猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

IBYD02

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だれでも歓迎! 編集

IBYD 第2話

 
 
 静まり返った廊下に二人分の足音がこだまする。
 僕はご主人様の親衛隊長――アズカ様に肩を貸してもらって、なんとか歩を進めていた。
「あの……」
 おそるおそる、隣に声をかけてみる。
「何だ」
「ありがとうございました。ここから自分の部屋までなら一人で歩けますから、もう――」
「却下だ。下手な強がりを通して、途中で倒れられては困る」
 うう。やっぱり駄目か……あんまり迷惑かけたくないんだけど……
「それと。まっすぐ自分の部屋に帰られるのも困る」
「え?」
 聞き返すひまもなく、なかば連行されるみたいにして僕は引きずられていく。
「あ、あの。僕の部屋はこっちじゃないです……」
「休む前に入浴してもらう。姫様の匂いを落とさないままでいるつもりか?」
「……あ」
 そうだった。ヒトの僕はしばしば忘れてしまうけど、イヌの国の住人はみんなすごく鼻が利くんだ。
 今アズカ様がしたみたいに、僕から姫様の匂いを嗅ぎ取られたりしたら……まずいに決まってる。
「姫様は外界との接触が少ないからまだしも……お前は城外まで使いに出されたりもするのだろう。
 本来ならば姫様がヒト奴隷をどう扱われようが構わないのだが、今は時期が悪い。あまり公にすべきではない」
 サリクス様との婚礼を間近に控えている、からだよね。やっぱり……
「でも、当のサリクス様にはもう知れてしまったんじゃ……」
「そうだろうな。鼻を利かせるまでもない。夜、姫様のご寝所からオスが出てきたとなれば、何があったかおおよそ見当はつく。
 まあ……奴は誰にも言うまい。ヒト奴隷風情に花嫁を寝取られたとあってはいい面の皮だ」
「ね、寝取っただなんて、そんな――」
「着いたぞ。浴場だ」
 僕の反論はあっさりさえぎられた。
 
 脱衣所に足を踏み入れる。
「カルナに支度はさせておいた。湯は張ってあるはずだ」
 その言葉の通り、浴場へと続くガラス戸が曇っているのが見えた。
「すみません、何から何ま――」
 そこまで言って僕は絶句する。
 どうしてって……アズカ様が服を脱ぎ始めたから。
「な……なんで脱いでるんですか!?」
「分かりきった事を聞くな。入浴の際には裸になるのが当たり前だろう」
 脱衣する手は止めずに、当たり前のように言うアズカ様。黒曜種独特の褐色の肌が晒け出される。
「え。……まさか」
「私が湯女の真似事をしてやろう、と言うのだ。お前も早く着ている物を脱げ」
「じ、自分で洗えますから! 大丈夫です!」 
 形のいい胸を視界に入れないように努力しながら、僕は両手を前に突き出す。
「完全に姫様の匂いが消せたかどうか、ヒトであるお前に分かるのか?」
「そ、そこまで厳密にしなくても……
 普段もご主人様の身の回りのお世話とかはさせて頂いてるんですから、多少の匂いなら残っていても大丈夫かと――」
 でもアズカ様は引き下がってくれなかった。床を見つめていた僕の顎に手を添えて、強引に上を向かせる。
 深い黒の瞳に射すくめられて、僕はそれ以上何も言えなくなる。
「……私に脱がされたいのでなければ、自分で脱ぐがいい」
 どうやら、「僕ひとりでお風呂に入る」という選択肢は存在しないらしかった。
 僕は観念して、従属を示す首輪だけ残して服を全部脱いだ。
 
