猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

学園002

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剣道部主将と男共(仮)

 
 
 宿題を終わらせるとやることもないので鞄から読み飽きた小説を取り出して読むとも無しにページをめくる。そのまま時間を潰しているとようやく下校の鐘が鳴った。
 ここ一週間で顔なじみになった図書委員(薄いベールを頭に被った小柄なヘビの上級生)に軽く会釈して図書室を出る。
 自転車置き場から愛車を取り出し校門でまたしばし待つ。今度はそれほど待たずに済んだ。
 体育館の方から来る人波の中にニシキヘビの柄の頭が見える。彼女は俺を見つけて軽く手を挙げた。近くに来たところで何か思いついたようで、突然芝居がかった声で言った。
「待たせたな佐々木小次郎」
「おのれ約束の刻限に遅れるとは。臆したか宮本武蔵……って、その配役だと俺死ぬじゃん」
「ん?なんなら実際に立ち会ってみるか?」
「それこそ死ぬだろ。ほれ馬鹿言ってないで早く乗れ」
「ああ」
 そう言って彼女は荷台に自分の鞄を敷くと後ろ向きに座る。
 ちょうど俺の背中が背もたれになるように。
「んじゃ行くぞ」
 一声かけてこぎ出す。二人分の体重を乗せて自転車が走り出した。
 
 この送り迎えをするようになったのはちょうど一週間前。路上でスクラップになった自転車の前で途方に暮れている彼女に呼び止められてからだ。
 ボールペンをのどに突きつけるという斬新な交渉の結果、彼女が新しい自転車を買うまで俺が彼女の送迎をするということで落ち着いた。
「なー、新しい自転車はまだなのか?」
「ううむ。父上にも再三言ってはいるんだがなあ」
「金無いってんなら親父のツテで中古屋紹介してもいいぜ?中古ならそこそこ良いのが4000円ぐらいで手にはいるぞ」
「しかし、所詮は中古だろう?安物買ってもすぐ壊れたら意味がないしな。ここはちょっとゆっくり物が見たいところだし」
「いや駅前の無断駐輪自転車がほとんどだから安物ってほどでもない。意外と新しいモデルもあるしな」
「そうなのか?というか、詳しいな?」
「ああこの前の日曜にちょっと行って話聞いてみた」
 その一言を聞いて、ちょっと彼女が間をおいた。
「やっぱり早く買った方が良いのか?」
 質問の意図がわからず俺も少し間をおく。
「無いと不便だろ。いろいろと」
「まあ、そうだな」
 その後少しお互いに黙って、またどちらからともなく口を開く。最近つまらなくなったバラエティ番組とか、学校近くのラーメン屋とか、やたらととある部員に突っかかる副部長とかそんなくだらないことをだらだらと話していると彼女の家の前まで来る。
「着きましたよお客さーん。28600円になります」
「なんと、ぼったくりタクシーか。ならば武力鎮圧して警察に……」
「すんません嘘つきましたごめんなさい」
 彼女の家は広さだけはそこそこある剣術の道場をやっている。古くて広いだけが取り柄で門下生はあまりいないとは彼女の言だが、実力はかなりのものらしく師範は警察での教導も行っているらしい。
 今時はやらないえげつない実戦剣術だと自嘲していたが、彼女はそれを誇らしそうに語っていた。
「じゃ、また明日」
「ああ、また明日」
 それだけ交わして帰途につく。だいぶ軽くなったペダルに力を入れると、風がさっきより冷たくなった気がした。
 
