Last update 2008年03月15日
絵のモデル 著者:亜季
「絵のモデルになるの。」
日が沈む時間でした。
アトリエの大きな窓から差し込む西日で逆光になり、彼女の顔は見えませんでしたが、細長く伸びる影がとても綺麗で、僕の目は思わず釘付けになりました。
アトリエの大きな窓から差し込む西日で逆光になり、彼女の顔は見えませんでしたが、細長く伸びる影がとても綺麗で、僕の目は思わず釘付けになりました。
「ん?見とれてる?」
嬉しそうな声で彼女は僕にそう聞くので、慌てて僕は「誰のですか?」と聞き返すと、彼女はもっと僕に近づき、満面の笑顔でこう言ったのです。
「綺麗に描いてね。未来の有名な画家志望さん。」
それからです。 僕と彼女は毎日アトリエで会うようになったのは。
彼女は背がスッと高く、自分はチビ。
彼女は腰がキュッと細く、自分は未成年にして既にビール腹。
彼女はふわっとした緩やかなウェーブを描く長く黒い髪で、自分はゴワッとした大仏みたいな天然パーマ。
そして、自分の方が彼女より7歳も年下。
彼女は腰がキュッと細く、自分は未成年にして既にビール腹。
彼女はふわっとした緩やかなウェーブを描く長く黒い髪で、自分はゴワッとした大仏みたいな天然パーマ。
そして、自分の方が彼女より7歳も年下。
僕は、彼女と毎日会うようになった数週間は何かのいたずらかと思い、知らない誰かに殴られたりするかもしれないと考えて、ヘルメットをかぶってアトリエまで通っていました。
でも、何日、何ヶ月経っても、不思議と僕は何の危害に会うこともなく、彼女に「どうしてヘルメットなんてかぶってるの?」なんて笑われました。 そのおかげで「ヘルヘル」なんてあだ名をつけられつつも、彼女を誰に遠慮することなく見つめ続けては描く、2人きりの日々を半信半疑ながら楽しく過ごしていました。
でも、何日、何ヶ月経っても、不思議と僕は何の危害に会うこともなく、彼女に「どうしてヘルメットなんてかぶってるの?」なんて笑われました。 そのおかげで「ヘルヘル」なんてあだ名をつけられつつも、彼女を誰に遠慮することなく見つめ続けては描く、2人きりの日々を半信半疑ながら楽しく過ごしていました。
ある日、彼女は僕に言いました。
「ねぇねぇ、ヘルヘルに私、名前で呼ばれたことないよね。」
「え・・・宮内さんって呼んで・・・ますけど・・・?」
「名前で呼んでよ。」
「え・・・あ・・・え・・・」
「え・・・宮内さんって呼んで・・・ますけど・・・?」
「名前で呼んでよ。」
「え・・・あ・・・え・・・」
僕は言おうとすると、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になり、思わず下を向いてしまいました。 この時、外は曇り空で今にも雨が降り出しそうな天気で、アトリエも暗く、少しの沈黙がとても重く感じました。 それを打ち破るように彼女がこう言ったのです。
「もー、ダメだなー。どうして私がヘルヘルのモデルやってるか分かってるの?」
ビックリして顔を上げると、いつになく真剣な表情の彼女に、モデルの話を言われた時以上に顔をそらす事ができませんでした。 そして、次の瞬間、彼女は長い髪をふわっとなびかせ、パッと背中を向けてビックリするほど大きな声で言いました。
「ヘルヘルの描く絵が好きだから!」
思いもかけない言葉でした。 ただただ不思議だったことがこんな理由だったんですから。
「有名になってトップになったら、私が年上だろうと、私を名前で呼ぶくらい強気でいきなよ。弱気なままじゃダメだよ!」
「・・・でも僕はそんなには・・・」
そう否定する僕に、彼女は言いました。
「ヘルヘルはすごいよ、ほんとに!私、生まれて初めて感動したもん。トップになりたいでしょ!返事は?」
「・・・はい・・・」
「もっと元気よく!」
「はい!・・・トップになりたいです!」
「・・・はい・・・」
「もっと元気よく!」
「はい!・・・トップになりたいです!」
半ば、『言わされた』感は残るものの、これが最初で最後だったと思います。 口下手な僕が自分の願いを口にすることができたのは。
「じゃ、指きり拳万ね。」
彼女の小指と僕の小指が絡まって、僕は彼女に誘導されて口走った願いを頭に繰り返しました。
胸が焼け焦げそうなほど強く、自分は願ったのです。
胸が焼け焦げそうなほど強く、自分は願ったのです。