吊り橋の果てに
「荷物…持ちますね」
僅かながら頬を染め誠のバッグを持つ君江。
「いいよ、そこまでしてくれなくても」
「いいんです、私こういうの無理ですから」
誠は手にしたナタで藪を掻き分けて道を作っている最中だった。
幸い放送で読み上げられた中に、自分たちの知り合いはいても直接の友人たちはいなかったことが、
彼らの気分を幾分楽なものにもしていた。
「ところで」
誠はナタを振るう手を止めて君江に向き直る。
「これを貸してくれたってことは、俺のこと少しは信じてくれたって考えていいのかな」
ストレートな物言いにまた頬を染める君江、とにかくこの伊藤誠という男、
まるで男に免疫のない少女にとっては危険極まりない存在だった、しかも無意識だからタチが悪い。
「そ…それはっ、ただ私が持っていても…無駄だって思うから…それに」
君江は自分の右手を軽く撫でる、まだ誠の手の温もりが残っている気がした。
「ま、いいか、ともかくありがと、これでもう少し進めばまた道に出られると思うから、でも」
誠は星が瞬きだした夜空を見上げる、もう目を凝らさなければ足元も見えない。
「きりのいい所で休憩したほうがいいかも、夜道は危ないし」
「えっ!!」
休憩という言葉に過剰に反応してしまう君江。
「どうしたの?」
肩を震わせた君江の顔を覗き込む誠。
「な…なんでも…ありません…」
「そんなこといわれると余計気になるじゃないか、なぁ」
「べ、別に変なことなんか考えたりとか…あっ!」
自分で墓穴を掘ったことに気が付く君江。
「変な…ことって…何?」
声を震わせる誠、変なことという言葉がどんなことをさしているのか分からない誠ではない。
無論そんなつもりは…自分の言葉に君江が想像したような意味はない、
だが期待してないわけでもない。
「額…広いね…かわいい」
君江の顔を見て、不意にそんな言葉を口にしてしまう誠。
「やめて…ください…」
小声で呟く君江、だがメガネ越しの大きな瞳は期待に揺れている、まだ心の中の吊り橋も揺れている。
「メガネ…取っていい?」
君江が頷こうとした時だった。
ひゅん!
またしても風を切る音が耳元で響いた、見るとそこには例のボウガンの矢が刺さってた、そして彼らの背後には…。
「またお前かよ、しつこい」
あきれ顔で金髪メイドを睨みつける誠、もう逃げようとはしない、ここまで来るとむしろ恐怖よりも怒りの方が強く、
しかも折角のチャンスを無駄にされたのだ。
「狙った獲物は逃がさないのですぅ~~~覚悟するですぅ」
狙った獲物は逃がさないとか何とか言ってはいるが、もう彼女のメイド服は見る影もなくボロボロだった。
つまり彼女も道に迷っていたのだ、しかしそれでも3回も同じ相手とエンカウントするとは運がいいのやら悪いのやら。
「とにかくぅ、お命頂戴ですぅ~」
いちいち語尾を延ばす美凪の口調は激しく誠を苛立たせた、
だが、ボウガンを構える美凪と自分たちとの距離は10メートルもない…逃げようにも踵を返した瞬間に串刺しだろう。
つまり…もう誠たちには打つ手はない、それを理解しているからこそ美凪は余裕なのだ。
(やだよ俺…こんなところで死ぬのか?)
死の恐怖がまた蘇ってくる。
(俺は…俺は…死にたくない死にたくない…死にたくない)
美凪がゆっくりとボウガンを構える、まるでスローモーションのように見える。
君江が震えながら誠の手を握る…その手は汗ばんでいて少し気持ち悪いと誠は思った、そして。
美凪が勝利を確信しながらトリガーを引いた。
「どう…して…」
呻くような声が漏れた…君江の口から…その胸には深々と矢が刺さっていた。
そう…この男は伊藤誠は事もあろうに菅原君江を気の迷いとはいえど一瞬でも自分に好意を寄せた少女を盾にしたのだった。
「だって仕方ないじゃないか!俺死にたくないんだし!」
自分を正当化することに関しては、この男は長けている、確かにこれ以上真っ当な理由もない。
誰だって死にたくないのだ。
そして誠のこの行動は攻撃した側の美凪までをも混乱に陥れていた。
まさかこんなにあっさりと味方を犠牲にするなんて、ハイになった頭が一気に醒めていく。
と、同時に冷や汗がどっと出る…手が滑ってボウガンが地面に落ちる、慌てて拾おうとしたのと同時だった、
何かが飛んで来たのを感じ目線を上げようとして、そこで戎美凪の意識は途絶えた、永遠に。
「悪く…思うなよ…お前が悪いんだからな」
息を荒くしながら捨てゼリフを吐く誠、目線の先には誠の投げたナタで頭を割られた美凪がいた。
「ちくしょう…なんでだよ…なんでなんだよ…俺人殺しになっちゃったよ…みんなぁ」
頭を抱える誠だったが、急に立ち上がると周囲をきょろきょろと見回す。
「誰もいないよな…」
幸いもう周囲に人の気配はなかった…だが、万が一がありえる。
この男は思慮が足りないくせにやたらと保身には長けていた。
まずは恐る恐る美凪の絶命を確認し、それから虫の息の君江の方へと向かう誠、
もう声すら出せそうにない君江はただぼんやりと誠を見ていた、そこにあるのは恨みか後悔か。
「ごめん」
誠は見られないように藪の中へと君江を引きずり込むと、そのまま君江の方を見ないようにして手にしたボウガンのトリガーを引いた、
さらに寒いかもと思いながらも血の付いた上着を少し離れた地面に埋めて、
証拠を隠滅すると、今自分の行ったことは不幸なめぐり合わせの産物で、もう何一つもう思い出さないと心に決めて、
何事もなかったかのようにまた道を急ぐのだった。
そして今、彼の目の前には山小屋があった、そしてその目線の先にはぼんやりと星を見る少女。
(あの子の胸、言葉より…大きいかも)
誠はおそらくブラのカップでいえば桂言葉より上であろう、その少女の胸に釘付けになっていた。
【時間:1日目・午後20時30分】
【場所:山小屋付近】
伊藤誠
【装備:ボウガン(ナタも処分済です)】
【所持品:支給品一式(ランダムアイテム不明)】
【状態:健康・罪悪感あり】
【思考・行動】
1・おっぱい!おっぱい!
2・友人・知人を探す
間桐桜
【場所:山小屋(教会西側の山の山頂付近)】
【装備:なし】
【所持品:花火セット、支給品一式】
【状態:健康。ステルスマーダー化】
【思考】
1・大河と夜が明けるまでは山小屋で身を潜める
2・ゲームに乗っている者と接触した場合は戦う。乗っていない者と接触した場合、利用できる者は利用し、利用できない者、用済みの者は隙を見て始末する
3・朝になったら近くの村(西側)に行き士郎たちを探す(桜本人は自ら士郎たちに会うつもりはない)
4・冥夜たちに会えたら月詠のことを伝える(そして利用できるならある程度利用する)
5・月詠から合図があったら15分ごとに花火を打ち上げる
【菅原君江:死亡 残り50人】
【戎美凪:死亡 残り49人】
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最終更新:2010年06月27日 14:32