禍福は巡る


「…」
涼宮茜はただ無言で宙を睨む。
「嘘です、先生が死んでしまうなんて嘘なのです~」
溢れる涙を隠そうともせず嘆きの声をあげる周防院奏、そして。
(ついにこれから始まる…私の戦いが)
高峰小雪は死者を悼むためにそっと閉じていた目を開き、決意を新たにする。
ましてもうすでに彼女の友人の1人である沙耶が死んでいる…全てを救うことは最初から叶わないにしても、
それでもやるだけのことはやらねばならない…そう決めたのだから。
「エル・アムイシア・ミザ…」

背後の気配に茜が気づいたのは決して偶然ではない。
一流のアスリートとして鍛え上げられた一種の勝負勘が彼女に背後の何かを伝え、だから反射的に振り向いた。
と、同時に小雪の呪文が完成する。
「ノ・クェロ・レム・ラダス・アガナトス」
「奏ちゃん!」
何が起こったのか反応どころか気が付いてさえもいない奏を押し倒す茜、その頭上を掠めるように魔力の渦が通り過ぎる。
「小雪さん…あんた、どうして」
信じられない、そんな表情で小雪に問う茜。
「仔細を語る気はありません…ただ皆さんを狩る、それだけです」
本当はもっと言うべき言葉もあるのだが、あえて突き放した態度を取る小雪、それに内心焦ってもいた。
(魔力が弱まっている…)
このまま長引けばこちらに不利、しかも自分はサーヴァントを従えている、そのための魔力も残しておかねばならない。
あと数発でけりを、できれば一発でつけなければ返り討ちだ。
また呪文の詠唱に入る小雪、しかし茜も今度は黙っていない、覚悟の眼差しでマグナムを小雪に向けて構える。
その手は震えてはいるが、迷いはない。このまま引き金を…だが。
「ダメなのです!」

叫びと共に奏が躍り出る、しかも茜を止めようとして。
「今のは何かの間違いなのです、小雪さんが悪いことをするはずがないんです、だってだって小雪さんは魔法使いなんですから
だからきっと魔法で皆を助けてくれるはずなのです」
茜にすがりつき、そして小雪に乞うように叫ぶ奏…小雪が僅かに視線を逸らす、が。
「ごめんなさい…奏さん、魔法使いは何でもできるわけじゃなく、そして全てを救えるわけじゃないんです…だから」
茜が奏を押しのけてまた銃を構えるが、もう遅かった。
「ごめんなさい」
小雪から放たれた魔力の渦が、今度こそ2人を崖下へと吹き飛ばした。

森を抜け、必死で山道を走る渡良瀬準。
6時を僅かに過ぎてしまっている…間に合うか、小雪はおそらくこの山頂にいる、足跡を頼りに上へ上へと走る。
そして山頂に着いた時だった、そこには確かに高峰小雪がいた、いつもの微笑を浮かべて。
「沙耶ちゃんが…」
「ええ」
ややぎくしゃくとしつつも再会の挨拶を済ませた2人だが、やはり会話は弾みようがなかった。
「ですがよかった、こうして会うことが出来て」
それでも笑顔で準の手を取る小雪、その瞳には嘘偽りは決してない。
「あたしも…沙耶ちゃんは…その…残念だったけど」
上手く言葉に出来ないもどかしさを覚えつつも苦労して会話を続ける準。
「でも小雪ちゃんに出会えてよかった、あとは雄真たちを探そう」
「そうですね」

やはり味気ない言葉を返す小雪…準の登場は彼女にとって全くの予想外だった。
しかも…崖下に眼をやる小雪、このタイミングだと目撃されている可能性すらありうる。
だが…準はこう見えて一本気なところがある、あんなところを目撃しようものなら、
怒りに任せて自分にかかってくるはず。
それが無いということはひとまず安心か…それにもう自分は手を汚すつもりはない、
あとはあの赤い弓兵がしっかりと役目を果たしてくれるはずだ、だから自分は準を守ることに専念しよう。
そう心に定めた小雪はまた改めて準の手を強く握った。

一方の準もまた考える。
確かに表面上、小雪には何の変化も見受けられない、だが準には確信めいた予感があった、
おそらく彼女は高峰小雪はすでに誰かを殺めている、と。
今こうして落ち着いていられるのも、おそらく何らかの手段によって自分の手を汚さずに事を済ませる術があるからなのだろう。
ポケットに忍ばせた奇妙な短剣を指でなぞる準、契約破りの剣だとあの神父は言っていた、
最初はこの剣で小雪を刺せと言っているのかとも思ったが、どうやら違う…最終的にはそうなるのかもしれないが、
それはきっと小雪の得た手段と関係しているはず、だから準は自重することにした、確たる証拠を掴むまでは決して動かない。
もし自分の疑念が小雪に伝われば彼女はためらいなく自分を殺すはずなのだから。

そして2人がいる山頂から、はるか下の地上では、
「奏ちゃん…」
茜はぼんやりと目の前の光景を眺めていた、あれほどの高さから落とされたにも関わらず彼女はほぼ無傷だった、
落ちる過程で突っ込んだ大木の葉や枝々がクッションになってくれた上に、下が柔らかい茂みになっていたのが幸いした。
だが…一方の奏は落下点にあった石によって頭を砕かれ、即死していた。
「運が…なかったね」
ほんの数メートルの差で生死が分かれてしまったことについてぽつりと呟く茜。
もはやそれ以上の言葉は出てこなかったし、涙も出なかった、何故なら悲しみよりも小雪への怒りの方が遙に大きいのだから
「必ず敵は取ってみせるから」
自分を奮い立たせる茜、だが相手は魔法使い…悔しいが自分1人ではどうしようもない、
ともかく仲間を探さねばならない、きっといるはずだ、彼女に対抗できる力を持っている人間が、
そして奏のように優しい心をもった人間もきっと。

【時間:1日目・午後6時10分】
【場所:山頂】
高峰小雪
【装備:干将・莫耶】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康(魔力欠乏中)、ジョーカー、令呪残り3つ】
【思考】
 1渡良瀬準を守る(ジョーカーとしての任務はアーチャーに任せる)
 2神坂春姫、上条伸哉、小日向音羽、すもも、雄真、式守伊吹、高溝八輔、柊杏璃と合流したい
 【備考】
 ※タマちゃん(スフィアタム)は島にはいないと思っています
 ※アーチャーから真名は聞いていません
 ※アーチャーの殺害数も自身の殺害数としてカウントします

渡良瀬準
 【装備:ルールブレイカー+支給品(不明)】
 【所持品:支給品一式】
 【状態:健康】
 【思考】
 1小雪がジョーカーであるという証拠を探す
 2神坂春姫、上条伸哉、小日向音羽、すもも、雄真、式守伊吹、高溝八輔、柊杏璃と合流したい

【場所:森林地帯】  
涼宮茜
【装備:S&W M60(.357マグナム弾 5/5)】
【所持品:.357マグナム予備弾丸×20、支給品一式】
【状態:かすり傷は多いが健康】
【思考・行動】
 1奏の敵を取る
 2言峰(及び主催)を倒す

【周防院奏:死亡 残り52人】




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ささやかな願い 高峰小雪 フォレスト・イン・ザ・ダーク
Funnyboy on the run 渡良瀬準 フォレスト・イン・ザ・ダーク
ささやかな願い 涼宮茜 勇者からは逃げられない!?
ささやかな願い 周防院奏 GameOver







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最終更新:2010年06月27日 14:28