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アナタと歩く、帰り道

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
「・・・・・・・・・遅い」
ここは麻帆良学園、3-Aの教室。
ホームルームも終わり、静まり返った教室に人影が一つ。
オレンジ色の髪に蒼と緑のオッド・アイ。ネクタイを緩め、第一ボタンを外した制服。
出席番号8番、神楽坂明日太である。
さて、何故彼が教室に一人でいるのかというと、理由は簡単である。
毎度のごとく居残りを食らったのだ。
いつもであれば他に四人、いわゆるバカレンジャーの面子が揃っているのだが、今日は一人だ。

『今日は新発売のゴーヤ珈琲ミント風味の発売日ですので。居残りを受けるわけにはいかないのです』
と、夕。
『いやあ、双子に勉強を教えてもらったんでゴザルよ。あの二人の方が拙者より勉強できるでゴザルからな』
と、楓。
『ワタシは五月に教えてもらったアルよ。超とハカセに聞いても何言ってるかチンプンカンプンアルからな』
と、古。
『えへへー、分かんなかったからテキトーに埋めたら当たってたんだー。ラッキー!ゴメンねアスタ』
と、まき絵。

「チクショウ・・・裏切り者どもめ」
幾多の戦場(居残り授業)を共にくぐり抜けてきた戦友の離反を恨みながら、ネギ子を待つ。
「あーあ。せめて高畑先生だったら居残り一人でも大歓迎だったのによ」
去年までは英語の授業はタカミが担当していて、居残り授業も彼女が行っていたのだが、今年からはすべてネギ子が受け持っている。
アスタとしてはこの居残りもタカミが担当していればまったく苦ではなかったのだが、今ではただの拷問である。
「にしても遅いなアイツ。何やってんだよ」
かれこれ30分近く待っているのだが一向に来る気配がない。
「まさか忘れてんじゃないだろうな・・」
ガラガラッ
そう思った瞬間、教室の扉が開いた。どうやら来たらしい。
「おっ。遅せえぞネギ子・・・・げっ」
「『げっ』、とはなんですの『げっ』とは」
予想に反して、教室に入って来たのは別の人物であった。
ハーフと見間違える程に見事なブロンドの髪をなびかせた少女。
3-Aの委員長。出席番号29番、雪広あやかである。
アスタの発言に眉をひそめながら歩み寄る。
「なんか用かよいいんちょ、俺はこれから居残りがあってネギ子待ってんだから用があるなら後に・・」
「残念ですがネギ子先生は急用で来られませんの。ですから私が代理ですわ。貴方の居残りなんかに時間を割くのは不本意ですが、ネギ子先生がお困りの様でしたので」
「はあ!?なんだよ、よりにもよっていいんちょかよ・・・」
思いっきり感情を表情に表すアスタ。あやかの眉間の皺はより一層深くなる。
「なんですかその反応は?私では不満とでも?」
「当たり前だろ」
即答
「人が厚意で来て差し上げたというのに、なんですのその態度は・・・」
「別に俺が頼んだわけじゃねえだろ。大体なんでお前なんだよ!普通なら他の先生とか」
「他の先生、ではなくて高畑先生、でしょう?下心見えみえですわよ」
「ばっ、違えよ!」
図星をつかれたアスタは、顔を赤くしてムキになって反論する。
「ふんっ、貴方みたいなおサルさんと高畑先生を二人きりにしたらどんな間違いが起きるかわかったもんじゃありませんからね。私が来て正解ですわ」
「な、なんだとこのヤロウっ!誰がするかそんなことっ!!」
「あらゴメンなさい。そうですわね、小学生の頃からずるずる片思いを続けている貴方にそんな度胸があるはずもありませんわよねえ?」
「コイツ・・言わせておけば・・・」
「さ、下らないことを言ってないでさっさと始めましょう。いい機会ですわ、基礎の所から教えて差し上げます」
あやかはアスタの向かい側の席に座る。椅子は床に固定してあるタイプなので後ろを向きながら教えるのは体勢が少々辛いが、隣に座る気はないらしい。
「余計なお気遣いど-も。学年四位様」
「お礼なら結構ですわ。その代わり厳しくいきますので、覚悟して下さいな。学年最下位候補さん」
「はいはい」




