開戦
午前11時55分―――12時5分前……
ルール説明が終わった後、聖堂を去った言峰が再び聖堂へ入ってきた。
騒がしかった聖堂がすぐさま静かになる。
言峰自身はは先ほどと違った様子はまったくなかったが、、今の彼は周りに数名の武装した兵士を連れていた。
兵士は皆、バッグが山積みされている台車を引いていた。
おそらくそれが自分たちに支給されるという代物なのだろうとその場にいた誰もが思った。
「第五回聖杯戦争の開始まで残り5分を切った。早速、最初にスタートする参加者には準備をしてもらおう……」
聖堂中を見回した後、言峰の口が開いた。
誰が最初にスタートするのだろうか。もしかしたら自分からではないか、などと参加者たちは不安に思った。
「参加者番号順にスタートしていくぞ。では………1番・彩峰慧。支給品を受け取りにこちらへ……」
「………」
名前を呼ばれた彩峰慧(001番)は無言で立ち上がり、言峰の方へと歩き出した。
慧が一歩一歩歩くたびに聖堂中は彼女を心配する声や、自分ではなくてよかったという安堵の声、さらには嫌味腐った薄ら笑い等に満ちた。
言峰はデイバックの山からそのうちの1つを掴むと慧に手渡した。
「中身を確認するのは外に出てからだ。スタートの合図があるまでそこの扉の前で待機していたまえ」
「……わかった」
そう一言だけ言うと慧は言われたとおり聖堂の大きな扉の前に立った。
再び聖堂中が静かになり、誰もが終始無言で扉の前に立つ慧を見た。
(―――5分ほどの時間がこんなに長いと感じたのは始めてかもな……)
衛宮士郎(006番)もそんなことを思いながら慧を見つめた。
(あいつ……動揺とかそんな感じがまったくしない………もしかして、早速この殺し合いに乗ったのか?)
そして―――ついに時は来た。教会の鐘であろう。それがゴーンゴーンと鳴り響いた。
「―――只今より第五回聖杯戦争を開催する。1番・彩峰慧。行くがいい……」
言峰の開戦を告げる言葉と同時に慧の前の扉が音をたて開いた。
「――!」
扉が開くと同時に慧は無言で外へ駆け出した。
そして、彼女が外へ出ると再び扉は音をたてて閉じた。
―――それから5分後。次の参加者の名が呼ばれた。
「では次……2番・厳島貴子」
「――っ!?」
名を呼ばれた瞬間、厳島貴子(002番)はガタッと音をたてて席を立った。
普段の彼女を知るものは彼女らしくないなと皆思ったであろう。
いや――彼女を知らぬものでも今の彼女がかなり動揺しているということは一目で判っただろう。
「――時間だ。行け」
「は…はい……」
再び扉が開かれ、貴子も先ほどの慧同様勢い良く外へと駆けて行った。
しかし、慧とは違い彼女の走り方は間違いなくこの教会から1秒でも早く逃げだそうとしているように見えた。
そして、そんな貴子の後姿を残して扉が閉じた。
「3番・伊藤誠。時間だ」
「………行くしかないんだよな?」
「そうだ。早く行くがいい」
「――くそっ…!」
さらに5分後、次の参加者が無言で教会を後にした。
(――どうやら番号は50音順みたいだな……ってことは、そろそろ俺か?)
冷静に(といっても内心は少し動揺しているが)状況を判断しつつ、士郎は自分の名が呼ばれるのを待った。
「――次。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
名前を呼ばれ、一人の幼い少女が言峰からバッグを受け取った。
(あんな小さな子まで……)
その様子を見て士郎はさらに主催者に対しさらに怒りを覚えた。
(――ん?)
扉が開きイリヤという少女が外へ出る直前、少女が自分の顔を見て笑った……気がした。
(気のせい……か?)
「戎美凪。行け」
「は、はい~」
次にスタートした戎美凪(005番)も(多分)動揺している様子で外へ出ていった。
そして……
「衛宮士郎」
「!」
ついに士郎の番が来た。
「………」
黙って言峰から荷物を受け取る。
「ふむ…血は繋がっていないとはいえ、父の面影があるな……」
「! 親父を知っているのか!?」
「フッ…君が最後まで生き残れたら、その時に全て教えてあげよう」
「………」
「では行くがいい」
扉が開いた。
(いよいよか………)
(必ずこの殺し合いを止めてやる――行くぞ!)
士郎は覚悟を決めた。そして、勢い良く教会を飛び出した。
この先、どんな運命が彼を待っているのだろうか。
それはまだ誰にも判らない。
【時間:1日目午後12時25分】
【場所:教会】
衛宮士郎
【持ち物:支給品一式】
【状況:ゲームに乗る気はない】
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最終更新:2010年06月27日 16:35