猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

万獣の詩外伝02

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万獣の詩外伝  MONOGURUI 002

 
 
□ 猫♂(赤猫) チーフカメラマン
   Age:63(640)  Height:170cm  Weight:75kg Eye.C:gold Fur.C:vermilion red
□ 鷹♂(白鷹) カメラマン
   Age:35(160)  Height:190cm  Weight:85kg Eye.C:black Feather.C:white
 
 
 猫井の子らにも休日はある。
「ヘイ彼女!」
「お茶しませんかー?」
 イヌの国ル・ガルはその王都、ソティス。
 ラフな出で立ちで夏の繁華街に立つのは、己のリビドーに正直な二名の男。
 わざわざ二人徒党を組み、なるべく相手も二人連れを選んで声を掛けるのは、
 多対多を装いハント対象の警戒感を少しでも解きほぐす為。
 1on1ではなく、2on2ないし3on3の状況下を作り出す事は、ナンパ術の骨子であり、
 同時に少しでもナンパの成功率を高める為の男の涙ぐましい努力である。
 
「すいません、急いでますから」
「そこを何とかさー、ほんと、ちょっとだけでいいからー……」
「やだっ、は、離して下さい!!」
「警察呼びますよ!?」
 ただしそれでも成功率が低いのが見るも哀れ。
「馴れ馴れしい!」
「軽薄な人は、嫌いです!」
「「…………」」
 
 大 和 轟 沈 。
 
 叩きつけられた言葉に呆然としながらも、走り去るイヌの女の子達を眺める二人。
 
「な、なんだか今日は日が悪いみたいでござるな……」
「出直し申すですか?」
 ハンチング帽を被り直しながら、もうお昼頃に近い上天の陽を見上げる赤ネコ。
 耳を出しやすいように両サイドに切れ目がついているのが獣人仕様だが、
 そんなおしゃれも空しい事に、本日通産37戦37敗0勝0分。
「いつもなら20回に1回は成功するですが…」
「鳳也、ナンパは釣りと似たようなものぞ」
 サンダルを突っ掛け直しながらぼやくタカに、頭一個分小さいネコが釘を刺す。
 ――鉤爪トリ脚なれば普通の靴が履けぬ故、サンダル履き無作法お許しあれ。
 
「単に潮目の悪い日はとことん釣れぬだけ、確率論で語るなど笑止」
 そう言って不敵に笑う姿はゴキブリのように逞しかったが、
 微妙にしな垂れたその背後の尾から、
 単に成功率5%という現実を直視したくない強がりなのが明白である。
 
 ……ヒトでもなければマダラでもなく、
 取り立ててイケメンでもないナミメンのナンパとは現実にはこのようなもの。
 
 ――惨めになれなきゃ始まりませぬ。
 ――断られる事から全ては始まる。
 ――正気にてはラブホ到達ならず。
 ――ナンパ道とはシグルイなり。
 
 
「しかしあれよ、さっきいきなり腕を掴んだのは流石に強引だったかと……」
「何を申すか!」
 ただしそれでも己の失策を反省して次に生かせる片方と違い、
 それすら出来ないアンポンタンがもう片方の男。
「ナンパとは攻め! 攻撃こそ最大の防御! ヒかれてからでは遅い、
一度潰れた会話のきっかけは二度と元には戻りませぬ!」
 腕を振り上げてシュバルツカッツェ流ナンパ術を力説するネコであったが、
 でもここがネコの国ではない、イヌの国だという事は明白だろうか?
 
