0時間目 始まりは、春のあの日から
「う・・・うあぁぁぁぁぁっ!!!??」
三月も中ごろの日の夕方、町中にその少年の悲鳴は響き渡った。
彼の名は神楽坂明日太。れっきとした小学六年生で、今期の四月からは晴れて中学生となる身だ。
その、おめでたいはずの彼が、なぜ悲鳴を上げなくてはならないのか?その始まりは昨年の冬にさかのぼる・・・・。
~昨年一月~
「あやk・・・い、いいんちょ」
明日太は、やや口ごもりながら話しかけた。すると、その『いいんちょ』と呼ばれた少女が反応する。
「あら、アスタさん、どうなさいましたの?」
「あ・・・その・・・い、いいんちょはさ、その、い、行く学校決まったのか?」
「あら、そんなことですの?まぁ、私はお姉さまと同じく、ここの付属の『麻帆良学園』ですわ。それで、アスタさんは?」
「いや・・・その・・・あ、まだ決めてないっていうか・・・・ゴニョゴニョ」
「え?まだ決めてらっしゃいませんの?」
「なっ、る、るっさいな!でも・・・俺別に受験勉強とかしてた訳じゃないし、今更たいしたトコには・・・・」
「も、もしかしてアスタさん、本当にご存知ないんですの?来年度からは、麻帆良学園が女子校から共学校になるんですわよ?」
「え!?マ、マジか?あやか!?」
「とっ、突然名前で呼ばないで下さい!びっくりするじゃありませんこと!あ、そのことは木乃香さんに聞いてみてはいかがです?」
「あ、そうか!たしかこのかの爺ちゃんはそこの学園長だったな!おーい!こ~のか~!!」
明日太が大声でそう叫ぶと、教室の隅のほうにいたロングヘアーの少女が振り向いた。
「こ、このか!マジなのか?その、さっきの・・・」
「あぁ、ぜ~んぶホンマや。ちゃんと聞いとったえ」
このかと呼ばれた少女はやわらかな京都弁で答えた。
「よっしゃー!!付属校だろ!?おかげで助かったー!!ありがとな、あやか!さ~て、早速願書書かなきゃな!じゃーなー!」
と言い残してアスタは放課後の教室を軽やかに走り去っていった。やたらと足が速い。
にっこりと笑って「またな~」と手を振っている木乃香の横で、『いいんちょ』ことあやかは、相変わらずですわね、と少し呟いた。
それから、少し後の、早咲きの桜が彩る三月だった。
学校も決定し、つかの間の休暇を満喫している明日太の元へ、四人の少女が駆け込んできた。
「す、すみませ~ん!ア、アスタ君はいますか!?」
薄い珊瑚色の髪の少女がそう言ってドアをガンガンと叩くと、中から眼鏡をかけた美女が出てきた。
「は~い、あら、桜子ちゃん、皆も。どうしたの?そんなにあわてて?」
「あ、タカミさん!と、とにかく大変なんですよ!それでアスタ君は?!」
「はいはい。ねぇ~、ア~スタく~ん!」
タカミさんと呼ばれた美女がそう家の中へ呼びかけると、程なくしてアスタが顔を出した。
「は~い、あ、お前ら。どうした?急に」
するとあやかが、
「アスタさん!大変な事になりましたわ!とにかくこれを!あ、千雨さん、こっちにいらっしゃい!」
と言い、四人の中で最も後ろにいた眼鏡の少女を引っ張り出し、その眼鏡少女‐千雨の抱えていたNPCを開いた状態で突きつける。
「あ?フツーにYafoo!じゃんかよ。何がそんなに・・・」
「アスタさん!ここのニュース画面を御覧なさい!」
「はいはい。え~っと・・・・ん?」
☆麻帆良学園長、不手際認める☆
同氏は本日、中学校新入生手続きに告知に関する不手際があったことを認め、謝罪した。・・・(ry
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・で?」
「は?」
「いや、だから、ひ、ひょっとしてお、俺って入学・・・・取り消し・・・?」
しばしの沈黙の後、アスタは震える声で皆に尋ねた。するとこのかが、
「いや、もう決まってる人はそのまんまなんやって。じいちゃん言うとったわ。」
と答えた。
「あ・・・。あはははは!だよな!んなワケ無いよな!あはははは!」
アスタは自身の冷静さをアピールするので必死だった。
「アスタねぇ、実はコレ見つけたのって千雨ちゃんなんだよ。でも何か本人は伝えたくないとか言って・・。心配だったくせに~」
桜子がにやにや笑いながら言うと、千雨が、真っ赤になりながら大声で、
「なっ、バッ、バカ!そんなん・・・あっ・・・あ~!!うるさいっ!!」
あからさまな千雨の動揺に、みんなでひとしきり笑うと、アスタが問い返してきた。
「ん?でもそれなら何が大変なんだ?」
四人娘はお互いに、言わなくてはならないか・・・と目配せし、代表としてあやかがおずおずと答え始めた。
「その・・・アスタさん、今度はここを・・・。」
そう言ってまた千雨のNPCを開いて見せた。麻帆良学園のホームページだった。
「ア、アスタさん・・。さっきの記事で『告知に関する』というのがありましたわよね・・。」
「ああ、そうだったけど。それが?」
「その・・・。実は今期からここが共学になるというのの告知に関しまして・・・・。」
アスタは何か感じ取ったのか、さぁっ、と青くなった。まさか。いや。そんなことが。でも・・・・!!
アスタは一心不乱に画面に食いついた。そこには・・・。
☆麻帆良学園 今期入学者内訳☆
総人数737人 内、女子721人 男子16人
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「う・・・」
「?」
「う・・・うあぁぁぁぁぁっ!!!??」
「ア、アスタさーーーん!?」
こうして、女だらけの共学校生徒、神楽坂明日太の戦いの日々が始まる・・・・?
0、5時間目 お子ちゃま先生は魔法使い!(プロローグ)
イギリスはウェールズの山奥のそのまた奥。
一見すると教会かと見まがうような荘厳な風体の学校。今、まさにその中で、卒業式と、またそれに伴う『儀式』が行われて
いた。
「卒業証書授与 この七年間よくがんばってきた。だが、これからの修行が本番だ。気を抜くでないぞ」
校長とおぼわしき白髪髭の老人は、自分の話をそう締めくくり、同時に授与式へと移行した。
「ネギ・スプリングフィールド君!」
校長が名を呼ぶと、
「はい!」
と大きな声で返事をして、赤毛で長髪の少女‐ネギが壇上へと上がった。
式が終わって、ネギが歩いていると後ろから
「よぉ、ネギ!」
と、同じく赤毛の少年が話しかけてきた。
「あぁ、アーニャ。それに、お兄ちゃんも」
ネギの振り向いた先には、幼馴染の少年・アーニャと、彼女の兄のネカネがいた。
「それで、ネギ。どこだったんだい?修行の地は?」
「俺はロンドンで占い師だったけど・・・ネギは?」
「うん、今浮かび上がるところ」
そう言うネギの手には先ほどの卒業証書が握られていた。
そう、この学校は普通ではない。生徒は卒業すると、指定された場所へ赴き、『修行』しなくてはならない。
そして、修行の指定先は卒業証書に映し出されることになっていた。
なぜ文字が『浮かび上がる』のだろうか?その疑問はいつか語られることであろう。それよりも今は・・・
「あっ、来たよ!」
ネギが声を上げると、後ろの二人も証書を覗き込んだ。そこには・・・・
A TEACHER IN JAPAN ‐日本で、先生。
の文字が。
一瞬の沈黙。そして、その後はお約束。
「え・・・ええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!??」
三人は校長室に直行した。理由はただ一つ。抗議である。
「何かの間違いではないのですか!?10歳で先生なんてとても無理です!」
「そうだよ!ネギったらただでさえチビでボケで!」
理論の通ったものと破綻しているもの。どちらがどちらかは言わずもがな。ネギは茫然自失でしゃべろうとしない。
「先生か・・・しかしそう出てきたのなら仕方が無い。立派な魔法使いになるにはしっかり修行するだけじゃ」
「・・・・・あぁっ・・・」
「あっ、お兄ちゃん!」
校長のそっけない対応に、ネカネは気絶してしまう。
ネカネは相変わらず動かないが、校長が話を続けた。
「ま、修行先の学校の校長はわしの友人じゃ。がんばるのじゃぞ」
ネギはしばしの間をおいて、
「・・・・はい!」
と返事した。
結局、家に帰るまでネカネは目を覚まさなかったとさ。
1時間目 お子ちゃま先生は魔法使い!(前編)
いつもと変わらない朝だ。強いて言うなら今日が始業式だというところぐらいか。まぁ、たいして変わったこともないだろう。
俺の名前は神楽坂明日太。いっぱしの中学二年生だ。好きな物は女の子。熟女系から同年代まで幅広くイケる。我ながら守備範囲が広い。
いや、不健康なエロさじゃ無い。むしろ健康的なぐらいだ。二次元はまぁまぁだな。いや、そんなことはどうでもいい。
今のところ、これといって好きな人はいない。ただ、一応、恋愛感情とか抜きにして憧れのヒトはいる。
現在の俺の担任、タカミ・T・高畑先生だ。彼女は、諸事情あって小学校の頃俺を預かっていてくれた。なぜというのは長くなるから今は置いとこう。
歳は30そこらか?立派な熟女だ。あと・・・巨乳の部類かな?ハァハァ。
いかんいかん、話がそれすぎた。
今は一応自活している。生活費の一部はまだ負担してもらっているのだが。バイトして少しずつでも返している。いいと言ってくれてはいるんだがな。
そして、俺の学校‐麻帆良学園中等部はか・な・りおかしい。
俺の入学する年に、女子校から共学になったのだが、学園長の不手際で、全737人中男子16人という奇跡的状況が生まれてしまったのだ!
