猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

リフレドット家奮戦記01

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リフレドット家奮戦記 第1話

 
 
もちろん、こういう事は始めてという訳ではない。
年頃の男性なのだし、むしろ時々はこういう事がないと不安にもなるというものだ。
いや、あるいは、こういう事が起こりえない程にそちらの生活が充実している、という可能性もあるが。
けれども一緒に暮らしている限り、そんな素振りは欠片もなかったと記憶している。
だとするなら、やっぱりそうなのだろう。
まったくもって、どうせこうなるのなら早めに言っておいてくれればいいものを――
 
自らの主たる人物の、その下着を手に持ったまま、彼女はそんな事を考えていた。
実に天気の良い日で、洗濯物を片付けるには絶好の機会である。
先日から雨が続いており、こういう日は貴重なのだ。だからこそ、早めに干してしまわないといけないのに。
それなのに――今。洗濯板に置いた衣類の中から、一枚だけを取り出して、彼女はずっと考えていた。
そんな彼女には、獣であるしるしはどこにも見えなかった。
豊かな毛並みがある訳でもなし。突き出た耳がある訳でもなし。
角も鱗も何もかも、そういうものがまったくない種族――と言えば、答えはひとつだ。
――ヒト。
この世界にあっては下層とされる種である。
故に、という訳でもないのだが、彼女はこうして洗濯という家事をこなしている。
服装も、よくよく見ればまさに家事をこなすのにうってつけという姿だ。
着馴れた感のあるエプロンをかけて、なんというか、所帯じみてすらいる。
ただし、今の彼女の手はすっかり止まってしまっていた。
最初に戻るが、主の下着を手に考えてしまっているからである。
どうしてそんな考え事をしているかといえば、答えはその下着の、内側にあった。
べっとりとした白いものが、結構な量でこびりついしまっていたのだ。
この粘液の正体――と言っても、それはもう。主も年頃なのだし。
まあ、つまりそういう事なのだろう。
そんなものを見せられたところで生まれてからずっと一緒に暮らしてきた相手であるから、汚らわしいと思ったりはしない。
しかし、彼女にとってこれは――
 
「はぁ……私がいるのに、こうなってしまうんですね……」
 
―ー溜息の原因となりうる代物だった。
男性に起こりうるこの現象、まあ簡単に言ってしまえば夢精だが。
それが起こるというのは、欲望を溜め込んでしまっているという事だ。
ヒトである自分、すなわち欲望を発散するのにうってつけの存在が同居しているというのに、である。
 
「簡単に手を出してこないのは、美徳ではあるんですが。でも――」
 
下着を持ったまま立ち上がった。
初夏の心地よい風が、彼女の腰まである長い髪をたなびかせる。
そして丁度目に入った、随分と早く帰宅している主の姿を見て――
 
「ん……渡りに船、です。今日は、少しだけ頑張ってもらうことになりますね」
 
この穏やかな陽気を、そのままかたちとしたような笑顔で。
彼女は、優しく主を見つめていた。
 
 
 
ライムリス・リフレドットはシマリスである。
といってもあの小さな獣の事ではない。
この世界において人間と呼び表される存在。地球のものが言うなら、獣人たる存在なのだ。
ただし、その姿は獣の比率よりもずっとヒトの方が多い。
せいぜいが頭の脇に目立つ耳と、大きくて毛並み艶やかな尻尾くらいのものだ。
男性であるのにこのような姿なのは、彼が希少種とされるマダラであるからで、これはこれで悩みの種の一つではあるのだが――
――ともかく。
そんな彼は今、自宅への道をとぼとぼと歩いていた。
予定よりもずっと早い帰宅の道である。
せっかくの尻尾も、情けなさそうにすっかり萎れてしまっている。
「……はぁぁ」
溜息をついて、うなだれる。同時に歩みも止まってしまうが、すぐに再開した。
うなだれていてもどうにもならない事を知っているからこその立ち直りである。
「まあ、仕方ないのかなぁ」
一定の折り合いをつけてから、彼の歩みはいささか早められる。
それなりに大きな屋敷である自宅の門をぐぐるのは、それからすぐの事だった。
 
