ヘタレ少年! デコメガネ少女に会う


伊藤誠(3番)は森林地帯を歩いていた。
特に目的はない。ただ、このような状況において1人だけで行動するのは危険だと思ったので一緒に行動してくれそうな人を探していたのだ。
(どうせなら知り合い……言葉や世界や泰介あたりと合流できたらいいんだけど………)
誠は自分の友人、知人たちのことを考えてみた。

――言葉はおそらく妹と行動しているだろう。世界も清浦や黒田と行動しているかもしれない。
加藤も今頃は同じクラスの連中と合流しているはずだ。
泰介は……わからない。でも、あいつのことだから女の子と行動してそうな感じがする。

「――そういえば俺は何を貰ったんだ?」
ほかの者たちのことを考えているうちにふと自分はどんな武器を貰ったのか気になったので確認しようと足を止めた。
――刹那。自分の目の前を何かが横切った。

「え?」
誠の前を通っていった『何か』は近くの木にバスッと命中するとビーンと振るえ、やがて動きを止めた。
――それは1本の矢だった。矢は真っ直ぐ、見事に木に突き刺さっていた。
「…………」
誠は僅かな時間、ただ無言で木に刺さる矢を見つめた。それと同時に考えた。


――おい。なんで矢がこんなところに刺さっているんだ?

――いや。ちょっと待て。これは……今飛んできてちょうど今この木に刺さったんじゃないのか?

――何で? 決まっているだろう。誰かが今ここに矢を放ったからだ。

――じゃあ、どうしてそいつはここに矢を放ったんだ?

――そんなの簡単な話だ……だってこの矢が本当に狙っていたのは……この木ではなく……


ガシャと自分が目を向けている方の反対――つまり後ろ――すなわち、矢が飛んできた方向から何かが音を鳴った。


「うわあああああああああああああっ!!」
誠は振り返ることなくそのまま自分が向いている方へと駆け出した。
駆け出すと同時に背後からビシュッと何かが飛んでくる音がした。それと同時に、右肩に提げていたデイパックに何かが当たった感触がした。
だが今の誠にはデイパックに目を向けている余裕などない。

(振り向いてはいけない! 振り向いたら………死ぬ! 殺される!!)
ただがむしゃらに走る。森の中を。草木を掻き分けて。ただ前へ。時に右へ。時に左へ。とにかく走る。
足を止めることなど許されない。止めることは『死』を意味する!



「……あらら~。逃がしてぇ~しまいましたぁ~……」
誠がその場から走り去って少し、ほんの数秒時が過ぎた後、草むらの中からボウガンを持った少女が姿を現した。
戎美凪(5番)。御剣家に仕えている月詠真那直属の侍従――つまりメイドの1人だ。
本来ならいつも通り神代巽(18番)、巴雪乃(47番)と『3バカ』などと呼ばれるトリオを形成して行動するところだが、生憎にも自分が他の2人よりも少し先にスタートしてしまったので彼女はこの場所で2人を待つことにしたのだ。
――では、ただ仲間が来るのを待っていただけの彼女が何故誠を攻撃したのだろうか?



話を一度、先ほどより前の時間に戻す。
――美凪はスタートするとまず最初に自分のデイパックの中を確認した。デイパックの中には武器――ボウガンが入っていた。
その後、周辺の安全を一通り確かめると、教会から少し離れた場所で身を潜め巽と雪乃を待つことにした。

――それからしばらくすると、誠が自身の方へと歩い来ることに気づいた。しかし、誠の方は美凪には気づいていなかった。
だから美凪はとりあえずボウガンを構えた。彼が殺し合いに乗っている可能性もあるからだ。
それと同時に、誠の両手には何も握られていないことに気がついた。
――その瞬間。彼女は考えた。


――自分には武器がある。では、巽や雪乃、そして月詠や自分たちが仕えている御剣冥夜や白銀武はどうだ?
この聖杯戦争という殺し合いを始めた言峰という男は言っていたではないか『何が誰に当たるかはランダムだ』と。
それはつまり、ハズレ――武器とは到底いえぬ物も支給される品々の中には存在するということではないのか?
そして、もし巽たちにそれが渡ってしまい、殺し合いに乗った者たちの手に当たりの武器が渡ってしまったら……


――そうしてしばらく自分なりに考えた結果。美凪はひとつの結論に達した。

「冥夜様たちに牙を向けるであろう人たちはぁ~みんなわたしが始末してみせますぅ~!」
そうして彼女はボウガンのトリガーをぐいっと勢いよく引いた。
そして先ほどに至る………



「はあっ……! はあっ……!」
誠はあれから走り続けていた。ただ今は、逃げて逃げて逃げまくることしか考えられなかった。

「ちくしょう……なんで……なんでこんなことになっちまったんだよ……」
誠の心の中には『死』に対する絶対的な恐怖があった。
そして、それと同時に、もう殺し合いに乗ってしまった者がいたということに驚きを隠せなかった。


怖い……! 怖い……! 誰かに殺されるのは嫌だ……! 誰かを殺すのも嫌だ……!

俺は……俺はいったい……どうすればいいんだ!?


「あっ!?」
次の瞬間、彼は木の根に足をつまづき勢いよく転んでしまった。
「――っ!」
一瞬身体中に痛みがはしる。が、別にどこも怪我はしなかった。
誠はうつ伏せになった身体をゆっくりと起き上がらせると、そのまま近くの木に背をもたらせてゆっくりと腰を下ろした。
(どうやら、なんとか逃げ切れたようだな……だけど……)
「これから俺……本当にどうすりゃいいんだ……?」
誠はそう呟き、はあとため息をつくと、ただぼんやりと虚空を眺めた。

「――あの……どなたかそこにいらっしゃるのですか?」
「!?」
ふと近く――前方の草むらから女の子の声がした。
「だ……誰だ!? 出て来い!!」
誠は警戒しながら立ち上がり声の主に向かって叫んだ。
すると少ししてガサガサと草を掻き分ける音をたてながら1人の少女が姿を現した。

――現れたのは菅原君枝(37番)であった。


【時間:1日目・午後3時25分】
【場所:森林地帯】

伊藤誠
【装備:なし】
【所持品:支給品一式(ランダムアイテム不明)】
【状態:君枝に遭遇】
【思考・行動】
  1・君枝に警戒
  2・死にたくないし、誰かを殺したくもない
  3・殺し合いに乗った者(戎美凪)がいることを認識(ただし美凪の姿、名前は当然知らない)
  4・一緒に行動してくれる人を探す(できれば友人、知人と合流したい)

菅原君枝
【装備:なし】
【所持品:支給品一式(ランダムアイテム不明)】
【状態:誠と遭遇】
【思考・行動】
  1・誠に話しかける
  2・以降不明


【時間:1日目・午後2時5分】
【場所:森林地帯】

戎美凪
【装備:ボウガン】
【所持品:ボウガンの矢(数十本)、ほか支給品一式】
【状態:マーダー化】
【思考・行動】
  1・神代巽(18番)、巴雪乃(47番)、月詠真那(45番)、御剣冥夜(57番)、白銀武(34番)以外の参加者を極力排除
  2・神代巽、雪乃と合流したい
  3・2の後、月詠、冥夜、武の3人のうちいづれかの者と合流したい(優先捜索順位は月詠≧冥夜>武の順)




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前登場 名前 次登場
開戦 伊藤誠 SuspendedBridgeEffect
GameStart 菅原君枝 SuspendedBridgeEffect
戎美凪? 戎美凪 SuspendedBridgeEffect








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最終更新:2010年06月27日 16:07