結局、学校側は男子生徒を1クラスに集めることにして、今に至るというわけだ。ついでに、後輩たちはちゃんと比率があっている。
まぁ、俺は女の子がいっぱいいるからバンバンザイなんだが。内の2‐Aは男は俺を入れて13,4人くらいだったか?後で調べんとな。
他に特記すべき事は・・・あった。
俺の大嫌いなものについてだ。その名は『オカルト』。本当に大嫌いだ。
その幅は広く、宇宙人から超能力者、未来人やニュータイプまで。人並みはずれて、俺はどれも信用していない。
親友でクラスメイトの近衛木乃香はオカルトマニアだが、話していて非常に疲れる。
ただ、このかが目を輝かせ、嬉しそうに話してくるのは断れない。可愛いし。それで、後で一人でぐったりしてるんだが。
ところで、その大嫌いなオカルトの方面で嫌な動きがあったらしい(これもこのかから聞いた)。
なんでも、世界には『まほーつかい』とやらがいっぱいいて、いくつかの国まで持っている、という議論が活発になってきたらしい。
は。そんな国が世界中どこにある?アメリカか?フランスか?ひょっとして日本か?俺がいるから違うか。
そして、『まほーつかい』達は我々の世界に既に干渉していて、魔法がバレないようにしている・・・・らしい。
まったくもってゲロりそうだ。もし、まほーつかいさんがいるんなら、今日中になんか一つ見せてくれ。魔法とやらを。
とにかく、魔法なんてゲームとマンガだけで十分だ。現に、俺は魔法が無くて困った記憶は、14年間の内一度も無い。
つまり、人間に必要の無い魔法というのは存在しえない。証・明・終・了。
いつも通りそんなことを考えながらアスタは教室のドアを開けた。いつものクラスだった。
このクラスは他クラスに比べて格段にやかましい、もとい賑やかだ。と言うより、一人ひとりのキャラが濃すぎる。
教室に入った所ではいつもの三人組がゴソゴソやっていた。
彼、彼女らはいっつもドアに黒板消しを挟んだりしている。今日は新学期だからか、なんか手が込んでいる。(高畑センセなら平気だろう。いままでひっかかったことがない)
向かって右にいる短髪は修道士の春日空(♂)。陸上部で、クラスで唯一アスタに敵う足を持っている。(ついでだが、さっきからずっと走ってたんだぜ、俺。教室入るまで。)
真ん中と左は鳴滝風香・史也の姉弟。仲良く二人で散歩部にいる。なんか二人ともやたらと背が低く(140あるのか?)、姉も弟もロリとショタにとてもウケる。
そんないたずら三人組を横目に席に着くと、今度は後ろから、
「よぉ、珍しく早えぇじゃんか」
と話しかけられた。振り返ると、そこには明石裕也(♂)がニコニコ顔で立っていた。
「なんだよ、ロリコン」
「何ッ!君、マザコンの属性も忘れてもらっては困るぞ!」
「朝っぱらから猥談さすな」
アスタはそう斬り捨てて、ぐるっと教室を見回した。
左隣には『まほらチアリーディング』のメンバー、椎名桜子(♀)、釘宮円(♂)、柿崎美砂雄(♂)がいた。比率からいうとチアというよりかは応援団だが。
ふと見ると、さっきの裕也は自分の元のグループに戻っていた。
裕也のほかに三人、和泉亜子(♀)、佐々木まき雄(♂)、大河内アキラ(♂)の、それぞれサッカー、新体操、水泳の部活にいる、運動部四人組だ。
一方、教室のいたるところで肉まんを売りさばいている集団は、四葉五月(♀)、超鈴音(♀)、葉加瀬聡(♂)の三人。
この三人は、中国人のわりに学年一位をとってみたり、やたらと勉強ができたりして、万年補習のアスタにはうらやましい存在でもあった。
その葉加瀬(工学大好きなので、もちろんニックネームは“ハカセ”だ)の比較的近くでボソボソと喋っているのが見えた。
絡繰茶々丸(♀)と、留学生のエヴァンジェル・A・K・マクダウェル(♂)のようだ。
この二人は、本当に目立たない、というか、印象というものに欠け過ぎている。暗い、ともまた違う、“怖さ”に近いものがあった。
それ故に、皆近づこうとはしないし、本人たちも別に困ったことはなさそうなので、それで十分だった。
そういえば、ほかにもそんな奴がいたな、とアスタは思い返し、ぐっと後ろの席を眺めた。
そこには、桜咲刹那(♂)、龍宮真(♂)、長瀬楓(♀)が、特に話をするわけでも無く、ただ一緒にいた。
全員とそれなりに友人関係でいたいのだが、この2グループのお陰でそれは無理だろうなぁ、とアスタは内心思った。
しかし、生来楽観的なせいか、そんな思いは結構簡単に吹き飛んだ。アスタの目の前には、いつのまにか男が三人陣取っていたのを見たせいだろう。
先ほどからフラフラして落ち着かない裕也のほかに二人、朝倉和実(♂)と古菲(♂)だ。
三人とも、やたらと女にうるさく、よくモテ、そのわりに彼女がいなかったりする不思議な奴らだ。
クラスの男子では、美砂雄と裕也、和実、菲が郡を抜いて軽く、予備軍にアスタ、まき雄がいる、そんな感じだった。
「アスタ~。今日アノ日じゃねえか?」
と和実。
「お、早速来たアルよ」
菲が妙な中国なまりで相槌を打つと、その通りに、後ろから声が聞こえた。
「あ、アスタさ~ん、これ、こないだ注文受けてた、新しいエロ本です~」
そんなヤバいことを、特にはばかりもせずに口に出してしまう少女は、宮崎のどか(♀)だ。その後ろには早乙女ハルナ(♀)と綾瀬夕(♂)もいる。
「お、サンキュ!本屋ちゃん。1700円だっけ?」
「はい~。毎度ありがとうございます~」
この少女、要するに、一般人の知りえない特殊なルートを使って、色々な本を格安で仕入れてクラス内でさばいているのだ。
「いやっはっはっは。やっぱ『淫乱保健室』シリーズは違うなぁ!」
アスタが新たに手にしたエロ本に上機嫌でいると、那波千鶴(♀)や村上夏(♂)の方から、
「アスタさん!そういういかがわしいモノを持ち込む人がいるからクラスの風紀が乱れるんじゃありませんこと!?」
の怒鳴り声と共に現れる金髪の少女。クラス委員・雪広あやか(♀)だ。
「うるさいなー。別に関係ねぇだろ」
「大有りですわ!クラス委員として認めません!」
二人は初等部の頃からこんな喧嘩を毎日のようにやっている。もっとも、二人とも何か分かっているようで、たいして大きな問題になったことはない。
案の定、周りが(主に和実・裕也・美砂雄)「夫婦喧嘩、夫婦喧嘩!」云々と騒ぎ立てている。
「そんなに俺にエロ本読ませたくないか?なんならお前代わりに脱ぐか?」
「なっ!!!!!」
アスタが苦笑交じりに言ったジョークに、あやかは真っ赤になって抵抗する。
「アアアアアアアアアアアスタさん!!なな何を馬鹿な!!い、いい加減にしないとう、訴えますわよ!!!」
「はいはい、ど~もすいませんでした」
と言い残してアスタは自分の席から離れた。(エロ本はしっかりと脇に抱えている)
あやかと喧嘩した後はいつもこうだ。疲れも残るが、何ともいえない充実感がある。あやかも同じだった。
それが何を意味しているのか、二人にはよく分かっているだろう。しかし、肝心の本人達がそれを認めようとしないので、特に進展はないのだが。
「君は今、忘れていないか?三人ほど」
と、唐突に話しかけてきた和実に
「ハァ?」
とアスタは返した。
「いや、お前がクラスメート勘定してるのが三人抜けてるよって話だよ」
この男は、たまに人の内面的なものを読み取ってくるから怖い。事実トランプとかは無茶苦茶強い。
「・・・・なんで知ってるんだよ」
「ん?いや~、何となく、ね♪」
つかめない奴だ、とアスタは思いながら、足りていない三人を探してみた。
一人は、ザジ・レイニーディ(♀)。よく分からない人だ。
曲芸か何かをやっているらしく、顔に常にピエロペイントがしてある。クラスでも喋ったところを見たことがない。
教室後方から視線を前方に移して、二人目の“いる”所を見た。
相坂さよ(♀)。たしかそんな名前だった。その昔に、A組の中で亡くなったらしい。今でもその席は空けてあり(隣は和実だ)、座ると寒気がする『座らずの席』だ。
もっとも、幽霊とかを信じないアスタにとっては、ただの欠番にすぎなかった。
ここまできて、アスタは最後の一人を思い出せなくなった。何か大切なことを忘れている気がしてならない。
アスタははっ、と思い当たって自分の席の隣を凝視した。
人間が思い出せないときは、印象が薄いからの時と、身近すぎるからの時がある。
ザジ、さよの両者は明らかに前者。しかし、“もう一人”は後者に当たるだろう。
自分の隣の席で同居人の近衛木乃香(♀)が学校に来ていなかった。
アスタはさぁっ、と血の気が引いていくのが分かった。(和実にも分かった)
たしか・・・・今日は校長室で用事があるから来てって・・・言われてたっけ・・・・!!
「やぁべぇぇぇぇっ!!か、和実!サンキュ!行って来るわ!!」
「はいはい、でももう十分以上遅刻じゃないか?」
何でそんなことまで知っているのかはこの際関係なかった。とにかく・・・急がねば!!
アスタは走った。高畑先生から「廊下は~」などと注意されたことも吹き飛んでいた。
結局、クラスナンバー1の足を飛ばして校長室に着いたのは、約束からちょうど12分遅れだった。
1時間目 お子ちゃま先生は魔法使い!(後編)
「んも~。めっちゃ遅いやんか」
「ハァハァ、スマンスマン」
案の定、アスタの遅刻だったようだ。
アスタの目の前に立っている京都弁の黒髪美少女は近衛木乃香(♀)だ。
彼女は小学校の頃からのアスタの友人で(よく遊んだのは皆女子だったな・・・。木乃香といいんちょと桜子と、あと一人は
誰だったっけ?すぐに転校して言ったから記憶に薄い)、
今現在のアスタの同居人でもある。(この学校は全寮制だ。何で男女が同じ部屋にいるのかは割愛する)
「アスタ~、今日の目的なんやったかホンマに覚えとるん?」
「え、え~っと、新任教師のお出迎え・・・だったっか?」
「まぁ、だいたいおうとるな」
まったく、学園長の孫娘の木乃香はともかく、なんで俺まで、とアスタが内心にぼやくと、ちょうど学園長室の扉が開き、中
から学園長が出てきた。
「おお、来てくれたか。じゃあ部屋の中で先生を待ってなさい」
簡単に言うと、後頭部の滅茶苦茶長い白髪ヒゲのジイサンだ。
前にアスタは高畑先生に引き取ってもらったといっていたが、実は一時期この学園長にもお世話になっていたことがあり、命
令には逆らえない。
広い学園長室は、マンションの居間2つ分ぐらいの広さがあり、そこにあった高そうなソファーにかけて二人は談笑しながら
“新任教師”を待っていた。
「っていうかさぁ、ジイさんの友達だろ?新任たってどっかで教師経験あるやつだろ?ゼッテーそいつもジジイだぜ」
「ううん、お爺ちゃんは若い人やってゆうとったけどなぁ」
若い人?第一にあのジイさんがいくつだよ?そんなの4,50までならジイさんにとっちゃ若者だぜ?
「それでなぁ、アスタ」
ぼんやりとそんな事を考えていたアスタに木乃香が向き直って話しかけてきた。
「その新しい人が宇宙人とか超能力者とかやったらどうする?」
「・・・・(゜Д゜)ハァ!?」
また・・・!また始まった!!あのヤバげなビョーキ!!!き、今日こそは断らねば!!!!
「あ、あのな、このか。お、俺はそういうのはな・・・」
「ほら、ようあるやん。こないだのどかが読んどった小説もそんなんやったえ。えっと・・ツクネとかゆうたっけなぁ」
・・・・だめだ。今日も断れそうに無い。俺よ、恨むなら勇気の無い俺を恨め。アディオス!爽快な始業式!さよなら!快適
な一日!
しかし、このかの話もそう長くは続かなかった。部屋のドアがキィ、と音を立てて開き、何者かが入ってきたためだ。
そこにいたのは、長い赤毛の、10歳前後の、とびきりの美少女だった。顔から見て欧米人のあたりのようだ。
「おい、嬢ちゃん。なんでこんなトコ来てんだ?」
アスタが尋ねると、
「あ・・・あの、私、よ、呼ばれてるんです。ここに来なさいって・・その・・それで・・」
少女がおどおどと答えた。
ロリ属性の無いアスタでも、少女を怖がらせるのは流石に心が痛む。少女に聞こえないようにこのかに話しかけた。
「きっと例の新任の娘だぜ。ありゃ。単身赴任すんのが嫌だったんだろうな」
「うん・・でも、あの子、杖みたいなん持っとるよ。もしかしたらホンマもんかもなぁ、アスタ」
結局それか。確かになんか細長い棒は持ってるけど、まさかな。
ちょっとして、学園長と高畑先生が一緒に入ってきた。
「おお、もう来とったのか、ネギちゃん」
「あらあら、久しぶりねぇ。3、4年ぐらいかしら?」
ネギちゃん、と呼ばれた少女は、どうやら高畑先生とは知り合いのようだ。カチンコチンだった表情が多少和らいだ。
「ところで!」
次第にイライラし始めたアスタは、一気に話を終わらせようといきなり本題を持ち出した。
「その子の保護者はどこですか?さっさとその新任に挨拶だけして教室帰りたいんすけど」
すると、学園長はふっ、と笑い、
「おお、そうかそうか。そういえばアスタ君もこのかも知らんかったな。じゃあネギちゃん、自己紹介を」
「あ・・はい!」
そう言われて威勢よく飛び出してきた少女・ネギは言った。
「今年度から麻帆良学園中等部の英語科を受け持つことになりました、ネギ・スプリングフィールドです!」
と。
凍った。何がって?俺の頭さ。人間ってビックリすると体と頭と両方固まるんだってな。自分に58へぇ。い、いや。そんな
んじゃなくって・・
「え・・・えええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!!!!!!!!!!!!!?????????」
約三秒間のフリーズの後、アスタとこのかがようやく発した言葉は、これだった。いや、これしか出てこなかった、と言う方
が正確かもしれない。
「あら、アスタ君。相当驚いてるみたいねぇ」
タカミが微笑んでいっているが、
「い、いや!何ですか!カメラ!カメラどこにある!?」
と狼狽しているアスタにはほとんど届いていない。
「心配しなくてもいいわ。全部ホントのことだもの。」
「せっ、先生!一体なぜ!?What!?Why!!??」
「あ、そうそう、ネギちゃんには今学期から私に代わってA組を受け持ってもらうわ。大丈夫!彼女、すっごく勉強得意で頭い
いんだから!」
話が急すぎる!アスタは何とか自分の置かれている状況を整理しようとした。
「せ、先生。第一におかしいことが多すぎませんか!?こんなちっちゃい子に教師なんて無理でしょう!?」
アスタが怒鳴ると、ネギはうっすらと眼に涙を浮かべ、
「そう・・・ですよね。私なんかじゃ・・・到底無理ですよね・・・」
と悲しげに呟いた。
アスタは思いっきり冷や汗が噴出していた。この部屋にいる第三者全員の冷たい眼がこちらを射ていた。
「あ・・いや、ち、違うんだ、嬢ちゃん。そのな、俺は、普通は無いことですよ、っていっただけであって、君が優秀ならま
ったく問題ないわけで・・・」
苦しみながらもアスタが弁明していると、アスタの髪がネギの鼻に触れ、
「ハ・・・ハックション!!」
と大きなくしゃみをした。するとその瞬間に、ネギの着ていたローブのような服がぶぁっ、と飛び、ネギは完全な下着姿にな
ってしまった。
「あ・・・あ・・・・キ、キャーーーーーーっ!!」
とネギはきょろきょろ顔を真っ赤にしながら叫ぶと、
「・・・・・・・・・・・!!!!!?」
アスタも声にならない叫びをあげた。
状況が悪すぎる!まずい!!何がって!!?全てさ!!!何だ!!!?この悪寒は!!!???は、早く逃げなきゃ・・・!