「ですからそのthatは‘あれ’という意味ではなくてその前にある単語の・・」
10分経過
「えっ・・・・・・と?あれ、でもそれだと・・・・・」
20分経過
「ああもう、何度言ったら分かるんですの?ですからそこは・・」
40分経過
「だからここの和訳は・・と。あれ、これなんて意味だっけ・・・・・」
      • 1時間経過
「あーーもうわかんねえ!!休憩だ休憩!!」
シャーペンを投げ出し、アスタは背もたれにもたれかかる。もはや神経を使い果たしたといった感じだ。
「もう集中力が切れたんですの?・・まあ、貴方にしては持った方ですわね」
「人間の集中力なんてせいぜい10分が限界だって聞いたぜ」
「それを言い訳にしないで下さい。まあいいですわ、ひとまず休憩にいたしましょうか」
あやかはふう、とため息とつき、アスタは身体を背もたれに預けてだらりと力を抜く。
二人共ただ静かに身体を休ませる。
無音の空気が二人を包む。しかし気まずさはまったくない。
なんだかんだで長い付き合いの二人である。お互いの存在もそこにいるのが自然のことの様でもあった。
こうして何も喋らずに同じ空間を共有することが、あやかには心地よかった。
顔を合わせれば先程の様に口喧嘩ばかりではあるが、それも挨拶みたいなもの。
言い合いをするのもあやかは結構楽しんでいるのだが、今の様に静かに過ごすのも悪くはない。
(・・・そういえば、こうしてゆっくりと二人きりになるのは久し振りな気がしますわね・・・・・)
アスタが転校してきたばかりの頃、彼は他のクラスメイトとあまり関わろうとせず、一人でいることが多かった。
しかしそんな中で、あやかはアスタに積極的に触れ合っていた。
なので自然と二人でいることが多くなり、始めは本当に喧嘩の売り買いばかりであったが、その内にどんどん打ち解けあい、アスタも変わっていった。
今のアスタがあるのは、彼女のおかげだと言ってもいいだろう。
そうしてアスタもクラスに馴染んで友人も増え、同室のこのかと一緒にいることが多くなり、最近ではネギ子もやって来た。
こう考えると、二人だけになる機会というのは意外にも少ないものだ。
思い返してみればリゾート島や麻帆良祭の時もほとんど二人にはなれなかった。
(って、何残念がってますの私ってば)
そんな自分の思いも自覚はしつつも素直に認められない、プライドの高いあやか。
「そういや、こうやって二人でいんのも久し振りだな。小学校のころはこんな感じの時もよくあったけど」
「へっ!?あ、そ、そうですわね!言われてみればそんな気もしますわ。おほほほほほほほ」
まさか自分と同じことを考えているとは思ってもみなかったあやかは驚きながらも嬉しくなった。笑って誤魔化してしまったが。
気持ちが通じているのかも、なんて。
「最近はお互い色々忙しいしな。いいんちょはなにかと仕事多いし、オレもネギ子が来てからこっち騒がしいことばっかだし」
「ええ、そうですわね。小学校の頃は長い休みの時に貴方がよく私の家までついて来たりもしましたけど、最近ではそういうことも減ってしまいましたし」
「この前の春休みに行ったのも久し振りだったしな。あ、教室で二人といえば覚えてるか?教室で居残り掃除くらったこと」
「覚えていますわよ。貴方と喧嘩ばかりしていたら先生に怒られて、『仲直りできるように二人で協力してお掃除しなさい』って、遅くまで掃除させられましたわね。私の人生の汚点の一つですわ」
「今となっちゃいい思い出じゃねえか」
「ほとんどの掃除を私にやらせたことも、ですか?」
「悪かったって」
なんということのない会話だが、あやかにとっては幸せな時間だった。

