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決して結ばれない恋

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匿名ユーザー

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 そんなの、漫画やドラマの中でしかありえないと思ってた。

 相手を想う気持ちがあれば、どんな障害も乗り越えられる。

 そう、思ってきた。

 でも、そんなの綺麗事だ。

 彼女に出会って初めて分かった。

 この世には、決して結ばれない恋があるということ。

 そして。






 自分の無力さ。





 報道部、朝倉和実。
 中等部3-A。出席番号3番。
 好きなもの、特大スクープ。
 嫌いなもの、巨悪。
「あ~ぁ、どっかに超特大スクープでも落ちてねぇかなぁ」
 愛用のデジカメを片手に、和実は校内を歩き回る。
 スクープを求めて彷徨う旅人は、時には体育館裏に忍び込み、時には教会の屋根に上って周りを見下ろしてみる。
 謎のシスターが迷惑そうな顔でこちらを見ているが、無視してみる。
「はぁ、次のまほら新聞どうすっかなぁ」
 また新田先生でも尾行してみようか。
 そんなことを考えていると、どこからともなく声が聞こえてきた。
『朝倉く~ん』
 名を呼ばれ、声のした方向に振り向く和実。
「あぁ、さよちゃん」
『やっぱりここにいたんですね』
「ん、ここ見晴らしもいいし風が気持ちいいからね」
 さよと呼ばれた、この少女。見たところ、足が無い。
 それもそのはず。彼女は幽霊なのだ。
 和実とはクラスの幽霊騒動がきっかけで仲良くなり、今では学園内にいる時はいつも一緒だ。
「んで、なんかいいスクープ見つかった?」
『いえ…これといって…』
「そっかぁ」
 和実は残念そうに溜め息を吐くと、伸びをする。
「やっぱスクープってのは、自分の足で探さないと見つからないもんなんだなぁ」
『そうですねー…』
「あ、いや、別に今までさよちゃんが見つけたスクープが駄目だって言ってるんじゃないよ?」
『それは分かってますけど…。次のまほら新聞、どうするんです?』
「ぅぐっ…。どうしようか…」
『また新田先生でも追い掛けますか?』
「…やめとこう。今度はどこに逃げればイインディスカー?」
『ふふ、そうですね』
 微笑むさよ。その横顔を、じっと見つめる。

 この美しい笑顔を見られるのは、クラスでもほんの数人。

 もったいない。他の奴らはこの美しい、けれども可憐な笑顔を見る事ができないのか。

 それと同時に、安堵もする。

 だって、多分、嫉妬する。

 この笑顔を見て、彼女に恋焦がれる奴に。

 俺が、そうであるように。

 いつからかな。分からない。

 気付いたら、彼女に恋していた。

 そうだ。あの時かな。

 確か、雨が降っていた。いつもみたいに一緒にスクープを探していた時だ。

 突然の大雨。

 俺はずぶ濡れになりながら、木陰に避難した。

 彼女は、幽霊だからか濡れはしなかった。

『ひえー、すげぇ雨。こりゃ当分止みそうにないね』
『そうですねー』
『さよちゃんはいいよな、濡れなくて』
『幽霊もなかなかいいものでしょう?』
『はは…』
『朝倉くんは、雨、嫌いですか?』
『え…。う~ん…好き、ではないかな…。雨ってさ、なんか……誰かの涙のような気がして』
『…やっぱり、朝倉くんは変わってますね』
『…クラスのみんなよりはマシだと思うけどなぁ』
『確かに、そうですね』

 そう言って、彼女は大雨の中に飛び出して。

 こう、呟いたんだ。




 恵みの雨 喜びの雨ならいいのに




 その時の彼女の顔は、なんだか少し悲しそうだった。

 あぁ、そうか。

 彼女は、今まで嫌というほど悲しい雨を見てきたのか。

 俺が生まれる前からずっと。長い年月の中で。雨に降られて。

 その時に、思ったんだ。

 俺が、喜びの雨を降らせてやるって。

 分かってる。綺麗事だ。実際、俺は何もしてやれてない。ただ、側にいるだけ。

 情けない。


『朝倉くん?』
 名を呼ばれ、我に返る和実。
『なにかボーッとしてましたけど…大丈夫ですか?』
「あ、うん。ごめん、少し考え事してただけ」
『そうですか。安心しました』
「? 何が?」
『朝倉くんに、暗い顔は似合わないですから』
「…」
『いつも、元気な朝倉くんでいて下さいね?』
 また、さよは微笑む。
 和実はデジカメを置き、両手の親指と人差し指で長方形を作る。
『? なんですか?』
「さよちゃん、笑って」
 言われるがまま、笑顔を作るさよ。
 和実はその笑顔を、手作りのフレームに納める。
 どんな高級な、どんな性能のいいカメラのそれよりも、美しく、写った。
 和実はその写真をポケットにしまい込んだ。
『??』
「さよちゃん」
『はい?』
「喜びの雨……俺じゃ降らせられないかな」
『え?』
「…ただ、側にいる事しかできないけど。触れる事もできない。でも俺は、さよちゃんにもう悲しみの雨に振られてほしくない」
『……』
「なんにもしてやれないけど…でも俺……」
『朝倉くん、今は雨は降ってませんよ?』
「…は?」
『ほら、こんなに空が真っ青じゃないですか』
 両手を広げるさよ。上空には、真っ青な空。
 妙に、眩しく感じた。清々しく、感じた。
 いつの間にか、雨の日ばかりを考えて晴れの日を無視してきたのだろうか。
『…それに、私は十分ですよ?』
「…?」
『朝倉くんが、側にいてくれてるだけで、私は嬉しいんです』

 嬉しかった。

 その言葉が。

「俺…力になれるかな? さよちゃんの」
『…はい』
 少し顔を赤くしながら、さよは屋根を下りる。
『朝倉くーん、早くスクープ探しに行きましょーっ!』
 下から聞こえてくるさよの声。
 和実は再びフレームを作ると、今度は真っ青な空を写した。
 同じように、ポケットにしまい込む。
「あぁ、いま行くよ!」
 和実も屋根を下りるため、木に飛び移る。


 指で作ったこのフレームに 空を写してポケットにしまい込んだんだ

 あぁ忘れちゃいけないものは きっとこんなにも真っ青な空だろう

 流れる雲の早さ 向かう場所の先で僕等

 笑いあえてるかな





「………惚気るなら他でやってくんないかな…」
 一人屋根に残された、謎のシスターの呟きは風にかき消された。





       終わり

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