釘男(円♂)×美砂
「ヘイ円! これなんてどーよ!」
画面を高速で動き回る敵に意識を集中していた俺の後ろからけたたましい声が響く。
すぐに反応しないとゴネてうっとうしいんだがとりあえず今はパルヴァライザーのブレードを避けて一撃叩き込
すぐに反応しないとゴネてうっとうしいんだがとりあえず今はパルヴァライザーのブレードを避けて一撃叩き込
まないと終わらないのでそっち優先。
「・・・ねぇ円ぁ~、こっち見てよ~ねぇ~、ほらほら~」
「あー待て待てあと一撃・・・っしゃ!」
俺の機体の射突型ブレードがパルヴァライザーをぶち抜きようやく撃破。
ふぅ、なかなかの手強さだったぜ。
ふぅ、なかなかの手強さだったぜ。
「むぅ~私の艶姿よりゲームのほうが大事だっての? つーか何でいまさらラストレイヴンなのよ・・・・・・」
「いいだろ別に、PS3で4が出るっつったって買えねぇし・・・・・・どわっ?!」
画面から目を離して振り返った途端、思わず叫んで座ったまま飛びずさる。
いきなりそれは失礼だろ円さんよぉとか言う前に美砂の格好を見てくれ、誰だって俺と同じ反応をするはずだ。
いきなりそれは失礼だろ円さんよぉとか言う前に美砂の格好を見てくれ、誰だって俺と同じ反応をするはずだ。
「どう? 似合うっしょ!」
いぇーい、とポーズを決める美砂が着ているのは、いわゆるナース服。
お前どっからそんなマニアックなもん手に入れたんだ。
お前どっからそんなマニアックなもん手に入れたんだ。
「ふふふ、女子には男子には永久にわからない特別のつながりがあるのよ円クン」
ぬふふー、と意味ありげに笑う美砂。
まぁコイツはなんでもないときでもなんでもあるみたいにいうから別に気にしなくてもいいだろう。
それよりも。
まぁコイツはなんでもないときでもなんでもあるみたいにいうから別に気にしなくてもいいだろう。
それよりも。
「あーはいはいそうですか。 で、なんでまたそんな奇っ怪なカッコしてんだよ」
大事なのはコレだ。
相部屋になってから大抵の馬鹿な真似はしてきたコイツだが――――いいたかないが女装もさせられた――――
相部屋になってから大抵の馬鹿な真似はしてきたコイツだが――――いいたかないが女装もさせられた――――
、まさかコスプレまで趣味に増えたとは聞いてねぇぞ。
させるのが趣味なのは前からだけどな。
させるのが趣味なのは前からだけどな。
「奇っ怪って何よ、失礼ねぇ・・・・・・なんでもいいじゃない、それよりどう? 色っぽい?」
いやなんでもよくねぇから聞いてるんだよ美砂さんよぉ、と言ってもスルーだろうこいつは。
てゆーかいちいちしなを作ってポーズを取るな。
てゆーかいちいちしなを作ってポーズを取るな。
「色っぽいも何もあるかバカ。 いーからさっさと着替えて来いって」
「えー、なんでよー」
「いいから黙っていけ!」
そばにあったクッションを投げたのをひょいっと避けて舌を出し、風呂場に直行する美砂。
そうそうそれでいいんだよバーロ、と思いつつコントローラーを手に取った瞬間、
そうそうそれでいいんだよバーロ、と思いつつコントローラーを手に取った瞬間、
「・・・美砂美砂ナース、美砂美砂ナース、生麦生米」
「黙れ腐女子!」
いい加減にして欲しいぜ、まったく。
その後、美砂がシャワーを浴びる音を遠くで聞きつつ、俺は最終ミッションをクリア。
コレでようやく全ルート制覇だ。
で、その後隠しミッションに挑んで散々にボコられてふてくされて終了。
そういや腹減ったなぁ、と思ったあたりでふと気づいた。
その後、美砂がシャワーを浴びる音を遠くで聞きつつ、俺は最終ミッションをクリア。
コレでようやく全ルート制覇だ。
で、その後隠しミッションに挑んで散々にボコられてふてくされて終了。
そういや腹減ったなぁ、と思ったあたりでふと気づいた。
「・・・・・・・あれ? 桜子は?」
確か俺がゲームを始めるまではいたはずなんだが。
さていつの間に消えたのやら。
さていつの間に消えたのやら。
「桜子なら『今日はちょっちハルナんとこではっちゃけてくるよーっ!』とか行って出かけたわよ」
「あっそ、ならいいか・・・・・・・ってよくねぇよ何だそのカッコ!」
思わず吼える。
あ、一応言っとくけど桜子がはっちゃけるのがよくないわけじゃない。
よくないのは風呂上りに体もちゃんと拭かずに出てきた美砂のカッコだ。
どんなかというとただ単にYシャツ着てるだけなんだが・・・それだけなんだ。
あーいや悪かった今の言い方だとわかりにくいなスイマセン。
何をとち狂ったのか美砂のヤロウ俺のYシャツ(もちろんブカブカ)着ただけであとは素っ裸で出てきやがった。
下着?そんなもん確認できるか!
