アットウィキロゴ
私立仁科学園まとめ@ ウィキ
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

私立仁科学園まとめ@ ウィキ

後輩とトラソルテオトルと焔のチョコ

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

後輩とトラソルテオトルと焔のチョコ




 ※



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 料理部からのお知らせ 20XX/2/1


【恋する乙女】やもり先生と☆手作り☆バレンタインチョコ教室【集まれー!!】


 もうすぐ2月14日、そう、“バレンタインデー”!
「今年こそは、ずっと気になってたカレに本命チョコを渡して、誰もが羨むラブラブスクールライフを実現しち
ゃうんだ~っ!」
 ……な~んてベッドの中で都合のいい未来を妄想しながら胸を熱くしている、恋するおんなのこの諸君! せ
っかくのバレンタインチョコ、手作りだったらもっと想いが伝わると思わない!?
「でもどうやって……? アタシお料理なんてできないし……いじいじ」
 そんなイマイチ自信の持てないあなたに朗報アリ!
 なんと、あの伝説のラブウォリアー“白壁やもり先生”が、手作りバレンタインチョコの作り方、ばっちり教
えてくれちゃいます!
 料理部特別企画! 名づけて、
『やもり先生と☆手作り☆バレンタインチョコ教室』っ!!
 合言葉は“ラブ(愛)”! みんなも女子力最大のラブラブチョコをくり出して、気になるカレの心のガード
を粉砕しちゃお!


 日 時・場所:参加申込時にお教えします
 講    師:白壁やもり先生
 参加申込方法:料理部員または白壁やもり先生に連絡してください。参加費は無料です

 持ってくる物(必須):チョコレートと相性のよい食品(応相談)/エプロン、三角巾
 持ってくるとよい物 :トッピング食品/型抜き/ラッピング用品(いずれも応相談)


 調理用のチョコレートはこちらで充分な量を用意しているから安心してね。おまけに失敗したときの代用品に
10円チョコも山盛り!(文責:料理部部長)


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



 ――以上が。
 時季も如月に入るや否や、学園内の至る所の掲示板・伝言板に貼られた、一枚のチラシの全貌である。
 部活動勧誘やイベント告知のポスターその他を情け容赦なく隅っこに追いやり、我が物顔でコルクボードのド
真ん中に陣取る、侵略的外来掲示物。
 誰にもそれを阻むことはできなかった。今日というこの日、“Xデー”が過ぎ去るまでは。
 桃色の色画用紙に染みこんだ甘いチョコレート菓子の香りに惹かれて、危険な奴らが集まってくる!
 どこに。
 ――清潔な流し台。
 ――ガスコンロに電子レンジ。
 ――大型の冷蔵庫。
 ――棚や引き出しに収まる食器に調理器具のあれこれ。
 私立仁科学園にも、当然ながら、そういう設備によって規定される特別教室が存在する。
 一般的には“家庭科室”という呼び名が罷り通っているが、それはあくまで併設する被服実習室や作法室を全
てひっくるめての総称だった。そのあたりについては漠然とした了解があって、移動教室などに際しても連絡に
混乱を来すようなことは、実際にはそうはない。
 ないのだが、被服実習室でも作法室でもないこの“第三の教室”を明確に区別しようと思うなら、もちろんち
ゃんと正式な名前があったりする。
 すなわち。
 調理実習室。
 二月十三日。放課後の仁科学園調理実習室は、謎のエプロンたちの占領下にあった。いずれも、女。幾人かは
鬼気迫る形相で周囲を睥睨し、教室は異様な雰囲気に包まれていた。
 “香り”というには些かきつい、むせかえるようなカカオと砂糖の匂い――。
 明日(みょうにち)のバレンタイン・デイ、恋の勝率を一厘でも上げるためには手段を選ばぬという、海千山
千の肉食系ども、総勢二十余名がそこには集結していた。

「はーい、みなさーん注目注目ちゅーうーもーく」

 そして、もう一頭、狼の群れを率いる狼の王。
 よほど根性のねじ曲がった癖っ毛を、今は純白の三角巾にくるんだ女だ。爬虫綱有鱗目トカゲ亜目ヤモリ科の
小動物ちっくな名前も、ドメスティックな(家事に関する、家庭的な)手を蝕むドラスティックな(過激な、思
い切った、深刻な)肌荒れも、全てひっくるめて自分を愛してくれるような誰かを密かに待ち焦がれる、夢見が
ちな二十代後半独身。
 白壁やもり高等部家庭科教諭。
 彼女こそが、この料理部発案のバレンタイン・デイ特別企画イベント『手作り☆バレンタインチョコ教室』の
特別講師として招かれた、“エプロンの親玉”とでもいうべき存在なのである!

