞こえんな」

 ・・・ソラ「なら」、という微妙なニュアンスの違いに、空は気づかなかった。

頭の上のココネと会話をしながらも、足を進める空。いくら女の子とはいえ、ヒト一人を乗せてずっと歩いていても息を切らさないあたり、体力はある。
と、そこでココネが何かを見つけたようだ。
「・・・あ」
いきなり空の髪を掴んで、ぐいっと無理矢理左に向けた。
「あいでっ!な、なんすかココネさん!?俺なんかしましたっ!?」
「あっち」
「へ?」
「あっち、行って」
あっちと言うのは、おそらくはココネが空の頭を向かせている方向であろう。
不思議に思いながらも、言われた通りに足を運ぶ。
「降ろして」
「ほいほい」
屈んで降ろしてやると、ココネはとてとてと歩いていき、道端の茂みの中に屈みこんだ。
何をしているのかと、空は上から覗き込む。
見ると、そこには花が何輪かひっそりと咲いていた。
正式な名前があるのかもわからないような、ほんのり青みがかった小さな花だ。
「花、か?」
「・・・(コクッ)」
無言で頷くココネ。視線は花に釘付けになっている。その顔は真剣そのものだ。
(ココネにも女の子っぽいとこあるんだな・・)
珍しく少女らしい一面を覗かせたココネに、空も思わずそんなことを考える。
「可愛い花だな」
「・・・・うん」
ちょんちょん、と花をつついたりしてココネは楽しんでいる。
なんとも微笑ましい光景である。
「・・・」
あ。と、何かを思い出したようにココネは背中に背負っていた鞄を下ろして中をあさり始めた。
何をするつもりなのか気になった空だったが、あえて聞かずにそっと様子を見守ることにした。
すると、ココネは鞄から可愛らしい小瓶を取り出した。中には何も入っていない。
そして花を二輪、根元から慎重に抜き取ると、コルクの蓋を外してそれを小瓶の中に入れた。
小瓶を目の前に掲げて、少し角度を変えながらまじまじと見つめる。
その表情は満足気だ。
「お、持って帰えんのか?」
「・・・(コクッ)」
「でもそんな小さいんじゃ飾ってもすぐ枯れちまいそうだな」
「・・・・大丈夫」
「そうか?よし、そんじゃあんまりトロトロしてると遅くなっちまうし行くか。花はそれだけでいいのか?」
「・・・(コクッ)」
また空はココネを肩車してやり、帰り道に戻る。
道中、ココネは瓶の中の花をじっと嬉しそうに見つめていた。



------------------------------------------------------------------



『・・・ラ・・・ソラ』
「んあ?」

数日後。
相も変わらず教会の屋根で居眠りをしていた空を、ココネの呼び声が起こした。
「ああ、ココネか・・・」
まどろみの中にあった体を一度伸びをして覚醒させ、傍らに置いておいた鞄を持って下へと飛び降りた。
先日の失敗を生かし、今度は着地も完璧である。
「おっす。なんだ?今日も一緒に帰るか?」
「・・・・・いい」
てっきりそれで呼ばれたと思っていた空は怪訝そうな顔でココネを見る。
「おいおい、他人の睡眠タイムを中断させておいてそりゃないっしょ。じゃあなにか別の用か?」
「・・・・」
空がそう聞くと、ココネはポケットに手を入れて、何かを取り出した。
「・・・これ」
「ん?なんだ?」
「・・・・・あげる」
差し出されたココネの手には、10cm程の厚紙が握られていた。
それを受け取ると、そこには見覚えのあるものが。
「あ、これって・・・」
厚紙には、この前ココネが摘んだあの小さな花が押し花にされて貼り付けられていた。
上からラミネードされていて、上部にはペンチで空けられた穴に可愛らしいリボンがくくり付けられている。
手作りの栞だ。
「これ、この前の花だよな。栞にしたのか?」
「・・・(コクッ)」
「へえー、上手いもんだな」
成る程ね。「大丈夫」ってのはこういうことか。
「でも、貰っちゃっていいのか?」
「・・・うん」
「そっか、ありがとな」
空はココネの頭を撫でてやる。空に栞を渡しても宝の持ち腐れな気もするが、ここは気にしないでおこう。
「・・・それじゃ、バイバイ。空」
「あ、おい。帰るなら付き合うぞ?」
「いいっ」
空の静止も聞かずに、ココネは駆け出した。
(やれやれ、気まぐれなヤツ)
猫みたいだな、とココネの後ろ姿を見ながら空は笑った。
しかし、少し走って行ったところでココネはふと立ち止まり、空の方にわずかに振り向いた。
「・・・・ソラ」
「ん?どうした?」
ココネは黙ったままポケットに手を突っ込み、また何かを取り出した。

「・・・・・おそろい」

取り出したのは、空に渡した物と同じ栞。
あの時摘んだ二輪の花の、もう一方。
それだけ言うと、ココネは振り返って走り去った。
その背中が見えなくなるまで、空は見送った。
「へへ、おそろい・・・ね」
栞の花を見ながら、微笑む空。


振り向いた時のココネの顔が照れているように見えたが、まあ、気のせいってことにしておこう。



その後、教会にて

珍しく聖書に目を通している空に、シャークティが声をかける。
「熱心ですね空。明日は雨ですか?」
「酷いなあシスターシャークティ。俺だってたまにゃあ聖書くらい読みますよ」
「たまに、では困るのですがね」
ふと、シャークティの目が止まる。
「おや?貴方にしては可愛らしい栞ですね」
「ん、これっすか?へへへ。いいでしょ」



小さな少女の
小さな恋心が込められた
小さな花

それは今日も、彼の聖書の中で咲き続けている



.END

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
人気記事ランキング
ウィキ募集バナー