 スポンジが肌を擦る音だけが響く。
 浴槽のすぐそば、僕はアズカ様に背を向けて丸イスに腰かけていた。
 アズカ様はただ黙って僕の背中を洗っている。確かにこれといった話題があるわけじゃないけど、なんだか沈黙が重い……
「ところで――」
 と考えていた矢先、背後から声がかけられる。
「姫様との房事は、作法通りに行ったのだろうな?」
 ぎくっ!という音がどこかで鳴ったような気がした。
「も……もちろんです。教えて頂いた通りにしました」
 一回目は。と心の中でだけ付け足す。
「……」
 アズカ様は何も言わず僕にお湯をかけた。その温度が少し熱すぎるように感じたのは……僕に後ろめたさがあるせいだろうか。
「……で? 感想は?」
 さらに突っ込んだ質問を飛ばしてくるアズカ様。
「か、感想って――」
「感想は感想だ。『素晴らしかった』とか『天にも昇る心持ちだった』とか『もう死んでも悔いはない』とかあるだろう」
 要約すると全部同じ意味のような気がするんですけど……
 ……でも、確かにすごく気持ちよかった。いつも上品なご主人様があんな風に……
(って、わぁ!)
 いつの間にか、僕のものがまた元気になりかけていた。猫背になって必死でそれを隠す。
「聞いているのか?」
「は、はい。その……素晴らしかった、です」
「当然だ。私の主君たるお方だぞ? 容姿端麗眉目秀麗才色兼備、その姫様と……お前が……」
 次第に声のボリュームが落ちていって、ひとりごとに近い呟きになる。ちょっと……怖かった。
 うう。やっぱりアズカ様、怒ってるのかなぁ。僕にそういう役目を教え込んだ張本人なのに……
 でも、いざ実際に僕とご主人様が関係を持つようになってみると、割り切れない思いがあるのも仕方ないのかな……とも思う。
 親衛隊長を任されているだけあって、アズカ様はご主人様のことを本当に大切に思っているから。
 でも、なんていうか……アズカ様の場合、ただ「主君」というだけじゃなくて、ご主人様に対してもっと別な感情があるみたいで……
 
「次は前だ。こちらを向け」
「はい……えぇ!?」
 生返事してしまったことをすぐに後悔した。僕が考え事をしているうちに、アズカ様は背中を流し終わってしまったらしい。
 僕の肩を掴んで振り向かせようとする力、に必死で抵抗する。
「けけけ結構です! 前は自分で洗いますからっ!」
 今、アズカ様と正面から向かい合うわけにはいかない。僕は背中を丸めてどうにかしのごうとする。
 しばらくそうしているうちに、肩に置かれた手の感触が消えた。
(諦めてくれたのかな……?)
 そう思ってそっと顔を上げた――途端、目と鼻の先にアズカ様の顔。
「うわぁ!」
 何のことはない、アズカ様は単に前の方に回り込んでいただけだった。
 驚いた隙を突かれて、僕はそのまま床に組み伏せられる。
 背中がタイル貼りの床に押しつけられて冷たい。胸にアズカ様の長い黒髪が落ちてぞくぞくする。
「あまり手を焼かせるな」
 真上から僕を捉えて離さない視線。思わず目を合わせてしまう。……そうすると、自然とアズカ様の体も視界に入って……
 重力に引かれていつもより大きく見える二つの膨らみ。引き締まったウエスト。そしてさらにその下にある……
 見たら反応してしまうって分かっているのに、どうしても目で追うことをやめられなかった。
「洗うぞ」
 僕の状態を察しているのかいないのか、アズカ様は無造作に作業を再開する。
 肩口から入って、胸、脇の下、お腹……僕の体を這う感触が、さっき背中に受けたそれとは違っているような気がする。
 体の表側と裏側の敏感さの違いだろうか。あるいは、僕が興奮しているからそう感じるだけなんだろうか。
 それとも――アズカ様が意図的にそうしているんだろうか?
 分からない。分からないけれど、僕は確かに泡だらけのスポンジで「愛撫」されていた。
「はぁ、はっ……」
 くすぐったさと紙一重の快感を与えられて、自分の息が荒くなっているのを聞く。
 逃れたいような、このままされるがままになっていたいような、どっちつかずの気分。
「当たっているぞ……何だ、これは?」
 見ると、勃起した僕のものがアズカ様のお腹まで届いていた。
 
