呪縛なし自縛霊自爆レタス添え
「ふぇぇ、ここはいったい何処なんでしょうか? と言うかなんで私はこんなところにいるんでしょうか?」
すでに薄暗くなりつつある森の中をあてもなく歩く一人の少女がいた。
その少女、高島一子(39番)の注意は見慣れない景色の方に向いていて、ほかのことに割くリソースはまったくないようだ。
まともな道はおろか獣道すらない森の中、当然足元が整地されているわけもなく、完全に前方不注意状態だった一子はすぐにその対価を支払わされることになった。
「学院にこんなところはなかったはずですし、でもでも私は学院から離れられない幽霊三等兵の身、ということはやっぱりここは学院の中のはずで……
ああ、もう訳が分かりませ……、ひゃああぁぁぁ!?」
ずべしゃっ!
伸びていた蔦に足を引っ掛け、盛大にずっこける一子。
完全に不意打ちだった上、さらに転んだところがぬかるんでいたからたまらない。
「…………」
倒れたままどうにかあげた顔は泥まみれの真っ黒けになっていた。
「うぅぅぅ~…さっきからいったい何なんですか!? 壁を擦り抜けようとしたら思いっきり鼻をぶつけるわ、小川を越えようと思ったら見事に落ちて濡れ鼠になるわ、 枯葉で足が滑って茨に突っ込むわ、あぁ、神様はなぜ一子にこのような試練を課すのですか!?
ただでさえまともな肉体すらない幽霊三等兵な私から壁抜けと浮遊をとったら何も残らないじゃないですかぁ!
それは確かに私聖人君子とは程遠いですし、冬はクリスマスとお正月を両方祝っちゃう典型的日本人ですけどこれはあんまりですぅ~っ!
ああっ、もう父ちゃん情けなくて涙出てきた」
溜りに溜まっていた不満を一気に吐き出すようにまくしたてる一子。
そのまましばらく腐っていた一子だが、このままではどうしようもないと、起き上がろうとして……自身と同じく泥まみれになったパンを見つけた。
「ああっ!? たたた大変です! 私の分として与えられた糧がぁ~っ!!? せっかくここまで一口も手を付けずに持ってきたというのに…ん? 持って……きた?」
自分の言葉にようやく疑問を抱いたのはその時だった。
一子はすでにこの世からとっくの昔におさらばしてまともにモノに触れることすら出来ない身(瑞穂という例外はあるが……)。
それがなぜ今までパン(と言うか支給品一式)を持ち歩けたのか?
そんな疑問とこれまでの数々の悲劇を結び付け、一つの結論を出すまでそう時間はかからなかった。
「ああそうか、今の一子は壁抜けも浮遊も出来ない、けど足は地面に付けれるし、モノもフツーに持てるごくごくフツーの女の子になっているのですねっ!
………………って、ええぇぇぇぇーーーーっ!!? それは大変です!? これじゃあ私は幽霊三等兵はおろか、完全能無しお役御免の退役兵になってしましますぅぅ~っ!!!」
つくづくオーバーなリアクションをする娘であるが、三つ子の魂百まで、馬鹿は死んでも治らない、これが彼女のデフォルメなので大目に見て欲しい。
「はっ!? よくよく考えたらモノが持てるということはつまり今の私なら念願だったお姉さまに私のお茶をご披露するチャンスということじゃないですか!
こうしてはいられません!! 早速お姉さまの元にいってお茶を淹れて差し上げなければ! 待ってて下さいお姉さまぁぁぁぁぁーーーーっっ!!!」
一子はがばっと起き上がると森の中を一目散に駆け出した。もちろん瑞穂の居場所はおろか行く当てすら無かったが。
「はぁぁぁ、よくよく考えたらココにはポットも茶葉も無いんでしたね。これじゃあお茶を入れて差し上げられません、というよりお姉さまは何所にいるんでしょう?」
誰にとも無く呟いてみるが、誰かが答えてくれるわけもなく、一子はその場で頭を抱えた。
「わからないことが多すぎます、ここはひとまず情報を整理しましょう! まずは持ち物チェックです!」
そういうと一子はディパックをさかさまにして中身を自身の膝の上にぶちまけた。
「え~と、水と食べ物と~、筆記用具に磁石に…これは地図でしょうか? あっ、名簿もありますね。それと…………?」
一つ一つ中身を確認していた一子はその中に丸い緑色のボールのようなものがあることに気がついた。
とりあえず拾い上げて手で軽く叩いてみる。意外としっかりしていて、中身は空洞ではなく詰まっているような感じがした。
「これは一体なんなんでしょう? ボーリングの球…にしては穴がないし、武器というからには爆弾!? …にしては間が抜けてるような感じがしますし、もしかしてキャベツ…って、キャベツはこんなまん丸じゃ……」
「ちぃとちゃうけど、姉さんだいぶいい線いっとんで」
「うわぁっ!?」
突然威勢のいい関西弁に度肝を抜かれた一子は思わず球を投げ捨てた。が、球は地面につくことなくふわりと浮き上がり一子の目の高さでぴたりと静止した。
目と口しかない顔文字ような生命体(?)とばっちり目が合う。
「ワイの名前はスフィアタム、略してタマちゃん(№1208)や! 姉さんの名前はなんて言うんや?」
「え、えっと…一子、高島一子です」
「そおかぁ、高島の姉さんやな、よろしゅう頼むでぇ、あっ、ついでやけど、うちの姉さん何所にいるか知らへんか?」
なにやら次々とまくし立てるタマちゃん(№1208)を他所に、既に思考回路がパンクしていた一子はキャベツでいい線、ということはレタスでしょうか?
などと的外れなことを考えていた。
【時間:1日目・午後4時45分】
【場所:森の中】
高島一子
【所持品:支給品一式(あたりに散乱)】
【状態:高島一子、普通の女の子にもどりま~す! タマちゃん発見。思考停止中】
【思考】
1・キャベツ? レタス?
2・お姉さまにお茶を淹れて差し上げる
タマちゃん(№1208)【スフィアタム】
【所持品:なし】
【状態:(-・∀・-) 他のタマちゃんはいないようです】
【思考】
1・姉さん何所にいるんやろ?
2・高島の姉さんは何か知らへん?
備考【案】
高島一子について
- 【能力制限】の項目にあるように生身の人間とほぼ同じ状態になっています。
- 壁抜け、空中浮遊ほか幽霊らしいことは何も出来ません。
- 幽霊状態の一子はモノを持つことも瑞穂以外の誰かに触れることも出来ませんが、現状ではどちらも出来るようになっています。
- 当然、餓えも渇きもありますし、飲食もできます。
スフィアタム(タマちゃん)について
- 人格つきの自爆魔力アイテムです。
- 原作同様、自爆したタマちゃんは復活しません。
- 自爆のタイミング及び相手は使用者が決定できます。
- 本来は建物すら吹っ飛ばす程の爆発力を発揮できますが、今は制限がかかっていてそこまでの威力はありません。
- いわゆる対人用設定になっているので、目標の至近にいると巻き添えを喰うかもしれません。
- 一子の手元にはありませんが、他のタマちゃんやタマちゃんの“もと”も何処かにあるかもしれません。
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最終更新:2010年06月27日 16:05