!!!!!!!
「ラステル・マ・スキル・マギステル!ゴニョゴニョ」
と涙目のネギが何事か呟いて走りより、
ズドン!
という大きな音がし、それを最後にアスタの意識は途切れた。
・・・スタ、アスタ。アスタ!起きて!
頭が痛い。そういえば俺は何をしてたんだっけ?確かネギとかいう女の子に張り倒されて・・・
「アスタ!起きて!はよせな授業始まってまうえ!!」
「ひゃひいっ!?」
耳元でこのかの轟音が響き、夢うららからアスタは強制帰国となった。
辺りを見回すと、どうやら保健室のようだ。
ベッドに寝かされている格好だ。すぐ目の前にこのかがいた。
「あ、あぁ・・・このか・・・俺・・何があったんだ・・・?」
「あんときな、ネギちゃんが叫びながらアスタのこと全力で張り倒したんよ。怖いなぁ、乙女の心を蹂躙すると。アスタもそ
んなに小さい子好きやたっけ?」
「ちげぇよ!まき雄じゃあるまいし!ところで・・今何時だ?」
「そぉねだいたいね~♪朝の7時40分ぐらいやな」
ああそうですか、と言うわけにもいかなかった。なぜ?確か気絶したのは8時ごろのはず。ま、まさか・・・!?
「でもホンマに驚いたわ。アスタ丸一日寝てるんやもん」
「な・・何だってーーーー!!!!?」
アスタはベッドから飛び起きた。多少節々が痛い気がしたが、そんなことにかまけていられなかった。
「い、急いで帰ってカバン取ってくる!」
「はい、アスタ。もうちゃんともって来とるよ」
さすがこのか。気が利く!いい嫁さんになれるぜ、と、アスタは言いたかったが、時間のために眼で言って、走り出した。
学校にローラースケートを履いてくるこのかもこのかだが、それに勝るほどのはしりをするアスタも凄い。
そんなこんなであっというまに教室に着いた。結構皆平然としていた
「なぁ、このか。昨日は誰も驚かなかったのか?ほら、あんなのが来て」
「あぁ、それやったら、昨日は高畑センセがやってくれてはったから、今日から登場やて。ネギちゃん」
おぞましかった。
リーンゴーンカーンコーン
とうとう始業の鐘が鳴った。この先に待ち受けるは天国か地獄か。OK,どっちにせよ受け入れてやろうじゃないか!
ふと見れば、いたずら三人組がまたやったのだろう、黒板消しトラップをはじめ、いろいろな罠がしかけてあった。
「し、失礼しま・・す」
と外からたどたどしい声が聞こえ、ガラッ、と教室の扉が開いた。
案の定、地球の重力に逆らわず、黒板消しはターゲットへ向かって落ちていった。
が、今日はいつもとは少し違っていた。
黒板消しが、ターゲットの頭上ギリギリで一瞬静止した。少なくとも、アスタにはそう見えた。
しかし、その一瞬が過ぎると、予定通り黒板消しは落下、辺りにチョークの粉が舞い、ターゲットのゲホゲホという咳が聞こ
えた。
「いやぁ、ゲホゴホ、ひっかかっちゃったゴホ、なぁ」
標的は、そう言って教壇へ向かって歩き出すが、そこにもまたトラップ。
矢が飛んできたり、バケツが降っていたり。あまりの残酷さにここでは割愛させてもらう。
クラス中がどっ、と笑いに包まれる中、一番前の席の桜子がえっ!?と素っ頓狂な声をあげた。
アスタの思ったとおり、そこに横たわって動かない“ターゲット”は、ネギ・スプリングフィールドであった。
「ご、ごめーん、お嬢ちゃん!」
「て、てっきり新任の先生かと思っちゃって!」
クラスがガタガタいっている中、
「いいな、違わないさ」
とダンディーな声がした。このクラスの副担任、源しず哉(♂)先生だ。
「じゃあネギちゃん、自己紹介を」
しず哉がそう言うと、ネギは生徒の方に向き直り、ケホン、とひとつ咳払いをして、
「み、みなさん。わ、私が今年度からこのクラスと、まほ・・・英語科を担当します、ネギ・スプリングフィールドです!3
学期の間だけですけど、よろしくお願いします!」
当然のことながら、というべきか、クラスはシーンと水を打ったように静まり返った。しかし、その後は当然、爆発。
「カ・・・カワイーーーーーー!!!!!」
もともとお祭り好きの性格が高じてか、クラスのほぼ全員が(男も女も)ネギのもとへ駆け寄り、
「ねぇ、ねぇ、何歳なの?」、「じ、十歳です」、「10!?」
「嬢ちゃんてば頭イイの?」、「だ、大学卒業程度の語学力は・・・」
「どっからきたの!?イギリス人!?」、「は、はい、ウェールズっていうところから・・・」
「ホントにこんなかわいい娘もらっちゃっていいの?」
とギャンギャン吼えまくっていた。
何か教室の脇の方で見慣れない眼鏡少女がしず哉と、
「・・・マジなんですか?」
「あぁ、大マジだよ」
と話しているのがアスタの眼の端に入ったが、そんなことはどうでもよかった。それよりも‐
「なぁ、やっぱお前ちょっとおかしくねえか?黒板消しに何かしてただろ?」
とネギの眼前に躍り出て言った。
ネギは明らかに顔色が変わった。やはり何かある、とアスタは確信した。
しかし、ネギが口走ったことは、違った。
「あ、あなたは昨日、その、私を・・その・・・した・・・ひと・・・ア、アスタさんでしたっけ・・・?」
と、青から赤へと顔色をかえて、うつむいてボソボソと喋った。
当然、こんなことを口走られればたまったもんじゃない。あやかが目をつりあがらせて
「ア、アスタさん!あなた、もしやこんな小さな娘と何か・・・?」
と睨んできた。
「あ、あぁーーーっ!そうそう。実は昨日な、おでむかえって名目でこのかと一緒に会いにいってたんだよ!そんときのこと
だろ!」
アスタはとりあえず場をつくろうのに必死だった。
「い、いえ!わ、私・・・その・・・ア、アスタさんに脱がされました!!」
ピッキーン
これは場が凍った音。
しばしの静寂、永遠の闇。眼前にそんなものを見ている気が、アスタは、した。
「ア~ス~タ~さ~ん~!!!!!」
「い、いや、違うって!!誤解!ほら、嬢ちゃんもなんか言ってくれよ!誤解だって!」
あやかだけではない。クラス全員が敵の目をしている。アスタが半泣きでネギにすがると、ネギは正面を見据えながら
「い、いえ、みなさん。アスタさんばっかり責めないでください!わ、私の責任でもあるんです!」
これが10歳の限界だろう。火に油を注ぎかねない、というのをまったく気にしていない。
「ほら!やっぱりあなたじゃありませんの!!」
「じゃがしい!だまってろこのショタコン!」
「な、何ですってー!!」
こうしてお決まりのケンカコースに突入。桜子が100円だ200円だと騒いでいる。
「はいはい、それじゃあ授業も始まっちゃうしみんな席に着こうか」
最後までダンディーにしず哉がまとめあげて、なんとかこの場は収まった。
「そ、それじゃあ、教科書の128ページを開けて下さい」
とうとうネギ先生の初授業である。
ネギが黒板に届かないのを見越してか、あやかの出しておいた踏み台に乗ってカリカリと英文を書き始めた。
範囲は前学期のおさらい。“過去形”の勉強か。さすがに勉強のできないアスタでもそれぐらいはできる。確か、動詞の終わ
りに“eb”をつけるんだ。あれ?“er”だっけ?
まぁ、どうでもいいか。ウチのガッコは大学までエスカレーター。支障はなし。
まき雄、裕也、その他男子諸君、よかったな。いいオモチャが来て。せいぜい彼女にでもできるようにがんばれ。俺はロリで
もないから勝手にやってくれ。
そんじゃ、おやすみなさ~い♪
授業開始から僅か1分足らずで夢の世界へとアスタは旅立ってしまった。
「それで、ココは三人称単数なので・・・って、え?」
ネギは電源の落ちているアスタの方を向いて困惑していた。た、たしかこういうときには、日本ではこうするって・・・
「ラス・テル・ゴニョゴニョ・・・・え、え~いっ!」
ネギは大リーグ並みに大きく振りかぶって、一本のチョークをアスタに放り投げた。
スコーン!とチョークは見事にアスタの脳天を直撃した。しかし、アスタはバイトのため朝が異常に早く、ちっとやそっとで
は目が覚めない。
「えぅっ、え、えいえいえいえいえいえい!え~いっ!」
ネギは手元にあったチョークを一本残らずアスタに投げつけ、なおかつ全弾アスタに命中した。
「ぐはぁっ!?」
これにはさすがのアスタも飛び起きた。口に5,6本、両耳に2本ずつ刺さり、頭部はチョークが刺さりすぎてハリネズミの
ようになっていた。
「な、なにすんじゃい!ガキが!」
口からチョークを抜き取ったアスタがネギに対して怒鳴った。
「えぅっ、で、でも日本ではこうするって、日本のマンガにかいてありましたよ・・・?」
「実際にやるアホがどこにいる!?」
するとあやかが立ち上がり、
「あら、授業中に寝ていた人に反論する権利はなくってよ、アスタさん?」
「ぐっ・・・・」
アスタのひるむ隙にあやかはネギに耳打ちした。
「ネギ先生、あの方には気を付けた方がよろしいですわ。バカのくせに体力は有り余って、おまけにスケベでインラン!」
ネギがえぅっ、と驚いた顔をしたとき、アスタは手元にあった筆箱をあやかの頭めがけて放り投げた。
筆箱は見事にあやかの後頭部をえぐり、あやかはギャフン、と声をもらして、
「ほ、本当のことを申し上げただけじゃありませんの!」
「お、来るか?金髪爆乳」
「!!!!こ、今度こそ本当にセクハラで訴えますわぁぁぁぁっーーーー!!」
とお決まりのケンカコース(本日二度目)。ネギがあうあう言って仲裁しようにも
リーンゴーンカーンコーン
と無情にも終業ベルが鳴った。
「クスン、終わっちゃった・・・」
とネギはげんなりして教室を後にした。
アスタとあやかはクラスの男子からの冷たい視線に気付いて我にかえった。
ひとまずその日の授業は終わり、教室の外に出るとネギとタカミが話していた。
「タカミ・・・私、教員に向いてないのかも・・・」
「まぁまぁ、ネギちゃん。初めは誰だってそんなものよ。私だって通った道よ」
アスタは、今出て行けば明らかに悪者になってしまいそうだったので教室に引っ込んだ。
教室の中では、あやかやまき雄、裕也、和実に美砂雄といった面々が中心で話し合いをしていた。
「お~い、お前ら何話してんだ?」
アスタが聞くと、美砂雄が
「何ってネギちゃんの歓迎会だよ、歓迎会!あわよくばそこでネギちゃんの心ともう片方も頂いちゃおうかと♪」
「美砂雄・・・お前彼女いるだろ・・・?」
「何を!円君!いいかい、幼女を手にするという独特の美的感覚が・・・」
アホな応援団員をほっといて黒板を見ると、それぞれの役割分担が決めてあった。
アスタは“ネギ先生を連れてくる”だった。
「・・・?おい、俺めちゃめちゃ大変じゃんか!」
するとあやかが
「あら、クラス会議に参加なさらない方がいけないんですわよ?」
「まぁ俺もずっと寝てたから詳しくは知んないんだけどね~。」
空が小声で話しかけてきたのがあてつけがましかったので無視し、
「しょーがねぇなぁ!何時につれてくりゃいいんだ?」
と聞くと、
「今から一時間後ですわ。では皆さんはそれまで一旦自由行動。でも、時間厳守、いいですわね?」
クラスのほぼ全員がハ~イ!と元気な返事をして、わらわらと外に出て行った。
「のどか、僕達も部活に一言断ってこないと」
「あ、そうだね。じゃあ私、借りてた本があるから返してくるついでにいってくるね」
「そうですか。ではお願いするです」
と図書館探検部の夕とのどかが話しているのを小耳に挟みつつ、アスタはネギをつかまえにいった。
どこだ。どこにいる!ネギが、ネギが見つからない!!
かれこれ30分ぐらい探しているのだが、いかんせん敷地が広く、一向に見つからない。
あと行っていないのは・・・噴水近くの大階段か?
