仁科学ライオン 第一話【バカですが何か?】
カタカタとミシンの音がする。
狭い部室の床には型紙と細かい布切れがそこかしこに散乱している。この部屋の主は掃除をする暇も無い程忙しいのだろう。
ギシギシと椅子が軋む音がミシンの音に混じる。その椅子に座る人物はすっかり飽きてしまっていたのか、無意味に椅子を傾けバランスを取って遊びながら、缶コーヒーをずるずると下品に啜っている。
背中まで伸びる金髪のロンングヘアーが椅子と一緒に揺れている。その人物の人間性を表しているような着崩した制服のシャツと無駄に太い腕がプラプラと自由に動いて遊び回っている。
本来はこの部屋とは関係無いはずだが、その振る舞いはもはやそんな事は意にも介さない様子だった。
カタカタと音を立てるミシンを操る正規の部屋の主は、その態度にイラ付きを覚え、ついに重い口を開いた。
狭い部室の床には型紙と細かい布切れがそこかしこに散乱している。この部屋の主は掃除をする暇も無い程忙しいのだろう。
ギシギシと椅子が軋む音がミシンの音に混じる。その椅子に座る人物はすっかり飽きてしまっていたのか、無意味に椅子を傾けバランスを取って遊びながら、缶コーヒーをずるずると下品に啜っている。
背中まで伸びる金髪のロンングヘアーが椅子と一緒に揺れている。その人物の人間性を表しているような着崩した制服のシャツと無駄に太い腕がプラプラと自由に動いて遊び回っている。
本来はこの部屋とは関係無いはずだが、その振る舞いはもはやそんな事は意にも介さない様子だった。
カタカタと音を立てるミシンを操る正規の部屋の主は、その態度にイラ付きを覚え、ついに重い口を開いた。
「アンタねぇ……」
一言だけ言った。金髪ロン毛の部外者はそれに反応し、缶コーヒー片手に部屋の主とは対照的な軽い口を叩く。
「ほえ?何?」
「『ほえ?』じゃない!いつまで居座る気!?」
「いつまでって……。俺の衣装出来るまで♪」
「やる暇無いって言っただろ!」
「『ほえ?』じゃない!いつまで居座る気!?」
「いつまでって……。俺の衣装出来るまで♪」
「やる暇無いって言っただろ!」
この部屋の主――秋月京は珍しく声を荒げる。京の声はミシンの音を掻き消し狭い室内にこだまする。
が、怒鳴られたその部外者の男はこれまた意に介さぬ様子で飄々と答える。
が、怒鳴られたその部外者の男はこれまた意に介さぬ様子で飄々と答える。
「簡単じゃん。あれ。チャチャっと出来るでしょ。チャチャっと」
その男――黒鉄懐はあくまで軽く、さらりと言う。
声を荒げるだけ無駄だと京は悟る。この男はバカなのだ。空気も読めないし考え無しに行動するし。淡々と邪魔だという事実だけを伝えようと決心する。
声を荒げるだけ無駄だと京は悟る。この男はバカなのだ。空気も読めないし考え無しに行動するし。淡々と邪魔だという事実だけを伝えようと決心する。
「えーっとね。私忙しい訳。解る?演劇の衣装作んないといけない訳。アンタのバンドの衣装まで手が回んないの」
「ああ。演劇ね。みんな騒いでたな」
「そうそう。だからね。とてもじゃないけどアンタの方は――」
「ああ。演劇ね。みんな騒いでたな」
「そうそう。だからね。とてもじゃないけどアンタの方は――」
「そーそー!お前作ったロニコの衣装見たぞ!超エロい!お前あれマジ最高!よくやった!」
「え?見たの?どうだった?他のはどうだった?」
「そりゃお前、いい仕事してるぜ!色々と解ってるなお前!」
「そりゃそうよ。伊達にコスプレ部やってるわけじゃ……」
「え?見たの?どうだった?他のはどうだった?」
「そりゃお前、いい仕事してるぜ!色々と解ってるなお前!」
「そりゃそうよ。伊達にコスプレ部やってるわけじゃ……」
はっ! と気付く。まただ。またこのバカのペースに飲まれる所だった。
考え無しに喋るが故に懐のペースに乗せられたら負けだ。このバカは止まらない。
考え無しに喋るが故に懐のペースに乗せられたら負けだ。このバカは止まらない。
「あー……。ゴメン。邪魔。帰って」
「いきなり何ひでぇ事言うのお前」
「アンタと話してると疲れるのよ」
「意味が解らないな。こんな癒し系、他に居るか?」