 僕の先端がアズカ様のおへその周りをつつく。しっとりしたコーヒー色の肌とのキス。
 ちょん、ちょんと軽く触れるだけなのに、なんだかすごく刺激的で、僕は自分が興奮していることを再認識した。
「姫様と関係した直後だと言うのに――なんとも悪食だな。私の体など今さら物珍しくもないだろうに」
「そんな、ことは……」
 確かに、アズカ様の裸を見るのはこれが初めてじゃない。
 ご主人様が僕を求めてきたとき、粗相がないように、って……アズカ様は今まで何度も僕の「練習相手」を務めてきた。
 だけど、だからって見慣れるようなものじゃない。アズカ様の体が奇麗だと感じる気持ちは変わらないし、興奮だってする。
「まだ躾が足りないようだな、ここは」
 指が芯に絡んでくる。熱を帯びた肌と肌は触れ合った瞬間からぴたりと馴染んだ。
 アズカ様は四つんばいのまま下方向にずれたかと思うと、身を伏せて僕自身に顔を近付ける。
「これで、姫様の操を散らしたのか……」
 鼻をひくひくさせて僕の性器を嗅ぐ。そこに厳格な親衛隊長の面影はなかった。
「ああ――姫様の匂いがする」
 お酒に酔ったように、ほんのりと頬を染めるアズカ様。
 本当にまだ匂いが残っているのかどうかは分からないけれど……恥ずかしい。
「ここは特に念入りに洗わなくては、な」
 そう言って、アズカ様はスポンジで僕のものをくるみ込んだ。
「うぁ……」
 柔らかい、だけどごわごわしている奇妙な質感。思わず声を出してしまう。
 アズカ様は容赦なく手を上下させる。泡とお湯がスポンジから絞り出されて、生々しい水音を立てた。
「う、あ、くぅっ……!」
 人肌に比べればずっときめの粗い生地に擦られて、僕は痛みに近いほどの強烈な刺激を感じていた。
「あ、アズカ様……そんなにきつくされたら、僕……」
「断っておくが、私はお前を『洗ってやっている』だけだぞ。まさかとは思うが、粗相などしないだろうな?」
「え……?」
「お前は姫様の物なのだから。こんな事で無駄に撒き散らす分などないだろう?」
「そんなっ、これ以上されたら我慢なんて……」
 かすかに。アズカ様が笑みを浮かべたように見えた。
「仕方のないオスだな」
 巻き付いていたスポンジが外れる。切羽詰まった放出欲が遠のいて、僕は乱れた呼吸を整えた。
 
 お湯で泡が洗い落とされると、痛いくらいに張り詰めた僕のものがあらわになった。
 少しは落ち着いたとは言っても、そこに血が集まっているせいか、思考がまとまらない。
「あ、アズカ様……」
 僕の呼びかけには答えず、アズカ様は浴槽のへりを跨ぎ越した。そのままお湯につかって長い息を吐く。
「お前も来い」
「……はい」
 返事に残念な気持ちが表れてしまう。でも逆にほっとした気持ちもあって、僕は複雑な気分で湯船に身を沈めた。
 全身が温かさに包まれる。お湯に溶かし込まれた香料の匂いが緊張をほぐしてくれる。
 高い天井を見上げながら、このままリラックスしていけば下半身もおさまるかな……なんて考えた瞬間。
 アズカ様の手が左右両脇から僕のお尻の下に割り込んできた。
「な、何するんですか!?」
「頭を打ちたくなければ、手を背後に回して体を支えろ」
 淡々と命じられて、僕はつい言う通りにしてしまう。
 僕が後ろ手をついて上体を支えたのを確認すると、アズカ様は両手に力をこめた。
「わっ!?」
 腰を持ち上げられて、僕はブリッジのできそこないみたいな体勢になる。
 とっさに重心をお尻から踵に切り換えたおかげで転ばずにすんだけど、両手両足をぜんぶ使って体を支えているせいで身動きが取れない。
 それにもっと困ったことに……まだちっともしぼんでくれない僕のこわばりが水面から突き出てしまっている。
 その部分だけが強調するようにお湯の外に出ているという恥ずかしさと、実際に肌で感じる温度差が
僕をさいなんだ。
 また、アズカ様が僕のものに顔を近付けてくる。
「ま、まだ……ご主人様の匂いが残ってるんですか……?」
 自分がさっきの行為の続きを期待していることに気付く。
 アズカ様はご主人様の立場を心配しているだけで、僕本人に対する興味なんてないのに。
「……ああ。かすかに、残り香がある……」
 そう言った口から赤い舌が覗く。言葉を紡ぎ終えたのにアズカ様は舌を引っ込めず、逆に唇の外まで差し出す。
 ぴちゃり、とその舌が突起に触れた瞬間。僕はようやく自分がいま何をされているのか理解した。
 