だが、門をくぐったからといって、屋敷の中にすぐには入らない。
玄関から右へと周り、進んだ先にある小さな庭に、ライムリスは向かっていった。
そこには、今となっては彼の唯一の家族がいるのだ。
手入れがまるで行き届いておらず、見方によっては廃墟とも見えかねない屋敷の壁を背景に、ライムリスは進み。
そして、思った通りに――庭で洗濯物を干している、女のヒトのもとに辿り着いた。
「ただいまー」
「ああ、ライム様。今日は早かったですね」
返ってきたのは微笑みである。
その返答にライムリスの鼓動は高まり、僅かに言葉に詰まったが、辛うじて持ち直す。
「うん。なんかね、ラクリア姉が急に用事が出来たから、今日の仕事は取りやめなんだってさ」
「取りやめですか? 珍しいですね。あそこは年中無休だったはずですが」
「用事っていうのがよっぽど重要らしくって。お師匠さん絡みらしいよ」
素っ気無いように言いつつも、ライムリスは相手の様子を窺っている。
怒られたりはしないだろうが、心配などされるのも心苦しいのだ。
「……まあ、そういう事情があるのなら仕方ないのでしょうね。大丈夫ですよ、一日くらいなら蓄えもありますし」
「だ……だよね。うん」
ほっと胸を撫で下ろす。
「でも、そうなると今日は予定が無くなってしまいましたね。どうしますか?」
「そだね。どうしようかなぁ……」
 
ライムリスは――仕事の中止を告げた事で、安心しきっていたのだが。
しかし今。目の前の女性が、つい先ほどに自分の致命的な失態を見つけていた事には気づいていない。
夢精の後をまじまじと眺められていたという。その、思春期の少年としては決定的ですらある事実を。
そしてそんな事実を表には一切出さず、ただ優しく微笑んでいるこのヒト――
ライムリスを――否。リフレドットの家を主と仰ぐこの女性。
彼女の名は、エリカ・リフレドット。リフレドット家の一員である事を、名前に刻んだヒトである。
ライムリス・リフレドットとエリカ・リフレドット、この二人の間には並々ならぬ紆余曲折があったりもしたのだが――
 
それは、まあ、別の物語として。
 
「とりあえず魔法の勉強でもするよ。部屋にいるから、用事があったら呼んでね」
「はい。しっかり勉強してくださいね」
「うん、頑張る」
改めて玄関に戻って、ライムリスは屋敷の中へと消えた。
それを見届けてから、エリカは残りの洗濯物を見下ろし、軽く気合を入れる。
「残りは僅か。早く片付けて……ライム様にしっかり頑張ってもらわないといけませんね」
細腕による握りこぶしである。
一見しただけでは気合を入れたところで頼りないように見えたが、そうではない。
しっかりと見据えていたならば、その拳にはある種の威厳が備わっていたのが確認できただろう。
彼女は彼女なりに、ある決意を秘めていたのだから。
 
 
 
屋敷の外側こそ朽ちかけていたが、内側となるとこれは綺麗なものだった。
流石に建材そのものの老朽化は目に見えていたが、手入れが良いのかみすぼらしくは見えない。
そんな屋敷の奥まった一室で、ライムリスは机の上に無数の本を並べては唸っていた。
「理論はともかく、んー、やっぱり実践が難しいっていうか」
手を伸ばして、ぶつぶつと何事かを唱える。
すると、その掌の上に光が生まれ――すぐに、弾けて消えた。
「……全然飛ばないし。何が悪いのかなぁ」
背もたれに体重を預けて、少年は天井を眺めた。
指先では、くるくると小器用に鉛筆を回転させている。
あからさまに、行き詰っている――誰が見てもそう判断できる姿だった。
「んー、むー」
無意識のうちに、頬を膨らませてしまう。どうもみっともない表情だが、そこに。
「ライム様?」
「へ……って、ふわッ」
後ろから聞こえてきたエリカの声に、体重のバランスが一挙に崩れて――
ライムリスは、盛大に後ろに転げ落ちてしまった。
ころころと転がって、ようやく止まった部分で上を向く。
そこは丁度エリカのスカートの直前で、後少し転がっていたらその中に頭を突っ込んでいたところだった。
寸前で止まったのは運が悪いのだか良いのだか、そう考えながら照れ笑いをしてライムリスは彼女を見上げる。
「……何?」
見下ろしたエリカの目線と、見上げるライムリスの目線がぴったりと重なる。
それでも彼女は呆れるでもなく、冷静に応答した。
「そんなに派手に出迎えてもらわなくてもいいんですが。
 ……ええと、お洗濯も終わりましたし、少し時間が出来たんです。
 そこで、ライム様。お時間頂けますか?」
「え、あ、うん。魔法の方は、なんか調子でないから、別にいいけど」
くるりと横に転がって、ライムリスは姿勢を正した。
そうして、改めてエリカに向き直る。
「で、どんな用なの?」
「いささか言いにくいことなのですが――」
そうして、
彼女が、
たもとから取り出したものは、
「……ボクのパン……ツ?」
「……それだけならいいのですが、ライム様。……これは確か、二日前に履いていたものですよね?」
「二日前?」
 