「お主こそ何様よ、ただ黙って突っ立ちおって、貴様それでもナンパ師か!?」
「……誰でも良いというわけには参りませぬ、それなりに可愛い女の子でなくては」
 女と見れば、もうヘビやサカナや脊椎動物以外にさえ声を掛ける。
 そんな師匠の蛮勇が鳳也には理解できないのだ。
「自惚れまいぞ鳳也! 穴さえあれば女は女! 我らに贅沢が言えた義理か!?
もうこの際クレイプニールでも構わぬ、ヤれるならどんな♀とでもヤるぞ、オレはーッ!」
 
――お痛ましゅうございまする。
――今日のお師匠、いつにも増してお痛ましいご容態……。
 
 どこでどう道を間違えたものか。
 もう馬のマンコでもいいとかトチ狂った事を言い出す追い詰められた師の姿に、
 鳳也は己自身を重ね合わせて涙した。
 
「師匠、いくら御身が寸足らずだからと言って、そこまで卑屈になる必要が……
「そもそもお主がキスも出来ぬ口ゆえ、このような仕儀に相成ったの……
 
 …………。
 
「ちちち、チビと申したか!?」
「せせせ、接吻も出来ぬ口と申したな!?」
 申した。
 二 人 と も 確 か に 申 し た 。
「せ、正常位も騎乗位も出来ない不具の分際で、なにを偉そうに――
「露骨に不自然な厚底ブーツを履いておきながら、よくもぬけぬけと人の――
「「 !!!! 」」
 身長170cm以上を公称しておきながら、本当は168cmしかないヒースにとって。
 あるいは背中の邪魔な突起物のせいで仰向けに寝る事が出来ず、
 またその脚の鋭利な鉤爪ゆえに
 正常位や側位でヤる事ができない鳳也にとって、 この言 葉 は ……
 
「お、お前のような莫迦な弟子は要らぬなり!」
「その言葉、待ちわびておりましたァッ!」
 男 子 本 懐 。
 友 情 決 裂 。
 
“脆いのは何も女の友情に限った話にはあらず”
“某(それがし)が申し上げたき儀はつまるところそのようなもの”
“ 毒 男 の 友 情 な ど 笑 止 !”
 
 
 見苦しい独身男同士のケンカである。
 そのような醜い争いに『触らぬ神に祟りなし』する大人の処世術が、
 王都ソティスの繁華街を行くイヌの大人達にも存在していた。
 
 ――通報を受けたイヌのお巡りさんに職務質問され、
 脱兎のごとく二人がトンズラこくのは、まさにこの三分後の事である。
 
 
□ 猫♀(シャム猫) 主任記者
   Age:160(640)  Height:160cm  Weight:50kg Eye.C:blue Hair.C:ivory
 
 
「おつぼねさま?」
「おうさ、『お局様』よ」
 気を取り直して昼食。
 近場の軽食店でサンドイッチをパクつきながら、ふと話題がそこに移った。
「キャロみてーな女の事を、ヒトの世界じゃお局様って言うらしいぜ」
 『女って酷い生き物だよな』『冷たいですよねー』的な、
 ナンパに失敗した男共のみっともなくも愚痴りまくりなよくある反省会。
 ……ただそれに、ピクリと衝立の向こうの影が反応を示す。
 
「何ゆえお局“様”……っていうか、具体的にはどういう人の事を指すですか?」
「わかんねーか? ピンと来ねぇ?」
 くるくるとクリームソーダを掻き回しながら受け手に回るタカの青年に対し、
 したり顔で身振り手振りを交えながら大仰な講釈を打ちだす赤ネコ。
 彼の落ちモノ好き、ヒトの世界の話題好きは部署内でも知られた事実である。
 今日も今日とてどこからか仕入れてきた情報を、
 ナンパ失敗の鬱憤を晴らすかのように生き生きと話し出し。
 
「どこの部署にも一人くらい居るだろ、やたら仕事は出来て社内に人脈もある、
でも性格ブスのカリカリ気難しーヌシみてーなベテランオバ社員。
何だかんだ言ってアレ、薹が立っちまって婚期も逃しちまったのに後ろめたさ
感じてっから、だから新入社員や若い女子社員にもいちいち辛く当た――
 
 ―― パ キ ィ ――
 
 
 
 
      ":,'∵∀゚(#) 6、(*゚-゚)    (゚∈゚ )
 
 
 
    ('(∀ (#/)    6、( - *)    (゚∈゚;)
 
 
 
  ドサァ…        (゚- ゚*)      (∈ ii)
 