つーかなんで今日に限ってこいつはこうもわけのわからん格好をする!?
あ、一応言っとくけど桜子がはっちゃけるのがよくないわけじゃない。
よくないのは風呂上りに体もちゃんと拭かずに出てきた美砂のカッコだ。
どんなかというとただ単にYシャツ着てるだけなんだが・・・それだけなんだ。
あーいや悪かった今の言い方だとわかりにくいなスイマセン。
何をとち狂ったのか美砂のヤロウ俺のYシャツ(もちろんブカブカ)着ただけであとは素っ裸で出てきやがった。
下着?そんなもん確認できるか!
つーかなんで今日に限ってこいつはこうもわけのわからん格好をする!?
「ふふふ、どうよ円・・・これぞ男の夢、裸Yシャツって奴よ!」
「勝手に間違った思い込みで行動してんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!」
いや確かにその意見には同意だけどな!
でもいきなり実行されても反応に困るんだよ!
でもいきなり実行されても反応に困るんだよ!
「えーノリ悪いなぁもー円クンはぁ。 グッと来ない? 湯上り美人の裸Yシャツなんてそう拝めないよ?」
そう言いつつ体をかがめる美砂。
ヤバイ第2ボタンまで開けてるから胸が、胸がッ!
必死で意識をよそに向けつつ無関心を装ったことを言ってごまかそう。
気取られたら調子に乗られること間違いなしだからな。
ヤバイ第2ボタンまで開けてるから胸が、胸がッ!
必死で意識をよそに向けつつ無関心を装ったことを言ってごまかそう。
気取られたら調子に乗られること間違いなしだからな。
「よく自分で美人とか言えるなオイ」
「さぁ何のことかな? ていうかホントなんとも思わないの? もしかしてホ」
「その先言ったらぶちのめすぞ」
「やぁ~ん円クンこわぁ~い」
「気色悪い声出すな! いいからさっさとまともな服着て来い風邪ひくぞ!」
「ふぁ~い」
つまらなそうな生返事をしつつ風呂場へ戻る美砂。
その背中に『次妙なカッコしてきたらそのまま窓から投げ捨てるからな』といおうとして即やめる。
いやなぜかって後ろを向いた美砂のYシャツのすそからまぁ・・・・・・・アレだ悟れ。
まずとりあえず俺がしなきゃいけないことは・・・・・・
・・・血の気治めようか、うん。
しばらくうずくまって安静にして普通の状態にしてから(何をとか聞いちゃいけないんだぜ子供達)、とりあえず
その背中に『次妙なカッコしてきたらそのまま窓から投げ捨てるからな』といおうとして即やめる。
いやなぜかって後ろを向いた美砂のYシャツのすそからまぁ・・・・・・・アレだ悟れ。
まずとりあえず俺がしなきゃいけないことは・・・・・・
・・・血の気治めようか、うん。
しばらくうずくまって安静にして普通の状態にしてから(何をとか聞いちゃいけないんだぜ子供達)、とりあえず
台所へ。
腹減ったので手っ取り早く食えるもんないかな。
・・・ねぇんだよないつもこういうときに限って!
カップ麺も切らしてるし冷凍食品も壊滅状態とかどうなってんだ。
まぁ愚痴ってても仕方ないので適当に冷蔵庫の中に転がってる野菜とウィンナーあたりを引っ張り出して適当に
腹減ったので手っ取り早く食えるもんないかな。
・・・ねぇんだよないつもこういうときに限って!
