欠損を与える
特にエンターテインメント系の物語を書く場合、主人公には何か一つ、欠損あるいは欠陥を与えておくべきである。それを物語のテーマと結びつけられればなおよい。
これは定番の手法で、主人公はそこで設定された自分に足りないものを(意識的にせよ無意識にせよ)求めて物語が展開していくことになる。これは単純に「主人公が完璧では読み手が感情移入しにくい」というのも理由であるが、これをすることによって物語の構築が比較的容易になる、という実利的な面もある。
主人公に与える欠損として典型的なのが、特技を奪ってしまう、という手法である。「膝を壊したサッカー選手」「大きなトラウマを抱えて絵が描けなくなった画家」「自らの手で愛するものの命を奪ったために剣を捨てた戦士」「魔法が使えなくなった魔法使い」など、この手のキャラクターは主役脇役を問わず、さまざまな物語で登場している。
この他にも、主人公から欠落させるものとしては記憶や生命(不治の病に冒される、幽霊になる、など)、視力、聴覚、性格(「優しさ」が不足しているため、極度に冷酷)といったものもあるし、もっと直接的に、主人公から「大切にしている何か」を奪ってしまう、というのも一つの方法である。恋人や家族、友人などの人物、あるいは、宝物、地位、財産などの物品。この場合、主人公は奪われたものを取り返すという明確な目的ができるため、物語を動かしやすくなる、というメリットもある。
この応用テクニックとして、不足させるのではなく、付加するという手法もあることをおさえておきたい。典型的なのが「アルジャーノンに花束を」で、この作品では、「不足しているものが与えられる→それが失われることを知り、葛藤する→懸命の努力に関わらず、失われてしまう」という過程を描くことによって、物語最後の一文が読者に与える感銘をより強いものにしている。また、この作品でも、主人公に足りないものが設定されている点に留意したい。
最終更新:2007年05月30日 00:16