「アズカ様……!?」
 あのプライドの高いアズカ様が、僕の性器を舐めている。思わずほっぺたをつねろうかと思ったけど今は両手ともふさがっていた。
 でも、そんなことをしなくても、下半身から流れてくる快感の信号が「これは夢なんかじゃない」と僕に教えてくれた。
 濡れた舌がじっくりと僕の表面を撫でていく。アズカ様の唾液がまぶされたところに照明が反射して変にいやらしく見える。
「どうして急にこんなこと……」と聞こうとして、やめた。きっと「匂いを落とすため」という返事しか返ってこないだろうから。
 子犬がミルクを飲むような音が密室に響く。お腹を空かせているのか、子犬は何度も何度も執拗に舌を往復させる。
 先っぽと竿で感覚が違うのは知っていたけど、竿の中にも感じ方が違う部分があるんだと初めて意識した。……裏側が、気持ちいい。
 まるで別の生き物みたいにうごめく舌。僕はぎゅ、と目をつむって声が出そうになるのを必死でこらえる。
 薄目を開けると、アズカ様も目を閉じて一心にこわばりに舌を這わせていた。
 その口から漏れる呼吸が荒くなっているような気がしたのは、僕の錯覚かもしれない。
 だけど、僕の腰を持ち上げて、鼻をしきりにひくつかせるアズカ様は、もっとそこの匂いを嗅ぎたがってるみたいに見えた。
 だから……僕はつま先立ちになって、自分から突起をアズカ様に押しつけた。
「ぷぁっ……?」
 不意を突かれて驚いたのか、アズカ様が片目を開ける。
 唇の中に押し入ろうとした僕のものは、狙いを外してアズカ様の右頬に触れた。
 勝手なことをしてしまって怒られるかもしれない……という心配が頭をかすめたのは本当に一瞬のこと。
 気が付けば僕はアズカ様の柔らかいほっぺたに先端を擦りつけ始めていた。
 とば口から溢れ出した透明な液体が、アズカ様の肌にえっちな光沢を作る。
 肌の感触がぬるぬるになるのが気持ちよくて、僕はわざと先走りを塗りつけるように動いた。
 アズカ様は特にそれを避けようともせず、僕の卑しい動きをじっと観察する。恥ずかしいけど……今さら止められない。
「本当に、仕方のないオスだな……」
 微笑みながら僕に流し目を送ってきたアズカ様の表情が、いつになく優しく、そしてそれ以上に色っぽく見えた。
 
 アズカ様は少しだけ首を傾げて、再び脈打つ器官を射程圏内に捉える。
 そうして今度は側面から、横笛を吹くみたいにして舌を這わせてきた。さっきとはまた違った快感が背中を駆け上がってくる。
 ずっとこうされていたいけど、不自然な姿勢のせいで体を支えている手足がつらくなってきた。
 腰はアズカ様に補助してもらっているとは言え、もうあまり長くはもたない。
 またお預けを食わされてしまうのは嫌だったから、僕は神経を集中して、わざと自分を追い詰めていった。
 でもアズカ様の舌はひとつところに落ち着かず、もう少しというところで敏感なポイントを外れてしまう。本当に、もう少しなのに……
 出したい。早く射精したい。アズカ様の褐色の肌に、白い精液はきっと映えるだろう――
 そこまで考えて、僕は我に返った。
「駄目ですっ、アズカ様……!」
 怪訝そうな顔をするアズカ様。その舌はまだちろちろと僕を責め立ててくる。
 よみがえってくる射精欲を抑えつけて、僕はもう一度「駄目です……」と言った。
 このまま出したら、お湯に大量の精子が混じって汚れてしまう。
 それに――あんなことをしておいて今さら、だけど――アズカ様の顔や艶やかな髪を、僕の精液で汚してしまうのは気がひけた。
 アズカ様は不服そうに僕を睨んでいたけど、やがて得心したように頷いて、口と手を離してくれた。
 下半身を解放されて僕は尻餅をつく。浴槽の水面が波立って、自由になった腕と脚にはじわりと痺れが走った。
 自分で判断した結果とは言え、結局また「おあずけ」になってしまったことに、僕はやるせないため息をつく。
 と――水音を立てて、突然アズカ様が立ち上がった。お湯の中に沈んでいた体がちょうど僕の目線の高さに合ってしまう。
「あっ、あの……」
 もう上がるんですか?と続けようとして、できなかった。
 アズカ様が僕に背中を向けて、湯船のふちに手をかけて……お尻をこちらに突き出すようにしたから。
 それは、作法通りの――行為を始めるときのポーズ。
 