こんな風に誰かと一緒にいるだけで幸せになれるのは、きっと幸福なこと。
貴方が私にくれる、幸福な時間。

そんなことを考えながら、あやかはアスタの言葉を一字一句漏らさないように耳を傾け、話に花を咲かせた。
この幸福な時間を一秒でも無駄にしない様に。




しばらく経って二人は勉強を再開し、参考書とにらめっこを続けた。
ついでにあやかが持ってきた今日ネギ子がやるはずだった小テストのプリントも終わらせ、居残り授業は終了した。
「あーーーーーーーー疲れたああああああ今日はもうなんもやる気しねえええ」
「まったく、このくらいで音をあげないで下さいな」
「お前の授業がキツすぎんだよ」
「お褒めに預かり光栄ですわ」
「褒めてねえって」
教科書類を鞄に詰めながら、グチグチと文句をたれるアスタ。
鞄を閉じて立ち上がり、ぐぐっと背を伸ばして一息つく。
「さて、帰るかいいんちょ」
「え、えっと私はこの後プリントの採点をしてネギ子先生の机に置きに行って、その後・・その、図書館に行くつもりですので」
「ん、そうか?そんじゃ先に帰らせてもらうか」
「ええ。そうして下さいまし」
扉まで歩くアスタの背中を見送る。ガラッと引き戸を開けたところでアスタは少し振り向いた。
「悪かったないいんちょ。つき合わせちまって」
「そう思うなら少しは成績を上げてくださいな」
「それは保証できないな」
ニヒ、とイタズラっぽい笑いを浮かべて、扉を閉めた。
除々に遠のいていく足音が聞こえなくなったところで、あやかはほっと胸を撫で下ろした。
ペンケースから赤のボールペンを取り出し、キャップを外す。
「まさか一緒に帰るのが気恥ずかしかったなんて・・・言えませんわね」


間違いの回答に、少し憎たらしげに×をつけた。


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「たっだいまーっと」
「あ、おかえりーアスタ」
普段使わない頭をフル活動させた反動でクタクタになったアスタは帰宅を遂げた。
部屋へと入りながらネクタイを外し、鞄と一緒に無造作にベッドに放り投げる。
「やっほー兄さん、お帰りー」
ネギ子の部屋に改造されたロフトから、夏近くだというのに冬毛のオコジョがピョコンと飛び降りてきた。言うまでもなくオコジョ妖精のカモである。
「あれ、エロガモ。ネギ子と一緒じゃないのか」
「姉貴がエヴァにとっ捕まっちゃったから逃げてきちゃった。てへっ」
「急用ってそれだったのか。ったくエヴァの奴、お陰でいいんちょにしごかれるはめになっちまったじゃねえかよ」
愚痴を言いながらアスタはどっかりと座布団に座り、テーブルにつっぷす。
「居残りお疲れさんアスタ。はいっ、疲れた時は甘いもんやえ?」
台所から三人分の紅茶とケーキをお盆に載せたこのかが出てきた。
「おっ、サンキューこのか」
「あっ私の分もある!ありがとーこのかの姉さん」
人間の姿へと成り変わって並べられたケーキに飛びつくカモ。
三人でテーブルを囲んでのちょっとしたティータイムだ。
このかの用意したケーキは甘ったるく、疲れた身体に染み渡る。先程脳が消費しきった糖分を身体中に供給してくれる様だった。
「ところでいいんちょがどないしたんアスタ?」
「ん?ああ、ネギ子が来れなくなった代わりになんでかいいんちょが来てよ」
「いいんちょが勉強見てくれたん?」
「そうそう。これがまたキツイのなんのって」
「へえー。よかったじゃないの」
「そうやなあ。よかったなあ」
ニコニコと笑うこのかとカモを見て、アスタは紅茶をすすりながら眉をしかめる。
「よかねえって。こっちはクタクタだっての」
「アスタやなくていいんちょが、や」
「そうそう。いいんちょの姉さんが、ね」
「ん?なんだそりゃ」
ますます笑いを強めニヤニヤと笑う二人を不思議に思いながら、アスタはケーキを口へ放り込んだ。




