猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

学園004

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女番長とその舎弟(仮)

 
 
 彼の名前はタチヤと言った。
 彼は成績も割と優秀で、医大への受験も決定している。
 そう。なんの障害もなく人生を送り、順調に進んできた人種。
 しかし、最近は打って変わってトラブル続きの生活だ。
 人生は何が起こるか分からないと言う話しもある。
 それは本当の話しで、タチヤは現在、結構大き目のピンチに面していた。
 見る人から見れば大したピンチでもないだろうが、力の無いヒトのタチヤにとっては大きな問題だ。
 
「ほらっ、さっさと出せよ」
「いや、出すって何をさ……」
「カネに決まってんだろうがっ!! さっさと出せ!!」
「いくらと言わずに、サイフごとでいいんだぜ?」
 
 タチヤの周りを、数人の不良オオカミたちが囲んでいた。
 この事態は、所謂カツアゲと言うやつだ。
 タチヤは大人しくサイフを渡す気にはなれない。
 だからと言って、ここで袋叩きに遭うなんてのも御免だ。
 しかし、対処法が浮かんでくれる事もない。
 タチヤは、どうする事もできないまま、居心地の悪そうに苦笑した。
 そのへらへらした態度がオオカミたちの機嫌を損ね、ボス格のオオカミは、タチヤが背にしている壁に、思い切り拳を叩き付けた。
 その衝撃に、一瞬だが足が浮いたのを、タチヤは感じた。
 
 登校の途中や下校の途中ならまだ予想もついたが、校内でカツアゲされると言うのも、
 タチヤにとっては想定の範囲外の出来事だった。
 ヒトであるタチヤにとって、オオカミは、ただでさえ太刀打ちしようのない相手だ。
 それがこうして、数人に囲まれているのだ。
 その戦力比は、手負いの赤ちゃんガゼルを、数匹の猛獣が取り囲んでいるに等しい。
 しかも、ここはあまり人気のある場所でもなくて、助けも期待できない。
 もうサイフを諦めるしか、自分の五体満足を諦めるかの2択しかなさそうだ。
 
 最後にもう一度辺りを見回して、オオカミたちを見る。
 逃げる隙もなければ、逃がすつもりもないであろう事を、改めて認識した。
 タチヤはごそごそと鞄の中をまさぐり、サイフを取り出した。
 サイフの中身がそれなりな分、やはり名残惜しい。
 差し出したサイフを放したくないと、心の底から思うが、自分の身の危険には替えられない。
 
「最初っからそうしとけばいいんだよっ!」
「おうっ! 使い切ったらまた来るからな!
次もよろしく頼むぜ」
 
 オオカミたちは、不吉な言葉を残してタチヤの前から去って行った。
 その背中に向けて、罵りの一つでも浴びせてやりたいくなる。
 しかしそうすれば、サイフを渡してまで手に入れた、タチヤの身の安全も保障されなくなってしまう。
 その衝動を必死に堪えて、苦虫を噛み潰したような表情で、タチヤは天井を仰いだ。
 
「……!」
 
 タチヤが驚いた表情をしたが、オオカミたちのタチヤへ対する関心は、もう完全に失せていた。
 サイフの無いタチヤなどどうでもいいオオカミたちが、そんなタチヤの仕草に気付く筈がなかった。
 だからオオカミたちは、自分の身に降り掛かる災難に、気付けなかった。
 次の瞬間には、不良のボス格と思しきオオカミは、意識を失っていた。
 オオカミたちから死角となっていた窓から、獅子の女性が飛び降り、後頭部を学生鞄で殴打したからだった。
 
 タチヤが驚いていたのは、その窓の位置が校舎の4階に位置していた事が原因だ。
 獣人の中でもかなり上の運動能力を持っていなくては、躊躇い無く入ってくる事はできないはずだ。
 そして同時に、見慣れたセーラー服を纏いながらも、一つだけ違和感を覚える事があった。
 制服に包まれるのは、女性の柔肌ではなくて、滑らかな美しさを見せる、毛皮だった。
 オオカミの男をあっさりと気絶させる腕っ節と言い、タチヤの知る、とある女性である事は確かだった。
 
