ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

序章

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だれでも歓迎! 編集
 拝啓、お袋+お父様。

 私、上条 当麻は今日死ぬかもしれません。
 長い間面倒を見てもらい大変ありがとうございました。
 なお、死因が感電死だったら、付近にいるツンデレな女子中学生が犯人です。
 訴えてください。
 多分権力で叩き潰されるような気もしますが、頑張って。

 By 不幸な上条 当麻より。




「不幸だ、不幸です、不幸なのですよ! っと、何度言えば済むんだよ!!」

 日にちは七月十八日。
 明日の登校が終われば、いやっほぉーい夏休みだぜっと踊り狂っても許される日にち。
 大変気持ちのいい時間と素敵な夕暮れの時間に、俺は踊っていた。
 死のダンスを。
 訂正。生き延びるための葛藤をだ。

「あーもう、いい加減当たりなさいよ!」

 迸る――閃光。
 ふざけろ、それは人が死ぬ威力。
 舐めるな、それは常識外の電撃。
 ゆえに、当たるわけにはいかない。っていうか、逃げる。

「とぉうっ!」

 反応など不可能、視認するのも不可能、放たれれば回避など不可能。不可能の三つ重ね。
 それを人は回避することが出来るか?
 否である。
 それほどの反射神経も人外の身体能力も素晴らしい異能も、俺こと上条当麻は保有していない。
 あらゆる万物を捻じ曲げる神の化身でもなければ、
 銃弾すら躱す強化人間や人造人間でも、
 人の領域を超えた人狼や吸血鬼でも、
 たゆまぬ訓練の果てに肉体操作の極みに達した龍使いや仙人でも、
 戦闘技巧者の極みである魔剣使いや忍者ですらない。
 ただの人である。
 されど、されど、それは躱せるのだ。
 ただ一つの条件をクリアーすればかわせるのだ。
 つまり、その手が振り抜かれるよりも早く――動く。

「ひぇえっ!」

 迸る電撃よりも早く動く目線、振りぬかれる手の軌道、それらを推測し――横っ飛びに避けた。
 電撃の奔流。触れたらあかんよ、危険だから。光のプリズム、網膜に焼きつく破壊の象徴。かさかさと動く俺の手足。
 そこ! ゴキブリのようだと言うなよ!
 っていうか、超怖ぇえええ! 目がチカチカするんだけど!

「くっ! ちょこまかと――!」

 疾る、奔る、光の連鎖。
 空気が弾け、焦げ臭いどこか癖になりそうな臭い。
 あんた、そんなに電撃放って髪だいじょうぶですか? 痛まないのですか? と突っ込みを入れたくても入れる暇もなく、ひゃいんっと悲鳴を上げながら俺は避ける。逃げる。戦略的逃亡を試みる。

「避けるな!」

「馬鹿言うなぁ!!」

 反論に叫んだ瞬間、第六感がざわめいた。
 ――しゃがむ。
 しゃがんだ頭の上を、オレンジ色の光線が突き抜けた。
 一瞬遅れて響く衝撃破。ぐらりと揺れる頭、激しい悪寒。だらだらと決して男の尊厳で洩らしてはいけない体液以外の何かが流れる。つまり汗。

「……今なにした? っていうか、後ろ見るのが激しく怖いんですが」

「見てみれば?」

 撃たない? くいっと小首をかしげて訊ねる。
 撃たないからっと、破壊を齎す犯人が告げた。激しく説得力がない。
 しかし、気になるので後ろを向く。

 激しくものがぶっ壊れてました。

 夕日が美しい空の下で、損壊したアスファルト。まーるい穴が空いた壁。
 どんな砲撃を繰り出せばこうなるのか。ガンナーズブルームの砲撃を叩き込んだような惨状。
 一言言おう。
 人間が喰らったら木っ端微塵のミンチであると!

