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おおかみちゃん

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おおかみちゃん




 「おばあちゃん、おばあちゃん。どうして耳が大きいの?」
 「お前の声をよく聞くためだよ」
 「おばあちゃん、おばあちゃん。どうして毛むくじゃらなの?」
 「お前が寂しくて凍えそうなときでも、暖めてあげたいからだよ」
 「おばあちゃん、おばあちゃん。どうして……。どうして牙が生えてるの?」
 「お前を……守るためだよ」

 うそです。
 作り話です。
 黒咲あかねはウソツキです。

 オペラグラス片手に男女二人の成り行きを盗み見しながら、黒咲あかねの作り話に頷いてるのは、紛れも無く近森ととろだった。
 高等部二年生の近森ととろは、言わずとしれたカップルウォッチャーだ。幸せそうな男と女を遠目で覗いて、幸せをちょっぴり
御相伴する。ととろは幸せを貯めながらふんはと二人の幸せを祈るのだった。

 隣の黒咲あかねは演劇部に所属する高等部一年生。ととろが観察していたとある男女の二人をちらと見て、
『赤ずきん』を語りはじめた。いや、正しくは……。

 「ちょっと、アレンジしてみました」

 ととろと背中合わせで座るあかねは自分の顔が赤くなっているのを見られることを恥じた。
 黒タイツの両足をぴっちりと閉じて、遊んだ手でスカートの裾をいじいじと弄る。

 「恥ずかしがることないよ。即興でそこまで出来るのって、さすが演劇部って感じだしー」
 「だって、赤ずきんとオオカミが幼なじみって設定なんですよ。それを知っているおばあちゃんが、二人をくっつけようと……
  猟師と画策するなんて」
 「わたしもオオカミさんに食べられたい!」

 ととろの黄色い声に廻りが桃色がかる。背中でととろの体温が上がっていることが伝わった。
 ととろもあかねも花も恥じらう高校生。このお年頃は惚れた腫れたに敏感なとき、人を想うことをきゃっきゃと喜び、
うふふと隠したがる、甘くも脆い思春期真っ盛り。あかねは自分の隠しつづけた妄想が、即座に閃いた作り話で不用意にも尻尾を
見せてしまったのではないかと息を止めたが、零れたミルクはカップにはもう戻ることはなく、あかねの黒タイツの太ももを
真っ白く、白く汚したのだった。一度濡れた脚は拭いても拭いても染み込むばかり。決して元の色へとは戻らない。

 「こんな……」
 「女子の憧れじゃない?」
 「オオカミですよ」

 脚を組み替えたととろはもう一度オペラグラスを二つの瞳で覗いた。
 視線の先にはととろやあかねと同じ制服姿の女子高生。明るくも落ち着いた髪がレンズ越しに香る。やはり花も身もある
女子高生にはパステルカラーが似合う……はずだが、彼女自身が拒んでいるかのように見えた。
 相手は年上の男性だ。スーツ姿に身を包み、身なりはかなり整っている。かなり、金には不自由しない生活をしていると伺える。
ただ、そこはかとなく硝煙のような匂いがぷんとする、ぶっちゃければ堅気を感じさせない空気が彼の周りには張り付いていた。
抜き差しならない世界に生きる者に似合うのは無彩色。これは誰の目にも見えた。

 あかねとととろは二人が知らない世界をちょっと垣間見た。
 それだけで胸の高まりが止まらない。

 「ふう……」

 オペラグラスを下ろしたととろは自分たちの世界に舞い戻り、それを確認しようと口火を切った。

 「さて、オオカミさんの想いを知った赤ずきんは、どう答えるんでしょうかね!?あかねちゃん」
 「わ、わかりませんっ」
 「出し惜しみなんてずるいよっ」

 うそです。
 オオウソです。
 黒咲あかねはウソツキです。

 これ以上顔を赤らめたくないから、あかねはそっとウソをついた。


   おしまい。





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