アスタは自慢の足を飛ばして大階段に着くと、案の定そこには何かを書いているようなネギの姿が木の影から見えた。あれは
・・・生徒名簿か?
しかし、ずっとネギに注目してもいられなかった。なぜなら、階段の一番上のところに山積みの本を抱えたのどかの姿があっ
たのだ。
のどかはもともと体力のある方ではない。それがあんな量の本を抱えて・・・前も見えていないだろう。
アスタの予想は的中した。のどかは、階段を下りる際にズッ、と足を滑らせ、階段の横から地面へと転落してしまった。
しかし、今のアスタの位置では、どんなに足が速くてものどかには追いつかない。この状況での唯一の頼み‐ネギだ。
アスタは祈りにも近い気持ちでネギを見つめると、ネギはハッ、と驚いた表情で持っていた棒をのどかにかざした。
すると不思議なことが起きた。
もともとその“ネギの棒”は包帯のような白い布が巻かれていたのだが、その瞬間にブァッ、と布が取れ、木の地が露になっ
た。
次の瞬間、アスタの体が浮き上がった。というより、そんな優雅なものではなく、体がのどかの方向へと一直線に飛んでいっ
た。
「へ・・・?う、うわぁぁぁーーーーーーっ!!??」
弾丸となったアスタは、ちょうどのタイミングでのどかの体の下に滑り込み、一緒に飛んできた落ち葉と共にクッションとな
ってのどかを助けた。
よかった。最悪の事態だけは免れた。・・・あれ?なんで俺がこんなことに・・・?
「はぁ~っ、間に合った~。近くに木があってよかった~」
いかにも一仕事終えたかのようなネギの声が聞こえた。
「ほほう・・・では俺がココに飛んできたのもキミの仕業かね、ネギ嬢?」
アスタはドスを利かせた声ですっ、とのどかの下から立ち上がると、ネギを光る目で睨み付けた。
「・・・・・!!!!え・・・お、落ち葉だけ集めたハズ・・・なのに・・・!!!」
ネギは驚いて声も出ない、といった様子だった。いや、ホントはコッチが驚くんですけどね。
「ちょっとコッチに来ーーーーーい!!!!」
「えぅあ~~~!!」
とネギを比較的木の多い、ちょっとした雑木林の様なところへ連れて行った。後からのどかが呼ぶような声が聞こえたが、か
まっている場合じゃなかった。
アスタはネギの襟首を持って木に押し付けて、
「てんめぇ~~~~っ!!やっぱりニュータイプじゃねぇかぁ~~~っ!!」
と怒鳴りつけた。
「えうっ、わ、私はそんなんじゃなくて、一介の魔法使いですよぉ~!!」
「大差ねぇよっ!!!・・・・ん?j、じゃあ昨日のあれもそのマホウとやらかぁーーーっ!!!」
「うぅっ、ひ、ヒミツを知られたからには・・き、記憶を消させていただきます!」
「な、なにぃ!」
「反作用でちょっとパーになりますが・・・ラス・テル・マ・スキル・ゴニョゴニョ」
ネギの杖の先は明らかにアスタの方を向いていた。やばい・・・や、やられる!!
そう思ってアスタはぐっ、と目を瞑った。
しかし・・・何も起きていない・・?アスタが目をそぉっ、と開くと、そこには昨日よりも激しく、なんと全裸のネギがいた
。
「あ、あれ~っ!?な、何でなのぉ~っ!?いやーっ!!」
何度も言うが、アスタはロリではない。しかし、とびきりの美少女が全裸で、必死に見られたくないところを隠して恥らって
いるところを見ると、さすがに鼻血が垂れた。
「お、おい!俺は何にもしてねぇからな!へ、変なこと言うんじゃねぇぞ!!」
「あ~ん、わ、私の貞操が大ピンチ~!誰か助けて~!!」
「ち、ちげぇってえの!!」
詳しく状況が分からない中、アスタは自分なりに精一杯話しているつもりだった。
「あら、騒がしいわねぇ。何かあったの?」
と、木陰からタカミがひょっこり顔を覗かせた。
状況最悪。
全裸の美少女に比較的美形の少年。しかも少年が少女を追う形。
間違いなく警察行きを確信したアスタであった。しかし、
「あ・・・あははは、アスタ君、気にしなくていいのよ。その・・・た、大した事じゃないからね!あ、後このことは誰にも
言わないでね。私も言わないから!、じゃーねー!」
と、明らかに何かを恐れているような様子で走り去って行った。
俺か?俺が怖いんか?そんな見境なく俺は襲ったりしないって~。
でも・・・とりあえず誰かに喋られることはなさそうだ。
ならば、最大の懸案事項を片付けようじゃないか。
ネギはいつの間にか新しい服を着ていた。これが・・・“魔法”か・・?
「このさいだ。細かいことはあまり聞かん。だが教えてくれ。お前の・・・魔法使いの目的はなんだ?侵略か?」
「い、いえ。し、修行です。マ、マギステル・マギになるための・・」
「?マギ・・・?それは何だ?」
「こ、困っている人たちの為に影ながら魔法で力になる人たちのことです。普段は国連のNGOとして・・・」
「ほぉ・・・・。じゃあ魔法がバレるとどうなるんだ?」
「し、修行打ち切りの上にオコジョにされて強制収容所送りになっちゃいますよぉ~!!」
アスタは意地悪くニヤリと笑った。
「はは~ん、んじゃ、俺が喋っちまえばお前はオシマイな訳だな?」
「ア、アスタさん!私、何でもしますから!それだけは!それだけはぁ~っ!」
何でも!?とアスタは思ったが、やはり止めておくことにした。
ネギは純真な目から大粒の涙をこぼして嘆願していた。こんな目で見られたらそんなこと言えるわけがなかった。
そのかわり、とアスタは内心つぶやいた。
今までは魔法なんてありえないと思い続けてきた。が、それと同時にあったらどんなに楽しいだろうとも昔は考えていた。
幼い日の記憶がアスタの口をこじ開けて喋り始めた。
「じゃあネギ、一つお願いしようか」
「ハ、ハイ!何ですか?」
ネギはどう見ても泣きながら脱ぐ準備をしている。アスタは軽く傷ついた。
「お、俺を・・・俺をお前のその面白そうな世界に入れてくれ!それでそのマギ・・なんとかになるのに協力させろ!それで
許してやる!」
ネギは目を丸くした。予想だにしなかった要求だったのだろう。
「あ・・・ハイ!アスタさん!こちらこそよろしくお願いします!アスタさんってすごく優しいんですね!」
アスタは少し顔が赤くなるのを感じた。あれ?俺ってなんで顔赤くしてんだ?
「そんなアスタさんに敬意を表して“お兄ちゃん”と呼ばせていただきます!」
ネギが余りに大真面目にそんな事を言うのでアスタは吹き出した。
「やめんかぁーーーっ!!(笑)」
アスタはやっと当初の目的を思い出し、ネギを教室へと連れて行った(OK,制限時間3分前だ)。
「さぁ、ネギ。ドア開けてみな」
そう言われてネギは小さく頷き、ドアを開けた。
「ようこそ!ネギ先生!!」
の大きな歓声と共にクラッカーが教室の至るところで爆発した。
ネギは明らかに驚きを隠しきれなかった。
「え・・・み、皆さん・・・私なんかの為にこんなパーティーを・・・?」
そう言ってネギは感激の涙を流した(涙腺ゆるいやっちゃなぁ、とアスタは思った)。
「何言ってんの!だって今日からこのクラスの担任だよ?当然じゃんか!」
と大きな声はお馴染みの桜子。他にも、皆から暖かい言葉を受け取っていた。
「ま、これからよろしくね!」(by空)
「いたずら連中に気をつけて頑張れ!」(by夏)
「・・・よ、よろしくね・・・////」(byアキラ)
「短い間でも、よろしくお願い致しますわ」(byあやか)
「う~む、もよおしてしまったアルよ・・・」(by菲)
「ハァ、ハァハァハァ・・・萌える・・・」(byまき雄&裕也&美砂雄)
等等。
パーティーは随分豪勢なものだった。クラス内に五月と超という凄腕料理人を抱えるA組ならではだ。
しず哉とタカミも同席していた。後から聞いたのだが、しず哉はネギの指導教員らしい。
タカミはどういった反応をするのかが気になっていたが、案外いつもと変わらなかった。
教室の前の教壇のところでそれぞれが個性にあったパフォーマンスをしていた。今はハルナの似顔絵描きを黒板にやっていた
。見た感じ楓だろうか?結構上手だ。さすが漫研。
アスタが座っていると、ネギがテクテクと走りよってきた。しかし、ネギが口を開くより早く後から声が聞こえた。
「あ、あの~アスタさん、ネギ先生~」
振り返るとそこにはのどかがいた。
「さ、さっきはあぶないところを助けていただいて・・・その・・こ、これお礼です・・図書券・・////」
「あ・・・い、いや~、その・・・////」
よくよく考えたらのどかの体とぴったり密着していたのだ。顔はよく見たことはなかったが、声はとびっきりかわいい少女だ
。
すると、
「おーっと!本屋がセンセに賄賂送ったよー!」
「いや、あれアスタに渡してる!」
「お、ということは・・・?」
「本屋フラグキターー!!」
のどかが非常に困っているというのがこいつらには分からないのだろうか?のどかは
「へっえうぁ・・・し、失礼しますーー!!////」
と叫んで走り去ってしまった。
「おい、おめーら!!」
「いやぁ、悪り悪り。まさかあんなにオクテとは思わなくてなぁ」
美砂雄が苦笑混じりに言った。
「あの~、アスタさん」
脇にいたネギが話しかけてきた。
「お、どうした?」
「アスタさんって彼女いるんですか?」
「!!!!」
アスタはイタい所をえぐられて一瞬固まってしまった。
「ネギ子!中学さえ行けば自然と彼女なんてできるって信じてたんだぜ!なのに全然モテないでここまで来ちまったよ!!」
「へぅぁっ、ご、ごめんなさーい!?」
しばしの沈黙。クラスメイトの騒ぐ声がよく聞こえる。
「で、でもアスタさん・・・」
ネギが10秒ぶりに口を開いた。
「少し待って頂ければ“ホレ薬”なんていうのも作れますよ?」
「・・・いや、いいよ。そんなもんは」
ネギは想定外の答えに驚き、
「え?な、何でですか?」
と聞いた。
「いや・・・。恋人作りぐらい魔法に頼らずに自力でやってなんぼ、だと思うんだよな、やっぱり」
アスタが思うままのことを言って、ふとネギの方を見ると、ネギはボロボロ感激の涙を流していた。
「うおっ!?」
「や、やっぱりアスタさんはすごい人です!お祖父ちゃんが言ってました!」
ネギはケホン、と一つ咳払いをして続けた。
「“わしらの魔法は万能じゃない。わずかな勇気こそ本当の魔法じゃ”って!」
アスタは少なからず心を動かされた。“わずかな勇気”か・・・。
「やっぱりアスタさんはカッコいいですー!是非“お兄ちゃん”と呼ばせて下さいー!!」
突然ネギは座っているアスタのひざの上に飛び乗ってきた。
「うわっ!?ち、ちょっと待てお前!////」
パシャッ
突然、アスタの横からカメラのシャッターをきる音がした。
「じゃ、こんどのまほら新聞の一面、いただきます♪」
そこには、報道部のパパラッチ、朝倉和実を始め、あやかや桜子、風香といった面々が並んでいた(目を吊り上げた男衆もい
た)。
「なっ!!!!」
アスタは完全に頭の回転が止まった。
「ア、アスタさん~!!あなた、こんないたいけな少女をたぶらかして~!!!」
「違うっ!誤解だあやか!!」
「なっ、突然名前で呼ばないで下さい!!」
「ほ、ほら!おま・・・先生からも何か言ってやって下さいよ!!」
「へっ!きっ、記憶を失え~っ!!!」
「やめんかぁーーーーっ!!!」
「アハハハ、もう二人仲いいじゃん!」
「抜け駆けは許さん!!!」
歓迎祭はまだまだ続きそうだ。アスタはテンションの配分を考えた。
「・・・なんか今日はめちゃめちゃ疲れたな・・・」
歓迎祭が終わり、学校から出て、電車で帰って、駅から降りての寮までの帰り道、夕日の中アスタは横を歩くこのかに呟いた
。
「そぉ?でも、結構楽しかったやん」
このかはにっこり笑って答えた。
「あぁ・・・たしかにな」
アスタは沈みかけた夕日の方を見て続けた。
「それでもって、これからも・・・な!」
「うん!何かネギちゃん来てクラスが明るくなったやん!」
アスタとこのかは寮の自分の部屋へ入った。
「ただいまー」
「あ、おかえりなさ~い」
え?今なんて?住人の俺もこのかもここにいるよ?まさか・・・あの声は!?