「あ、アズカ様……」
 急な展開に頭がついていかない。ただ、視線は外すことができない。
「一体、どういう――」
「分かりきった事を聞くな」
 肩越しに僕を見返るアズカ様。その唇が笑みの形に歪んだ。
「舐められて達するのは嫌――つまり、私のここに吐き出したいという事だろう?」
 アズカ様は自ら大切なところを拡げてみせる。お湯につかっていたおかげか、そこはすでに潤ってほぐれているように見えた。
 そんなつもりじゃなかった、という僕の言葉は、息と一緒に喉の奥に飲み込まれてしまう。
「姫様との房事の復習も兼ねて……正しく出来たかどうか、確かめてやる」
 僕はもう何も考えられなくなってアズカ様に歩み寄った。
 腰のくびれに手を添えて、アズカ様の秘所に自分自身をあてがい、そっと侵入させる。
「ああ……っ!」
 アズカ様の低い悲鳴。
 いつもながらアズカ様の中はきつい。まるでわざと力を入れて締め付けているみたい。
 こんなにきつくて、僕は気持ちいいけど、受け入れるアズカ様の方はつらいんじゃないだろうか。
 そう考えた僕は出来るだけゆっくりと進んでいく。ずずず……とひだをかき分ける感触。
「うぅ……あっ、くぅ……!」
 お湯に濡れて痩せた尻尾が、何かに耐えるようにぴんと伸びる。
 経験があるとは言っても、アズカ様はまだこういうことに慣れないのかもしれない……
「大丈夫、ですか……?」
「な、何の……事だ……?」
 僕の問いかけに切れ切れの、でも気丈な言葉が返ってくる。
 アズカ様は僕なんかに弱みは見せない。たとえつらくたって平気だと嘘をつくだろう。
 肌を合わせていても、相手の心までは分からない。当たり前のことのようだけど、少し寂しかった。
 
 僕は口をつぐんで腰を前進させる。
「く……ふぅっ、んん……」
 相変わらず、アズカ様の中は僕を容赦なく締め付けてくる。
 今までじらされていたのと、時間をかけて挿入したせいで、いちばん奥に辿り着いたときには僕は早くも限界に近くなっていた。
 右肩上がりに増していく感覚に歯止めを利かせようと、いったん動きを止めてお尻に力を入れる。
「ど、どうした……?」
 動かない僕を不審に思ったのか、アズカ様が横目に視線を送ってくる。その黒い瞳が潤んでいるのを見て、僕は決意を新たにした。
「すみません。すぐに動き出したら、我慢できなくなりそうだったから……」
「何だ……そんな事か。まあ、即座に、と言うのは確かに情けないが……」
 アズカ様は少し呆れたように微笑む。
「――相手が姫様ならともかく、私に気を遣う必要はない。ほら……出してしまえ」
 挑発的な言葉と同時に、きゅっ、きゅっと故意に締め付けて射精を促してくるアズカ様。
 そのまま流れに身を任せてしまいたくなるのを、歯を食いしばってこらえる。
「それじゃ、嫌なんです……」
「え……? あっ、うぁ!?」
 僕は入ってきたときと同じくらいゆっくりと後退し始める。
 先端の傘の部分が釣り針の返しのようにアズカ様の中を引っ掻くのがわかった。
「くぅ、い、あっ……」
 まるいお尻が震える。アズカ様、少しは気持ちよくなってくれてるのかな……
 僕はじれったいくらいの速度で抜き差しを繰り返す。
 こうして緩やかに往復すると、与えられる快感をじっくりと味わうことができる。
 それは射精感に耐えている僕にとっては厳しいことでもあるんだけど……
 アズカ様の体の準備が整うまでは、激しくするつもりはなかった。
 
 僕の耳に入るのはアズカ様の押し殺した喘ぎ声、それとどこからか聞こえてくる水音だけ。
 腰の動きは止めないまま、アズカ様のウエストに添えていた手を移動させる。
 背中から肩までを撫で上げて、少し戻って脇の下、前に回って柔らかな胸。
 その二つのふくらみを掌で覆ったとき、先端にこりこりした感触があった。
「あっ……アズカ様のおっぱい、勃って……」
「それ、は、違……んくっ!」
 僕に乳首を摘まれて、否定の言葉は甘い声に変わる。
「気持ちよくなってくれてるんですね……」
 嬉しかった。僕ひとりだけ気持ちよくなって終わりなんて寂しいから。
 体を重ねるなら、相手にも気持ちよくなってもらいたい。たとえアズカ様にとっては事務的な意味しか持たない行為でも。
「もっと……感じてください」
 僕は動くペースを少し上げる。絡みついてくる快感が弱まり、代わりに摩擦による刺激が倍増した。
「うく、んっ、ああぁ……!」
 アズカ様の秘裂から愛液がこぼれて水面に波紋を作る。
 伸びたままだったしっぽを手でしごくように撫でてみると、力みが抜けたのか、かすかに左右に振れ始めた。
 少しずつ、隠しきれない快感のサインが現れてくる。
 もっとアズカ様を鳴かせたい。のぼせかけた頭でそんな身の程知らずなことを思う。
 だけど、僕の方もとっくに限界を超えていた。次の瞬間に射精してしまってもおかしくないくらいだ。
 もっと、アズカ様を気持ちよくしたいのに。
 