二日前。
 
二日前――
 
二日前の、朝。目を覚ました時のあの嫌な感触――
 
「……ああああッ!?
 ま、まさか、エリカ、それってッ――」
「随分と――沢山、出してしまったようですね」
 
ライムリスの顔面が蒼白になった。
その後、すぐに赤く染まる。
更に赤くなった顔の全体に、脂汗が浮き出てきて。
 
「みッ……見ちゃった……?」
「洗濯をしていましたから、それは……バッチリと」
「う……うわぁぁぁん!」
 
この時のライムリスの動きは、目に捉えきれない程であったという。
床の上から跳ね起きるや、まるで空を飛ぶかのような高速で部屋の端にあるベッドに飛び込む。
そのまま、尻尾だけを外に出してシーツで全身を覆い隠してしまった。
「な、なんでそんなもの見つけちゃうんだよー!」
「ですから洗濯をしていましたので」
「き、気にせず洗濯しててよー!」
 
ライムリスとエリカは、二十年来ずっと一緒に暮らしてきた家族である。
エリカは珍しい事に生まれた直後にこの世界に落ちてきたヒトで、ライムリスの父に拾われたのだ。
彼女が新生児の頃から一緒に過ごしているのだから、血は繋がっておらず種族さえ違っていても、その意識は家族そのもの。
ライムリスの父が亡くなり、リフレドット家に残ったのがこの二人だけとなってしまった今ならば、その意識は強固になるばかりだ。
ならば、下着を洗濯されたくらいでうろたえる必要などまるでない。
まるでないのだが、今回はそうも言えなかった。
「い、いくらエリカだって……そんなの見ないでよ、もう……」
「そう言われましても……」
むしろ一緒に暮らしているからこそ、それを見られるのは誰よりも恥ずかしい。
もう二、三日は彼女の顔を見る事も不可能な気分だったライムリスである。けれども。
「ライム様。恥ずかしいんですか、これ」
「あ、当たり前だよー!」
返答を聞いて、エリカは深く溜息をついた。
「後になって恥ずかしがるくらいなら……まったく」
つき終わると、ベッドに近づき、必死で隠れているライムリスからシーツをはぎとる。
「ふわわッ!?」
「ライム様。私は怒っています」
「え……」
はぎとったシーツを投げ捨て、仁王立ちするエリカの姿がそこにあった。
普段は穏やかで、慈愛のオーラらしきものを出し続けている彼女なのだが――
こうして威圧の構えとなると、その黒髪が広くたなびいて、一種の魔王然とした雰囲気すら備えるようになる。
この雰囲気のせいで、ライムはどうにも彼女に頭が上がらないのだ。
年齢にしても、ライムリスが三十一でエリカが二十。十一歳も年上なのだが。
「何故私が怒っているのかわかりますか?」
「む……夢精しちゃったから」
「確かにそうです。ですが、ライム様が思っているものとは違います」
部屋に風など吹き込んですらいないのに。
エリカの髪はたなびいて、彼女の背後を覆うように見えた。
「いいですか? 夢精などするということは、ライム様が性衝動を我慢していたということですね?」
「う……ま、まあ……それはさ」
「どうして我慢していたのですか?」
「ど、どうしてったって……じ、自分で……するのはなんか……ちょっと……猿みたいでやだなぁっていうか」
「……自分で処理するつもりだったのですか?」
「あ、相手とかいないし……ふひゃッ」
言いかけたライムリスの全身に、戦慄の気配が走った。
生物学的に言ってヒトとリスとではその力に大きく差がある。世界全体で見ればリスは強い種族ではないにも関わらず、だ。
無論個体差もあって、よく訓練されたヒトには素人のリスは勝てないのかもしれないが。
しかし、エリカはあくまで家事に精通しているだけのヒト。戦闘能力は皆無に近いのだ。
そうなれば純粋な身体能力の差もあるし、威圧される事などありえないのだが――だが。