「ここで勝手に恐喝だなんて、良い度胸ね。
とりあえず、さっき盗ったサイフと、おまえ達のサイフ。
両方を渡してもらうわ。これに懲りて次からは場を弁えなさい」
「た、助かった……。 レナさんありがとう……」
 
 自分のピンチを救ってくれたレナに、タチヤは自然と感謝の言葉を述べた。
 レナが来てくれたからには、そこらのチンピラは物の数に入らない。
 
「な、なんだよっ! 女のくせにナマイキだ!
このケダマ!! だいた……ッ!?」
 
 レナの動きは、驚くほど速かった。
 ケダマが普通の男性と同等の体力を持っていると言う話しは、事実だ。
 言い終えるより早く鳩尾に拳がめり込み、また1人のオオカミが気絶した。
 知っているのはタチヤぐらいのものだろうが、レナはケダマの容姿にコンプレックスを感じている。
 それについて蔑まれる事を、かなり嫌っていた。
 一部では、身体能力に優れたケダマの身体に、感謝さえしてると言われているのだが。
 
「女とか男とかそれ以前に、お前は雑魚よ。
他のも分かったでしょう?
痛めつけられて、無理矢理サイフを盗られるより、大人しく差し出した方が良い。
おまえ達が他者に強要してるのと、同じ選択肢だわ」
 
 レナが軽く凄みを利かせると、男たちはあっさりとサイフを差し出した。
 レナはこの学園で、スケバンとして君臨している女性だった。
 その地位に寄る効果が、オオカミたちの行動を促していた。
 サイフをレナに投げてよこしたオオカミたちは、小言を吐きながら去って行った。
 
 それを確認すると、レナはタチヤの方へ振り向いて言った。
 その声には呆れとともに、タチヤを非難する内容が含まれている。
 
「タチヤ、情けないわよ。珍しく遅れてると思ったら」
「仕方ないじゃないですか……。僕はヒトなんだし、よわっちいんです。
そりゃ、待ち合わせに遅れたのは僕ですけど、悪いのはあのオオカミたちですって」
 
 今日は、レナと待ち合わせをしていた。
 いつも5分前には待ち合わせの場所についているタチヤが、今日は遅れた事が、レナには癪らしい。
 確かに、舎弟に遅刻されるスケバンなんて、あまりカッコ良くない。
 もしもタチヤが原因の遅刻だったりすれば、どんなお仕置きが待っているか。
 その想像しただけで、タチヤの背筋には寒気が走った。
 レナも案外と乙女らしい一面も持ち合わせていて、“デート”に遅刻する男は許してくれないだろう。
 
「分かってるわ。だから少し懲らしめてあげたのよ」
 
 レナは、くっくと喉を鳴らして笑いながら返した。
 タチヤの予想通り、邪魔するものは制裁あるのみのようだ。
 これはいよいよもって、レナに逆らう事が出来なくなった。
 元々、レナ>>>>>>>>>(中略)>>>>>>>>タチヤの力関係だった。
 しかし、不良に絡まれたりのトラブルを解決したりしてもらった所為で、どんどん借りが大きくなっている。
 そろそろ、口答えさえ不能な力関係になってしまうかもしれない。
 もっとも今だって、十分に絶対服従の関係なのだが。
 
「何を呆けた顔をしているの? さ、行くわよ」
 レナの言動に対して遠い目をしていたタチヤを、そう切り捨てると、レナは屋上への階段を上がって行く。
「あ、待ってくださいよ!」
 
 タチヤはそれを追い掛けて、階段を駆け上がって行った。
 さっきのオオカミたちとのやり取りの所為で、まだ震えている脚を鞭打って。
 レナと付き合ってると、やばいトラブルに巻き込まれる事が多くて困る。
 かといって、根がチキンハートなタチヤでは、ハプニング慣れなんてできない。
 苦難の日々が続いている。
 