カップ麺も切らしてるし冷凍食品も壊滅状態とかどうなってんだ。
まぁ愚痴ってても仕方ないので適当に冷蔵庫の中に転がってる野菜とウィンナーあたりを引っ張り出して適当に
刻み、冷凍してあった飯を解凍してフライパンに叩き込んだところにまとめて放り込んで一気に炒める。
味付けは適当に塩コショウとあとソースあたり突っ込んで微調整。
ハイコレで円特製焼き飯の出来上がりー。
生活感に欠けるバカ女二人と同居してる俺にとって今日みたいな状況はよくあるので結構コレには世話になって
味付けは適当に塩コショウとあとソースあたり突っ込んで微調整。
ハイコレで円特製焼き飯の出来上がりー。
生活感に欠けるバカ女二人と同居してる俺にとって今日みたいな状況はよくあるので結構コレには世話になって
たりする。
残ってる具材によって味はあんま保証されないのが難点だがな。
まぁ今日は結構まともな食材だったから大丈夫だろう・・・多分。
残ってる具材によって味はあんま保証されないのが難点だがな。
まぁ今日は結構まともな食材だったから大丈夫だろう・・・多分。
「ん・・・・・・ふぁ~いい匂い、ねね、私の分は~?」
俺が焼き飯を皿に盛ってさぁ食おうというナイスタイミングで風呂場から顔を出したのは美砂だ。
つうか他に誰もいないんで他の誰かが顔を出しても困るんだが。
つうか他に誰もいないんで他の誰かが顔を出しても困るんだが。
「ったく、こういうときだけは行動早ぇよな・・・フライパンに残してあるから適当に食え」
「はいはい、さんきゅ~♪」
てててーっと台所まで足早に移動する美砂。
着ているのは上下おそろいのチェックのパジャマ。
ようやくまともなカッコで出てきたので軽く安堵。
つってもそれも俺のなんだけどな、中1のときの奴。
まぁ美砂にはちょっとでかいくらいでちょうどいいらしいからいいんだが。
俺としては目の前の焼き飯に手をつけるのを待つ義理はないし冷めたらせっかくの飯がまずくなるので早く食い
着ているのは上下おそろいのチェックのパジャマ。
ようやくまともなカッコで出てきたので軽く安堵。
つってもそれも俺のなんだけどな、中1のときの奴。
まぁ美砂にはちょっとでかいくらいでちょうどいいらしいからいいんだが。
俺としては目の前の焼き飯に手をつけるのを待つ義理はないし冷めたらせっかくの飯がまずくなるので早く食い
たいがそうすると美砂がほぼ100%拗ねだすので待機。
「うっひゃ~いい匂い・・・こりゃおいしそうだわ」
TVのスイッチを入れて今日のニュースの二つ目に差し掛かったあたりで美砂が席に着く。
皿が熱いのか袖口を手のひらのところまで引っ張って皿を持っている。
・・・自分でも不思議なんだが、いつも妙に大人ぶったような雰囲気の美砂がこのパジャマを着てるときだけなぜ
皿が熱いのか袖口を手のひらのところまで引っ張って皿を持っている。
・・・自分でも不思議なんだが、いつも妙に大人ぶったような雰囲気の美砂がこのパジャマを着てるときだけなぜ
か子供っぽく見える。
皿置いてスプーンですくって食えばいいのに皿持ったままふーふー息を吹きかけて冷ましてる顔といい、ぺたん
皿置いてスプーンですくって食えばいいのに皿持ったままふーふー息を吹きかけて冷ましてる顔といい、ぺたん
と座った格好といい。
着てる服が俺がもうちょいガキ――――まぁまだガキだけどさ――――のころ着てた奴だからそんときの自分が
着てる服が俺がもうちょいガキ――――まぁまだガキだけどさ――――のころ着てた奴だからそんときの自分が
重なって見えるのか?