「今から班決めするよー。クジ引いてってー?」

 今ひとつ通りのよろしくない声で、白壁やもり教諭が厚紙の箱を揺する。クジの擦れるガサガサ音。
 調理台の十台に対して、参加人数は二十人と少し。調理台をフル活用するなら、ひと班あたり二、三名に分か
れることになる。
 ここでの班分けは完全に運任せらしい。
 気の置けない友だちと和気藹々と料理するつもりでいた一部の女子からわずかなどよめきが漏れるが、結局表
立った反対はなかった。バレンタインチョコの手作りがなれ合い無用の孤独な戦いであるという、特別講師(二
十代後半独身)の信条を汲んだからなのかもしれない。

「おっ。静奈、閑花、何班ー?」

 調理実習室の隅、普通科一年の上原梢の声に、彼女と三人揃って参加した河内静奈と後鬼閑花が掴んだばかり
のクジを持ち寄る。

「あたしはねー」

 明るい茶髪のツインテールは三角巾で後ろに流されて普段より窮屈そうだったが、人懐こい笑顔はいつもの通
り。プレゼントのリボンをほどくような調子で、真っ先にクジを開いてみせる。
 そこで上原梢は、一転して困惑の表情を浮かべた。

「……“キューピッド”? 何これどういうこと。そっちは何て書かれてた?」
わたしのは、“愛染明王”?……でいいのかな?」

 河内静奈が、自信なさげに漢字を読みながら、梢によく見える高さまで紙片を摘み上げる。
 四つ折りにされた紙切れの中に記されていたのは、クジ定番の数字などではなく、意味不明の名詞だった。い
や、キューピッドくらいは当然知っているし、明王というからにはたぶん仏様のひとりなんだろうと想像もつく
けど、何でまた?
 どこからか、仔犬系演劇部員の「お客様ー! お客様の中に、“アフロディーテ”のクジを引かれた方はいら
っしゃいませんかー!?」という深刻なんだかネタなんだか分からない悲鳴が聞こえてくるにいたって、河内静
奈はどうにかその意味を理解した。 

「……たぶん、班の名前を愛の神様にしてるんじゃないかな? あっちのほうで“アフロディーテ”とか“トラ
ソルテオトル”とか聞こえたから」
「なんかよく分からないけどマヤ系!? マイナーすぎるよ!」
「マヤではなくアステカの女神さまですね」

 後鬼閑花が知った顔で訂正するが、そもそもマヤとアステカってどこがどう違うのだっけ、そこから既に分か
らない。

「やもり先生も謎なことを。……そういう閑花は?」
「私はエロスです」
「知ってる」

 思わず真顔で即答してしまってから、上原梢は聞き直した。

「……ごめん。じゃなくて。何て?」
「だから“エロス”ですよ。エロス班」
「あ、ああ。エロスってそういう?」
「ぴったりでしょ?」

 後鬼閑花はふふんと胸を張った。
 同じく二年の“先輩”先崎俊輔に執着的な愛情を抱くハイテンションな“後輩”、それがしばしば学園の話題
に上る彼女の立ち位置だった。当たって砕けて復活してはまた当たりに行く、失恋を知らぬ女。エロスというよ
りは、現在進行形で言動が下品な方向にエスカレートしているといったほうが妥当かもしれない。
 ところで、そんな後鬼閑花の服装は、仲間たちの中で明らかに浮いていた。
 いやってほどたっぷりとフリルをあしらった実用性度外視のエプロンドレスにカチューシャ。上履きまでエナ
メルのストラップシューズに替えるという念の入れよう。
 デザインだけ見ればそこそこ清楚なのだが、闇の接客業で人気を博しているコスプレ給仕服と言われればそん
な気もしてくる。
 さすがにここまで常軌を逸した格好をしている者は他にいなかった。

(メイド服を着た可愛い後輩が溶かして固めたバレンタインチョコ……。これで先輩がこの閑花ちゃんを襲わず
にはいられなくなるであろうことは、たぶん間違いないと推測される!)