「ただいま帰りました。遅くなって申し訳ありません。連絡の一つでもよこせばよかったのですが」
プリントの採点を終えた後、念の為アスタと鉢合わせしないように時間を置いたあやかは少し遅めの帰宅である。
「あ、帰ってきた。お帰りいいんちょー」
「遅いであやか姉ちゃん」
「お帰りあやか。もうすぐご飯の用意できるから着替えておいで」
ルームメイトの夏美と千津雄、そして現在居候中の夏美の妹(と言うことにしている)コタ美が迎えた。
部屋で着替えを済まし、千津雄の手料理が並べられた食卓に着く。
「いいんちょこんな遅くまで何してたの?」
「ネギ子先生に急用ができてしまったので、代わりにアスタさんの居残り勉強を見て差し上げたんですの。アスタさんの素晴らしい理解力のお陰ですっかり遅くなってしまいましたわ」
「大変やなああやか姉ちゃんも。ネギ子に雑用押し付けられたんかいな」
「な、なんて言い方しますの!私は自分からお手伝いを申し出たんです!!まったくコタ美さんは・・・。ああもうほら、口の周りが汚れてますわよ。もっとお行儀良く食べなさいな」
「むぐぐ」
行儀悪くご飯をかっこんで汚れたコタ美の口をナプキンで拭いてやるあやか。なんだかんだ言って面倒見はいい。
「そういえば今日は居残りアスタ君だけだったんだよね。てことは今までアスタ君とずっと二人きりだったんだ?」
「え、ええ。そうですけど」
「ふふふ、良かったねあやか」
「な!べ、別にちっとも良くなんてありませんわ!変なこと言わないで下さいな千津雄さんてば。大体、あのおサルさんに勉強を教えるのがどれだけ大変だと思っていますの?おかげで私もクタクタですわよ」
顔を赤くして反論するあやか。しかしそんな事を言いつつも、顔は嬉しそうであった。
「あはは。素直じゃないなーいいんちょは」
「んもうっ、夏美さんまで!」
「なんや、あやか姉ちゃんアスタのこと好きやったんか?」
「なっ・・・なああ!!??」
キョトンとしながら「ふーんそーやったんか」と一人納得するコタ美。そんなコタ美を口をあやかは見てパクパクさせる。
「な、ななななな何言ってるんですのあなたは!!わ、わた、私がアスタさんをす、すすす、好・・・・ああもうっ!!そんな事言うのはこの口ですか!!?このっ、このっ!」
「いふぁふぁふぁふぁ!ひゃ、ひゃめれやあやふぁねーひゃん!いふぁいふぇ!!」
あやかは更に顔を耳まで真っ赤に染めて、コタ美の頬を引っ張る。実に良く伸びた。
「ああダメだよいいんちょ、コタ美ちゃんいじめちゃ」
「そうだよあやか。コタ美ちゃんはただでさえ夏美ちゃんの実家で酷い扱いを受けているんだから」
「だからウチの実家はフツーだって!!」


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翌日の放課後
「窓の施錠完了、と」
日直の当番だったあやかは、丁寧にまとめ上げた日誌を職員室のネギ子の元へ届け、その後教室の黒板の清掃をし、仕上げに窓の鍵閉めを行った。
几帳面な性格な上に根が生真面目なので、人よりも時間がかかってしまった。
「さて、帰ると致しましょうか」
足元に置いてあった鞄を持ち、教室を出ようと歩き出したが、ふとアスタの机が目に止まった。
進行方向を変えて、歩み寄る。
つつ、と指で机の表面をなぞり、昨日の事を思い出したりなどしてみる。
「まったく、本当にあの人には理解力が欠けていますわよね」
何度説明を繰り返してもまったく頭に入っていかないアスタに勉強を教えるというのは非常に困難であった。
だが、そんなことも含めて楽しんでいる自分が確かにいた。
「一緒に帰らなかったのは・・ちょっと惜しいことをしましたわね」
普段アスタは同室のこのかと下校しているし、近頃では刹那も混じっているので、二人きりで下校できるチャンスなどほとんどない。
昔はよく二人で帰っていたのに。
意地っ張りも考えものですわ。とため息を一つ。
「・・・ふう。こんな事をしていたらまた帰りが遅くなってしまいますわね」
そうして余韻に浸りながらも、あやかは教室を後にする。ちなみに、もちろん消灯は怠らない。
階段を下りて下駄箱へと向かった。少々急いではいるが、みっともなく走ったりしないのは彼女らしいと言える。あくまでも行儀良く、歩く姿は百合の花という言葉の体現かのようだ。