「・・・・・・ん? どしたの円、私のほうばっか見て」
「え・・・あ、いやなんでもねぇ」
ちょっとボーっとしすぎてたらしい。
知らない間にじっと美砂の顔を見つめてて、それに気づいた美砂がきょとんとしている。
なんでかは知らんが顔が妙に熱くなってるのをごまかすために目の前の飯をかっこむことに集中する。
美砂のほうはしばらくポカーンとしていたが、俺がガツガツ食ってるのに触発されてこちらもすごい勢いで飯を
知らない間にじっと美砂の顔を見つめてて、それに気づいた美砂がきょとんとしている。
なんでかは知らんが顔が妙に熱くなってるのをごまかすために目の前の飯をかっこむことに集中する。
美砂のほうはしばらくポカーンとしていたが、俺がガツガツ食ってるのに触発されてこちらもすごい勢いで飯を
口に運んでいる。
俺と美砂が皿を空にするまで、その場に流れていたのは誰も聞いていないニュースの音だけだった。
俺と美砂が皿を空にするまで、その場に流れていたのは誰も聞いていないニュースの音だけだった。
「ぷはぁ~、ごちそうさまぁ」
「ごちそうさま・・・ってお前皿自分で持っていけよな」
飯を食い終わったのはほぼ同時、しかし皿を持って立ち上がったのは俺だけで、美砂はそのまま腹をさすって満
腹休憩モード。
まぁいいか、後で自分で持っていくだろ、と思った俺が台所へ行こうとした、その一瞬。
かちゃん、という音を立てて美砂の皿が俺の皿に重ねられた。
まぁいいか、後で自分で持っていくだろ、と思った俺が台所へ行こうとした、その一瞬。
かちゃん、という音を立てて美砂の皿が俺の皿に重ねられた。
「・・・・・・・・」
「んじゃ、お願いね円っ(はぁと)」
(はぁと)じゃねえ、自分で持っていけコノヤロウ。
「いーじゃん別に円も自分のお皿持っていくんだしさぁ。 男の見せ所じゃない」
「どこがだよ・・・ったく」
文句を言いながらもそれ以上の無理強いはせずに台所に持っていく。
ここで何を言っても聞かないのは経験上よーくわかってるからな。
・・・アレ、もしかして今までここで粘らなかったから聞かなくなってるのか?
まぁいいか、どうせ手遅れだ。
皿とスプーンを適当に流しに放り込み(特に他に洗い物もないので明日の朝まとめてやる)、なんとなくTVの前
ここで何を言っても聞かないのは経験上よーくわかってるからな。
・・・アレ、もしかして今までここで粘らなかったから聞かなくなってるのか?
まぁいいか、どうせ手遅れだ。
皿とスプーンを適当に流しに放り込み(特に他に洗い物もないので明日の朝まとめてやる)、なんとなくTVの前
へ。
意味もなく流れていくニュースに突っ込んだり美砂の天然というか非常識な反応を訂正したりするうちに夜が更
意味もなく流れていくニュースに突っ込んだり美砂の天然というか非常識な反応を訂正したりするうちに夜が更
けていく。
ふと時計を見るともう大分遅い、そろそろ寝なければ明日悲惨な朝を迎えることになる。
ふと時計を見るともう大分遅い、そろそろ寝なければ明日悲惨な朝を迎えることになる。
「おい美砂、俺そろそろ寝るわ」
そういって先に自分の部屋に行こうとした――――のだが。
「・・・・・・・」
「・・・なんだよ」
なぜか、俺の服のすそを美砂が引っ張って離さない。
俺がジト目で見下ろすと、美砂は上目遣いで俺を見上げてくる。
こうなるとどっちが勝つかは忍耐力次第――――とはならないんだよなコレが。
とりあえずパジャマでクッション抱いてうるうる上目遣いされて平然と対応できる人間がいたら俺に教えてくれ
俺がジト目で見下ろすと、美砂は上目遣いで俺を見上げてくる。
こうなるとどっちが勝つかは忍耐力次第――――とはならないんだよなコレが。
とりあえずパジャマでクッション抱いてうるうる上目遣いされて平然と対応できる人間がいたら俺に教えてくれ
、コツが聞きたい。
「・・・あーもー、用があんならさっさと言え。 あんま夜更かしすっと寝坊すんぞ」
たはぁー、とでかいため息をついて頭をかきながら、敗北宣言。
いつもならココでにまーっと憎たらしい笑顔になる美砂が、どうしたことか今日はなにやらそわそわと。
俺としてはさっさと済ませて寝たいんだが。
いつもならココでにまーっと憎たらしい笑顔になる美砂が、どうしたことか今日はなにやらそわそわと。
俺としてはさっさと済ませて寝たいんだが。
「んーっと・・・あの、さ・・・・・・」
「何」
早く言ってください、眠いんです。
「・・・一緒に、寝よ?」
「――――――――ハイ?」
思わず聞き返す。
だってどう考えても今聞こえちゃいけない単語が聞こえた気がしなかったか?