この視線。エリカの放つ絶対零度の視線が、ライムリスの本能的恐怖を呼び覚ます。
「私が――同居しているこの私がいながらそんなことを。
 ……どうして私をお使いになろうと考えなかったのです? そんなに私に魅力はありませんか?」
一瞬、殺されると思ってライムリスは身を硬くしたのだが、続く言葉にその硬さがたちまちほぐれた。
「は……え? ど、どゆこと?」
「私はヒトですよ? そういう目的に使うものじゃないですか」
「……なッ……何言ってるんだよ、エリカ。ボクはそういうの……」
「ライム様が望む望まざるに関わらずです。私は、ライム様に経験を積んで欲しいんですよ」
「け、経験……?」
エリカは腕組みをして、ライムリスを見下ろしている。
見下ろしている、というより――見下している、というべきか。
彼女にそんな意志は少しも無いのだろうが、体勢と発している雰囲気がそんな誤解を生み出す。
「よろしいですか、ライム様。ライム様もいずれは妻を娶り、リフレドット家の当主としてお立ちになられますね?」
「い、一応、その予定だね」
「一応――ではありません。ライム様あってのリフレドットです。……というか、リフレドットの一族はもうライム様しかいません。
 そして妻を娶ったのなら、当然お世継ぎを作りますよね?」
「ふ、夫婦はそういうものなんだろうね」
「その時。ライム様に経験が足りなかったとして――トラウマになってしまったら、どうでしょうか。
 お世継ぎが作られないままとなりかねないのです。そうなればお家は滅亡、リフレドットの歴史はここで終わります」
「そこまで大げさなことじゃないよぅ」
「いいえ。これは確実に起こりうる未来なのです。私はそれが心配で心配で……
 ですからライム様。夢精などするくらいなら、私を使ってください」
理論運びは一定の理屈があるように思えたけれど、ライムリスとしてもそれを簡単に聞き届ける訳にはいかない。
確かにリフレドットの家名は大切だが、それにしても。
「そんな……そんな理由でエリカに……その、そういうことは出来ないよ。
 そういうアレで一緒に暮らしてきたんじゃないんだし、その、なんていうか」
「そうですか。でしたらこういう理由ではどうですか?」
その瞬間――エリカの視線に秘められたものが、絶対零度から一気に人肌くらいにまで上昇したように思えた。
 
「私がライム様に抱いてもらいたいんです。すっかり男性としてたくましくなってきたライム様に。
 私だって、ライム様と一緒に暮らしていて、恋しくなることは一度や二度ではないんですよ?」
 
「……へ? エリカ、それ……えと」
流石に戸惑いは隠せない。視線が柔らかくなったといっても、口調そのものは変わらないのだ。
それにしても、と呆然とする主に、エリカはここだけ目を逸らしながら続ける。
「それに、もう一度抱いてもらいましたしね。……あの時は本当に激しかったです」
「あ……う。それは――そうだけど、さあ……」
――まあ、それも以前あった紆余曲折の一部ではあるのだろうが。
ともあれ。
そういう理由なら、と、ライムリスはこくんと頷いた。
「……ボクもさ、なんていうか。あの時は勢いだったし、そういうことしていいのかわかんなくて。
 そっか……うん。そうだったんだ」
「ええ。そうだったんです。……私だって寂しかったんですから」
「……う、うん。……うわ。うわー。な、なんか……照れちゃうね」
照れくささを誤魔化すために、ベッドの上をころころと転がりまわるライムリスである。
エリカは、こほんと咳払いをした。
ただ、それと同時に、主には聞こえない程度の小声で呟いたりもしてみる。
「ですがライム様に経験を積んでいただきたいというのも本当ですから。
 ……今日は、そういう意味でたっぷり絞りますからね?」
その声がライムリスに届かなかったのは、果たして彼にとっての幸か不幸か。
 