案の定、そこにはテレビを見ながら緑茶を啜ってくつろぐネギの姿があった。
「おいおい!なんでおまえが俺らの部屋にいる!?」
アスタが大声で叫ぶと、
「えぅっ?わ、私は学園長先生に言われてここに泊まることになったんですが・・・」
アスタは目を見開いてこのかの方を見た。
「あぁ、ごめんなー、アスタ。アスタが気絶しとるうちにおじいちゃんと決めといたんよ」
「勝手に決めるなぁぁぁーーーーーっ!!!」
するとネギが
「ア・・・アスタさん、私がいちゃダメですか・・・」
と半泣きで聞いてきた。
「あ・・・い、いや!そういうことじゃなくてだな・・・」
「わ~い、やっぱりイヤじゃないんだね!アスタお兄ちゃん!!」
そう叫ぶと、ネギはアスタの胸に飛び込んできた。
一つ、惜しむべきは、ネギの頭(石頭)がアスタの腹を直にえぐったことだろうか。
「ごはぁっ!!??」
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫か、アスタ?」
しばしの沈黙。そして、ネギ自身がフフッ、と笑った。
「ん?ネギちゃん、どうしたん?」
「いえ・・・。私・・・きっと頑張って見せます!先生としても、ゴニョゴニョとしても!」
アスタが行き還って、怒鳴った。
「ちくしょーーーー!!!てめーーら楽しすぎだーーーーーーー!!!!!!」(やけっぱち)
こうして、神楽坂明日太のささやかな学園生活は終わりを告げ、魔法全開のマジカル・ワールドが、眼前に広がっていた。
一時間目、終。
2時間目 ドッキリ図書室危機一髪!?
耳元で声が聞こえる。
はて?俺は何の夢を見てたんだっけ?昨日買ったばっかのエロ本の巨乳美人がでてきたような・・・
「ゴニョゴニョ」
よく聞き取れない。何だか暖かいな。冬場の今にゃちょうどいい。
「お・・・ちゃん・・・」
ちょっとはっきりしてきたな。・・・・え?人!?
「お兄ちゃん・・・」
「うおおぁぉおぉぁああぉぁあっっっ!!!!???」
神楽坂明日太は、自分の口の中に生暖かいナマコのようなものが侵入してくる感覚で目を覚ました。
見てみれば、横には美幼女‐新担任、ネギ・スプリングフィールドがすやすや穏やかに眠っていた。
不覚
アスタには今、その言葉しか浮かばなかった。
部屋のソファーを貸してやったから、まさかこっちに来るとは思わなかった。しかし、その油断がアスタの大切なファーストキスを亡きものとしたのである。
(・・・もっと顔が悪ければ張り倒してるぞ・・・)
アスタは口中苦々しく吐き捨てた。
「ん・・・お・・兄ちゃ・・・ん・・・?」
ネギが目を覚ましたようだった。
「ったく、何でお前俺のベッドに入ってくるかな?夢遊病か何かか?」
アスタが着替えながら聞くとネギは絶句した。
「・・・・っ!!」
「ん?どうした?具合でも悪いか?」
「ア・・・・!アスタさんが!夜中に私をベッドに連れ込んでますー!!助けてー!!」
ネギのあらぬヘルプコールは寮全体をたたき起こすほどの大きさだった。ただ一つ救いだったのは5時というじかんのため、誰も正確に聞き取れなかった、ということだろうか。
「なぁっ!?な、何言ってんだてめぇ!!」
アスタとネギが朝っぱらから追いかけっこをしていると、さすがにこのかも目を覚ましたようだ。
「ん~、朝から元気やなぁ、二人とも。それよりアスタ、バイトいかんでええの?こんな時間やけど」
アスタはバッ、と時計を振り返り、
「やっべぇっ!!行って来るな、このか!」
と言い残して飛び出していった。
「え?どうしたんですか、アスタさん」
「ん~、バイト。それより朝ごはん作ったげよな。スクランブルエッグと目玉焼きとどっちがええ?」
「あ・・・、じゃあ目玉焼きで」
「了解~♪」
アスタの出かけた後、いつも一人だったこのかは、いつもと違う朝に少しだけ嬉しかった。
「ったく、てめぇのせいでバイトも遅れたしよぉ!」
「えぅっ、わ、私のせいですか!?」
「あったりまえだろ!!」
「二人とも仲ええなぁ」
「「よくない!!!」です!」(ん?ハモったな)
相変わらずアスタたちは登校は遅いが移動は速い(実際は、ローラースケート、魔法、肉体の三つをそれぞれ使っているが)。
「なぁ、ネギ、魔法がばれたらどうなるんだっけ?」
「あ、それは・・・収容所に入れられてオコジョにされちゃいます・・・」
「実はな、人間界ではそれとは別に火あぶりの刑もあるらしいぜ~」
「えうぁっ、ほ、ホントですか!?」
冗談半分で言ったのだが、思いのほか効き目が大きかったようだ。
「・・・冗談だよ。だけどなぁ、あんまり思い上がると俺が世間に通報したくなるかもしれないからよ~く注意するように」
(・・・うぅ、私、先生なのに・・・)
教室の中は毎度の事ながら騒がしい。隅の方で空がのどかから何かの雑誌を買っていた。内容はいうまでもなし。
「・・・空、なんだそれは」
アスタも少し気になるので尋ねると、
「ほら、これこれ!ホ○ップの最新号!今月のは夏目ナナちゃんの特集だぜ?」
「・・・本屋ちゃん、在庫あるか?」
「は、はい~、五百円になります・・・///」
・・・平和なもんだ。アスタはあやかの刺すような視線は気付かないフリをして座席につき、それを読みながら思った。
リーンゴーンカーンコーン×2
いつものように始業ベルがなり、ネギが昨日より幾分落ち着いた様子で入ってきた(アスタはサッ、とすばやくエロ本をしまった)。
「は~い、み、みなさん!今日からはちゃんと授業しますからね!これ、貼っときますよ!」
ネギがそう言って取り出したのはセロテープと紙。ネギは黒板の上にその紙を貼った。紙には
{A組、全員トップクラスに!!}
と書いてあった。
「私の担当する以上、皆さん全員優等生になってもらおうと思います!いいですか?」
ハーイ!!、これはクラスの声。
ハ~イハイ、これはアスタの声。
「それじゃあ教科書の72ページを開けてください」
その日のネギはかなり頑張っているように見えた。アスタも少し聞いてみようと思って起きていると、高畑先生ほどでは無いが、そこそこ分かりやすい。
「ん具らgrじゃtgれじょいgんshtれtんhjzmyhktjうぃtjりjtrwj4あい」(アスタにはこう聞こえる)
・・・英文を読まれても理解はできん。せめて日本語の説明を聞いていれば何とかなるだろう。次のテストこそ十点台脱出だ!
アスタは先のこと考えたが、目の前の試練に、どうやらそうもいかなくなった。
「えっと、それじゃあ今のところ、だれか訳して下さい」
クラス中に緊張が走る。学生ならば誰もが経験するであろう瞬間。
目立つといけないので目だけ動かすと、クラスメイト一人ひとりの状況が目の端に見えた。
余裕綽々で笑っているこのか。
外を眺めるフリをする空。
うつむいて屈んでいるアキラ(年上から絶大な人気を誇っているらしい。たしかに、男ながらにカワイイとは思う。いや、変なイミじゃなくてだな・・・)。
鼻から寝ている龍宮(・・・やる気ねぇなぁ。でもこんな奴に成績負けてる俺って・・・)。
何かコッチの方にオーラ飛ばしてる桜咲(俺か?俺が何かしたんか?)。
そして、息を止めて、ハ○ター×○ンターで読んだ“絶”状態の俺。
「それじゃ、アスタさんお願いします」
嗚呼、もろくも敗れ去ったか。裕也のガッツポーズが目に入ってウザかった。
「ちょっと待て!何で俺だよ!?今日は8月でも8日でもありませんよ!?それに俺は“神楽坂”ですよ!?」
するとネギがにっこり笑って
「だってアスタさん“ア”じゃないですか」
「アスタは名前だ!!」
こんな漫才的なやりとりをしていると、横からあやかが
「要するに分からないんですわね、アスタさん?ネギ先生、それならクラス委員長のこの私が」
これにはアスタもカチーン、ときて
「な、何言ってんだ?俺にこの程度ができないとでも!?」
と大見得きってしまった。
「それじゃあ、アスタさん、お願いしまーす」
「よぉし、分かった!」
・・・さて、どうしようか。分かるのは冠詞の「a」ぐらい。はっきり言って宇宙語の羅列にしか見えない。
「え、えぇ~っと、フレディがジェイソンの・・・・を・・・して・・くぁw瀬drftgyふじこlp;@:「」・・・・?」
まさしくアスタこそ宇宙語を話しているような格好となり、
「アスタさん・・・英語ダメなんですねww」
とネギが笑った。コレがクラスに火をつける結果となった。
「センセ、アスタは英語だけじゃなくて数学もダメですけど・・・」
「国語も~」
「理科・社会もネ♪」
いいたいほうだいだ。するとあやかが
「ま、要するにバカなんですわ!優秀なのは保健体育ぐらいで・・・」
「性格がでてるわなぁ」
アスタは耐え切れずにネギに詰め寄った。
(てんめぇっ!!俺に逆らうなって言ったばっかじゃねえか!マジでバラすぞ!?)
(えっ、で、でも答えられないのはアスタさんのせいじゃ・・・)
ネギはそこまで言って言葉を切った。ハッ、ハッ、ハッ、というくしゃみ直前の特有の声がアスタには聞こえた。アスタの髪の毛が鼻に入っただろうか?
当然のことながらアスタは真っ青になった。あれ?いつもの通りだとこのあとは・・・・!!
「ハックション!!」
ネギとアスタの並んでいる一直線上にブアッ、と一陣の風が吹いた。その後は、お約束。
突風で服をはじき飛ばされ、下着姿のネギの上に、同じく突風に足をすくわれたアスタが覆いかぶさってしまった。傍目にはさながらアスタが押し倒したようにしか見えない。
「ち、ちょっとアスタさん!?何をしてるんですの!!??」
あやかの怒鳴り声でクラス全員がアスタの方向を向いた。もちろん、誰もが息を呑んだ。
「・・・・円」
「・・・・どうした、美砂雄」
「・・・・クラス全員に告ぐ。・・・殺れ!!」
「オォーーーッ!!!」
こうなっては相手が男か女かなんて関係ない。ただただ鉄拳の嵐。
(こ・・・・殺す!!!)
薄れ行く意識の中、アスタはただそれを思ってネギを睨み付けていた。(ネギはひるんだ。効果は抜群だ!)