 途中何度か転びそうになりながらも、レナの後を追い掛けて階段を駆け上る。
 その揺れで、鞄の中の教科書と筆箱と弁当が、ガチャガチャと音を立てた。
 弁当の中身がごっちゃになるのではと、少し心配になったが、中身はぎゅうぎゅう詰めの筈だし、大丈夫だろう。
 レナに渡す弁当だし、今日のは張り切って作った自信作でもある。
 不注意で台無しにしてしまうワケにはいかない。
 
「タチヤ、早く弁当」
「はい、分かってますよ。今日は自信作ですから、期待してください」
 
 日の光に照らされた屋上に出ると、すぐにレナからの催促があった。
 タチヤは苦笑しつつ、鞄の中から、風呂敷きに包まれた弁当の重箱を取り出す。
 2人分なので中々の量があり、これを鞄の中に入れて持ち運ぶのは、それなりに大変だった。
 
「じゃあ、レナさんが開けてくださいね」
「ええ、ありがとう。私は料理なんてできないから、助かってるわ」
 
 レナは床に腰を下ろすと、ワクワクした様子で重箱の風呂敷きを開けた。
 最近はほぼ毎日、こうしてタチヤに弁当を作ってもらってる。
 レナはお世辞にも家事が得意とは言えず、自分で作った弁当に食欲を感じる事ができない。
 しかしだからと言って、購買部の昼食を巡って醜い争いをするのも、子供っぽくて嫌だった。
 そんなレナにとって、タチヤの弁当を作ってくれるのは、まさしく渡りに船だったのである。
 
「ふぅん……昨日とは中身が結構違うわ。
男の割に、随分とレパートリーがあるのね」
「下宿生活してたら、自然にですよ。
身の回りの事は自分で出来ないと、普通に暮らす事もできませんし」
「それは私に対する当て付けかしら? こっちも一人暮らしは同じよ」
「あはは、ならいっそ同棲でも始めます? 僕が料理を教えてあげますよ」
「そうね……、それもいいかも」
 
 タチヤは冗談で言ったつもりだったが、レナがまんざらでもなさそうな反応をした事に、驚いた。
 それがストレートにタチヤの表情に出てしまったようで、レナから冷やりとした視線が向けられた。
 タチヤは居心地の悪い気分になってしまうが、何とか笑顔を浮かべて、レナの出方を伺った。
 ここで無言の威圧でも掛けられれば、堪ったものではない。
 ビクビクしながらレナの反応を待っていたが、幸いな事に、タチヤが予想していたよりもソフトな反応だった。
 
「そんな本気で驚かれると、なんだか複雑だわ」
「いや、あの……、レナさんが素直な態度って、珍しいからつい」
 
 レナは結構プライドの高い性格をしているので、いつも中々素直になってくれない。
 なるべくレナのプライドを尊重した上で、彼女が望んでいる事を汲み取らなければならない。
 タチヤ以外、全くと言っていいほど男性経験が無いのもうなずける。
 
 しかし、今回のタチヤの言葉は、少し気が緩んでいたと言うか、失敗だった。
 レナのプライドを傷付けてしまうような、発言だった。
 
 しまった。
 
 と思ったときにはもう遅く、レナはタチヤに背を向けて、不機嫌そうに尻尾を動かしていた。
 
「悪かったわね。素直じゃなくて」
 
 レナはムスっとした声でそう言って、背中からなんとも近寄り難いオーラを発っしている。
 なんとか機嫌を直してもらおうと、タチヤも策を練るが、良い策が思い付かない。
 こんな状況になったときは、基本的にひたすら謝って謝って謝りまくってきた。
 しかし、それもそろそろ効果が薄れてきて、次なる手を模索中だ。
 
