猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

草原の潮風08

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草原の潮風 第8話

 

砲弾が、周りの土に食い込んでくる地響き。
重くてこれ倒すことのできないレバーが、目の前の敵兵の体を、手持ちの矛槍で突き通したのだと告げる。
レバーを定位置に戻すとともに、倒れこんでくるもの言わぬ屍。

「死にたくなければ、そこをどけ!」

外部スピーカーごしの敵にに向かって告げると、ペダルを目一杯踏み込む。
肉塊の末端部が砲撃の雨で吹き飛ぶ中、槍にまだ突き刺さったそれを敵陣に放り投げた。



なんーて、かっこよく先陣を切って敵の前衛を相手にしているのは、カレン機。
俺はもっぱら、塹壕をはいずり回って、
背中に担いできたパンツァーファーストを戦車に撃ちこんで逃げ回ってるわけで・・・。

「いたぞ!」

鼻が利くイヌ族相手じゃ、ヒトの歩兵なんて、こうやってすぐに見つかるので、
振り切ったと思った瞬間に、足元や目の前を大砲の弾やら、投げナイフ、矢などが掠めていく。

「しつこいなあ!」

大体にして、戦闘開始30秒で転んで、
戦闘終了まで起き上がれない二足歩行兵器なんて意味ないって、博士!!

そんなことを思いつつ、まだ熱い鉄パイプを投げ捨て、肩から下げていた歩兵銃に手をかける。
先のパンツァーファーストはこっちの世界で作られた模造品だが、
この歩兵銃のほうは落ち物だそうで、向こうの銃器メーカーのロゴのおかげか、使っていて安心感がある。

「戦闘も、本気で世界大戦やそれ以前なんだもんなぁ、一部除けば・・・」

その一部の例でもある、怒涛の援護射撃。
これがなければ、少人数の機械化部隊のみが前衛なんて、成立しなかっただろう。

人間にはこなせない速度で放たれる大量の矢。
魔法使いでも比較的文武両道の人達による、近距離攻撃魔法。

そして、少々の誤射ではびくともしない、鋼の体を持った人型兵器。

カチカチ・・・ガキンッ

弾がなくなったその音を聞くと、
銃身を振り回しながら空になったカートリッジを引き抜く。

「構え!撃てっー!!」
簡易的な散弾のようなマスケット銃の銃弾が頬を掠め、
その空気圧がうっすらと蚯蚓腫れのような鬱血を頬に刻む。

20世紀前半に使われていた旧式銃。
対する訓練も、当然形だけのものなので、戦場では思ったようにカートリッジ交換が進まない。

「隊長、危ない!」

バウンッ

誰の声か判別している暇もなく、引き金を引いた。
振り向く暇がなかったので、腕だけ返しためくら撃ち。

ドスンッ

腕から肩にかけて響く重み。たった今からただの肉塊になった獣人。
運が良かった。
そして、その肉塊に隠れるようにしゃがみ、塹壕から上半身だけを出してこちらに銃撃をしてくる敵を狙う。

俺は新兵のよく掛かるという病気に掛からなかった。
心が荒んでるんだと、よく当時の教官にからかわれたものだが、
荒んでいたほうが罪悪感を感じずに楽でいられるのだから、悪い精神構造じゃない。

それにしても、どうしてだろう。
太陽も嫌というぐらい輝いていて、汗だくなのに酷く体全体が寒い。
凍える前に、せめて目の前の連中だけでも・・・。

1つ・・・・・・2つ・・・・・・3、4つ・・・・・・・・・・・・7つ・・・・・・これで最後、10人目。

ふう・・・・・・・・・終わった。
先輩、博士、風邪だったら、暖かい寝床と冷たいタオル、それと消化に良い食事くださいね。

・・・?
・・・・・・先輩って、誰だろう。
・・・・・・・・・まあ、今は良いや・・・あ、背中が暖かい。
誰か、俺を拾いに来てくれたんだな・・・帰ったら、食堂のおばちゃんにおじやでも作ってもらおう。
寝床の準備はしてきたはずだから、このまま部屋に返されても安心だ。