「あぁ~っ・・・#」
文字通り身も心もアスタはボロボロになっていた。とりあえず授業中はずっとネギに殺意を向けていた。ネギも結構参っている様に見えた。
「あ、あの~、大丈夫ですか?アスタさん・・・」
「お?」
アスタが声の方を向くと、そこには絆創膏と傷薬を持ったのどかがいた。
「あぁ、何とかな~」
アスタは力なく返事をした。
「あ、あの、絆創膏とお薬持ってきたんで・・・その・・・て、手当て・・・しますね・・」
「お、悪りぃな~、サンキュー♪」
のどかが手当てしてくれている間、二人は無言だった。さすがに気まずさを感じたアスタは、のどかを見つめて、あることに気がついた。
「お?本屋ちゃん髪型変えたのか?ごめんなー、さっき気付かなくて」
そうすると、どこからかハルナと夕がすっ飛んできて、
「でしょでしょ?この娘可愛いのに顔出さないのよねー」
と言いながらのどかの前髪をめくり上げた。
「あ、ホントに可愛い・・・」
アスタが思ったことをそのまま口にすると、のどかは
「・・・・!!」
と顔を真っ赤にして走り去っていってしまった。
「あーもう!のどか、待ちなさーい!」
二人はのどかを追いかけに行ってしまい、後にはアスタだけが残された。
「・・・あれ?バンソーコー途中じゃね?」
そのころ、ネギ‐
「はぁ~っ、またアスタさん怒らせちゃったなぁ。・・・せっかくこれから頑張っていくって決めたのに・・・ん?」
ネギは、生徒名簿を探してカバンをゴソゴソやっていると、あることに気がついた。指先に細長いスティックのようなものが触れたのだ。
「こ・・これは・・・!魔法の元丸薬七色セット(大人用)!」
ネギがそう言って取り出したものは、細長いガラスの小瓶に入った七色の丸薬だった。
「お兄ちゃんが荷物の中に入れてくれたんだ!よ~し、これでアスタさんの・・・」
そこまで言ってネギはふと思いとどまった。アスタの言っていた言葉を思い出したからだ。
(いや・・・。恋人作りぐらい魔法に頼らずに自力でやってなんぼ、だと思うんだよな、やっぱり)
「・・・うん、でもアスタさん・・・私にできることはこれぐらいです・・。私、やります!」
そして、昼休み‐
「アスタさーん!!できましたよー!!」
ネギはそう叫びながら教室に入ってきた。手には不審な小瓶が握られていた。
「あ?できたって何が?」
「アレですよ、ホレ薬!とうとうできましたよ!」
アスタは面食らった。正直、本当に作ってくるとは思わなかった。
「・・・いらねぇっつっただろ?使わんぞ、んなもん」
ネギは驚き、
「えぅっ、で、でもホントに効くんですよ~?ちょっとでいいから、ね?ね?」
と言い寄ってきた。
「いらん!いらん!ここで貰ってしまってはカッコがつかん!」
「ね~え、一口!一口だけ~!!」
ネギとアスタの追いかけっこがまたまた始まった。
「もうっ!ラス・テル・マ・スキル・ゴニョゴニョ!」
「うおおおおぁぁぁっ!!!???」
デジャ・ビュ。アスタはまたネギの元へと飛び寄せられてしまった。
「言うこと聞かない子はこうですっ!」
ネギはそう言うと、アスタの鼻をつまんで、小瓶を口の中に突っ込んだ。
「○▼×?@‡〃;7え⑲Q伀!!!!」
アスタは声にならない叫びを上げ、小瓶の中の薬を完全に飲み干してしまった。
「・・・あれ?」
アスタは涙目でゲホゲホいっていた。
「ゲホゲホゲホッ、・・・ん?どうした?何ともなんねぇじゃねえか?」
「お、おっかしいなぁ~?ホントならこれぐらいで・・・」
後から突然、このかの声が聞こえた。
「な~んか、アスタってよぉ見たらめっちゃカッコええなぁ~」
そう言うと、このかは
「ん~(はぁと)」
と喉を鳴らしながら頬ずりしてきた(何か桜咲から殺気が飛んできた気がするが、あえてスルーだ)。
「うわっ!?こ、このか!?」
アスタはこれだけで十分動揺しているのだが、さらに追い討ちのようにあやかの声まで聞こえてきた。
「こ、このかさん!?いくら同級生で幼馴染とはいえ、校内でそのようないかがわしい行為を・・・」
そこまで言って、あやかは言葉を切った。アスタが見ると、目が完全にハート型になっていた。
「ア、アスタさん・・・是非これを・・・・(はぁと)」
そう言ってどこから取り出したか、バラの花束をアスタに差し出した。
「な、なぁネギ。こ・・・これってもしかして・・・」
「え、ええ。効いて・・・ますね・・・」(ネギの心の声:お、おっかしいなぁ?メチャメチャ強いの作ったから世界中の人が寄ってくるハズなんだけど・・・?よ、弱められてるの?薬が?)
ネギの心配をよそに、そこそこ効いている薬は、桜子、美砂雄、円らの応援団を招きよせた。
「ね~え、アスタ~、家庭科コレでつくったの~!食べてみて~!」(桜子)
「アスタ!許されることでは無いにしろ・・・・俺はっ!お前が好きだっ!!」(円)
「アスタっ!!やらないかぁーーーーっ!!!???」(美砂雄)
人間、死を予感するというのはこういうことだろうか?とっさの判断でアスタは群集の中から這い出して廊下を全力で走った。
「うおおおおっぁぁぁぁぁっううううおおおぁっ!!!!」
後ろから聞こえるのは死神の足音にしか聞こえない。少なくともアスタにはそうだった。
全力で逃げていると、途中でのどかに出くわした。
「ど、どうしたんですかー!?」
「や、やべぇんだ!このままじゃウホになっちまう!」
「こ、コッチに来て下さい!こっちなら安全ですから!」
そう叫んでのどかはアスタの手をとって走り出した。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・・」
アスタがのどかに連れられて逃げ込んだ先は、中等部校舎にある図書室だった。扉は厚いし、バカデカイ南京錠もあったからしばらくは平気だろう。
「こ、ここは昔、ヨーロッパの建築家が建てたといわれています。あ、でも大学部の方の図書館島はこれの数千倍も大きくて・・・」
のどかがしどろもどろに説明してくれている。
「本屋ちゃん、結構物知りなんだな」
しかし、のどかはそれには答えなかった。その代わり、アスタの最も望んでいないことが起きようとしていた。
「ア、アスタさん・・・その・・・私、アスタさんと・・・」
サァーッ、これは血の気が引いた音。そりゃそうだ。本屋ちゃん一般人ジャン。なんでこの娘だけ薬が効かないなんてことがありますか?そして、内側から鍵をかけたここは完全迷宮。The・end。
「アスタさ~ん(はぁと)」
「いやぁぁぁ~っ!?」
本棚の上を追いかけっこの形になった。はて?本棚の上って走ってもよかったっけ?とっても重心が悪いような・・・?
アスタの直感は見事に的中し、二人の乗っている本棚がぐらっ、と右に向かって倒れてしまった。
「「いやぁぁぁぁっ!!!!」」(お、ハモってる♪)
ズン!と大きな音を立てて二人は崩れ落ちた。
「っつたたたた・・・大丈夫か?」
アスタがそう言いながら顔を上げると、そこには真っ白な空間が広がっていた。
そこから視線を上に上げていくと・・・スカートがあって、ワイシャツがあって、のどかの顔があった。
え!?ということはさっきの真っ白って・・・・!!
しかし、アスタがそれを再確認するまもなく、
「ひゃっ!!///」
とのどかは股を閉じてしまった。そして、それと同時に、一時は保っていた体の水平が崩れ、また横向きに倒れこんでしまった。
どれくらいの時間が経ったろうか。一時間かもしれないし、案外2,3分かもしれない。
二人は、アスタが仰向けに、のどかがその上に覆いかぶさるような形で見詰め合っていた。
「お、お~い・・・・本屋ちゃ~ん・・・?」
「は、はい~・・・・」
さっきからこのやり取りばかりだ。
「そ、そろそろ退いてもらえねぇか・・?ほ、ほら!午後の授業残ってんじゃん!」
「は、はい~。そ、そうですね~・・・」
のどかはそう言うと唇をアスタの方に近づけてきた。
「ち、ちょっと待った!さ、さすがにヤバイだろ!?なぁ?」
「は、はい・・・そうですね・・・ごめんなさいです・・・・」
なおも唇は接近してきているが。
のどかの前髪は完全に横に逸れ、可愛らしい顔がよく見えていた。
アスタは思った。
絶対に自分に彼女なんかできるわけないと、いままでそう考えていた。しかし、今は違う。こんなにも近くに相手がいる。俺は・・・変わるんだ!!
アスタは決心した。のどかの何もかもを受け止めると。
二人の距離は、唇の距離以前に、心の距離においてはこのとき、一つとなっていた。
唇の重なり合うまで、5,4,3,2,1・・・・
そして・・・・・
アスタはのどかの頭をしっかり両手で押さえて、すんでのところで突っ張っていた。
「けっ・・・結局クスリの力借りてんじゃんかよぉーーーーーっ!!!!!」
そう叫んだアスタがフリーの左足を振り回すと、ゴッ!と別の本棚にヒットし、そこから降ってきた本がのどかの後頭部に降り注いだ。
「ぺぷぷぷぷぷぷぷぷぷ!?」
のどかはそのままの格好で気絶してしまった。
アスタは何とか貞操を守りきり、のどかの下から這い出した。
「ハァハァ・・・・可愛いけど・・・クスリはダメだぜ・・・・嬢ちゃんよ・・・・」
そのとき、ガチャッ、と音がして扉が開いた。アスタがビクッ、として見てみると、そこにはネギがいた。
「いや~、よかったよかった。無事だったんですね、アスタさん!あの薬をレジストできるなんてすごいじゃないですか!」
ネギは本当に悪気なさそうに喋っている。その内容は不可解な点も多い。しかし、今のアスタにはそんなことを考えている余裕はない。彼のするべきこととは、今は一つしかない・・・!
「ネ~ギ~娘~####」
「えぅっ!?わ、私何かしました?」
「gれうtjy5里j下jt58う6wj地3jtrjtるちw4jr3924う43tj9q5い43い5493バカネギーーーーーー!!!!!!」
「いやぁぁぁぁっぁ~っ!?」
その日の帰り道‐
「なぁ~、アスタ~、な~んか今日一日ボヤ~っとするんやけど~?」
「あ、あはははは!き、気のせいだろ!ま、今日は早めに寝ろ!」
やれやれ、“まほー”とやらの隠蔽も大変だな。
ちらっと目をやると、ネギは黒いマジックでまたもや生徒名簿に何かを書き込んでいた。
「何書いてんだ?」
そう言ってアスタがネギから名簿を取り上げると、
[8番・神楽坂 明日太:変態。何度も脱がされる。寝室への侵入もあり。28番との淫行疑惑あり。]
の文字が。
激しく打ち震えるアスタ。二人は声をかけてくる。
「あ、あの・・・・アスタさん・・・・?」
「ん?ど~したん?アスタ~」
5,4,3,2,1、ファイヤ。
「何書いてんだよぉぉぉぉーーーーーーーっ!!!!!!」
2時間目・終。
3時間目 おふろでキュキュキュ♪
「だから、口に出して、手で書いて覚えるのが一番なんですよ!ホラ、run,ran,run,running!」
もう20コ目の単語だ。いい加減飽きても来るさ。
アスタは、ネギに付きっ切りで不規則動詞の活用形を教えてもらっていた。
「アスタさん、聞いてますか?アスタさんの為にやってるんですよ?」
ホントにやる気ありみたいだな。このネギ娘。ま、ちょっとぐらい付き合ってやるか。こいつも大変そうだし。
そのとき、ピンポーン!と呼び鈴が鳴った。
「だれだよ?もう8時じゃん」
「はーい、いまでるえ~」
食器をしまっていたこのかが表へ出る(同室がこのかで本当によかった。これで家事全般完全不可の空なんかと一緒だったら・・・おぞましい)。
「こんばんはー、ネギ先生ー!授業の質問に参りましたー!」
元気よく部屋に入ってきたのはハルナだ。後から夕とのどかもついて入ってきた。心持ち、のどかはおずおずと入ってきたが、アスタは「run」と格闘しているので気が付かない。
「あ、早乙女さんに綾瀬さん、それに宮崎さんも・・・」
ネギはどうやら「生徒が質問に来る」ことは教師のステイタスと考えているようだ。事実、非常に嬉しそうな顔をしていた。
「じゃあ、アスタさんもこっちに来て一緒に勉強しましょうか。その方が効率もよさそうですし」
いつのまにやら、このかがセットした四角いテーブルの周りに5人は座り、その日の授業内容のおさらいが始まった。
「このかー、私ジンジャーエールのいっちゃんキツいヤツー♪」
・・・上流ゆえの余裕か、ハルナはただ付き添ってきただけといわんばかりのやる気の無さだ。
ピーンポピーンポピーンポーン!!
外でまた誰かが呼び鈴を押した。今度はかなり連打しているようだ。
「はいな~」
とこのかがドアを開けると、
「ちょっとアスタさん!ネギ先生と相部屋で同居中なんて初めて聞きましたわ!あなたでは何か間違いを起こしかねませんわ!即刻対処を求めます!!」
と、目を吊り上げたあやかが入ってきた。
「あや、ええとこ来たな、いいんちょ。いまちょーどみんなで勉強会はじめたとこや」
「えっ?勉強会?」
あやかはそう言ってぐるりとメンバーを見渡すと、
「・・・分かりましたわ。夕さんはまだしも、アスタさんをこんな女性比率の高いところにはおいておけませんわ。ここは私もアスタさんの検分役として・・・」
と少し赤くなってテーブルの空いているところに座った。
「おいおい、俺はそんなんなんか?お前のイメージの中で#」
アスタの反論は無残にもスルーされ、のどかの質問から会が再開された・・・かに見えたが、
「おーい、そこのチョコとってー♪」
「このかさん、私にもジンジャーよろしいですか?」
「あ、じゃあ僕も・・あ、水で結構ですので・・」
・・・各人が思い思いの言動に走ってしまったようだ。さすがにアスタも
「・・・・人の部屋で宴会してんじゃねぇーーーーーーっ!!!!!!」
とブチ切れて、来客を全員表へ放り出した。
「・・・あ~もう、明日もバイトあるんだから大変なんだよ、コッチは#」
「あははは、でも中学生の人たちはみんな一緒にいるんですね」
「そりゃそうだ、ココ中学生寮だからな。俺ら二年は5,6階にみんないるんだよ」
このかはどこからか、寮内の案内図を持ってきてネギに見せてあげていた。
「へぇ~、展望台とかもあるんですね。今度案内してもらえませんか?」
「ええよ、喜んで♪」
アスタは「run」との戦いを終えて、「come」との新たな戦いに赴こうとしたとき、あることに気が付いた。
「・・・なぁ、ネギ。お前、ミョーに臭くねぇか?」
ビクッ!とネギが固まった。・・・何かある!
