Spitfire


「うわああああああああっ、なぜだぁああああああ!」
夕闇の中に慟哭が木霊する。
そう、上条信哉は彼は最愛の妹を失ったのだ。
そして涙に暮れる信哉を忸怩たる思いでただ見つめることしか出来ない衛宮士郎、
(どうして…)
全てを救う正義の味方を目指す少年にとっても目の前の現実はあまりに過酷すぎた。
(何人も死んだ…なんでなんだ、何故そんなに簡単に人を殺せるんだ!)
木陰で佇む槍兵の表情は一切伺えない、それでも時折苛立ちを隠せぬようにカツカツと槍を鳴らすような音が聞こえてはくる。
「沙耶っ沙耶っ…ああああ」
信哉の慟哭は収まる気配を見せない。
古武士の風格すら漂わせるこの少年がここまで崩れるのだ、いかにこの少年が妹を思い愛していたのかが伺われる。
「なぁ…」
見かねた士郎が信哉の肩に手をやろうとしたのだが、槍兵の厳しい視線を感じるとそのまま手を引っ込める。
(今は泣かせてやれってことか…でも)
嗚咽の声が響く中、戸惑いを隠せない士郎、とわずかに信哉の雰囲気が和らいだような気がした。
「な…」
「泣くのはもういいんじゃねぇのか」
士郎が声をかけようとした矢先にランサーの声が先に重なる。
このへんのタイミングは多くの戦士たちの死を看取ってきた歴戦の戦士ならではのものだった。

「で…どうしたいんだ、てめぇは」
落ち着きを取り戻したように見える信哉に問いかけるランサー。
「とりあえず泣くのには満足したみてぇだがよ」
押し黙ったままの信哉が重い口を開く。
「知れたこと…妹の仇を討つ…それだけだ」
「そんな…」
口を挟もうとする士郎を手で制するランサー、そのまま士郎には構わず話を続ける。
「わかってるとは思うが、そりゃ茨の道だぞ」
「知れたこと、だがもう俺にはそれしかありえない」
復讐は復讐しか生み出さない、それがあの神父の狙い、断ち切れぬ負の連鎖を以って事を成さしめる。
だが分かっていても心がそれを許すことが出来ない。

「ランサー殿…」
信哉が確認を取るかのようにランサーへと視線を向ける。
「今の俺はテメェのサーヴァントだ、それが答えだ」
「そうか…」
それだけを口にして信哉はようやく士郎の方へと向き直る。
「おい待てよ…お前まさか本気で」
「衛宮殿、どうか止めないでくれ」
苦渋に満ちたその声に躊躇する士郎だが、道を誤ろうとしている者をただ見送ることなどこの少年には出来るはずも無い。
しかし信哉の方が早い。
「ランサーよ、令呪において命を伝える」
信哉の左手が輝く。
「衛宮殿から宝石を奪え」
「な!」

驚く暇もなく、ランサーに組み伏せられる士郎、耳元で囁くランサー。
「なぁ頼む…大人しく宝石を渡してくれねぇか…さもないと」
聞き分けのない弟をあやすような口調に突如殺気が混じる。
「ボウズ、オメェをまた殺さなきゃならなくなる」
その声を聞いた途端、士郎はまるで心臓を刺し貫かれたような感覚に襲われた…これは脅しではなく本気で、
そしてこれはこの男なりの誠意なのだと、
だから士郎は、逆らうことなく宝石を信哉へと差し出す、値踏みするように手にした真紅の宝石を握る信哉。
思ったとおりだ…おそらく何らかの儀式の触媒として使うつもりだっただろう、凄まじき量のマナを感じる。
魔力を半ば封じ込められた状態でも、この宝石にプールされたマナを抽出すれば、
魔術の威力そのものに制限が掛けられていることを計算に入れたとしても、その補正を補うことが出来るはず。

「すまない…衛宮殿」
(俺は修羅に堕ちる…すまぬ…だからどうか衛宮殿は汚れないままでいて欲しい、ここからは俺のせめてもの置き土産だ)
「ランサーよ、令呪において命を伝える」
信哉の左手がまた輝く。
「これからは俺ではなく、衛宮殿に忠義を尽くしてくれ」
この言葉に驚かぬ者はいなかった、士郎だけではなく、ランサー本人ですらも。

「お前…」
「真名をついには聞けず終いでしたが、名のある英霊とお見受けしております、ゆえにその刃を私怨で汚させることは
俺には出来ません…俺はこれから怨刀に生きて怨刀に斃れることになるでしょう、だから槍兵殿」
そこで信哉は笑う、誇らしげにだがひどく寂しく。
「真の主の下で忠義を尽くして欲しい、衛宮殿の理想を叶える手助けになって欲しい、それが俺の願いです」
もはや言葉を発する者はいなかった、ここまでの覚悟を決めた男を誰が止められるというのだ、
その果てが修羅道と知っていてなお。
「さぁ…衛宮殿」
信哉が手を差し伸べる、それが何を意味するのかは士郎にも分かる、もう士郎も何も言わなかった。
ただ無言で信哉の手を掴む、と僅かな痛みと共に左手に痣が刻まれ、そして急激な脱力感…。
「オイ大丈夫か?ボウズは半人前なんだからよ」
「いや…大丈夫だランサー」
己の魔力を持っていかれる独特の感触に戸惑いながらも、なんとか姿勢を整える士郎、
信哉の気持ちに応じるためにも、これしきで挫けるわけにはいかない。

「またな…衛宮殿」
契約の譲渡を確認するともう信哉は振り向かなかった、その背中に一言だけ何かを叫ぼうとした士郎だったが。
「それは言うな…言えばアイツはまた迷う、その果ては犬死だ…それと覚悟しておけ」
ランサーの目が光る。
「次に会うときはアイツはもはや敵だ…」


上条伸哉
【装備:遠坂十年分の魔力入り宝石】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康】
【思考】
 1)沙耶の仇を取る(冷静なようですが半ば自暴自棄です)
【備考】
 ※士郎の体内にあるアヴァロンの存在に気がつきました

衛宮士郎
【装備:なし】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康、令呪・残り3つ】
【思考】
 1)友人らを探す
 2)正義の味方として行動する

ランサー
【装備:アロハシャツ、釣竿】
【所持品:ゲイボルク】
【状態:健康】
【思考】
 1)士郎と行動
【備考】
 ※服は任意で戦闘服、アロハに変更可能



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小休止 衛宮士郎 戦場デ少女ハ心ヲサガス?
小休止 ランサー 戦場デ少女ハ心ヲサガス?







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最終更新:2010年06月27日 14:21