「……鏡見てこいよ。どう見ても80年代のアメリカのバイカーギャングだろ」
「なんでそんな物知ってんの?」
「そりゃアンタ、伊達にコスプレやってる訳じゃ無いのよ」
「流石だな。しかしまだ甘い。俺のコンセプトはユーロメタルであってアメリカ仕様では無い」
「何ですって!?私が見誤ったって言う訳?!」
「修業が足りんな。もっと見聞を広めたまえ」
「そんな……。コスプレ道とは何と険し……はっ!!」
「いきなり何ひでぇ事言うのお前」
「アンタと話してると疲れるのよ」
「意味が解らないな。こんな癒し系、他に居るか?」
「……鏡見てこいよ。どう見ても80年代のアメリカのバイカーギャングだろ」
「なんでそんな物知ってんの?」
「そりゃアンタ、伊達にコスプレやってる訳じゃ無いのよ」
「流石だな。しかしまだ甘い。俺のコンセプトはユーロメタルであってアメリカ仕様では無い」
「何ですって!?私が見誤ったって言う訳?!」
「修業が足りんな。もっと見聞を広めたまえ」
「そんな……。コスプレ道とは何と険し……はっ!!」
またやられた。京は恐るべきノープラントークの術中にずっぽりはめられてしまっていた
「ん?どうした突然黙って?腹でも痛い?」
「帰れ」
「帰れ」
今度は冷たく言ってみる。しかし突然の訪問者によりその作戦すら水の泡と化す。
部室のドアが開き、現れたのは黒い長髪を持ち、そして凜とした雰囲気を纏う少女、霧崎。手には何やら黒い衣服を持っている。演劇の衣装だ。
部室のドアが開き、現れたのは黒い長髪を持ち、そして凜とした雰囲気を纏う少女、霧崎。手には何やら黒い衣服を持っている。演劇の衣装だ。
「あらら霧崎様、どうなさいました?」
懐は相変わらずの口ぶりで話しかける。が、すぐに京が強引に取り次ぐ。
懐は相変わらずの口ぶりで話しかける。が、すぐに京が強引に取り次ぐ。
「あ、このゴリラは気にしないで。で、どうしたんですか?」
「ゴリラって、褒め言葉かっ!」
「ゴリラって、褒め言葉かっ!」
懐はそう言いながら無駄に鍛えた腕を見せ付けるが、ダダ滑りもいい所だった。
これにはさすがの懐も堪えたのか少し黙る。
これにはさすがの懐も堪えたのか少し黙る。
その様子を冷ややかな目で、というよりどうしていいか分からずとりあえず観察していた霧崎はようやく用件を言い出した。
「……。ああ。衣装が破れてしまったんだ。着慣れないものでな。つい強引に脱いだらその……やってしまった。すまない」
「あらら。サイズ合わなかったのかな?すぐ直すよ」
「手間をかけてしまったな」
「だからいいって」
「あらら。サイズ合わなかったのかな?すぐ直すよ」
「手間をかけてしまったな」
「だからいいって」
衣装は脇腹の辺りから大きく裂けていた。
よっぽど強引に脱いだのだろう。それを嗅ぎ付けた懐はすぐさま精神的ダメージから回復し、口を挟む。
よっぽど強引に脱いだのだろう。それを嗅ぎ付けた懐はすぐさま精神的ダメージから回復し、口を挟む。
「こりゃまたハデに裂けてんなぁ。どんな脱ぎ方すりゃこうなるんだ?霧崎様?」
「『様』は止めろ。やはり普段着とは違うからな。慣れていないとこういう物だ」
「そういうもんかね。しかしこの裂け方もこれはこれでエロくてい――」
「『様』は止めろ。やはり普段着とは違うからな。慣れていないとこういう物だ」
「そういうもんかね。しかしこの裂け方もこれはこれでエロくてい――」
懐が言い切る前に霧崎のビンタもとい掌打が懐の側頭部を捕らえる。体格差故にさほどダメージは無いが牽制の意味は十分だ。
懐がバカでなければ、だが。
懐がバカでなければ、だが。
「痛って~。何すんのさ霧崎様」
「だから『様』は止めろ。相変わらず減らず口ばっかり言って」
「いや、『様』って似合ってるよ。ホント。マジ『霧崎様』って言いたくなる感じ?解るコレ?」
「だから『様』は止めろ。相変わらず減らず口ばっかり言って」
「いや、『様』って似合ってるよ。ホント。マジ『霧崎様』って言いたくなる感じ?解るコレ?」
霧崎は無言で脇に置いてあった電動ミシンを感情の無い目で持ち上げる。さすがに懐もビビる。