「こ、このヒトゴロシぃいいいいい!!」

 絶叫である。
 両手を口に当てて、俺は叫んだ。

「って誰が人殺しよ! 失礼ね!」

 お前だお前という勇気は俺にはない。
 じろりと睨んでくる少女に、俺は怯えていた。
 灰色のプリッツスカート、半そでのブラウスにサマーセーター、茶髪に染めた今時の中学生。
 遠目から見れば限定的に普通の中学生に見えるごく平凡な少女。
 いや、平凡というには少々語弊があるぐらいの美少女である。
 例えば俺が何も知らずに、こいつが駅前のアイス屋さんでぺろぺろとソフトクリームを食べていたら「へい、そこの美少女。俺と一緒に抹茶アイスを食べないか?」 と誘い文句が出そうなぐらいといえば分かるだろうか?
 しかし、俺がそんなことをすることはありえない。一つは俺がアイスで誘うような阿呆でもないし、目の前にいる少々目つきが鋭くなっている中学生の正体を俺が知っているからだ。
 御坂 美琴。
 苗字と名前の頭にみが二つ並ぶ名前。もう少しフレンドだったら、ミミちゃんとでも呼んでやるべきだろう。
 だが彼女は――“レベル5”だ。この学園でも七人しか存在しない規格外の“超能力者”
 超能力者である。繰り返さなくても分かるだろう。
 目の前に居る少女は“異能者だ”。
 いや、俺が住む都市――学園都市は230万人もの学生を擁する巨大都市。
 その存在意義は“超能力者の開発”だった。
 一昔前の常識のような嘘くさいエスパーではなく、れっきとした科学のカテゴリーで確立された能力。
 脳に電極を突き刺し、薬を飲み、あらゆる脳医学、薬学、大脳生理学などを駆使したマッド極まる方法。
 しかし、それでも能力が発揮されるものとされないものがいる。
 それが俺=能力無しのレベル0と御坂=能力最高なレベル5。

「大体、なんで俺なんかを付けねらうんですかーもう一ヶ月ですよー、ギャルゲーだったらそろそろプレイ期間終了ですよ~」

「うるさい、わね!」

 指が曲がる。
 瞬間、足を動かした。回る足首、曲がる膝、けれど跳躍では間に合わない。
 横へと転がる。重力よりも早く、速く、動け!
 アスファルトの硬さに肌が破けながらも、迸る一条の電撃を回避する。
 いやん。俺の学生服が汚れた。ショック!

「なんで、“右手を使わないの?”」

「は?」

「あんたが、アタシの力を否定するその手を!」

 御坂が右手を地面に向ける。ざらざらと音を立てて、砕けたアスファルトの欠片がより集う。砂が混じり合う。

「まて! それはまて!」

 これからの行動を予測し、俺は血相を変えて立ち上がりながら、地面を蹴った。
 逃げろ!

「前みたいに! その手を、見せろぉおおおおおお!!」

 砂鉄の鞭。
 筋力ではなく、磁力を持って音速を超える鞭が逃げる俺の背中へと振り下ろされて――

「おわぁっ!?」

 掠める。
 発生したソニックブームに鼓膜が痛む、ぶっ飛んだ。
 ゴロゴロと転がって、道端のポリバケツに見事激突。ガラリと崩れて、ガンとフタと頭にぶつかった。痛い。

「あ、あぶねぇ~」

 今の一撃は本当に危なかった。
 躱す余裕もなかった。っていうか、あんな攻撃かわせるか。そこまで人間やめてねえ。
 でも、命中しなかったのは――あいつが寸前で掠めるように軌道を修正したからだ。

「……これでもださない、か」

「っていうか、何の話だよ……」

 俺は告げる。
 生ゴミを振り払いながら、酷く凶暴な中学生に言った。

「右手がどうした? 俺の右手なんて電撃に焼けて、さっきのを喰らったら骨も残さずぶっとぶぞ」

 それが当然の結果だった。
 数億ボルトを超える電撃に、人間の皮膚による電気抵抗なんて紙のようなものだ。黒焦げで済めばいい。
 音速を超える砂鉄の鞭に、人間の手なんてプリンのようなものだろう。スライスロールになってしまう。
 そう、それが当たり前。
 “普通の結果”