昇降口まで着くと、見慣れた姿がそこにはあった。

開け放たれた入り口の所に寄りかかり、腕組みをしながらあやかを見つめる二色の瞳。
それはもちろん
「・・・アスタさん」
「よう」
素っ気なく挨拶を返すアスタ。
一方のあやかは平静を保つのが精一杯だ。なにせつい先程まで想いを巡らせていた相手が不意に現れたのだから。
「な、なにをなさっているんですの?そんな所で。こんな時間にそんな所でボーっと突っ立っているなんて余程暇なんですのね」
しかしそんな素振りは見せない様に、普段通りの憎まれ口を叩いてしまう。まあそんな事もアスタには分かってしまうのかもしれないのだが。
「別に。ただ、昨日わざわざ遅くまで勉強見てくれたどっかの世話焼きお嬢様にお茶でも奢ってやろうかなー・・とか思ってよ」
「あ、あら。貴方にしてはいい心がけですわね。その世話焼きお嬢様とやらが羨ましいですわ」
「そこではぐらかすなよ」
アスタはムスっとあやかを睨む。あやかとしては照れ隠しだったのだが。
「・・・ごめんなさい」
「謝んねえでもいいっての。で?どうすんだよ。行かねえのか?まあ嫌ってんなら別に・・・」
ゴソゴソ、カチャッ。ピッピッピッ・・・・
アスタが言い終わる前に、あやかはおもむろにケータイを取り出し、電話をかけだした。
「ん、おい・・」
「あ、夏美さんですか?私です。今日も少し帰りが遅くなりそうですので、夕食は千津雄さん達と先に食べていて下さいな。ええ、別に大したことではありませんわ。ちょっとした野暮用です。それでは」
ピッ
ケータイを切り、ポケットへ仕舞う。そして上履きから革靴へ履き替え、アスタへと向き返る。
「さ、行きましょうか。奢ってくださるんでしょう?」
「・・・ったく、調子いいやつ。で、俺とのお茶は野暮用扱いかよ」
「言葉のあやですわ。それに貴方とお茶だなんて言ってあらぬ誤解を受けたらたまったもんじゃありませんからね」
「へいへい、そうですか。ほんじゃ行くか」
嫌味を言いながらニッコリと笑うあやかを連れて、アスタは歩きだした。
ほのかに陽が傾いた空の下を、二人で歩く。
「ところで、ちゃんとしたお店なんでしょうね?まあ貴方が連れて行くのですからあまり期待はしませんけど」
「馬鹿にすんなよな。ちゃんとこのかに良い店聞いてきたんだからよ。よく分かんねえけど、紅茶の葉っぱがいいんだとさ。まあお前んちの比べたら話になんないかもしれねえけどな」
「その辺は我慢して差し上げますわ」
(・・・それに、貴方と一緒ならティーパックの紅茶でも美味しく感じられるんでしょうから)
手を少し伸ばせば届いてしまう距離、あやかは歩く。

ちらりと、気づかれないように横目でアスタを見る。

昔から変わらない、生意気そうな横顔
ぶっきぼうに見えて、今もこうして私に合わせて歩幅を短くしながら歩いてくれる、優しい貴方
私はずっと、そんな貴方に惹かれていたのでしょうね

『あらゴメンなさい。そうですわね、小学生の頃からずるずる片思いを続けている貴方にそんな度胸があるはずもありませんわよねえ?』

人の事は、言えませんわね
私もずっと片思いのままですもの。告白する度胸も、ありはしませんわ
でも、いいんです
今はまだこのままで
今はこうして、貴方の隣りを独り占めできるだけで十分ですから