「レナさん、ゴメンナサイ。僕がナマイキでしたっ!」
「おまえの謝りは、聞き飽きたわよ」
 
 さらりと切り返されて、タチヤはうっと息を詰まらせた。
 対するレナは相変わらず不機嫌そうに尻尾を振って、タチヤの方を見ようともしない。
 困り果てたタチヤは、この状況から逃げ出す道を選んだ。
 
「レナさん、はいドウゾ」
「いいわよ」
「僕一人じゃ食べきれませんから、レナさんもお願いします。ほら……」
 
 タチヤは紙の皿に弁当の中身を盛って、レナに差し出す。
 こんな感じにギクシャクする事は、誰にだってある事だろう。
 だったら、ギクシャクしたところで別の事をして、そのムードを取っ払ってしまえばいい。
 それがタチヤの考えだった。
 タチヤから執拗に迫られて、最後にはレナも皿を受け取った。
 
「美味しかったですか?」
「……不味くはないわ」
 
 後はもう、簡単だった。
 2人で弁当を食べながら、学校での噂話や、実はあの2人がデキてたんだよ、という恋バナやらをする。
 そんな他愛もない話しをしながら、少しずつ近寄って、さり気無く手を握った。
 手を握った状態から、更に少しずつ近付いていって、次は肩に手を回す。
 横に座ったとき、レナの方がタチヤより少し背が高いのが、タチヤとレナの共通の悩みだ。
 女の方が背が高いなんて、どうにも格好がつかない。
 ただでさえ、片やスケバン、片や優等生の凹凸カップルだというのに。
 
「レナさん、さっきはちょっとごめんなさい」
「……まあ、許してあげるわ」
「よっしゃ、それでこそレナさん! 器が大きいですよ」
 最後の仕上げでタチヤが少しヨイショすれば、レナは照れ隠しに『お世辞なら要らないわ』と返した。
「お世辞が要らないなら、何が欲しいですか?」
「そうね。考えるところだけど……」
レナは顎に手を当てて、深く考える仕草をした。
タチヤは、自分とした事が軽はずみな言動をしてしまったと、またも後悔した。
レナの考えようから見て、どんな要求をされるのか、不安だ。
「じゃあ、さっき話してたけど、いっそ同棲してみない?
お互いに一人暮らしなんだから、何も問題はないわ」
「え、いいんですか?」
「良いに決まってるわ。仮にもおまえは、私の舎弟兼恋人よ。
私は、男を乗り換えるような尻軽な女でもなければ、そんな事が出来る容姿も持ってないから、
悪いけど、多分タチヤを放す事はできなさそう」
 
 いつの間にか、タチヤの肩にもレナの手が置かれていた。
 女性に対して言う言葉ではないが、適度に筋肉質で引き締まった二の腕は、頼り甲斐がある。
 昼休みに学校の屋上で2人きりのラブロマンス。
 そんな出来事に、タチヤはシチュエーションだけで、もう酔ってしまっている。
 この状況での同棲の申し込みはつまり、タチヤにすればプロポーズと同等の意味を持っていた。
 学生の内から、ここまで恋愛に夢中になるなんてどうかと思うが、タチヤもそれを抑えられるほど器用な男ではなかった。
 
「それってもう、実質的なプロポーズじゃないですか。
なんだか、うわもう死んでもいいかも。この世に未練が無くなりそう」
「なによそれ。まだ死なれたら困るわよ。
死なないように、私が守ってあげないとだめね」
「いや、それぐらい嬉しいって言うか、次から弁当の白御飯にハート型にふりかけをかけたくなりました」
「……なんていうか、男女の役目が完全に逆転してるわ」
「いいじゃないですか。人それぞれなんだから、一般的なイメージに縛られる事もありませんよ。
それにその基準で行くと、チキンハートで弱っちぃ僕は、思いっきり落第ですしね」
「言われてみれば、確かにそうだわ。でもそれが私たちらしいところね」
「そうですねー。じゃあこれからも守ってもらいます」
「ええ。これからも守ってあげるわ」
 