「では早速はじめましょうか。経験は積めば積むほど良いものですし」
転がり続けていたライムリスがぴたりと止まり、寝転がったままエリカを見上げた。
「へ」
彼女は、にっこりと笑って返す。
大体いつもにこにことしているのが彼女である。
まあ、時には先ほどのように、恐怖を伴う視線を投げてくる事もあるのだが。
それはそれとして。
「どうしました? ライム様も望んでいるのでしょう?」
「そ、そうは言ったけど――ね。うん。でもほら、まだ明るいし」
窓から見える太陽は、天の真ん中に程近いところに位置していた。
言うなれば昼の真っ只中である。
「結構なことです。暗いと見えづらいでしょう」
「え……えー。そ、そうだけど。エ、エリカ、なんでそんな積極的……」
「経験です、経験。その為に今日のお洗濯、早めに片付けたんですよ?」
「あう。そうなんだ。……って、今日は最初っからそのつもりで?」
「まあそう考えられても別段不具合はありませんが」
エリカの微笑みとライムリスの懐疑の視線のぶつかり合いである。
無論、少年に勝ち目はないので折れるのは彼の方だ。
――今回もそれに例外はない。
「……ま、まあ、その。そういうことならとりあえずボクも頑張ってみる」
意味もなくライムリスは拳を握り締めて気合を入れて見せた。
エリカがぱちぱちとそれに拍手を送る。
「大変結構です、ライム様。ではとりあえず――」
 
 
 
ベッドの淵に腰掛けた少年は、その下半身を外気に晒している。
目前には跪いている格好の女性が一人。
少年――ライムリスは、どうにもいたたまれない気分になっていた。
「と、とりあえず……脱いだ、けど……あ、あんまりまじまじと見ないで欲しいな」
「見ないと対処のしようがありませんから。ライム様はもうしばらく耐えていて下さい」
「た……耐える?」
「羞恥の視線に耐えるのも経験です。ファイトですよライム様」
「が、頑張る……」
上手い具合に言いくるめられた気がしたライムリスである。
そんな彼はともかくも、エリカはさらけ出された主の身体――特に、股間のものを凝視していた。
「以前は夢中だったのであまり気づきませんでしたが。ライム様……これはなかなか」
「な、なかなか?」
「……いえ、流石は私の主と。見事です」
「み、見事!?」
見つめているだけで、それはゆっくりと鎌首を持ち上げていた。
なるほど体格に比べると結構な大きさである。これで完全体ではないのだから、ますますもって壮健なものだ。
そんな主のペニスに、エリカは包み込むように両手を添えた。
「それでは、まずオーソドックスなところから経験を積んで頂きますよ?」
「オーソドックス……なの? それ」
「比較的には、ですが」
ひんやりとしたエリカの指が、緩やかにライムリスのそれをしごき始める。
まず最初という事で、動きも込められた力もささやかなものだ。
けれども触れられているというその事実が、少年の心に熱を加えていく。
「う……はう、エリカ、これでオーソドックスって……」
「これはオーソドックス以前ですよ、ライム様。もっと気をしっかり持たないと」
「う、うん……」
いつしか少年のそれは肥大化を完了していた。
育ちきり、凶悪な面構えですらあるものに、エリカはかすかに喉を鳴らす。
「……ああ。思い出しました。これが……私の中に……」
扱く指の動きも、彼女の反応に比例して力と熱が篭っていく。
指先が亀頭を擦り、撫で、導き出すのだ。
「や、ちょっと、激しいよ、エリカッ」
「まだまだ。この程度では激しいとは言いません」
両手を使い、丹念に擦る。
そうかと思うと、右手はしごき続けたままで、左手でやわやわと下にある袋を揉み解してくるのだ。
「そ、そこはちょっと、そのッ」
「オーソドックスです、ライム様」
「そんなぁッ」
やがて、扱かれ続けたライムリスのペニスの先から、彼の先走りが零れ始めた。
それを手に絡めて、ますます激しくするエリカである。
「や、ぬるぬるして、それ……うぁッ、気持ち、いッ」
「素晴らしい反応です、ライム様……」
はぁ、と、エリカも熱い吐息を零した。
切ない顔で悶える主に、彼女もまた感じるところがあったのだろう。
その勢いのまま、己が嬲っているものに、不意に口付けをする――と。
「あ……ひんッ」
「……ん」
びくん、と。手の中のものが弾ける。
口付けをしたそのままに、エリカは吐き出されるものを――
 