 「フリルはドリルより強し」――秋月京(コスプレ部部長)の言葉である。
 何か間違った気合に、周囲の女生徒たちも気持ち一歩引きながら、じんわりと生温い視線を送っていた。

「……それにしても、三人ともバラバラになっちゃったね」

 河内静奈が、班分けの結果にしょんぼりと呟いた。
 彼女は、同級生の牧村拓人に手作りチョコを渡すためにこのイベントに参加した。チラシを見掛けた当初は、
生来の引っこみ思案が顔を出してしばらく悩んでいたが、ふたりに背中を押されるかたちで、“手作りチョコを
贈る”ところまでは決意を固めることができたのだった。……渡し方はともかく。
 やはり少し、心細くはある。

「まー、いいじゃない。そうだ、後で見せ合いっこしようよ!」
「いいですね。なんだか燃えてきました」

 上原梢の前向きな提案に、後鬼閑花も乗っかる。
 バレンタインチョコ作りが終わって、完成した自信作を手にみんなでお喋りする、そんな素敵な未来に期待す
ることにしようと。それなら、きっと、寂しくない。

「……うんっ」

 河内静奈ははにかむように微笑んだ時、ちょうど白壁やもり教諭が調理台の指定に入った。

「では」
「うん」
「ぐっどらっく」
「がんばろうね」

 言葉を掛け合い、こうして三人は袂を分かった。
 それぞれの戦いを始めるために。

(さぁ、やりますか――)

 場違いな給仕服で颯爽と、後鬼閑花は最奥の調理台に赴く。
 歩みの先で彼女を待ち受けるのは、もうひとりのエロス。……いや、同じくギリシア神話の恋愛神エロスの名
を刻まれたクジを引き当てた少女だ。

「――あなたもエロスなが?」

 聞き覚えのある訛りに、後鬼閑花はわずかに硬直した。
 チームメイトは、ただならぬ存在感をもって後輩となる少女を出迎えた。
 ――それはタイフーンガール。
 古杣(ふるそま)の斧音妖しくこだまする四国の深山を越えてやって来たという、噂のタイフーンガール。
 土佐の女傑“はちきん”の豪快さとやりたい放題な気性で、全てを台無しにするというタイフーンガール。
 普段は謎めく創作部でひとり陶芸活動に没頭し、たまに騒音公害をも引き起こす土佐弁少女。仁科学園普通科
二年、浅野士乃とは彼女のこと!

「……よろしくお願いします」
「ヨロシク」

 “エロス”と、“エロス”。もったいぶった動作で、クジを見せつけ合うふたり。正体不明の緊張感に、嵐の
匂いがわずかに混じる。
 ここから、何か(ろくでもないこと)が始まろうとしていた――!!



 ※


 誰だっけ?
 見覚えはあるんだけど。
 後鬼閑花は表情をぴくりともさせずに考えた。
 部活動見学の折に見た顔だった。確か“創作部”とかいう仲良し四人組の一員。ひとりひとりと自己紹介を交
わした記憶もなく、当然、名前など知らない。もっとも、もしその時に名前を聴いていたとしても、後鬼閑花は
覚えていないだろう。根本的に他人に興味が薄い人間とはそういうものだ。

「……誰やったっけ?」

 こちらは単純にその時に話を聞いていなかったために思い出しようもない浅野士乃。知らないものは当然知る
わけないと胸を張る。

「その節はどうも、先輩」
「ん? あ、どーもどーも」

 自分の名前を忌避してさらりと問い掛けをスルーする閑花と、まあいいかと生来の大雑把さを発揮する士乃。
結果、その場しのぎのテキトーな挨拶が飛び交う。

「そろそろいいですか?」

 班員同士の交流がひと段落したタイミングを見計らって、白壁やもり教諭が声を上げる。

「では、まずは、必要なものが机の上に揃っているか確認してください」

 そのまま手元のメモを読み上げていく。
 鍋、温度計、包丁、まな板、ボウル(大)、ボウル(中)、ボウル(小)、ゴムベラ、チョコレート型、板チ
ョコ、デコレーションのための食品……。もちろんこれは最低限のもので、世界にひとつだけのバレンタインチ
ョコを作るためにと、あれこれと家庭から持参している者も多い。