 タチヤは言いながら、辺りに気配はないか気を配った。
 レナの様子からしても大丈夫そうだが、ここまで出来上がったムードを打ち壊される訳にはいかなかった。
 耳を澄ませても足音など聞こえないし、タチヤはなんとなく安心した。
 
「レナさん、ちょっと、キスとかしていいですか?」
「……ッ!!」
 
 この瞬間、レナは普段なら絶対に見せないような表情をする。
 ストレートに言われるのは考えていなかった事で、タチヤの言葉に呆気に取られてしまった。
 目を白黒させ、呆けた顔でポカンと口を開けていると、タチヤの顔が近付いてきた。
 レナはそれを分かって、何も抵抗せずに受け入れる。
 一時の照れに身を任せて拒んでしまえば、タチヤはもう一度誘ってはくれないだろうし、レナには自分から誘うなんて不可能だ。
 レナは耳と髭をピクピクと動かしながら、辺りに誰かいないか探る。
 物音は聞こえないし、振動も伝わってこない。今なら誰に見られる心配も無い。
 
「……ッ…」
 
 タチヤの腕が腰に回されたのを感じてから、レナもまたそうする。
 男性に対して自分からアプローチを掛けるなんて、レナにすれば恥ずかしくって絶対に出来ない事だ。
 だから全部、まずはタチヤに行動を起こしてもらい、レナは後からそれを追従する形だ。
 差し込まれたタチヤの舌を、レナは自分のザラザラの舌で傷付けないよう気を付けながら、絡ませる。
 いつだったか、タチヤを口内炎にさせるキッカケになってしまったので、慎重にしなくてはならない。
 
 いつまでも続けばいいのに。
 なんてテンプレートな言葉が思い浮かぶほど、充足感を感じていられた。
 だが、それもいつまでも続けてはいられない。
 タチヤがレナの腰にまわした手を、その後どうするか考えている間に、昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。
 
「あ……」
 タチヤはレナとのキスを終えて、抱擁もやめようとした。
「待ちなさい」
 
 だがレナは、タチヤを引き止めようと、タチヤの制服を掴んだ。
 そうされれば、力で劣るタチヤは身動きが取れず、そのまま動けなくなった。
 少し困った気分になりながらも、レナの顔を見ると、少しうつむいていた。
 そのまましばらく黙っていたレナだが、やがて口を開く。
 
「まだ、行っては駄目」
 レナの言葉の意味する事が分からないほど、付き合いは短くない。
「分かりました。でも、服脱いだら寒いですよ」
「それなら、脱がないまますればいいのよ」
「脱がないままって……。 ……わ、分かりました」
 
 タチヤは、服を脱がないでするなんて、初めてだと今さらながら気付いた。
 今までも校内ですると言えば、体育倉庫に鍵をかけてとか、誰もいない夜の教室でとか、そんな感じだった。
 室内で辺りには誰もいなかったし、その時は服を脱いでいた。
 しかし、今回は流石に裸になるのは無理だ。
 ただでさえ校内での“禁断の桃色遊戯”をしていると言うのに、その上で屋上で青カンなどと、どんどん自分がアブノーマルになっていく感覚を覚えた。
 そう思うとタチヤは『分かった』と言っておきながらも、中々覚悟がつかない。
 だが、いつまでもレナを待たせては、タチヤの株が暴落してしまう。
 まだ多少の躊躇いはあったものの、意を決したタチヤはレナを押し倒した。
 
「失礼します!」
 レナとの力関係がどうしても頭から離れず、つい口走ってしまう。
「押し倒して言う言葉じゃないわ。
タチヤといるときくらいは、女でいさせて欲しいの」
 
 それはレナにとっては、精一杯の自己主張だ。
 タチヤ以外に、レナの女性らしい面を受け止めてくれる相手はいない。
 だからそのタチヤの前でくらい、できうる限り女でいたい。
 スケバンなどと言われても、根はただの女なんだから。
 