しかし美砂は相変わらず目を背けたままで、
だってどう考えても今聞こえちゃいけない単語が聞こえた気がしなかったか?
しかし美砂は相変わらず目を背けたままで、
「ほ、ほら今日桜子いないじゃん? さっきメールで今日は帰れないって言ってきてさ、いつも私と桜子おしゃ
べりしながら横になってるんだけどひとりだと落ち着かないし、なんか寂しいから今日だけちょっとわがまま聞
いてくんないかな?」
わがままなら毎日聞いてますが・・・ってそんな問題じゃねえわな。
つうか寂しいって・・・中3にもなってそれはどーよ。
けれどそんな文句は、あのなぁ・・・と頭をかきながら美砂のほうを見たときにはいえなくなっていた。
つうか寂しいって・・・中3にもなってそれはどーよ。
けれどそんな文句は、あのなぁ・・・と頭をかきながら美砂のほうを見たときにはいえなくなっていた。
「・・・・・・・・・・・」
美砂は今まで見たことないぐらい真剣で切実な眼差しでこっちを見つめている。
もうなんていうか待てコラそれ反則じゃねーのかよっていうくらい破壊力が。
こうなると後の展開はさっきの皿運びと同じ展開になるわけですよ旦那。誰に言ってる。
もうなんていうか待てコラそれ反則じゃねーのかよっていうくらい破壊力が。
こうなると後の展開はさっきの皿運びと同じ展開になるわけですよ旦那。誰に言ってる。
「だぁぁぁぁもうわかったわかった! 一緒に寝りゃいいんだろ寝りゃ! ただし絶対妙な真似すんなよ?!」
まくし立てるようにそういって、足音高く風呂へ向かう。
いやだってまだ入ってないし。
まぁちょっと頭冷やせばアイツもきっとけろっとした顔してるだろうさ。
そう願ってたんだが。
いやだってまだ入ってないし。
まぁちょっと頭冷やせばアイツもきっとけろっとした顔してるだろうさ。
そう願ってたんだが。
「・・・・・・・」
「あ、円。 ちょっと長風呂すぎない? 大分待ちくたびれちゃったんだけど」
残念ながら、風呂から上がって部屋に入った俺の目に飛び込んできたのは、俺のベッドの上にぺたっと座って枕
を抱いている美砂の姿。
あー考え直してくれなかったんだ・・・と軽く落ち込む。
あー考え直してくれなかったんだ・・・と軽く落ち込む。
「どしたの円、そんなとこで突っ立って」
「・・・とりあえず、俺はお前の思考回路を整備してくれる人間を探したい気分だよ」
「何よソレ」
わからなくていいよもう。
俺としては一緒のベッドで寝ることだけは断固避けたかったんだが二度あることは三度あるのおねだり眼力ビー
俺としては一緒のベッドで寝ることだけは断固避けたかったんだが二度あることは三度あるのおねだり眼力ビー
ムに負けて仕方なく同じ布団に。
しかしさすがに向かい合って寝るような勇気はないので美砂に背中を向けて全力で意識を目の前の壁に集中する
しかしさすがに向かい合って寝るような勇気はないので美砂に背中を向けて全力で意識を目の前の壁に集中する
。
そうでもしないと背中のほうから伝わってくる普段は有り得ないぬくもりがもうどうにもこうにも。
が、美砂はそんな俺の必死の努力もあっけなく無意味にしてくれた。
そうでもしないと背中のほうから伝わってくる普段は有り得ないぬくもりがもうどうにもこうにも。
が、美砂はそんな俺の必死の努力もあっけなく無意味にしてくれた。
ぎゅうっ・・・・・・・!