「あ……。すみませんでした調子コキました。反省してます」
「あ……。き……霧崎さん!衣装!ね!衣装直すから!もっかいサイジングしましょ!」
「あ……。き……霧崎さん!衣装!ね!衣装直すから!もっかいサイジングしましょ!」
慌てて京も割って入る。部室が血まみれにされては敵わない。
「ホラ!アンタはさっさと出て行く!こっからは女の子だけの仕事よ!」
京は懐のケツを蹴っ飛ばして部室からたたき出そうとする。懐もそれに応じてドアへ向かう。
「じゃあ俺行くけど。俺達の衣装も頼んだよ」
「知らんわ!」
「知らんわ!」
最後まで減らず口だった懐は廊下に出てドアを閉める。
一気に部室が静まり返った。先程の騒動は幻だったのかと思える程に。
一気に部室が静まり返った。先程の騒動は幻だったのかと思える程に。
「騒がしい男だな」
「え?ああ、ただのバカ……。いやいやとんでもない大バカだしね」
「アイツ何しに来てたんだ?」
「なんかバンドで使う衣装作ってくれって。忙しいから断ったんだけど。強引に生地やらラフ画やら置いて行って……」
「……コレがそのラフ画?」
「え……?そうだけど」
「なんか上手じゃないか」
「アイツ無駄に器用なんだよね」
「しかしコレ……。どういう衣装なんだ?」
「ローブ……だね。なんでまたこんな物を」
「ヘビメタって解らないな」
「うん」
「え?ああ、ただのバカ……。いやいやとんでもない大バカだしね」
「アイツ何しに来てたんだ?」
「なんかバンドで使う衣装作ってくれって。忙しいから断ったんだけど。強引に生地やらラフ画やら置いて行って……」
「……コレがそのラフ画?」
「え……?そうだけど」
「なんか上手じゃないか」
「アイツ無駄に器用なんだよね」
「しかしコレ……。どういう衣装なんだ?」
「ローブ……だね。なんでまたこんな物を」
「ヘビメタって解らないな」
「うん」
取り留めの無い会話の後、京はメジャーを持って霧崎の衣装のサイジングを行う。そうしながらも会話は続いていた。内容はもちろん、あの圧倒的インパクトを残して行った懐の事だ。
「アイツこの間もモメていたな」
「懐が?まぁバカだからまた誰かに無茶言ったりしてたんでしょ」
「逆だ。演劇部の連中にスカウトされていた。演劇に出る出ないとか、部に入る入らないで相当揉めたらしい」
「で、無下に断ってモメたとか?」
「これまた逆だ。噂では三人がかりで取り囲んで洗脳しようとしたとか……」
「……。はは」
「まぁ噂だ。それは冗談だろう。実際の所はかなりしつこく迫られて逃走したとか、そんな話だろ」
「なんでまた懐なんか……」
「演劇出してあわよくば定着させようとしたんじゃないか? 実際奴も『大西ライオンより俺のほうが声が出る』とか宣っているし」
「自分で宣伝してるのかあのバカ……」
「まぁ正直、見てくれはいいしな。あのキャラも貴重と言えばそうかもしれん。演劇には向いているかも」
「髪さえ切れば見れる姿にはなりそうだけど……」
「そう言うな。アレも含めて奴の個性だ」
「妙に擁護するねー?」
「奴を嫌う奴なんて居ないさ。バカ故に誰とでも仲良くなってしまう特殊能力を持っている。たまに腹立つが」
「そーそー!たまに腹立つんだよね。なんでだろ?」
「懐が?まぁバカだからまた誰かに無茶言ったりしてたんでしょ」
「逆だ。演劇部の連中にスカウトされていた。演劇に出る出ないとか、部に入る入らないで相当揉めたらしい」
「で、無下に断ってモメたとか?」
「これまた逆だ。噂では三人がかりで取り囲んで洗脳しようとしたとか……」
「……。はは」
「まぁ噂だ。それは冗談だろう。実際の所はかなりしつこく迫られて逃走したとか、そんな話だろ」
「なんでまた懐なんか……」
「演劇出してあわよくば定着させようとしたんじゃないか? 実際奴も『大西ライオンより俺のほうが声が出る』とか宣っているし」
「自分で宣伝してるのかあのバカ……」
「まぁ正直、見てくれはいいしな。あのキャラも貴重と言えばそうかもしれん。演劇には向いているかも」
「髪さえ切れば見れる姿にはなりそうだけど……」
「そう言うな。アレも含めて奴の個性だ」
「妙に擁護するねー?」