「……そうですね。僕もレナさんといるときくらいは、男らしくいたいです。
今は、少しぐらいの狼藉(ろうぜき)、許してくれますよね?」
「ええ。今だけなら許してあげるわ」
 レナの言葉にタチヤは満面の笑みを浮かべて言う。
「嬉しいよ。レナ」
 
 突然の呼び捨てに、レナは少なからず驚いてしまった。
 その隙にタチヤから唇が重ねられて、また舌が差し込まれる。
 さっきまで、もっと女扱いして欲しいと思ってたレナだが、急に呼び捨てにされて、どこか悔しい気分だった。
 なんだかんだで、つねにタチヤよりも優位でありたいと思ってしまうレナだった。
 だが、レナの女性としての技量では、それは無理な事だ。
 本番になってしまえば、不慣れな女性の面が露呈してしまう。
 タチヤとだって、まだ片手で数えるほどしか身体を重ねた事も無く、それまでは男の寄り付くような人間でもなかった。
 女性としての経験値が、絶対的に不足しているのだ。
 
「アッ……!」
 
 タチヤがレナの制服の中をゴソゴソと弄り、毛皮に包まれた胸を掴んだ。
 その瞬間、レナは軽く悲鳴を上げて身体をビクリと揺らした。
 口付けはしていたが、元々の口の形が違う上に、ネコ科のマズルでは犬のようにヒトの口を丸ごとくわえる事はできない。
 そのためどうしても声は漏れ出てしまう。
 自分の声が外に出てると思うと、レナの頭は羞恥心でいっぱいになる。
 部屋の中に2人きりでも、声を上げる事には抵抗があった。
 それを昼日中の学校の屋上でだ。
 声を上げないように、タチヤの舌を押し出して、全力で口を噤む。
 掴まれた胸を揉みしだかれる度に、喉までくる嬌声を、全力で抑え込んだ。
 
「ん……ッム…!」
 
 レナがそろそろ胸の刺激にも慣れてきたというところで、タチヤは標的を変えた。
 胸を揉んでいた手は、毛皮を撫でながらレナの下半身へ移動する。
 そしてスカートを捲り上げると、その下のパンティに手を潜り込ませる。
 レナはそれでも口を開かずに堪えたが、もう一押しだという事は、タチヤの目にも明らかだった。
 
「レナ、そんなに我慢しなくても……。恥ずかしいなら、これ噛んでて」
「……?」
 
 タチヤがポケットから取り出したのは、水玉模様のハンカチだった。
 レナは一瞬、用途が分からなかったが、すぐに思い出した。
 声を出したくないときは、ハンカチやら衣服やらを噛んでおくと、よく言われていた筈だ。
 実際にハンカチをくわえたりした事はなかったが、気休めぐらいにはなるだろうと、レナはそのハンカチをくわえた。
 
「もういいね。じゃあ、指を入れるよ」
 
 ハンカチをくわえていたレナは、声を出さずに頷いて返した。
 タチヤもそれを確認すると、中指と人差し指をレナの恥部に挿入していく。
 長いキスと胸の愛撫で、もうすでにそこは濡れ始めていて、指だけならなんとか入り込む。
 指を根元まで挿入したところで、二本の指を開き、中でバラバラに動かした。
 それは、蛇人の悪友から借りたAVの1シーンの見様見真似だが、ちゃんと出来ているかどうかには、不安が残る。
 見たテクニックを試す機会にあまり恵まれていないので、中々上達しない。
 レナの様子を見て、それなりの快感を与えられている事は予想できたが、どうせならもっと盛大によがって欲しい気分だった。
 だが、いつまでも愛撫だけを続けている訳にもいかない。
 
「もうこんなに濡れてるけど、挿れてもいいかい?」
「……ッ」
 
 ガマンできなくなってきたタチヤが尋ねると、レナはコクコクと頷いた。
 タチヤはすぐに股間へ手を伸ばすと、ファスナーを開けて肉棒を取り出した。
 ハンカチをくわえているために、レナはくぐもった声を出して、タチヤを急かした。
 その様子は、普段の堅いレナからは想像もつかない淫らな姿に見えた。
 だが、タチヤはそのレナを見てくすりと笑った。
 レナがタチヤの前でだけ、こうしてあられもない姿を晒してくれるからだ。
 それは、自分が替わりの利かない一つだけの存在だと、自覚させてくれる。
 