「OK。これもある、OK。OK……っと。温度計とか使うんだね」
「お菓子作りは分量と温度が大事なんですよー」
「まさか理科室からってことはないよね、やもり先生」
「ちゃんと調理用ですぅー」

 白壁やもり教諭は粗忽なことで有名だ。準備に何らかの手落ちがあってもおかしくはない。
 配布資料に首っぴきで指差し確認する者から、「そもそもやもり先生のメモからして完璧かどうか分かんなく
ね?」と一から手順をシミュレートする者まで、少女たちは本気と書いて真剣だった。

「全部ありますか?」
「あるがやない?」

 そのへんの事情をまだいまいち分かっていないエロス班のふたりは、はたから聞く者を不安にさせる会話を交
わし合っていた。

「大丈夫です!」
「やもりん先生にしては珍しく揃っています!」
「先生!」
「先生ッ」

 不備なしとのめでたい報告が続々と上がっていき、可愛い教え子たちのまばゆい笑顔が、白壁やもり教諭(教
師歴四年目)を取り巻く。誰からともなく拍手が沸き起こった。
 謎の感動に包まれる調理実習室。

「ま、まーね……」

 教師冥利に尽きるような光景だったが、当の白壁やもり教諭は口の端を引き攣らせていた。
 実は今朝になって慌てて“先輩”に調理器具のチェックを手伝ってもらったなどと、真実を口にできる雰囲気
ではなかった。
 それでも、生徒はいっしょうけんめいに手をたたいた。白壁やもり教諭がどうしてもこれまで完璧にできなか
ったことを、みんなが知っていたので。

「こほん。ではさっそくお料理を始めましょう」

 わざとらしくも咳払いをひとつ。
 彼女とて社会人の端くれ、気を引き締めるにはそれで充分。

「まず、包丁とまな板がよく乾いていることを確かめてから、板チョコを細かく刻みます。キャベツの千切りの
ようなイメージでしょうか。刻んだチョコはボウル(小)へ」

 これはチョコレートをお湯の熱さで手早く溶かすために小さく砕いておくのですだらだらと熱に晒していると
チョコレートの味が変わってしまいますからね云々と続く長ったらしい説明をざっと聞き流し、浅野士乃と後鬼
閑花、ふたりの魔女は刃物をぎらつかせてチョコレートの塊に跳び掛かった。その形相はちょっと、エンカウン
トしたら死ぬ系のモンスターっぽかった。

「だりゃあああっ!! 悪は滅びや!!」
「原子の塵に変えてやる……!」

 まな板の中でみるみるココアパウダーと化していくチョコレート。これ一番ちっこくしたヤツが優勝な!的な
ものでもあるまいし、何もそこまでせんでもという気もするが、この時他人に構っている余裕は誰にも(教諭に
も)なかった。

「お鍋でお湯を沸かしましょう。二人分ってことを忘れないでくださいね。
 湯煎で使うお湯の温度はだいたい五〇度から六〇度、温度計で計ってください。ちなみに摂氏温度です。お菓
子だけど、摂氏なのです」

 摂氏温度にして二度は体感気温の下がる発言だったが、視線を向ける者すらここにはいなかった。

「……いかん、刻みゆうときに前もってお湯の用意しちょったら早かったに」
「すぐに沸きますよ」

 それなりに料理を経験した者ならば、そういう同時進行も可能だろうが。ややこしい手順にテンパっては、テ
ンパリング(チョコを溶かして固める時にする調温やら何やら)などできっこないという講師の深い考えあって
のことだった。

「ボウル(大)にお湯、ボウル(中)に氷水を入れましたね? ボウル(大)のお湯に、チョコの入ったボウル
(小)のお船を浮かべます。ボウル越しにお湯の熱が伝わってチョコが溶けだすので、ゴムベラで滑らかになる
まで混ぜましょう。
 間違っても、ボウル(大)にボウル(小)の中身をぶちまけてはいけませんよ」