「その・・日本に来てから色々忙しくて・・・」
納得いかない。アスタがなおも睨み続けると、ネギはこのかに何事か耳打ちし始めた。
「え?何?ネギちゃん風呂嫌いやて?」
このかがそれとなくアスタに伝えた。
「・・・ガキが風呂嫌いなんて言ってんじゃねぇーっ!嫁の貰い手無くなんぞ!?ちょっとコッチ来い!!」
「あうぅ~っ、た、助けて~!」
ネギの嘆きも空しく、アスタに頭をガッシリ捕まれて、大浴場(涼風って名前。どっかで聞いたような・・)まで連行されてしまった。
「ア、アスタさん!?何ですか、それは!?」
「いいから早くしろ!人が来るだろ!?見ないでおいてやるから、ホラ、早く!」
「うぅ・・・じゃあ・・そうしますね・・・」
「・・・どうだ?準備できたか?」
「はい・・・何とか・・・でも、これからひょっとして・・・」
「分かってんだろ?じゃあ・・・いくぜ・・・」
「えぅっ、ち、ちょっと待って下さい・・まだ・・・心の準備が・・・」
「うるせぇっ!せーのっ、それーっ!」
ザッパーン!という大きな音を立てて、ネギはアスタに放り投げられて、大浴場の湯船に墜落した。
大浴場の中は立派なもので、寮生が多いためか、ものすごく広い。
「うう・・・それにしても、何でアスタさんこんなもの持ってるんですか?」
ネギの体には、しっかりと女子用スクール水着が着用されていた。少し大きいのが気になるが。
「ん?あぁ、それな。このかから借りてきたんだよ。あいつ、小柄だからまだ何とかなるだろ?」
同じく、海パン姿のアスタが答えた。
「んじゃ、時間もないし、さっさと髪洗わせてもらうぞ」
「んにゃぁ~っ!」
とネギが叫んで逃げ惑った。しかし、アスタの足に敵う訳も無く、あっという間に捕獲されてしまった。
「ホラ、目つぶって」
「あうぅ~」
ネギを桶の上に座らせて、アスタはシャンプーでガシガシとネギの長髪を根本から洗い始めた。
「お前さぁ、ホントに10歳か?髪も自分で洗えないで」
「はい~、数えでちょうど10歳・・・」
「数えでって・・・・お前9歳!?ますますガキじゃねぇかよおーーーーっ!!!」
アスタの髪を洗う手が激しくなった。ネギの毛根がいくらか死んだに違いない。
「いたたたたあたたたったったったったたったーーーーっ!!!!」
「明日もバイトあるんだからさっさと終わらせるぞ」
ネギは、その発言を受けて、気になっていたことを聞いてみた。
「あぁ、新聞を配るバイトですか・・・なんでそんな大変そうな仕事してるんですか?」
するとアスタは
「ん?いや、ほら、俺さ、親いねぇじゃん?だから学費自分で稼いでんだよ」
と平然と答えた。
「え?今なんて・・・?」
「だから親いないんだってば」
少なくとも、ネギの心には、その言葉は深く突き刺さった。
アスタが続けた。
「それでさ、昔はこのかのじいちゃん・・要するに学園長とか、あと高畑先生のお世話になったりとかでさ。いつまでも迷惑かけるのもアレかと思って少しずつ働いて返してんだよ。向こうはいいって言ってくれてるけどさ」
アスタがひとしきり言い終わると、桶にお湯を汲んで、ネギの頭にザバーッ、とかけて泡を落としてやった。
すると、ネギのビョーキがでたか、大きな目からボロボロ涙をこぼしていた。
「おうっ!?」
アスタが驚いてのけぞると、
「わ、私・・・知りませんでした!アスタさんのような変態淫乱セクハラ男児がそんな苦学生だったなんて・・・ご、ごめんなさいっ!」
とネギが泣きながら叫んだ。
「なっ!?じゃがしいわボケーーーーーッ!!!!」
と怒鳴りながらアスタがネギに飛び掛ると、石鹸で足を滑らせて、
「「gぬrhgrt85rjht5るhくぁ!?」」(ハモった・・・のか?)と悲鳴を上げて二人で仲良くすっ転んでしまった。
「いっつつつう・・・だ、大丈夫か・・・?」
最近、こういうの多いなぁ、と思いつつアスタが少し身を起こした・・・いや、上半身しか起こせなかった。
仰向けに倒れているアスタの、ちょうど股間のところにネギが座るような形になっていた。
「・・・・!!は、早くどけ!!!」
アスタはネギを押しのけて、湯船に入ってひたすら発作が静まるのを待つこととなった。
「あ、あの~、アスタさん?どうかなさったんですか?」
ネギがズッ、と顔を近づけてくる。
「・・・!!!何でもない!何でも!!!」
アスタはソレを悟られぬよう必死だ。ネギが幼くて助かった。
「お?朝倉、何だそれは?」
「フッ、久々にアレを・・・な♪」
脱衣場から声が聞こえてきた。男子生徒が来てしまったようだ。
「やべぇっ!!今日に限って早えぇじゃねぇか!?」
「ど、どうするんですか?」
「隠れろっ!!」
アスタはネギを湯船の中に引きずり込んだ。
ちょうど、それと同時に和実、裕也、空、美砂雄、円、アキラ、菲、刹那、夏、夕らほとんどの男子が入ってきた。
「おいおい朝倉、だから何に使うんだ?そんなもん」
円が和実に問いかける。その和実の手には小さめのテレビのような器具があった。
「ん?いやぁ、見てりゃ分かるよ♪」
そのとき、隣からも黄色い声が聞こえた。女子もやってきたようだ。
そう、この大浴場はもともと一つだったものを(もともと女子校だったからだ)藁のつい立だけで区切っている。
要するに、女子を覗き放題、という素晴らしい場所なのだ。アスタも数回お世話になっている。
「じゃあ、皆さん!そろそろ始めさせていただきますよ!」
和実が男子全員に呼びかける。
「そろそろ教えろ。何をする気だ?」
待ちかねて裕也が聞くと、
「ハッ」
と和実は笑って、髪の毛の間から小指より小さい超小型のカメラを取り出した。そして、テレビを指差す。
それ以上は一言も必要なかった。ただ、全員が大きく頷いた。
「ホラ、俺の持ってる女子の身体データさ、去年で止まってるジャン?だからそろそろ更新しないとねぇ~♪ついでだからおまえらにも、ってワケよ♪」
「ありがとうございます!朝倉大佐!」(裕也)
「我々は大佐に付いていきます!!」(まき雄)
和実は満足そうに笑い、
「OK、じゃあ早速いこうか!」
和実はつい立の小さな割れ目からカメラを忍び込ませた。
さすがに、こっそり見ていたアスタも耐え切れなくなり、
「ネギ、ちょっと待ってろよ!すぐ戻る!」
と言い残して飛び出していった。ネギは眼鏡を外している。遠くは見えない。好都合だ。
ネギが静止する声を上げたが、敢えて聞こえないフリをして済ました。
「あ、朝倉!俺も俺も!」
「お、アスタ、いいとこに来たな!それにしてもなんで海パン・・・まぁいいか」
朝倉は快く同志・アスタを迎え入れた。
「よし、セットOK!じゃあ・・・スイッチ、オーン!」
バチッ、と小さく音を立ててテレビ画面が点灯した。
その場にいた全員が息を呑んだ。
「うわ・・・・い、いいんちょって・・・こんな・・・」
「あ、亜子・・・まさか・・そ、そんな・・・!!」
テレビに食いついているのが多数。
後ろからチラチラと目をやって前かがみになっているのはアキラ、刹那。
遠くの方に行って、見ないようにしている夏、夕。
カリカリとメモっている和実。(「え~っと、いいんちょが3cm弱ほど成長っと」)
「や・・・やべぇ・・・桜子も・・・そうか・・・そうだったか・・・」
「・・・・・(このちゃん・・・)」
「う~む、超もなかなかアルね・・・」
場のほぼ全員がお花畑の住人となってしまった。
しかし、お花畑が一瞬にして氷河期と化してしまおうとは‐
「な・・・何をしてるんですか・・・・!!」
「!!!!」
全員が一斉に振り返ると、そこにはスク水で仁王立ちになっているネギの姿があった。
「なぁっっ・・・・・っ!!!!ネ、ネギちゃん!違うんだ!これは・・・・」
しかし、ネギはわなわなと震えて、
「何が・・・何が違うって・・・!フ、フケツですーーーーーーっ!!!」
ネギの大声はビリビリと空気を裂き、そう、いつものくしゃみと同じだ。
空気中を波動のように伝わって、男湯と女湯とを仕切るつい立をバン、と倒してしまった。
さぁて、その後はとても分かりやすい。つい立のすぐ横に立っていたあやかにハルナ、桜子と目が合った。
「・・・・・・!!!!!」(男)
「・・・・・・!!!!!」(女)
「キ・・・・キャーーーーーーーーッ!!!!」
当然、と言うべきか、浴場の中は大パニックとなってしまったわけである。
さすがに、ネギもこれは予想外だった。なんとかしなくては・・・そうだ!倒れたつい立を元に戻せば・・・・!
ネギはすぐそばに立てかけてあった自分の杖を手に取った。風の魔法で何とかしなくちゃ・・・!
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!ゴニョゴニョゴニョ・・・・えいっ!!」
ネギは杖先をみんなのいる方向へ向けた。これで、うまく風が起きればなんとかなる・・・ハズだった。
「うおおおおぁっ!?」
アスタのものと思わしいハスキーな叫び声が聞こえ、ネギがハッ、とそちらを見ると、非常にマズイ光景が広がっていた。
簡単に説明しておくと、ネギが向けた杖の先の延長線上にちょうどアスタが来てしまい、魔法の効果が全部アスタの方にいってしまったのである。その結果として‐
海パンの股間が約40cmほどにまで膨れ上がったアスタがいたのである。
一同、絶句。
(・・・・・でか過ぎねぇ・・・?):美砂雄
(ゲホッ!!??んだありゃ!?):円
(・・・・・・!!!!!!!):タンs・・・刹那
「・・・・・・へ・・・・」
あやかがこの空気の中、一番最初に言葉を発した。
「・・・へ、へ、へ、変態ーーーーーーー!!!!」
この後、男子諸君がどのような目に遭ったかは、言うだけ野暮だろう。なので、夜まで時間を飛ばす。
その夜‐
ここは俺、神楽坂明日太さまの部屋だ。しかし、まったくくつろげてはいない。むしろ疲れが溜まる。それというのも‐
アスタの部屋には、主犯の和実、美砂雄、円、裕也、まき雄、空、菲、そしてアスタが正座で一列に並んでいた。
目の前にはネギが座って、逃げ出さないか見張っている。
そうだった。
あの後、どさくさまぎれに和実がカメラは回収し、テレビのデッキに適当な映画のDVDを入れたおかげで、女子にあの覗き大会はバレずに済んだ(十分苦しかったが)。
しかし、ネギが直接知ってしまった以上どうしようもない。
結局、全員でネギに1時間以上も土下座し、「みんなで正座で反省文」ということで許してもらえることになった。
しかし、この反省文がまた辛い。最低で原稿用紙10枚分。しかも正座。もう足が死にそう。
「ネ・・・ネギぢゃん・・・ぐ・・・ぐびがじまっでじにそうなんだげど・・」
和実は最も罪が重いためか、首輪(どっから持ってきた?)でドアノブに繋がれている。そのため、前屈みになって文章を書こうとすると、首が絞まるのである。
「それもこれも全部あなたたちの責任でしょう!?」
ネギは結構マジで怒っているらしかった。
「私のクラスからいきなり教員会議にかかる生徒がでたらイヤだからこれぐらいで済ませてあげてるんですよ?分かってますか!?」
「・・・・はい・・・ずびまぜんでじだ・・・・」
ホントに死にそうだな、朝倉。
そこから更に2時間後‐
・・・・って残ってるの俺だけーーーーーー!?
アスタはとてつもなく勉強ができない。朝早くからバイトしていて、昼はよく学校で寝ているせいもあるんだろうか?
ともかく、みんな反省文を書き終えて帰ってしまった。ヤバい。俺一人はすんごく気まずい。このかは・・・あ、もう寝ちゃったか。
「ま、アスタさんはここの部屋ですし、ゆーっくりやりましょうね~#」
ネギも疲れてきているようだ。
「あと3枚・・・・あと3枚・・・・」
アスタが虚ろな目でボソボソ呟く。そして、ペンをバン、と床に叩きつけて、深夜にも関わらず大声で叫んだ。
「もうしませんからーーーーーーーーーーー!!!!!ごめんなさーーーーーーーーい!!!!!!」
3時間目・終
4時間目 キョーフの居残り授業!