びゅくッ。びゅッ。
 
――全て。
顔で受け止めていた。
「や、汚いよぉ、エリカ、そんなの……う、はう……」
「肌に……ん、肌に乗った時の感触を確かめて……おきたかったので……ふふ」
断続的に襲い来る白い液体を、存分に浴びながら。
エリカは、悶える主にそう告げて――同時に、うっとりとしながら唇の周りについたそれを舐め取った。
 
「はう……あう……」
「……ふふ」
射精後の虚脱に身を任せるライムリスと、日頃のものとは違う、艶めいた微笑みを浮かべるエリカ。
対照的な、しかし別の見方では同質の姿をする二人のうち、先に動いたのはやはりエリカであった。
「次、です。ライム様、しっかりなさってください」
「つ、つぎ?」
「せっかく口付けによって達して頂いたのですから……いきますよ?」
「どこに……あうッ」
ピントのずれた質問を投げたライムリスの、そのペニスが、エリカの口の中に飲み込まれていた。
この挙動があまりに自然だったので、少年は口中に己のものを取り込まれるまで気づかなかったのだ。
「く、口ッ!?」
状況が状況なので、エリカは言葉でそれに応える事が出来ない。
それゆえに、目線を主に向けて、肯定の意を示す。
「で、でも、今出したばか……はうぅッ」
彼女の口の中は暖かく、包み込まれた感触は想像を絶していた。
言葉だって、途中で途切れてしまうというものだ。
更に。エリカは、口全体で吸い込んできた。
「ふわ……」
先ほど放った精の残滓が、彼女の喉奥に吸い込まれていく。
それだけではなく、新たなる射精の気配までもが背骨のあたりを走っていった。
「ま、また出ちゃうよ、そんなのッ……」
「……ふはぁ」
哀願したのが功を奏して、エリカはライムリスのものから口を離した。
そのまま上目遣いで問いかける。
「もう少し堪えられるようになって頂きませんと。我慢が少し足りません」
「うぅ。が、頑張らないとダメかな」
「ダメです」
「……なんていうか、こういうのって色々厳しいんだね」
「まあ、ライム様も経験が薄いからこそでしょうし。その為に私がいる訳です」
「そっかなあ……」
戸惑う様子の主を見て、絶頂に振り切れつつあった彼の快楽が落ち着いたのをエリカは悟る。
そして、また――口の中へと彼を導いた。
「はう……ま、また急に……」
――喉奥まで、吸う。
「ふわぁッ」
――舌を絡みつかせる。
「ふわ……わッ」
今度は、途中で止めるつもりはない。
ほつれた前髪が顔にかかるのを、左手で除けて――右手は確かに主のペニスを握り、位置を整えながら。
エリカは、技の限りを尽くしてそれを愛した。
「うわ……うわうわ、ま、また出ちゃうよ、エリカッ……」
「……んッ……」
「って、そのままだとッ……あ、う、あうッ」
一際大きく――
喉を突かせる程に呑み込んだ。その刹那。
 