 熱湯と氷水を駆使するテンパリングの温度管理は複雑だった。
 ふたりで悪戦苦闘しながらダマのない状態に持っていくエロスの戦士。

「うう……。ただ溶かして固めればいいってものではないのですね……。甘く見ていました」
「よっしゃ! ジャスト32度ッ!」

 温度計と睨めっこしていた士乃から、勝鬨にも似た歓声。

「やりましたね。型、使いますか――」

 リトライのためにチョコの温度を氷水で28度まで下げている最中の閑花が視線だけで促すと、士乃はふるふ
ると首を振って否定。
 カッ!!と目を見開き、自らが持ってきた手提げ袋に手を伸ばす。
 その中から、何か。
 巨大なものが――
 現れる――

「すまんけんど、あたしのチョコは、型に嵌るようなもんやないがやきッ!!」

 創作部の嵐を呼ぶ女、浅野士乃が、ついに牙を剥く!!



 ※


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 コラム 『料理部が選んだ“チョコレートと相性のよいもの”!』


 「持ってくる物(必須):チョコレートと相性のよい食品って言われてもぉ、○○○(←あなたの名前を入れ
てね!)困っちゃぁう!」と、チラシを前にカマトトぶってるそこのあなた! そう、あなた! ご安心くださ
い! 我々料理部が厳選した、オススメの食べ物をこっそりばっちり教えてあげちゃいます! まさに至れり尽
くせりなずな御形はこべら仏の座ッ!


【フルーツ】
 オススメ度★★★★★
「定番中の定番ですね。バナナ、イチゴ、ミカンなど。風味が強く、あまり水っぽくならないものがよいでしょ
う。カンヅメも◎」

【ナッツ】
 オススメ度★★★★★
「ナッツに限りませんが、お菓子屋さんもやっている組み合わせなら大概はイケます」

【どんぐり】
 オススメ度★☆☆☆☆
「ナッツといっても、原則、どんぐりは止めておきましょう。野性味や縄文人っぽさをアピールするのは、何も
今でなくたってよいハズ! ゾウムシさんの幼虫とかもいるかも!」

【スナック菓子】
 オススメ度★★★★☆
「美味しさ、チョコレートとの相性、バリエーションの豊富さ、いずれも最強ランク。ただしあまりにも特徴的
な味のものと組み合わせてしまうと、恋する乙女としてのキラキラ感や、手作りのありがたみが薄れてしまう諸
刃の剣。……砕いて使うなど、うまく工夫して!」

【キャラメル、マショマロ、ジェリー等の砂糖菓子】
 オススメ度★★★★★
「既製品でありながら、スナック菓子ほどはそれを感じさせない優れモノ。もっとも、アメちゃんなど単体で口
の中に残るものは避けたほうが無難です。変に海苔だけ堅いお寿司みたいになってしまいますよ!」

【酢昆布】
 オススメ度★☆☆☆☆
「合いません」


 いかがでしたでしょうか? みんなもこれを参考に、女子力にいっそう磨きを掛けてくださいね!
 最後に、白壁やもり先生から、ありがたいお言葉をいただいています!

「これは闇鍋でも、魔女のサバトでも、陶芸でも、ましてや化学テロの下準備でもありません! 貴重なタンパ
ク源や危険物、その他わけのわからない物を持ちこまないでください。食べられない雑草や小石、ガンプラ、素
焼きの陶器、自分のハダカなどをウケ狙いでチョイスするのも絶対にやめましょう!(過去いました)。食べら
れる雑草ならギリOK!」


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



 ※


 浅野士乃が取り出した物。
 それは、

「ろ、ろくろ……?」

 轆轤(ろくろ)であった。
 すなわち、回転可能な円型の台。主に陶芸などに利用されるものであるが。
 浅野士乃という女ときたら一切の躊躇なく、そのド真ん中にいい感じに粘性の上がったチョコレート塊をでん
と乗せた。

(えええええええええええー?)

 閑花困惑。
 それも当然である。この場にいる誰かひとりでも、この展開、果たして予想できたか。

「フンンンンンンンン……!!」

 呼吸によって充実していく気力。
 少女の細指が、軟体生物の触手のように蠢いて――
 創造が始まる。
 創作が始まる。
 最初の人間を轆轤の上でかたち作ったという、エジプト神話のクヌム神を後鬼閑花は想う。

(チョ……チョコで陶芸してる――!?)