まだお互いに無垢な子供だったあの頃のように

二人で歩く帰り道

アナタと歩く、帰り道



「何にやにやしてんだ?」
「なんでもありませんわ。ふふふ」
「変なヤツ」




愛しい人と並んで歩く。
あやかは3cmだけ、アスタに寄り添った。




.END





おまけ

こうしてあやかはほのかな幸せを噛み締めながら、アスタの横を歩いた。
そんな二人を見守る姿が、あやかが消灯を済ませてもう誰もいなくなったはずの教室にあった。
「よかったですね。委員長さん」
窓側の列の一番前の席。
そこにひっそりと佇む、制服とは違うセーラー服を身に纏いった少女。まるで透き通る様な白い肌と髪をしている。
いや、実際に透き通っている。
そう。60年前からずっとこの教室にいる彼女は自縛霊、相坂さよ。
彼女は今現在一人の例外(実際にはもう一人、某吸血鬼もいるのだが普段まったく関心無しなのでノーカン)を除いて誰も見ることのできない、まったくもって存在感0の幽霊である。
実は彼女、昨日の居残りの時も教室にいたのだ。もちろんアスタ達は気づくはずもなかったが。
邪魔をしてはいけないかな、と思ったのだがあやかのことを応援したくなってしまい、彼女は陰ながら応援していた。(陰ながらと言っても同じ教室にいたのだが)
二人の様子を見て、あやかがアスタに好意を抱いているのが分かったからである。
そう。同じ恋する乙女だから。
「私もあんな風に、二人っきりで・・・なんて」
並んで歩く二人を見つめて、そう願う。
あの二人もまだ両想いではないが、それでもさよには、あやかがこの上なく幸せそうに見えた。
好きな人となら一緒にいられるだけで幸せなのだからと、さよは思う。

一人きりの教室。
みんな帰ってしまって、独りぼっちの教室。
60年間毎日訪れる、独りだけの時間。
もう慣れっ子だと思っていた。
でもやはり、孤独に慣れるなんてことはないのだと、改めて実感した。

誰かにそばにいて欲しい。
ううん。好きな人に、『あの人』にそばにいて欲しい。

「我侭、ですよね」
もし自分が幽霊でなかったとしても、そう思ってしまうのはきっと独りよがりなことだ。
「うん・・そうですよ。それに少し我慢して、明日になれば会えるんですから」
そう。また明日になればあの人に会えるんですから。
あの扉を開けて、あの人が・・・・
ガラッ
「よっ、さよちゃん。お邪魔するよ」
そう思った途端、引き戸が開かれてその人物は現れた。
「えっ、あ、朝倉さん・・・?」

朝倉和実。

彼こそが今現在さよを見ることができる一人の例外。
そして、まさに今、さよが会う事を望んでいた人物。
「え、な、なんで朝倉さんが・・・?」
「ん?いや、今度の麻帆良新聞に載せるネタ探してたらこんな時間になっちゃってさ。今日はもう諦めて帰るかなーと思ったんだけど、疲れたから少し休もうと思って」
「それで、教室に?」
「一人でダラダラしてるより、誰かとお喋りしてる方が楽しいからね」
「え・・・?それってつまり・・・・」
私に、会いに来てくれた?い、いえ。そんな都合のいい考え方しちゃ・・・
「ってわけだからさ。ちょっといいかな?それとも、やっぱお邪魔かな」
「いいえ!そんなことないです!あの、私もその、誰かとお話したいなーって思ってたところでしたから・・・少し、寂しかったので」
「そう?じゃ、ベストタイミングか」
「ええ、それはもう」
だって会いたいと願った瞬間に、朝倉さんが来てくれたんですから。
ちょっとした神様のプレゼントかもしれませんね。

「そんじゃお言葉に甘えて。・・・隣りいいかな」
「はいっ。もちろんです」


もう一人の少女の、小さな幸せのお話でした。



.END

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