 
 
               (*゚ -゚)   {{{{(∈ ii)}}}}   「ふ……」
 
 
 
「ふふふっ、ふくしゅにんどのにござるかですかっ!?!」
 タカの青年のクチバシはカチカチと音を立て、睾丸は赤子のごとく縮み上がった。
 ハーフチュニックにスラックス、これまたオフな出で立ちの、
 猫井特派第四部副主任、キャロライン・グレインジ(御歳160)その人である。
 『化粧してないから気がつきませんでした』なんてホントの事を言ったら、
 公 開 処 刑 さ れ る は 必 定 。
 
 ――そもそもにしてお局様とは。
 四官十六階七十三刻からなると言われる
 現場レベルでの職場人間関係ピラミッドの最高位に位置する者であり。
 『自分は仕事が恋人』とうそぶいて強がっておきながらも、
 次々と結婚して産休や寿退社を成し遂げていく後参の女子社員に
 本心では焦りと居心地の悪さも隠せない、
 そんな微妙なお年頃の大きな女の子の事である。
 
“あれよ、職場の腫れ物が如き一種即発の危険物よ”
“無用だ”
“お局様の前での結婚とか恋愛とかの話題、空気が険悪になるので無用だ”
“今日のお局様、ややピリピリか……”
 
 そのお局様が。
 
 
 目の前で魔神に変貌を遂げていた。
 
 
「 行 き 遅 れ と 申 し た か ? 」
「せせっ、ぜっじゃはざような事はっ……
 
 ―― ペ キ ィ ――
 
 ……脱いだハイヒールを逆手に握っての裏拳は、
 獣人♂♀のパワー格差を比較的簡単に埋める『凶器攻撃』と呼ばれ、
 容 易 に 人 体 も 破 壊 す る 。
「(ブクブク……)」
「 口 は 災 い の 元 」
 
 魔神と化したお局様に、一切の申し開きは不可能であった。
 
 
 
「…………」
 目尻の後に残った赤みは、今朝方まで泣き腫らした傷心の名残か。
 
 ――…まだじゃ!
 ――まだ間に合う!!
 ――ネコの寿命はネズミカモシカの約8倍!
 ――160を8で割ったら20歳!
 ―― 己(わたし) の お 肌 は ま だ ま だ ピ チ ピ チ!
 ―― 昨夜の失恋は踏み台に過ぎぬ、
 ――己 は 昇 る ぞ ど こ ま で も !!
 
 
 屍二つを目下、ビビって近寄れない店関係者達を傍らに置きながら、
 魔神の瞳は現在猫科動物の如く拡大中。
 
 新たな決意と共に持ち出した数式は完璧であったが、
 しかし、そんな単純に8で割ったらヒトネズミカモシカの年齢に換算できるほど、
 簡単な話でも無いという事は魔神の脳裏には明確だろうか?
 
“本日のお局様、やや認知症か……”
“否。こは現実逃避と申すべきもの”
“あはれはお局様よ、自分で自分に言い聞かせねばならぬこの必死さ”
“本人も本当は分かってるのでござろう、そっとしておき召されい”
 
 ピクリ。
「……く……、
 
 
   狂ほしく 血のごとき 婚期逃せり
 
            秘め置きし? 寿退社 はていずこぞや
                                       byひぃす
 
 
「って、何を詠んでおるかああああっ!!」
 ―― パ キ ィ ――
「ひぐ……」
 
 ―― ペ キ ィ ――
 ―― ペ キ ィ ――
 ―― パ キ ィ ――
 ―― ペ キ ィ ――
 
 ……滅多打ちであったそうな。
 本当は内心ものすごい気にしてるからこそそうせねばならなかった。
 年 増 女 の ヒ ス テ リ ー と は そ の よ う な もの。
 
 
 むーざん むーざん ねーこいの ふくしゅにん
 まーっかな ねこ にゃんにゃん
 “きゃろ”を うれのこり わ~ろたら
 
 あ ~ か い は な   さ い た !!
 
 
 
 
 

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