ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第02話

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「ただいまー」「ただいまー」「おじゃましまーす」

 気だるさに耐えかね、久々に上げてもらった鷲宮神社の離れの居間で打ち上げられたマグロの様に
寝転がっていた柊蓮司は、玄関から聞こえてきた声に反応してまだ倦怠感の残る身を起こし佇まいを
正して見せた。

 幼馴染の実家も立派な神社であったためか、どうも神職の家の人と接するときには妙な緊張癖がつ
いているな、などと他愛もない事を夢想しつつもみき叔母さんの用意してくれた茶菓子をパクつく。
 お茶菓子を口にし、茶を飲んでも生命の危機がないなどという他愛のない事がこれほど幸福だとは
思わなかった…思わず目の淵に涙が溢れそうになるのをグッとこらえる。

 今、彼は決してただ親戚の家に遊びに来ているだけではないからだ。

 原因不明の時間巻き戻し現象の調査及び、可能ならその対処。百戦錬磨のウィザードである柊蓮司
の今回の任務に際し、最も適切な滞在場所にして…守るべき身内の住まう場所。

 さまざまな思惑の果て、彼はこうして久々に親戚の家である鷲宮神社までやって来たのである。

 それはさて置き。彼がお茶を啜って喉を潤したとき、ぱたぱたと複数の足音が居間に近付いてくる
のがはっきりわかった。そう言えば…従姉妹のかがみ、つかさが陵桜学園に合格したと聞いた時以来
丸二年近く会ってなかったなぁなどと他愛もない事を思い出す。

 …とりあえず、自分が高校生活で遭い続けた悲惨極まる日々の事は心の棚の上辺りに軽くポイ捨て
する事にする。今この段階で自分の素性がばれる事は極めて良くない。

 今の俺は私立輝明学園秋葉原分校卒業生の、普通の社会人だと自分の心に言い聞かせる。2年でも
1年でもないと、強く強く言い聞かせる…よし、もう大丈夫だと深呼吸ひとつ。

「あ、蓮にいさん!」

 特徴的なリボンつきのヘアバンドを揺らして顔を見せたのは、柊つかさ。どこか暖かな陽だまりの
ような雰囲気を感じさせる笑顔を素直に向けてくる。久々の再会になるがどこにもぎこちなさが感じ
られないのは間違いなくつかさの才能だろう。などと思いつつ軽くサムズアップ。

「あ、卒業おめでとう。蓮司兄さん」

 どこかぶっきらぼうな感じで言葉を掛けてきたのは、可愛らしく髪をツインテールに纏めた従姉妹
のかがみ。そういえば、ずいぶん昔にこの髪型が可愛いと京子姉さんが褒めてからずっとこの髪型な
のかなと他愛のない事を考える。まぁ、卒業に関し祝辞を貰えるのはとても嬉しいものだ。素直にそ
の言葉に応じて、自然に笑顔が零れそうになるのを堪えてみる…多分、堪えられた筈だ。自信はない
のだが。


「…ぉー…ふむー…なーるほどー」

 と、その時…かがみの真後ろから現れた小学生…のように見える陵桜のセーラー服を着た少女の視
線に少しばかりの戸惑いを感じた。まるでこちらを値踏みするような視線を感じる。何というか…ま
るで悪戯好きな子狐が擬人化したような印象の少女は、まず柊の顔を、そして全身を眺めた後にその
手のあたりで視線を止め…まるで猫のように目を細めて笑った。

「上着の腕まくりにアンダーの赤シャツ。さらに指貫グローブとは…通だねぇお兄さんっ♪」

 …きっかり数秒間の思考停止。

 さらにその後、先ほどの少女の発言が意味するところの内容を考え…。

「い、いきなり何の話してやがるんだよおいっ!?こいつは別に趣味で…っ!?」

 と、反射的にツッコミを返しそうになるのを必死に堪える。柊が手に嵌めている指貫の革グローブ
は、魔剣を使った剣闘の際に手を保護し滑り止めになるという意図で選んだ実用品であって、決して
趣味の一品ではない。のだが…まさか目の前の少女にそんな事を暴露する訳には行かない。

「趣味で…何?」

 柊の沈黙を妙にかんぐり、更に目を猫のように細めつつ笑顔で追求する小学生のような少女。どう
もかがみ達のクラスメイトのようで、慌てて制止に入るつかさに笑顔で手を振って応対などをしてい
る…。

 背に腹は変えられない。こんな所でグローブが実用品だと言った所で信憑性もなければ、万一信じ
られればえらい騒ぎになりかねない。誤魔化すのが一番だと納得させる…色々複雑だが。

「ま…まぁ、何でもねぇ…俺は柊 蓮司。かがみやつかさとは従兄弟の間柄になる。名前位言っても
バチ当たんねぇんじゃねぇか?ちびっ子」
「ちっ、ちびっ!?…失礼だなー、失礼だなー…かがみんー、親戚付き合い考えたほうがいいよーぉ?」
「待ておい!?その言い振りはどう言う意図だこらっ!?」

