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アリサとわんわんおー

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アリサとわんわんおー




 「わんっ」
 「がぶっ」
 「きゃんっ」
 「わおっ」

 高等部一年の体育はまるでドッグランにいるようだ。ゲージに囲まれた広場で所狭しと駆け巡る一匹の仔犬がいるからだ。
バレーコートに響き渡る鳴き声に生徒一同目を見張る。寒い外とは違って暖かな体育館の中、久遠荵は雪降る庭の仔犬に負けじと
ボール追いかけ走り回っていた。

 買ったばかりのスーパーボールさながら荵は跳ぶ。 
 自分の守備範囲から大きく逸脱していても、隕石かと見紛うスパイクも、右手左手体全体で跳ね返す。

 「荵ちゃん。無理しないで」

 目の前に飛び出した荵には、額に汗を垂らしてしまうこと請け合い。
 いつも大人しい烏丸アリサでさえもだ。

 「烏丸りんが利き手痛めちゃいけないっ」
 「これ、授業なんですけど~」
 「この後、お昼休みに書いてもらうんだからねっ」

 目を輝かせた荵は、くんくんとアリサの体操着に鼻を近づけた。微かに香る墨汁のにおいで不思議と落ち着くからだ。
 一方、微かに膨らんだ胸に当たりそうなぐらいな荵の髪がアリサの鼻孔をくすぐった。

 「烏丸りんの書道はごちそうだっ」
 「恥ずかしいです~」
 「恥ずかしいのもごちそうのうちっ」

 とにかく他の生徒の目が気にかかる。アリサとしては、いち早くゲームを続けてほしいとやきもきしていたが、
再開したら再開したでアリサのレシーブを荵が奪ってしまうのだ。業を煮やした体育教師がホイッスルを鳴らした。

 「始めるぞ。久遠!」
 「わおっ」

 ゲーム再開、サービスを迎え撃つはアリサと荵のチーム。
 アリサは右後方、荵はセンター後方を守る。掛け声と共にボールが宙を舞い、放物線を描いてコートすれすれのラインに飛び込む。
 アリサが利き手伸ばしてグーでボールを受け止めようとしたときのこと。荵の脚では間に合わず、水泳のスタートよろしくダイブして、
顔面でボールをレシーブという偉業を成し遂げた。そのままコートに沈んだ荵の周りには人だかりが築き上がっていた。

 落胆と唖然の意味を込めてアリサもまた両膝ついてへたりこんでいた。

 「もう~」


      #


 程なくして保健室のベッドの中、荵はアリサが制服姿で頭をもたれているのを発見した。
 もじもじと荵と目を合わせることが恥ずべきことかと言わんばかり。

 「べ、別に体育ぐらいで筆持てなくならないし~」

 表情の読めないセリフは何だか不安を掻き立てるもの。荵がくうぅと鼻を鳴らしていると、アリサは後ろ手で荵に
一通の書簡を差し出した。きれいに折り畳まれた便箋がアリサの性格を良く表し、お世辞にも上手いとは言えない文面と文字が
アリサの不器用さを良く表していた。わざわざ文面にしてアリサの思いを伝えなくても……上のように考えるだろう。
しかし、荵はアリサの手紙を読んで安心をしていたのだから結果オーライだ。

 「ふふっ」

 荵のくすくす笑いにアリサは目を合わせる勇気を持った。

 「メールじゃなくて、筆で手紙なんて烏丸りんらしいっ」
 「あの、あの……メールは……苦手です~」

 荵はアリサの制服から墨のにおいがしていたことに尻尾を振った。


     おしまい。





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