びゅるるッ。びゅるッ。
 
そのまま、彼女の口から奥へと――
ライムリスの精が、どくどくと流し込まれていく。
「ん、んッ……」
こくこくと、エリカは流れのまま、目を閉じて受け入れていた。
「く……ふう、あう……」
その姿に、少年はどこかいたたまれない気持ちとなる。
 
ライムリスの息は荒い。
二度も、ほとんど連続で射精したのだ。消耗だってする。
それだというのに――
「はぁ……顔の外も、お腹の中も。ライム様の精をたっぷりと頂いてしまいました」
どこか冷静なまま――相変わらず、顔には精をまぶしたままで。
エリカは、そう告げるのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……き、気持ち……良かったよ、エリカ」
「それは……ありがとうございます、ライム様」
見上げるエリカの瞳と、ライムリスの瞳が再び絡み合う。
少年は、何かが通じ合った事を思って少し微笑んだ。
「ボク、ちょっとは経験積めたかな?」
「始まったばかりですが、もちろんです」
「そっか。ならよかった」
ふう、と。ようやく落ち着いてきた吐息を零し、ライムリスは力を抜いた。
いっそこのまま眠ってしまいたい、そんな気分でエリカを見ている――と。
「さて、次は少し変わった方法を試してみましょうか」
「は……へ?」
 
彼女の自慢の長い髪の、その一房が手に取られ、二度の発射で萎えたライムリスのペニスに――
「……って、エリカ、何をッ!?」
「経験です、ライム様」
「きょ、今日はもう二回も……はひッ」
黒髪が巻きつけられたものを、エリカは再び口に含んだ。
己の髪ごと、口内で愛撫するというのだ。
「なッ……エリカ、そんな、出ないッ……あ、あう、ふあぁッ」
一本一本がペニスに巻きつき、軽く締め付けるのを感じる。
それと同時に湿った口中の、唾液と舌の動きを味わうのだから――これは厳しい。
「うぁ……き、気持ちい……い、けど、でもッ……はうぅッ」
単なる口による奉仕だけではない、髪を絡めた攻撃に、ライムリスは節操なく充血を開始した。
自分でも情けなく思う事は思うのだが、これはどうにも止められない。
「あ……あうう……や、そんなのッ……エリカ、だめッ……」
ペニスが増大すればするほど、髪の毛が縛るように絡み付いてくる。
動きの中で、鈴口に一本の髪が触れ、かすかに入るのを感じた。
「はうぅぅッ! それ、ダメだよぉッ……」
「……ん、ふふ」
いいように悶えるライムリスを見て、エリカは嬉しそうに微笑んだ。
それでも口の中での行動は変わらない。
ひたすらに、主を愉しませる――別の意味では悶え苦しませるために。
「あ……ああ、あッ……」
がくがくと震える少年の姿に満足しつつ、彼女は――とどめを刺す。
「んぁッ……で、出ちゃうよぅ、また、こんなッ――」
エリカは、小さく頷いた。
 
びゅるッ。びゅく、びゅッ。
 
三度目、である。
段々と量も勢いも衰えつつあるが、少年の受けた快楽は増してすらいるようだ。
それすらも飲み干すと、唾液と精液でどろどろに汚れた自らの髪とともに主のものを解放し、エリカは深呼吸する。
ライムリスはというと、もう言葉も出せないくらいにふらついていた。
 
落ち着いた呼吸は再び乱れきった。
少年は最早、考えるのも覚束ない程に鼓動を早めている。
「エ、エリカ、なんでこんな、何度もッ……」
「け」
「経験はわかったからッ! い、いきなりハードすぎるよッ!?」
抗議の声に考え込む彼女だったが。
「……まあ、最初に馴らしておけば後が楽ということもあります」
「これはそういうアレじゃな……ふわわわわッ!?」
というか。
ライムリスの抗議の間にも、エリカは――
今度は、彼の尻尾を掴み――
「では、これも試してみることに」
「も、もう助けてよぉッ!?」
「経験です。はい、ライム様」
「うわぁぁぁぁん!?」
 
 
 