「であってスグに馴染んでる…蓮にいさん、こなちゃんと気が合うんだねぇ~」

一拍間を置き、同時に絶叫

「「馴染んでなぁぁああああああいっ!?」」

 などと愉快なやり取りを交わしつつも、柊蓮司は胸中で密かな決意を固めていた。

 この家の人々は、紅い月の昇る宵闇の世界に生きていない。ここは陽だまりの似合う表の世界だ。

 だからこそ、宵闇を渡る夜闇の魔法使い、ナイトウィザードである自分のようなものが頑張らねば
ならない。この暖かな時間と世界を、守るために…と。


と、そんな決意を胸中で密かに固めている最中…。


 何の予兆もなく。柊蓮司の前で世界から全ての色彩と音、そして動きが静止して欠落した。


目の前で猫のような笑みを浮かべている少女、泉こなたはかがみに話しかけている途中の姿のまま。

こなたに話しかけられているかがみは、困ったような笑みを浮かべたまま。

卓袱台の片隅に座ってお茶を注いでいたつかさもその姿のままで…ただ、世界が完全に静止している。

 全てが静止した世界の中、一瞬で思考を剣闘の際のそれに切り替え、反射的に右の腕を世界の「壁」
の奥に沈めこみ、そこから一挙動で振り抜くのは古代の魔術文字の刻まれた、蒼い燐気を放ち煌く一
振りの魔剣。

 これこそが幾多の戦いを彼と共に歩んだ柊の魔剣、神殺しの魔剣である。

 月衣から引き抜きざまに振り抜いた刀身からは蒼いきらめきが飛沫の様に散り、静止した世界の空
気を鋭く斬り裂く。

 しかし、魔剣を一挙動で構えたところで彼は妙な事に気がついた…。

 普通、異世界からの侵略者「侵魔」の手による魔術的な結界「月匣」はそれが現出した際に「紅い
月」を空に浮かばせる。しかもその空気は異質な殺意のようなものに彩られていることが珍しくない
のだが…この結界のようなものには…。

「悪意が…ねぇのか?」

 思わず独りごち、構えた剣の切っ先を下ろす柊。この不可解な空間の中には悪意がまるで感じられ
ない。むしろ、この空間に満ちているのは愛おしいものを包み込むような慈愛のプラーナ…。

 そして、次の瞬間に虚空に浮かぶのは…暖かなきらめきを宿し宙に浮かぶ…こなたと呼ばれた少女
に瓜二つの少女の姿だった。
378 名前: 柊蓮司と終わらない日々 らき☆すたクロスSS [sage] 投稿日: 2007/12/02(日) 22:24:22 ID:???0
 どこまでも深い慈愛を秘めたプラーナを宿し、虚空に浮かびつつ柊に何かを伝えようとするその少
女の様子を見ている限り、どうもこの結界は「月匣」と根本的に性質の違う何かだとしか思えない。

 完全に警戒を解きはしないが、それでも剣を抜いたままでいる理由はないな。などと判断し魔剣を
虚空に突き込むようにして「月衣」に収める。するりと音を立てる感じで虚空に剣を仕舞った後でと
りあえず、半透明なこなたに似た少女に向けて意識を集中させる。

 「お願い…娘を…あと、そう君を、みんなが大事に思っている人を…助けて」

 か細い「声」が、かろうじて柊の心に届いた。一途に他者を愛し続け、慈愛の心を忘れないままで
長い時間を過ごした者だけがなり得る、純粋な善意溢れるプラーナを宿した守護の魂。それがこの少
女の正体だ…と本能的に感じ。

 とりあえず、目の前の幽霊の少女の発言の中にある「娘」とかいう件については思考の端に叩き出
す事にする。どう控えめに見ても、この目の前の少女の霊はこなたと同年代にしか見えないのだが…。

 「まさかアンタ…この街に起こってる事件の陰でなんかやってるのは、アンタなのか!?」

 柊の質問に対し、わずかに首肯して答える少女の霊…と、唐突にその姿がぼやけ始めた。

 「今はまだ護れます…わたしが肩代わりして、みんなの世界を護っていけます。でも、それも…
もう、限界が近いの…このままでは、そう君やこなた達が住む世界が…」
 「おい!?待てよアンタ!何がここで起こってるのか、あんたは知ってるのかっ!?」

 柊の必死の呼びかけに答えるだけの余力もないその幽霊は、ゆっくりと世界の中に溶けていく…。
必死に手をさし伸ばそうとするが、一瞬遅い。少女の霊は、悲しげな顔のままで世界に溶け込み…。


 唐突に、世界に色と音。そして時間が戻ってきた。

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