「・・・・おはよーございます・・・・」
「おっ!?だ、大丈夫かい、アスタ君!?」
「はい・・・・何とか・・・・」
神楽坂明日太は、毎朝のバイト先、『毎朝新聞』麻帆良支部にいっていた。ただ、この日はアスタ自身にいつもの活気が無かった。
そりゃそうですよ。昨日に午前4時まで正座で反省文書かされてますもの。睡眠不足+足痛=地獄です・・・。
でもあのネギ娘・・・ミョーな薬飲んで眠気飛ばしてたな・・・。魔法の薬か?それにしても健康に悪そうだな・・・。
「ちょとアンタ!大山君が風邪引いて起きられないって!どうすんの?」
店の奥の方から、店長の奥さんの声が聞こえた。
「えっ?困ったな~。どうしようか・・・・」
「あ、俺にその分まで貰えません?行ってきますよ」
「お、悪いね、アスタ君!助かるよ!」
「あ、当然大山さんの日当は俺の分っスよね?」
「・・・・・・・・」
「それじゃあいってきまーす!!」
結局、3分間も話し合いになってしまった。でも、今日は日当二倍だ!イヤッホウ!何買おっかな~♪・・・にしてもやっぱ重いな・・・。
「朝早くからお疲れさまです、アスタさん♪」
上の方から声がする。アスタがビクッ、として見上げると、そこには杖に乗ってフワフワ浮かんでいるネギの姿があった。
「うおぁっ!?そ、空飛べんのか、お前!?」
「ハイ!配達に乗っていきませんか?」
体力の弱っているアスタには願ってもない話だった。アスタはすぐさまネギの杖に飛び乗った。
「それじゃぁ行きますよー!」
「お~し!」
しかし、威勢の良い掛け声とは裏腹に、杖はただ浮かんでいるだけでちっとも動かない。
「・・・お~い、どうした?」
「あ、あれ?おかしいな・・・。ちょっと出力いじらないと・・・」
ネギはそう言って、杖の表面を指で軽くなぞった。そのとき、ネギの指先がポゥッ、と少し光ったように見えた。
「よし!これでちゃんと動きま」
この先は言葉が無かった。声を出せる状況では無かったのだ。
二人を乗せた杖はスポーツカーなど簡単に凌駕するスピードでどこへとも無く突っ込んでいった。
「・・・・・・・・!!!!!」
次の瞬間、眼前に広がっていたのは青いポリバケツに、透明なゴミ袋。どう考えてもゴミ捨て場だ。
「ギャーーーーーーーーッ!!!???」
「・・・・・ったくあのチビ魔法使いが・・・#」
あの後、何とか配達を終えたアスタは、今、自室の風呂場でシャワーを浴びていた。
「アスタさーん!お背中流しますよー!」
「!?」
ネギが突然風呂場に侵入してきたのを受けて、アスタはほぼ反射的にネギを場外に蹴り出した。
「いきなり入ってくるなーーー!」
蹴り出されたネギはハッ、と思い出したように走り出し、また何事か“ジュモン”と思わしいものを唱え始めた。
すると、妙な形のボトルが5,6本ほどアスタのもとに飛んできて、中身のヌルヌルを散々アスタにぶちまけた。
「あひゃああぁっ!!?な、何だこれーーー!?」
あまりのくすぐったさに、アスタは涙を流しながら叫んだ。
「へ?お、お気に召しませんか?」
「いいから早く止めろーーーー!!」
謎の拷問から開放されたアスタはゼェゼェ言いながらネギに聞いた。
「な、なぁネギよ・・・・何なんだ?このヌルヌルは・・?」
するとネギは
「あ、コレですよ!お兄ちゃんに出発のときに貰ったんです!」
と言ってさっきのボトルを取り出した。
ピーン!とアスタは感づいた。いや、でも何だってネギがそんなものを・・・?俺の勘違いか・・・?
「何か“ろーしょん”っていうらしいですよ」
「!?なんでンなモン持ってんだよ!?」
「えぅっ!?で、でもお兄ちゃんは大切な男の子に対していざってときに使えって・・・ダメですか?」
「ダメに決まってんだろーーーー!!子供がそんなもん持つんじゃありませーーーん!!」
「きゃぁーーーーーーっ!?」
お昼休み、職員室にて‐
「うう、全然アスタさんの役に立てないなぁ・・・やっぱり私って教師に向いてないのかも・・・」
ネギは職員室の自分の机でため息をついた。
そもそも、10歳で先生、という課題をもらった時点でダメだったのだろうか・・・?
しかし、ネギはそばに立てかけてある自分の杖を見、ブンブンと頭を振ってその思いを払拭した。
「ううん、私でもきっとやれることがあるはず!頑張らないと!」
「アハハ、その心がけだよ、ネギ先生」
突然、後ろからしず哉先生の声がした。
「あっ?し、しず哉先生!?ど、どうしたんですか?」
するとしず哉先生は
「いや、キミにこれを渡しておこうと思ってね」
と言ってB5用紙を取り出した。
「何ですか?それは」
ネギが尋ねると、
「これはね、2‐Aの『居残りさんリスト』だよ」
としず哉は答えた。
「『居残りさんリスト』?」
「高畑先生はね、時々授業中に小テストを実施されて、あまりにも点の低い生徒に居残り授業をやっていたんだよ」
しず哉が説明してくれる中、ネギはそのリストに目を通した。
「あ、やっぱりアスタさん入ってるんだ」
「でも、もうすぐ進級なのに赤点取ってくる生徒がいると、実習生としても問題あり、だよ」
ネギは少し考えた。
(う~ん、ここでアスタさんの英語が少しでも上げられれば・・・よし、やってみよう!)
そして、ちょっと後の放課後‐
「綾瀬夕さん、神楽坂明日太さん、古菲さん、佐々木まき雄さん、長瀬楓さん、全員いますか?」
ネギは、生徒名簿の下の段を横一列に読み上げて出席を取った。
「はい、ちゃんと2‐Aのバカレンジャーが揃いました」
「誰がバカレンジャーだよっ!?」
アスタは否定しているが、どうやら他の4人はまんざらでも無さそうだった。
一応、紹介しておくと、
綾瀬夕:バカブラック、バカリーダー
神楽坂明日太:バカレッド、No,1バカ
古菲:バカイエロー、武闘派バカ
佐々木まき雄:バカピンク、天然系バカ
長瀬楓:バカブルー、ナゾ多きバカ
唯一の女性隊員の楓がブルーで、男のまき雄がピンクなのはご愛嬌。
である。
「べ、別に勉強なんざできねぇでもいいんだよ!このガッコはエスカレーターだから普通に上がれんだよ」
「ふ~ん、でも職員会議にかけたらいくらなんでも一発で・・・ですよねぇ?」
「僕もネギ先生の意見が正しいかと思いますが」
「・・・・・#分かったよ!やりゃいいんだろ、やりゃ!」
アスタは半ば投げやりに居残り授業を受けることになった。
「じゃあ、とりあえずこのテストをやって下さい!6点以上取れるまで帰っちゃダメですよ!」
こうして、たった6人の居残り授業が始まった。
ん?そういや夕を待ってる本屋ちゃんとハルナがいるから8人か?でも他にも室内に気配を感じるような・・・気のせいか・・?
アスタがいらんことを考えているうちに、夕が
「できましたです・・・」
と教卓の方へ行ってしまった。や、やべぇ!
「・・・うん!綾瀬夕さん、9点!合格です!」
後ろの方ののどかとハルナがパチパチと拍手をしながら夕の方に歩いていった。夕はそれにブイサインで答えた。
「なんだ、綾瀬さん、勉強できるじゃないですか~」
「・・・勉強・・・キライなんです」
ネギが思わぬ一言に脱力しているなか、図書館探検部の三人は
「も~、ちゃんと勉強しなよ、夕~」
「イヤですね」
などとユルい会話をしながら教室を後にした。去り際にのどかはアスタの方に向かってすこしお辞儀をしていった。
「できたよー、ネギちゃーん♪」
「コッチもできたアルよ~」
と、今度はアスタ以外の残り3人が教卓の方に行った。が、すぐに戻ってきた。
「ん?何点だったんだ?」
アスタが聞くと、三人ともテストを取り出し、
古菲:4点
佐々木まき雄:3点
長瀬楓:3点
という栄光の数字を見せ付けてきた。
「・・・いや、スマンかった。でもな、もうすぐ俺帰っちまうぜ?」
アスタは自信満々でネギのところへ歩み寄った。が、これもまたすぐに帰ってきてしまった。
「どうした、アスタ?」
「何点だだアルか?」
アスタは片手で自分の顔を覆い、もう片手を、テストを持って突き出した。
神楽坂明日太:2点
「・・・・・」
「・・・・ま、こんなこともあるアルよ・・・」
「じゃあ、要点についてざっと説明しますので、それからもう一回やってくださいね!」
ネギは黒板を使ってつらつらと説明しだした。それさえもアスタには分からないのだが。
「・・・・というわけです!じゃあもう一回!」
かなり張り切ってるな、ネギの奴。でもゴメン、その熱意に答えれそうも無いわ・・・・。
アスタが燃え尽きていると、菲と楓が
「古菲さん、長瀬楓さん、8点!合格です!」
と横でOKサインをもらっていた。
「う~ん、佐々木まき雄さん、6点!ギリギリです!」
「バカでごめんね~、ネギちゃん」
というやり取りまで聞こえた。
「・・・あれ?アスタさん、終わったんなら採点しますよ」
といってネギはアスタのテストにマルバツをつけ始め、
「・・・・0点です・・・」
という無情な結果を告げた。
「・・・・・・(涙」
「あ、で、でも大丈夫ですよ!私だって三ヶ月で日本語マスターしましたし!ほら、いきましょう!」
「・・・・・ああ・・・」
十分経過‐
「おや、がんばれよー、アスタくーん!」(しず哉)
二十分経過‐
「ウフフ、がんばってね、アスタ君」(タカミ)
三十分経過‐
「こら、神楽坂!ネギ先生にあんまり迷惑かけるんじゃないぞ!」(新田、ついでに♀)
四十分経過‐
「が~んばってね~(はぁと)」(セルピ子、ついでに♀)
この間、テスト、全滅。
「・・・・・もういいよ・・・どうせ俺バカなんだし・・・・」
「えぅっ、そ、そんなこと言わないで、ホラ!」
もう、今のアスタの頭には一つの企てしかなかった。それは‐
「あ!あの人箒で空飛んでるぞ?仲間か?」
と叫んでアスタは窓を指差した。
「え!?だ、誰か来てくれたのかな?」
ネギは喜んで窓の方に行ってしまった。チャ~ンス!!
アスタは自分のカバンを掴むと、全速力で走り出した。
「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!」
ネギはようやく気付いて、
「あっ!だ、騙されたーーー!?」
と叫んで、すぐさま杖に跨り、アスタを追って飛んだ。
「こらーー!待ちなさーーーい!」
その後、二人は野を越え山を越え、とうとう何処とも知れない海岸の浜辺まで来てしまった。
「ハァハァ・・・・・お、俺の脚についてくるとは・・・・なかなかやるな・・・・」
「こ・・・この杖、自動車ぐらいの速度出るんですけど・・・・」
アスタとネギはどっ、と砂浜に倒れこんだ。
「あ~・・・なんでそんなに俺にかまってくんだよ、お前は・・・」
「えぅっ、そ、そりゃ私はアスタさんの担任ですから・・・」
しばらくの沈黙の後、ネギはボソボソと語り始めた。
「私・・・あこがれてる人がいるんです」
話をしているネギの顔は、妙に懐かしそうな、ときに哀しそうな顔に見えた。
「みんなその人は死んだって言ってます・・・。でも、私にはそれが信じられません。だから・・・」
ネギはそこで言葉を切った。涙をこらえているように見えたのが、アスタには印象的だった。
「だから、マギステル・マギになりたいんです!そうすれば・・・そうすれば、この広い世界のどこかであの人に会えるかもしれないから‐!」
アスタはなんと言っていいか分からなくなった。しかし、ネギがどんな言葉を望んでいるのかは分かっていた。
「あーもう!分かったよ!勉強すればいいんだろ!勉強!」
アスタが突然大声で叫ぶと、ネギはビクッ、となった。
「仮にも『協力する』なんて言っちまった以上はしかたねぇわな!やってやるぜ!!」
「・・・ハ、ハイ!アスタさん!」
ネギは、少し涙をこぼしながら、元気良く答えた。
その晩‐
「できたぞ!ホレ、採点して見やがれ!」
「分かりました、アスタさん!」
「・・・・・どうだ?」
「・・・・・」
「・・・・・?」
「・・・・4点です・・・・」
「なんでだよぉー!?」
「フフッ、でもちょっとずつ出来るようになってきたじゃないですか」
「ネギ・・・・」
ありがとな、とでも言いたかったが、そうもいかなくなった。
ネギは、テストをまとめて仕舞い、新しく原稿用紙をアスタの前に出した。
「・・・・?何のつもりだ・・・?」
「反省文。居残り授業勝手に抜け出したからですよ!」
・・・・・・!?
「ウソだろぉーーーーーーーー!!!!????」
4時間目、終