 回転台の上で、チョコレートは黒い竜巻となって伸び上がり、大きく歪んで、やがて滑らかにその姿を変えて
いった。
 唇を引き結んで一心に土を捏ねる人間国宝の陶工のようなツラで、浅野士乃は思うがままにカカオ菓子を成形
していく。作品に命を吹きこむひとりの創作者として、また未来への限界に挑むひとりの女子として、どこまで
も真摯に、しかしどこまでも自由に!

(ふざけているのかと思ったけど……)

 我が事の合い間、歳に似合わぬ職人芸をちらと横目で窺いながら、後鬼閑花は感嘆を禁じ得なかった。

(すっごい真剣……!)

 そして、およそ数分という時間が経過し、

「凝ッ固ッ!!」

 今、浅野士乃の熱い想いがかたちとなる。
 それは、“湯呑み”だ。黒々としたチョコレートでできた、湯呑み。素っ気ない味わいの、ジャパニーズ・ワ
ビ・サビの体現といえるか。

「いつもごくろーさまの気持ちをこめて、あったかいものをあげるが! どう? このチョコ、熱湯を注げば内
側が溶け出してココアになるがでっ!!」
(かちかち山の泥舟みたいになりそう……)

 と白壁やもり教諭は思ったが、口には出さない。

「あっ。チョコがいい塩梅になったらぁ、型に流しこんで、固めましょうっ! 固まりきる前にアラザンやスラ
イスナッツなどをトッピングすれば、手作りらしい素朴さを演出しながら味も手堅く仕上げることができます。
……とはいえ、飾りつけの工夫は無限大! 今こそみんなの愛とセンスを見せつける時かも!?」

 何と言葉を掛けたものか少し悩み、取り敢えず全体指導に戻っていく。
 殊更に大声を発するのは、心の痛みを鈍らせるためだ。

「そ、それから、ひとくちサイズの果物やお菓子を持って来ている人もいるかと思います。爪楊枝や箸を使って
チョコにつけてみましょう。くるくる回してみると、きっといい感じにくるまれるはず!」

 ――白壁やもり、教師として苦い敗北であった。
 ビターチョコレートのように苦い敗北であった。

「その相手の男性を思いやる気持ち! 閑花ちゃん感激です!」

 教諭(もうすぐ三十歳)がヘタレている一方で、戦友の狂気が感染したように、もうひとりの魔女、後鬼閑花
は両の拳をぐっと握り締めていた。

「私だって――」

 巾着から取り出しましたるは、事前に厳選に厳選を重ねて準備していた食品。
 黄金色に輝く、“飴玉”であった。

「アメ? あんまりオススメせんって言いよったで?」

 浅野士乃はチラシのコラムを思い出していた。

「飴は飴でも、これ、中は空洞で脆いので」
「あー、吹いて膨らませたやつ?」

 何でそんなものを?
 そういう疑問形のニュアンスを感じ取ったのか、後鬼閑花は憂いを帯びた表情で語り出した。

「……以前、私の■の■や■■をエッセンスにしたお菓子は、気持ち悪がられて食べてもらえませんでした」
「お、おう……」
「――でも、“吐息”なら?」

 !?

「一見ただの食感重視の儚い口どけ! しかし、実は知らず吐息を舌で味わっているというエロティックでロマ
ンチックな甘い罠! お口の中が閑花ちゃん!」
(……何言いゆうが? この子)

 士乃困惑。
それも当然である。この場にいる誰かひとりでも、この変態、果たして予想できたか。

「はああああああああ……!!」

 呼吸によって充実していく気力。
 悪質な工作が始まる。
 極めて悪質な工作が始まる。

「あれが女子力なんだ……! わ、わたしも見習わないと……!」
「やめときなさい」

 遠く、河内静奈が何やら悪影響を受けそうになっていたが、そちらは上原梢がしっかり止めた。「閑花ちゃん
のほうは止めなくていいの?」 ひそひそと尋ねた知人に、上原は気の毒げに目を伏せて答えたという。「もう
手遅れっぽい」

「――完ッ成ッ!!」

 ――明日はバレンタイン・デイ。
 恋する少女たちの愛と勇気と何かいろいろな物がどこへゆくのか。
 それは、神のみぞ知るっちゅうこっちゃ。



 おわり





前:]] 次:[[

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
人気記事ランキング
ウィキ募集バナー