 僕はアズカ様の胸から手を離し、下の方へと滑らせる。
(確か……この辺りに……)
 前屈みになって下腹部を探っているうち、やがて指先が目的の地点に到達した。
「――ひ、ふああああぁっ!?」
 二人が繋がっている部分のすぐ上、女性のいちばん敏感な突起をくすぐられてアズカ様が悲鳴を上げる。
 触れるか触れないか……そんな程度の刺激でも充分みたい。
「ここ……気持ちいいんですよね?」
「ばっ……馬鹿、そこに触れるなっ!」
「……すみません、アズカ様。その言いつけは……聞けません」
 乱暴にならないように細心の注意を払って、小刻みに淫核を擦り立てる。
「いぅ、くひぅっ、あぁ……っ!」
「アズカ様にも気持ちよくなって欲しいんです。僕のわがままですけど、一緒に……一緒にいきたいんです……」
「馬鹿っ、そっ、そんな事をしなくても……くあぁんっ!」
 
 僕を包むひだの動きが変わっていくのがわかる。いきいきと、いっそう貪欲に僕を食い締めてくる。
 その責めに対抗するために僕も腰の動きを速める。
 あまり大きく前後すると指先がアズカ様の突起に触れていられなくなるから、短い区間を集中的に往復した。
 範囲が小さい分、ごしゅごしゅと音がしそうなほど激しく擦れる。
「ひぃうっ! くあぁっ! もっ、もういい、もう充分だ! わ、私はもう、何度も……っ!」
 頭がぼうっとしてアズカ様の声がよく聞き取れない。ただ一つだけのことを考えて、僕はがむしゃらに動き続ける。
「アズカ様……もっと気持ちよくなって下さい。もっともっと、もっと――」
 きゅっ、と二本の指で肉芽を摘んでみると、アズカ様は脱力して膝を折ってしまった。
 落ちていくお尻を逃がすまいとして僕も中腰になり、再びその内部をえぐり始める。
 高さが変わったせいで、上から少し角度をつけて突き込むような形になった。
「あ……ちょっと擦れる部分が変わりましたね。分かりますか……? アズカ様のここ、ざらざらしててすごくえっちです……」
 無理に手を伸ばして、つりそうになる指先でまたアズカ様の突起をいじる。
「ちょうどこれの裏側あたりですね。どうですか……? 両側から擦ると気持ちいいですか……?」
 自分が何を言っているのかよく分からない。アズカ様との行為に興奮しすぎたのか、頭がくらくらして――
「アズカ様……アズカ様……あずかさまぁ……っ!」
 体の奥から込み上げてくる甘い痺れにとうとう降参する。
 ぎゅっ、とひときわ強く締め付けてきた柔らかな感触の中、僕は夢見心地で溜まりに溜まった白濁を吐き出した。
 
 
(あれ……?)
 気が付くと、意識が朦朧としていた。
 自分がいま座っているのか立っているのかも分からない。
(えっと……僕、どうしたんだっけ……?)
 ご主人様の部屋に行って……サリクス様に見つかって……それから、アズカ様と……
「湯当たり……か。まったく、倒れる前に自分で気が付かなかったのか……?」
 僕のすぐそばで誰かの声がする。これは……そう、アズカ様の声だ。どうしてこんなに近くから聞こえるんだろう……?
 ……そうか。僕は、お風呂でアズカ様としている最中に、のぼせて倒れてしまったんだ。
 それで今、僕の体をアズカ様が支えてくれているんだろう。
「私を気遣う必要はない、と言ったはずだ。馬鹿め……」
 迷惑をかけてしまったことを申し訳なく思う気持ちはもちろんあった。でも、それ以上に安心した気持ちが僕の心に広がった。
 アズカ様がそばにいてくれるなら、このまま眠っちゃっても大丈夫だよね……
 僕はそんな無責任なことを思って、全身にのしかかる疲れと気だるさに抵抗するのをやめた。
「……お前は、姫様の事だけ考えていればいいんだ……」
 意識を失う直前、アズカ様が呟いた言葉は、よく聞こえなかった。
 
 
 
 
 

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