「まぁいいわ」

 はぁっとため息を付く御坂。
 それはどこか失望したようだった。
 どこか泣きそうな顔だった。

「夢は、夢……か」

 ぐすりと何故か御坂は目を手で擦った。
 なんだろう。
 酷く俺が悪いような気がした。被害者なのに。

「じゃあね」

 気が晴れたかのように御坂が背を向けて立ち去っていく。
 夕日に染められたその背中はうっかり襲って、返り討ちにあいそうなぐらい綺麗だった。

「あー不幸だ」

 俺は生ゴミに染まりながら、ため息を吐く。
 なんていうか、襲われ損? やり逃げだよなぁ、あれって。

「魔王よりこえぇ」

 世界はまだまだ広いと実感しながら、俺は立ち上がった。
 あー洗濯しないと。





 序章 変わらないおかしな日々



 夕暮れの夜を一人で歩く。
 寂しい、臭い、腹減った。
 走り回ってカロリーを消費しましたよ、上条さん。
 くぅくぅおなかが減りました。どこぞのマユリさん、おむすびおくれ。
 むかついたあまりに、レベル0の不良が因縁付けてきたので、静かな暗いところでボコしておきました。
 不幸だけど、財布は奪えるので、住所も確保☆ 仲間呼んだら、テメエからバラ(解体)すぞと笑顔で言ったら凄い聞きわけがよかったです。
 よかったよかった。

「あー、腹減った」

 学生寮の自室がある七階までエレベーターで昇る。ハイテク万歳。
 エレベーターの中で自販機で買ったジュースを飲む。マナーなどしるか、疲れてるんじゃい。
 暑い暑いと唸りながら、廊下を歩いて、自室の扉を鍵開けて入った。
 ガチャリ。
 靴を脱ぐ。
 歩いて入って、まず服でも脱ぐかと考えた瞬間。

「やぁ、少年」

 長身の紳士が居座っておりました。

「あ、どうも」

 とりあえず挨拶。
 さあって着替えるかなーと思って、服の裾に手をかけた瞬間。

「うぉおおおおおおおいい!!! なんで! いるんですか!?」

 突っ込んだ。
 盛大に、見覚えのある長身の錬金術師に突っ込みを入れた。

「反応が鈍いな、上条少年」

「いや、そんなことじゃなくて、まず不法侵入者として通報していいですか? アウレオルス・イザードさん」

 ビジネススーツに身を包み、足を組んで、安物の机にはまったく似合わないトレビアンな空気を漂わせるオールバックの人物。
 それは上条 当麻の知り合いでもある“錬金術師” アウレオルス・イザードだった。