「奴を嫌う奴なんて居ないさ。バカ故に誰とでも仲良くなってしまう特殊能力を持っている。たまに腹立つが」
「そーそー!たまに腹立つんだよね。なんでだろ?」
「さあ? やはりバカだからじゃないか?」
「あははは。やっぱそこだよねー」
「ははは。そうだな。それしかない」
「あははは。やっぱそこだよねー」
「ははは。そうだな。それしかない」
廊下に笑い声が漏れて行く。その廊下をとぼとぼ歩く懐は派手にくしゃみをする。人が噂をすると何とやら、だ。
下校のチャイムが鳴り響いた。
一部の部活動以外の生徒は帰らなくてはいけない。踵を潰した内履きの靴にパタパタと音を立てさせながら懐は昇降口へ向かい、途中の自販機で空き缶を捨ててまた缶コーヒーを買う。
下駄箱付近には久遠荵が辺りをキョロキョロ見渡しながらウロウロしている。「まずい。張られていたか」 と思ったが、もう慣れた物だ。
下駄箱付近の巡回ルートを見切り慎重に行動し、隙をついて靴を履き替え外に飛び出す。が、その頭髪はやはり目立つのだろう。外に出た瞬間にばれてしまった。
下校のチャイムが鳴り響いた。
一部の部活動以外の生徒は帰らなくてはいけない。踵を潰した内履きの靴にパタパタと音を立てさせながら懐は昇降口へ向かい、途中の自販機で空き缶を捨ててまた缶コーヒーを買う。
下駄箱付近には久遠荵が辺りをキョロキョロ見渡しながらウロウロしている。「まずい。張られていたか」 と思ったが、もう慣れた物だ。
下駄箱付近の巡回ルートを見切り慎重に行動し、隙をついて靴を履き替え外に飛び出す。が、その頭髪はやはり目立つのだろう。外に出た瞬間にばれてしまった。
「あぁぁあ! 居た!!」
「げ!!」
「今日こそ洗脳するわ! 覚悟してください先輩!」
「うるせーネギ! 簡単にやられるか!」
「誰がネギじゃクルァ!」
「げ!!」
「今日こそ洗脳するわ! 覚悟してください先輩!」
「うるせーネギ! 簡単にやられるか!」
「誰がネギじゃクルァ!」
荵は紐を通した五円玉を左右に揺らしながら追い掛けてくる。誰が教えたのだろうか。
校門付近まで決死の鬼ごっこが続き、懐は学園の敷地の外へと飛び出す。それを追って荵も続くが、懐はまるで忍術でも使ったかのように姿をくらましていた。
校門付近まで決死の鬼ごっこが続き、懐は学園の敷地の外へと飛び出す。それを追って荵も続くが、懐はまるで忍術でも使ったかのように姿をくらましていた。
「……また逃げられたぁ」
息を切らしうなだれるうなだれる荵。その背後から声がかけられる。
息を切らしうなだれるうなだれる荵。その背後から声がかけられる。
迫は缶ジュースを差し出して荵の労をねぎらう。それを受け取り一気に半分ほど飲み干したところで、あかねが迫に素朴な疑問をぶつけてみた。
「あの……。なんで懐さんにこだわるんです?いまさら誘っても演劇には間に合いませんよ……?」
「あー。いいんだよ。間に合わないのは残念だけどさ、どっちにしろ演劇部に入れたい。他の音楽系やらに取られる前に」
「あー。いいんだよ。間に合わないのは残念だけどさ、どっちにしろ演劇部に入れたい。他の音楽系やらに取られる前に」
「音楽系に取られる前に? じゃあミュージック要員狙い?」
「そうそう」
「そうそう」
息を切らした荵がさらに質問をぶつける。
「はぁはぁ……。ていうか……歌とか……出来るんですかぁ?……はぁはぁ……」
「まぁすげぇよ。そのうち見せてやるって」
「拒否されまくりじゃないですか……」
「それに……すごいったって……。懐先輩のバンドあんまり練習もしてないんでしょ?」
「まぁそうだけど。こないだも一年の新メンバーが加入三日でクビになったしな」
「……うわぁ。やる気無いんじゃないですか?」
「そう思うか? まぁ見てろって」
「まぁすげぇよ。そのうち見せてやるって」
「拒否されまくりじゃないですか……」
「それに……すごいったって……。懐先輩のバンドあんまり練習もしてないんでしょ?」
「まぁそうだけど。こないだも一年の新メンバーが加入三日でクビになったしな」
「……うわぁ。やる気無いんじゃないですか?」
「そう思うか? まぁ見てろって」
――続く