「ただいまー。……って、なんだまた事故ったのかよ」
「うるせえなあ」
 あちこちすり切れた改造制服を着たカモシカのマダラが、またボコベコになった愛車であるカブの前で所在なげに佇んでた。
「つーか今日はこけたんじゃねえ。ケンカでこうなっただけだ」
「ほー。ところで親父は?」
「ん?車検終わった車持ってくつって出てった。ああそうだ、お前が来たらお前がコイツ直すように言えって」
「あんの親父……」
「修理費は小遣いにしていいとさ」
「さすがお父様」
 言いながらも上着を脱いでカブを診る。
 外装こそボコボコだがフレームは無事。他はある程度の部品交換で何とかなりそうだ。ただ、サスが良くわからない壊れ方してんだよな……。
「ケンカで壊したって?」
「ああ、警棒持った連中に囲まれてな」
「それで?」
「こっち素手でさ、武器がないと流石に厳しいんで仕方ねえからそいつ持ち上げて……」
「もういい、わかった」
 非常識さにあきれかえる。囲んだ相手も災難だ。
「仕方ねえだろ?俺だって警棒で殴られたくねえし」
「あのなー、お前と違ってコイツは繊細なんだよ」
「それってタフさが売りだって、前言ってなかったか?」
「お前よりは繊細なんだよ。レンキ取ってくれ」
「ほい。……それって褒めてんのか?けなしてんのか?」
「呆れてんだよ」
 オイルが切れて擦れたチェーンが軋んでる。メンテナンスをサボっていた分も料金に上乗せしてやろうと決意した。
「ところでよ」
「なんだ?」
「女子剣道部の主将とつきあってるって本当か?」
「…………なんでそうなる」
「なんでって、ガッコの送り迎えしてればそう見られてもおかしくねえだろ」
 そうか?いや、たしかにそうだ。普通はそうみるわなあ。俺でもそう思う。実態はともかく。
「別に付き合ってる訳じゃねえよ。新しい自転車買うまでって約束でボランティアしてるだけだ」
「笑わせろ。お前がボランティアって柄かよ」
「それこそお前に言われたくねー!」
「んなこたどうでも良いんだ。つうかお前も嫌で送り迎えやってるわけでもねえんだろ?」
「……何でそう思う」
「本気で嫌なら、お前ばっくれるだろ。相手も地の果てまで追ってくるわけじゃねーしな」
 何を答えてもドツボにはまりそうな気がしてとりあえず黙る。相手は気にしてないようだったが。
「どうにも俺にはよくわかんねえんだけどな。そういうのって隠すようなもんか?」
「お前みたいに開けっぴろげってのもどうかと」
「そうか?」
「普通高校生でプロポーズはしないだろ。通算何回断られてんだっけ?」
「32回。卒業までに101回プロポーズするのが目標だ」
「何年前のドラマだ。つうか途中でプロポーズ成功する可能性とかないのか」
「はっ!?確かにそうだ!むしろ33回目で成功させるべきじゃねーか!!」
 愕然として自分の震える両手を見下ろす馬鹿を無視して作業を続ける。ついでにオイル交換とかもやっておくかな。
「俺は言葉の響きに酔わされて本質を見失っていたんだな。気付かせてくれてありがとう、親友よ!」
「それって新手の侮辱か?」
「なんで感謝の言葉が侮辱なんだよ。てか本題はお前の彼女の話だろ」
 ごまかしきれなかったか、と口には出さず独り言をつぶやく。背中には出てたみたいだが。
「別に誰に惚れてようがそれって恥ずかしがるようなことか?」
「普通は恥ずかしいって言うか、照れることではあるわな」
「だって嫁欲しいってのは生き物として正しいことだろ。何でそれが恥なんだ?」
「……お前みたいに物事の核心しか突かない奴にはわかんねーよ」
「それって褒めてんのか?けなしてんのか?」
「呆れてんだよ」
 呆れて、そしてうらやましいとも思う。この野蛮さが少しあればとも思うし、それを手に入れることに恐怖もする。
「修理費勉強してくれたらエリーゼにちっと彼女のこととか調べてもらうけども、どうする?」
「……いらね」
「へえ、いいのか?」
 いかにも下卑たにやけヅラでからかうように聞いてくる。俺は軽く肩をすくめた。
「いいさ、まだ惚れてないんだから」
「これから惚れるのか?」
「どうだろ、な」
 言い終わる頃には修理が終わった。修理費の伝票を突きつけて、軽くからかわれた復讐をする。
 とりあえずしばらく送迎係でもいいかな、と思いながら修理費をツケようと言い訳を始める奴に必ず支払わせようと心に誓った。
 
 
 
 
 

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