・・・・・・・・・意識朦朧としてる割りに、すごく冷静じゃん、俺。


柔らかい感触が体全体を包んで、体に力が入らない不安を打ち消してくれるぐらい心地良い。
おそらく、医務室か病院のベットだと思う感覚の中で、俺は夢を見た。

時々見る、昔の夢だ。
カズヒロと呼ばれていたごく普通の男の子だった頃の。

「先輩」
「なに?・・・また小言?」
「い、いえ、違いますよ」
「じゃあ、何よ?」
「ずっと、先輩とこうしていたいなあって・・・」
「・・・・・・ずっと・・・なんて、無理よ。もうすぐ、冬が来てこの屋上も閉鎖されるし」
「・・・・・・・・・」
「あなただって、進む道が待ってる。私だって、もちろんね」
「・・・・・・・・・」
「だから、次の春が来たら・・・とびっきりのプレゼント、あなたにあげる」
「・・・先輩が、俺に何かくれるなんて珍しいですね」
「結構色々あげてるつもりなんだけど、私は。例えばね・・・・・・」

体の芯が熱くなるような、自分の鈍感さが恥ずかしい思い出だ。
この時、俺と先輩は初めてキスをした。

そして二人で次の春を迎えられなかったことも記憶の片隅に残っている。
未だに先輩の顔がはっきりとは思い出せないが、声だけは夢の中でも自分に焼きついているようで、
先輩の言っている一言一句が怖いほどクリアに、頭の中を通り過ぎていく。

それからいくらか経って、体が底の見えぬ何かに落ちていく感覚で、俺は飛び起きる。

「痛っ」

腕が何かに引っ張られる。
腕のほうを見ると鉄柱の先に、液体の入った容器と伸びる管。

「・・・っ」
その物の名を口に出そうとするが、喉が渇ききっていて、声が出てこない。

点滴だった。
幸い輸血が必要なほどの大事ではなかったのか、それとも点滴に切り替わるほどの日数眠っていたのか。
こういう経験は、自分の記憶の中にはないのでどちらかは判断できない状況だった。

周りを見渡す。

俺はどうも普通の寝巻き姿のようで、腹部を触ってみるとわき腹に包帯が巻かれていた。
多分ここに、鉛球を貰って倒れたんだろう。
人間の体というのは、本当に不思議なもので、撃たれたであろうあのときは、痛みは全然感じなかった。

まわりをいくら探しても、ナースステーションから
人を呼ぶためのボタンが目に付かないので、部屋を出ようと決心した。

幸い、俺の私物は横にある小型ロッカーの中と上にまとめられていたので、小銭入れを持って自販機を探すために部屋をでる。
点滴の掛かった台は、幸いキャスターつきで動かせるものだった。

病室のドアは、思ったよりも軽く簡単に開いて、俺は廊下を歩き出した。
右に曲がって、自販機を探す。
病院のスリッパがペタペタを音をたてる中、久々に歩いてるのだという事実を体の鈍り方から思い知らされる。
突き当たりを左に曲がったところで、背もたれ付きの椅子と自販機を見つけたので、
自販機に、相変わらず見慣れないこちらの世界のコインを入れ、ミネラルウォーターを買う。
意識の中では本当はお茶にしたいのだが、体が頑なに水を飲ませろと訴えてきたのだ。

「ふう・・・・・・お」
やっと声が声になった。

既に、半分ぐらいになったペットボトルの残りをごくごくと飲み干す。
朝一番に飲む水の何倍もの快感とともに、体に水分が染み渡っていく。

生きてて良かったと心底思った。
博士を一人にするわけにはいかないし、一人のパイロットして白兵戦では命を落としたくなかった。

「助手くーん!」

博士の声が聞こえてきたので振り返ってみると、ちょうど俺の病室をはさんで反対側に位置する廊下から、
ドタバタとこっちに向かって走ってくる。

「助手くーん!!」

中間地点を過ぎてさっきよりもスピードがついてきた。
この病院の廊下、結構滑るけど大丈夫なんだろうか・・・。

「じょしゅくーん、いつの間に目覚ましたの!ずるいよ!!」
「ついさっきですよ、本当に」

「あれ、止まらないやー。受け止めてね助手君」

いやな予感は、早速当たった。
体力が落ちていた俺は、止まらなくなった博士に轢かれ、押しつぶされ、
また長い眠りの世界に逆戻り。

戦車4両に歩兵15人という、一人のこの分野の素人の戦果としては多大なものを受けて、
人型戦車随伴の重装歩兵隊を結成するというニュースが、
やっとこさ俺の耳に入ってきたのは肋骨の裂傷から目を覚ました数日後だった。

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