「好きだよ。キミ以外の誰かなんて、想像がつかないくらい」
 
 レナのパンティをずり下ろし、脚の間に割り込みながら、タチヤが言った。
 ここでレナがハンカチをくわえていなかったら、どんな言葉が返ってくるのか、聞き逃したような気がして少し残念に思った。
 
 「……ッ!」
 
 肉棒をあてがうと、レナはびくんと震え、恥部がひくひくと物欲しそうに動いた。
 タチヤはレナの耳をかぷりと甘噛みすると、それと同時に肉棒を押し込んだ。
 焦らされていた分、レナの締め付けはかなりのもので、すぐに出してしまいそうなところを、タチヤはぐっと堪えた。
 レナもまた達してしまいそうなのを堪えているようで、スカートの裾を強く握り締めていた。
 タチヤはレナのその握り拳をほどくと、かわりに自分が手を握った。
 レナに力いっぱい握られたら、複雑骨折では済まないかもしれないが、時には身の安全よりもムードを優先すべき事もある。
 多分、レナが加減してほどほどの力で握ってくれる筈だろうし。
 
「動いても大丈夫?」
「……ん…」
 レナはこくりと頷いて、肯定の意を表した。
 そして、タチヤはピストン運動を開始した。
「ン…、んッ……!」
 
 女性の中では低い方のレナの声だが、今だけは高い音程で甘かった。
 ハンカチを噛み締めて耐えているが、口を開ければ途端に嬌声が響く筈だ。
 タチヤはそのハンカチを取ってみたいと思うが、そんな事をすれば後でどうなるか、簡単に予想がつく。
 タチヤがレナより優位に立っていられるのは、行為の真っ最中だけだ。
 一時のテンションに身を任せて墓穴を掘るほど、タチヤも馬鹿ではない。
 
 しばらくその運動を続けたあと、タチヤはついに我慢が続かなくなる。
 直前まで我慢しようと気合いを込めていたが、やはり男である限り耐える事はできない。
 
「レナ、出すよ…。うっ……!」
「――ッ!」
 
 直前に引き抜いて膣外射精なんて器用な事は、タチヤには出来ない。
 仕方がないので、レナには今日1日、下腹部に残留感を感じたまま過ごしてもらう事になった。
 鞄の中に、保険の時間に配られたコンドームがあった事に気付いたのは、ずっと後だった。
 つかえば、制服を汚す心配もなくする事ができたのだが。
 
「レナ、どうだった?」
 
 タチヤは行為を一段落終えて、タチヤはレナの口からハンカチを取り出しながら言った。
 小学生の頃から使っている思い出のハンカチは、レナの牙で突き破られ、見る影も無くなっていた。
 切れ端が口の中に残っていたので、タチヤはレナの口に手を入れてそれを取った。
 レナは息も落ち着き、口の中もスッキリしたところで、口を開いた。
 
「タチヤ、図に乗り過ぎよ」
 
 言葉と同時に繰り出されたレナのデコピンは、タチヤに軽い脳震盪の症状を与えた。
 行為の所為で意識が昂揚していた事も有り、力加減を間違えたのだった。
 
 
 
 
 
Fin.
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
オマケ(エロ無し?)
 