「なに、気にするな。つい先日任務が終わったので、帰ってきたばかりなのだよ」

「あー、というと成功したんですね? あ、紅茶入れます」

 いそいそと当麻は食器棚に入れておいてあるティーポットとカップを手において、ポットに入れておいてあるお湯で紅茶を入れる

「すまないね」

 紅茶をいれるのに十分も掛からない。
 ポットの蓋を押さえて、アウレオルスの前に置いた事前にお湯で温めたカップに紅茶を注いだ。

「いい香りだね」

「ダージリンのいい奴が手に入ったんですよ。ちょっと贔屓してくれて、店主が安く売ってくれたんです」

「うむ。相変わらず紅茶だけなら、プロ級だな」

「ははは、鍛えられましたから」

 某世界の守護者にひたすら紅茶を入れては、不味いと鞭で叩かれた記憶が蘇る。やめてやめてよ、俺目覚めちゃうから。

「うぅ」

 一瞬芽生えかけたトラウマに蓋をする。
 自分の分の紅茶をいれて、一口啜る。
 あー。美味い。
 紅茶を飲んでいる時だけは心が癒されるなぁ。

「それでだね」

「ああ、はい」

 いかんいかん。
 魂がヘブン状態になってた。

「一応魔王の討伐は完了したから、しばらくは学園都市にいれそうだ」

「おー、遂にですか」

「うむ。さすがに女公爵 モーリー=グレイに狙われるとはな。予想だにしていなかった」

 ふぅっと遠い目でアウレオルスがため息を吐き出した。
 その額には疲労の色が浮かんでいた。
 まったくもって大変だったようだ。

「というか、何故に錬金術師の私を財宝認定したのか未だに不明だ」

「さ、さあ? 人間国宝みたいなものじゃないですかね?」

「あの世界はまだまだ奥が深いな」

 私もまだまだっと、この世界で数少ない俺と同じように異世界の存在を知る錬金術師は息を吐いた。

「あ、そういえば姫神は元気ですか?」

 目の前にいる錬金術師の道具であり、悲願の要因でもあった少女の名を俺は尋ねた。

「うむ。蒼き門の吸血鬼の討伐に協力しているが、護衛も多い。元気にやっているようだよ」

「さすが、ディープブラッド(吸血殺し)ってことすか」

 出来れば荒事には関わってほしくないが、彼女の自身が望んだことだと聞いている。
 それを止める権利は俺にはなかった。

「で、しばらくは学園都市で研究を続けるんすか?」

「いや。“インデックス”の行方も不明だからな。しばらくは情報収集を続けるさ、しばらくここにいなかったから世間に追いつかなくてはな」

 苦笑を浮かべるアウレオルス。
 昔あった頃よりは格段に人間味の増した感情だと思った。
 誰かを助けるために何もかも切り捨てた悲しい人じゃなくて、ただ一人の人間になれた青年だと俺は喜べる。

「じゃあ、インデックスの行方が掴めたら教えてくださいね。協力しますんで」

「うむ。まあ出来れば単なる学生の君には頼るべきではないのだろうがね」

 苦笑。
 年上らしいアウレオルスの行動に、俺も苦笑は禁じえない。


「それではそろそろ私は失礼するよ」

 そういって懐から取り出した帽子を彼は被った。
 一瞬ぐにゃりとゆがんだように見えたが、それだけだった。
 帽子が持つ認識阻害の力は俺には通用しない。“この右手がある限り”

「ああ、あと道具に不調があればすぐに言ってくれたまえ。迂闊に右手で触れた場合は折檻だが」

「あはは」

 笑えない過去の失敗に、俺は笑って誤魔化すしか出来なかった。

「それと」

「ん?」

 音を立てずに立ち去ろうとした俺に、アウレオルスは静かに告げた。

「そろそろ避雷針ぐらいは用意しておいたほうがいいのではないかね? 化学製品でなら耐電装備ぐらいは作れるが」

「ああ、大丈夫」

 俺の服の焦げ付きを見たのだろう。
 ありがたい申し出に俺は告げる。

「殺されるほど酷いことはされないみたいですから」

「そうか」

 そして、アウレオルスは立ち去った。
 ドアを開けた気配がないってことは転移用の魔道具でも使ったのか、それとも壁抜けの技術でも憶えたのだろうか。
 どちらにしても関係がなかった。

「やれやれ、今日も世界は平和ですよっと」

 魔王が陰謀を巡らせているわけでもなく。
 お空から隕石が落ちてくるわけでもなく。
 海が増水するわけでもなく。
 異次元が開いて、世界が変わるわけでもなく。
 昨日と同じ今日、今日と同じ明日が来ると思っていた。


 世界の危機に取りあえず巻き込まれることはないと思っていた。


 紅い月はこの世界には昇らない。
 けれど、世界の危機というか、個人的な危機はすぐそこまで迫っていたのだ。


 ――上条 当麻が不幸に見舞われるまで あと31時間??分



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