枯れ果てていた。
最早どう絞っても、何も出てこないだろう。
己の身体のあちこちを使われて、ライムリスはすっかり出し尽くしてしまったのだ。
「も、もう……もう本気で、ダメだよ……死んじゃうよ、ボク……」
腰掛ける事すら出来ない。
ベッドに横になって、彼はエリカに必死で懇願をする。
対する彼女は。
「そうですね。今日はこのあたりにしておきましょうか」
顔の全体に付着した精液を、タオルでぬぐいながら――
――ここで驚くべき事は、あれだけの射精があって、彼女に付着しているのは顔にだけなのだ。
後で洗濯が必要な上着、更にエプロンに至るまで、一滴の精液も零れてなどいない。
ライムリスをあれだけ蹂躙しながらも、後の始末まで考えていたというのか。
「うう……これがこんなに辛いことだなんて思わなかったよぅ……」
「そんなことはありませんよ、ライム様。立派でした」
「り、立派……ボクが?」
ライムリスは顔も上げられない程に衰弱しているので、声でだけしか判断は出来ない。
が、エリカがあの優しい微笑みでこちらを見つめているのは、なんとなく理解できていた。
「途中で音を上げることもなく、見事にやり遂げましたから。
 それでこそ私も身を捧げた甲斐があったというものです」
「……で、でも。でもさ、あの。エリカ」
「何ですか?」
ただ――今日の行為では、実のところ。
「まだ……その。結局、えと……口と手だけだったし……」
「ああ……そうですね。私の中には、一度も……」
「……その、アレって本番とかいうんだよね。そういうのはなかったから……どうなんだろうって」
「したかったんですか?」
露骨だった。
「……ま、まあ、うん」
それに返答するライムリスも、自分で露骨だなぁと思う。
「では、今からしますか?」
「む、無理」
「では――」
身づくろいを終えたのか、エリカが立ち上がった。
まだ起き上がれないライムリスに、一礼をする。
「それは明日ということにしましょう。何事も経験ですからね。
 それでは、時間もよろしいようですので、私は洗濯物を取り込みに行ってきます」
「うん……行ってらっしゃい」
軽やかに彼女は去って行った。
その足音を聞きながら、ライムリスはふと悪寒を覚える。
「……今、ひょっとしてボク、凄く危ないこと言っちゃった……のかな?」
動かない体を無理に起こして、もう一度彼女の方を見てみるも。
既に、すっかり去っていった後であった。
「あ、明日かぁ。……明日って。今日でこれなのに明日……ボク、死んじゃうのかなぁ?」
自分でも冗談のつもりではあったのだが。
それは――なんというか。
実感が篭っていたと、ライムリスは後に回想している。
 
 
 
食卓に並ぶ品々に、ライムリスは目を輝かせる。
尽く彼の好物が並んでいるのだ。
「わぁ……きょ、今日は凄いね?」
「何といっても、私とライム様の実質はじめて記念日ですから」
「……あう」
にこにこと笑いながらそう言うエリカに、ライムリスは軽く寒気を感じて黙り込んでしまった。
とはいえ――
好物なのであるから、箸の進みは速い。
「わー……凄いや。今日はホント、気合入ってるね、エリカ」
「ありがとうございます」
「これも……うん、味がしみてて……」
身体は疲れていたが、少年の食欲は旺盛だ。
その姿を見ながら、エリカもゆっくりと食べている。
「うん、おいしいおいしい。……ところで、エリカ」
「はい?」
すう、とライムリスは息を吸った。
「あのさ。その、愛し合うっていうのはいいんだけど……もうちょっと普通にやれない、かな」
「経験ですから」
「……そだね」
恐ろしくさらりと流されてしまい、少年はへこむ。
が――彼はまだ、甘いのである。
この後に更なる怒涛が待ち受けている事を、知らないでいるのだから。
 
「それはそれとして、このペブレの煮込み美味しいね」
「ありがとうございます」
 
――まあ、このおおむね平和な日常の中で、それを想像するのは難しい事だが。
 
 
 
滅びつつある一家の主、ライムリス・リフレドット。
彼に仕えるは、ヒトたるもの、エリカ・リフレドット。
彼と彼女の行く手には、それはもう色々なアレがあったりするのだが――
 
さて。
 
どうなるものやら、であったそうな。
 
 
 
 
 

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