 
 
 
「痛ぅ~……レナさんのデコピンは効いたよ……」
「まぁいいじゃないっスか! オレはタチヤが羨ましいっスよ!
保健室のヒツジさんは、この学園の中でもかなり上位の癒し系っス。
そのヒツジさんに付きっ切りで看病してもらえるなんて、立場を後退したいぐらいっスよ。
あぁ~、白衣の天使との禁断の関係!! たまにはエロビデオじゃなくって実体験してえぇ~っス!!」
 
 レナのデコピンにより脳震盪になったタチヤは、レナによってそのまま保健室まで運ばれた。
 そしてレナは保険医のヒツジにタチヤを任せて、帰ってしまった。
 恋人を心配する乙女の表情でベッドの横にいるのは、 レナに耐えられる事ではなかったからだ。
 レナとタチヤの関係は、レナの努力もあって広まっていない。
 学校の七不思議の一つである、盗聴部が実在するのならどうか知らないが、今のところはレナとタチヤだけの秘密だ。
 それがバレるのが恥ずかしいレナは、人前でタチヤに気のある素振りができないのだ。
 こうしてタチヤが意識を取り戻したあと、迎えに来たのはレナではなくて、レナの舎弟の一人のガルナだった訳だ。
 
「でもタチヤも残念スよねー。気絶しても見舞いに来てくれる相手がオトコだけなんて。
しかも姐さんを怒らせてデコピンくらうなんて、なんとツイてない。
まあ俺なら、一生保健室から出ないで保険医のヒツジさんにハァハァして暮らすのも良さそうっスけど。
うん。やっぱり白衣にはおっとり天然癒し系が一番スよね!
あの保険医さんなんかに『私ココに、キミのお注射を差して、中の栄養剤を注入して』なんて言われたら昇天もんスね」
「いやいやいやいや、有り得ないから。
だいたいそれ、前にガルナが貸してくれた『淫乱ナースにお注射ブチ込め!!』にあったシーンだし」
「そうそう、俺も何回あのシーンで抜いたか分からないっスよ。
でもこの前に貸した『激烈! 駅弁ファック百連発』も中々だと思うんスよ。
素人投稿を集めたのだから、秀作と駄作にムラがあるんスけど、34番目のカップルとか中々で」
「えぇと……34番目って、終電間際の駅前で、誰にも気付かれずにプレイしてたあれ?」
「いや、それは33番目っスよ。
狼人とヒトのエッチで、狼が立ってると、ヒトの女の子が地に足つかないんスよ。
それで狼がちんぽの力だけでヒトの女の子の体重を支えてて。
いや~、あれは素人にしてはかなりのもんスよ」
 
 そう言えばそんなシーンもあったなと、タチヤは思い返した。
 実は時間がなくて、まだ半分ぐらいしか見ていないが、短い素人投稿の寄せ集めなので、パパッと少しだけ見れる。
 ガルナから借りるAVは外れがないので、タチヤも大いに助かっている。
 
「そうだよね。あれは中々だった。
……そうそう、僕はそろそろ帰るけど、明日は約束の持ってくるから」
「あ、やっと焼き増しが終わったんスか。楽しみにしてるっスよ」
「OK!コピーガードかけられてて苦労したけど、何とか終わったよ」
「よっしゃ! 『パイパニャック』はもうレアなんで、手に入らないかと心配だったんすよ。
パロディのAVは、抜けなかったりするんスけどかなり笑えるんスよね」
「あはは、喜んでもらえて良かった。じゃ、また明日ね」
「おーう! また明日っスね!」
 
 タチヤはガルナに手を振ると、自転車置き場まで走った。
 気絶していた所為で、午後の授業を丸々すっぽかしてしまっている。
 家で復習をしなくては、優等生の地位から落っこちる。
 なので、なるべく早く家に帰ろうと思った。
 だが、放課後になって人通りの極端に減った廊下の中で、タチヤを呼び止める相手がいた。
 
「レナさん」
 自分を待っていてくれた獅子の女性に、タチヤは頬を緩ませた。
「タチヤ。ガルナと仲が良いと思ったら、随分毒されてるのね。
散々好きだとか言ってたくせに、随分と物足りないようだわ」
 
 レナの冷たい視線と言葉に、タチヤは背筋が凍り付いた。
 
 
 
 
 
 
 
終わっちまえ
 
 
 
 
 

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