「なっ、ななななな?!」
いきなり背中から抱きつかれた。
おま何をどう血迷えばこんなことができんだよあああヤバイなんかすげぇあったかいぎゃあああ背中にやわらか
おま何をどう血迷えばこんなことができんだよあああヤバイなんかすげぇあったかいぎゃあああ背中にやわらか
いものがあああああああああ。
一瞬で脳内が1000%スパーキングした俺の背中に、美砂が小さく呟く。
一瞬で脳内が1000%スパーキングした俺の背中に、美砂が小さく呟く。
「ごめん・・・ちょっとこのままいさせて」
その声が、いつもの美砂とは全然違う――――暗い、沈んだ声だったことにぎょっとした。
振り返ろうとするが、きつく抱きつかれてるせいでそれもできない。
仕方がないから、壁を見つめたまま、美砂を問い詰める。
振り返ろうとするが、きつく抱きつかれてるせいでそれもできない。
仕方がないから、壁を見つめたまま、美砂を問い詰める。
「・・・どうしたんだよ、らしくねぇな」
俺がそう言うと、美砂はびくっと一瞬震え、しばらく黙っていた後、その場にそぐわない明るい声で話し始めた
。
「あ、アハハ・・・いやー実はこないださぁ、彼氏に振られちゃって。 なんとなーくヤバイなーとは思ってたん
だけど案の定、他に好きな人ができたから別れてー、だってさ。 いやー手もつなげなかったよ、私としたこと
が。 しくじっちゃった、アハハ」
「・・・・・・・」
「や・・・やだなぁ円、そんな黙らないでよぅ。 別に全然気にしてないって、よくあることだよ」
何がよくあること、だ。
本当にそう思ってるんだったら――――なんで、俺の体に巻きついてる腕が、こんなに震えてるんだよ。
本当にそう思ってるんだったら――――なんで、俺の体に巻きついてる腕が、こんなに震えてるんだよ。
「・・・ったく、バカが・・・・・・」
腕の力が緩んだスキを見計らって、美砂のほうに向き直る。
驚いて俺の顔を見上げた美砂の顔は案の定、涙でぐしゃぐしゃだった。
その頭を少々乱暴に抱え込む。
驚いて俺の顔を見上げた美砂の顔は案の定、涙でぐしゃぐしゃだった。
その頭を少々乱暴に抱え込む。
「わっ・・・円?!」
思わず声を上げた美砂を無視して、その頭をきつく抱きしめる。
面と向かって言うには、これから言うことは照れくさすぎるから。
面と向かって言うには、これから言うことは照れくさすぎるから。
「――――あのなぁ、いっつもいっつも気ぃ使わずに好き勝手やってるくせに、変なときにだけ気ぃ使うんじゃ
ねぇよ。 一体どんだけ一緒にいたと思ってんだ。 ムカついたら怒鳴れ、泣きたかったら泣け。 いくらでも
聞いてやるから」
「円・・・・・・・」
「今日変なカッコして色仕掛けみてぇなことしたのも無理してたんだろ。 ・・・んなことしなくたっていいんだ
よ、どんだけ泣こうが喚こうが、俺は怒ったりしねぇから。 それよりも、お前がそんな風に無理して我慢して
るほうが腹立つっつーんだ」
「・・・・・・・・」
美砂は何も言わずに、震えている。
別にコレで俺がどう思われようが構わない、俺の言いたいことはこれで全部だ。
でも、抱えた美砂の頭は離さないで、そっと撫でてやる。
なぜかって?
泣いてる奴の顔を無理に見るような真似はしたくねぇからだよ。
別にコレで俺がどう思われようが構わない、俺の言いたいことはこれで全部だ。
でも、抱えた美砂の頭は離さないで、そっと撫でてやる。
なぜかって?
泣いてる奴の顔を無理に見るような真似はしたくねぇからだよ。
で、しばらくして。
「・・・美砂ー? おーい、美砂ー?」
「・・・すぅ、すぅ・・・・・・」
・・・寝ちまってるし。
ずっと撫でてた手を止めて、ちょっと美砂の体を離す。
意外とすっきりしたって感じの寝顔には、泣いた後がばっちり残っていた。
ずっと撫でてた手を止めて、ちょっと美砂の体を離す。
意外とすっきりしたって感じの寝顔には、泣いた後がばっちり残っていた。
「あーあー・・・ぼろぼろじゃねえか、ったく」
ため息をつきつつ、もう一度美砂の頭を抱きかかえる。
いやホラやっぱ雰囲気的にこのままぽーいと放り出すわけにもいかないしさ?
正直俺も大分疲れたので、そろそろマジで寝させてもらおう。
いやホラやっぱ雰囲気的にこのままぽーいと放り出すわけにもいかないしさ?
正直俺も大分疲れたので、そろそろマジで寝させてもらおう。
「・・・お休み、美砂」
眠っている美砂にだけ聞こえるくらいの小さな声で、そう呟いて、眼を閉じた。
で、翌朝。
「円~~~~っ! 急ぎなよ、遅刻するよーっ!」
「うるせぇ! だったらもっと早く起こせっての!」
だぁぁぁぁもうやっぱ昨日あんな真似するんじゃなかった!
おかげで俺は思いっきり寝過ごして遅刻ギリギリ、しかも憎たらしいことに美砂はさっさと起きて自分の準備は
おかげで俺は思いっきり寝過ごして遅刻ギリギリ、しかも憎たらしいことに美砂はさっさと起きて自分の準備は
全部済ませている。
とりあえず顔に水ぶっ掛けて歯磨いて着替えながらトースト口に放り込んで・・・ってぎゃあああ間に合わねぇぇ
とりあえず顔に水ぶっ掛けて歯磨いて着替えながらトースト口に放り込んで・・・ってぎゃあああ間に合わねぇぇ
ぇぇぇぇぇ!
「もー、何やってんのよ円! のんびりしなーいっ!」
「だぁぁぁやかましい! 誰のせいだ誰の!!!」
「えぇ~? 寝坊したのは円クンの責任でしょ~?」
こ、コノヤロウ・・・・・ッ!
「ま、昨日のことは感謝してるけどね・・・おかげでずっと片思いの相手にアタックする勇気出たし」
「はぁ? なんだそりゃ」
時間がないのも一瞬忘れて呆れる。
だってお前・・・なぁ?
振られたーッ!って泣いてた奴が実は他に片思いの相手がいましたとかそれなんてご都合主義。
だってお前・・・なぁ?
振られたーッ!って泣いてた奴が実は他に片思いの相手がいましたとかそれなんてご都合主義。
「いやーずっと叶わないなーと思って諦めてたんだけど・・・昨日の円の話聞いたら頑張ればなんとかなりそうな
気がしてさ」
ああそうですかそりゃよかったですね。
とりあえず時間がないのでちょっと失礼しますよ。
とりあえず時間がないのでちょっと失礼しますよ。
「あーん、ちょっと待ってよ円ぁ。 誰が相手なのか気になんないのぉ?」
「気になんないしそんな余裕もない」
実際もうマジ時間ヤベェし。
「そう言わずに気にしてよ~ねぇねぇ~」
「あーハイハイわかりました誰なんだろうね気になるなー」
と、投げやりに返事をして、ふと美砂のほうに振り返る。
その瞬間。
その瞬間。
――――ちゅっ。
「・・・・・・・はっ?」
えーっと・・・今のってもしかして・・・・・・キスって奴ですか?
でも何でそうなんだよ、確か今の話題って美砂の片思いの話だよな?
え、ちょっと待ってマジわけわからんどゆことどゆこと?
突然の出来事に俺の脳内処理機能が追いつかない。
そんな俺に向かって意地悪く笑って、美砂が言う。
でも何でそうなんだよ、確か今の話題って美砂の片思いの話だよな?
え、ちょっと待ってマジわけわからんどゆことどゆこと?
突然の出来事に俺の脳内処理機能が追いつかない。
そんな俺に向かって意地悪く笑って、美砂が言う。
「――――今のが答え。 コレでわかんないとは言わせないよ?」
呆然とする俺の横をすり抜け、ドアの外へと出る美砂。
俺は思わず目で美砂を追い、ドアからひょこっと顔をのぞかせた美砂を目が合う。
美砂は俺に向かってにっこり笑って、そして――――――――
俺は思わず目で美砂を追い、ドアからひょこっと顔をのぞかせた美砂を目が合う。
美砂は俺に向かってにっこり笑って、そして――――――――
「・・・もう、我慢しないから。だから、全部全部受け止めてよね――――円」
そういうと、さっさと走って登校してしまった。
残された俺は、しばらくぽけーっと立っているのがやっとだった。
もちろん学校には遅刻、おかげで新田にえらい目に合わされた。
だけど、なんでだろうな。
――――どうしても、顔がにやけちまうんだ。
残された俺は、しばらくぽけーっと立っているのがやっとだった。
もちろん学校には遅刻、おかげで新田にえらい目に合わされた。
だけど、なんでだろうな。
――――どうしても、顔がにやけちまうんだ。