「新しい お友達が来たよ?」
誰かの声が聞こえる…誰の声だったかな…?
「でも、このお友達はこの日々を壊しに来たんだよ?」
この日々を…壊す?何の…こと、なの?
「この日々が壊れたら、大事な、大切な友達たちと離れ離れになっちゃうよ?」
みゆき…こなた…離れ、離れに…?
「楽しい時間が終わったら、卒業しちゃったら。もう二度とみんなと会えないよ?」
それは…ヤだな…すごく、ヤだな…。
「だから、新しいお友達を『お仲間』にするために」
する…ために?
「アナタノ 『心』 ヲ モット チョウダイ?」
紅い月が見える、靄のかかった世界の中で。誰かがわたしの、とても大事な何かを啜って
笑って…るのかな?
笑って…るのかな?
ナンダロウ…何も…思い出せ…な・・・。
何か、とても怖い夢を見たような気がする。全身汗ビッショリで目が覚めて…未だに心臓
はバクバク言ってて、何だか最近夢見が悪い。
はバクバク言ってて、何だか最近夢見が悪い。
それに、何だか少し身体の芯が重いような気がする。あたしはつかさと違って、結構風邪
とか普通にひくタイプだから、もしかしたら風邪にでもかかったのかも…。などと思いつつ
まだ薄暗い部屋の中でぼーっと天井を眺めて、そのまま無為に時間が過ぎるのを待つ。
とか普通にひくタイプだから、もしかしたら風邪にでもかかったのかも…。などと思いつつ
まだ薄暗い部屋の中でぼーっと天井を眺めて、そのまま無為に時間が過ぎるのを待つ。
いつもだったらこんな時に決まって読んでいたラノベに手を出す気も、なんとなくしない
まま、倦怠感に支配されたままで時間だけが過ぎて…空の色が濃紺から群青にうつり変わり
掛けた頃。
まま、倦怠感に支配されたままで時間だけが過ぎて…空の色が濃紺から群青にうつり変わり
掛けた頃。
部屋の外で、凛とした気合の声が聞こえた。
庭から聞こえるその声が気になって、あたしはパジャマ姿のままのそのそと身を起こし、
窓にかかったカーテンをそっとずらして窓の外に目をやった。
窓にかかったカーテンをそっとずらして窓の外に目をやった。
そこには…まだ肌寒さの残る春の夜明けの空の下、上着のジャケットもなしに半袖のTシャ
ツに綿のズボン姿の蓮司兄さんの姿があった。
ツに綿のズボン姿の蓮司兄さんの姿があった。
手にしてるのはたぶん木刀。まるで舞を舞うように動き、跳ね、一箇所に留まることなく
動きながらその木刀を打ち、払い、突き…。剣道の稽古にも見えるけど、それとは何かが違
う稽古を延々と続けている。
動きながらその木刀を打ち、払い、突き…。剣道の稽古にも見えるけど、それとは何かが違
う稽古を延々と続けている。
何となく声を掛けにくく、そのまま時間が過ぎるのを待ちながら稽古の風景に見入り続け
ると、枕元の目覚ましが軽いアラーム音を立てた。朝7時。もう起きる時間かぁ…。
ると、枕元の目覚ましが軽いアラーム音を立てた。朝7時。もう起きる時間かぁ…。
倦怠感をねじ伏せ、思い切り背伸びして深呼吸!今日もいい日でありますように!わたし
はそう願を掛け、そのまま勢いをつけてベットから跳ね起きた。
はそう願を掛け、そのまま勢いをつけてベットから跳ね起きた。
あたしはあまり料理とかが得意なほうではない。でもいつまでも他人任せにしておくのは
いけないからという理由で、つかさと交代でお弁当を作るようにしている。
いけないからという理由で、つかさと交代でお弁当を作るようにしている。
まだまだ包丁を使うのはぎこちないので、簡単な焼き物、煮物メインになるのは仕方ない
よね…などと思いつつ、ぱたぱたとスリッパを鳴らしつつ台所に行くと、もう母さんが朝ご
はんの仕度を始めてた。
よね…などと思いつつ、ぱたぱたとスリッパを鳴らしつつ台所に行くと、もう母さんが朝ご
はんの仕度を始めてた。
「うぃーっす。叔母さん、かがみ。おはよっさん」
などと言いつつ、裏手から上がってきたのはスポーツタオルで流れる汗を拭きつつ挨拶す
る蓮司兄さん。かなり激しい運動をしてたみたいで、顔も上気してるし息も整ってないし、
何より汗の匂いもはっきりわかるほどに凄い汗をかいてるみたい。
る蓮司兄さん。かなり激しい運動をしてたみたいで、顔も上気してるし息も整ってないし、
何より汗の匂いもはっきりわかるほどに凄い汗をかいてるみたい。
「おはよう蓮司くん。とりあえず顔洗ってきなさいね?」
などと言いつつ微笑む母さん。当たり前の日常。当たり前の朝の風景。
こんなごく普通の、夢みたいな毎日がいつまでも続くといいな…あたしはそう願わずには
いられなかった。
こんなごく普通の、夢みたいな毎日がいつまでも続くといいな…あたしはそう願わずには
いられなかった。
家族揃っての朝食風景に、さらにもう一人が加わると何となく新鮮に見えるから不思議だ
とおもう。父さんと蓮司兄さんはすっかり互いに打ち解けていて、軽く冗談を飛ばしあいな
がらすいすい箸を進めている。
とおもう。父さんと蓮司兄さんはすっかり互いに打ち解けていて、軽く冗談を飛ばしあいな
がらすいすい箸を進めている。
と、その食事の席の中で…蓮司兄さんは、ある『とんでもない』発言をしたわけで…。
あたしとつかさは、一瞬沈黙した後ふたり揃って『ええええええええ!?』と、大声でそ
の爆弾発言に反応したりした。その『爆弾発言』というのは…。
の爆弾発言に反応したりした。その『爆弾発言』というのは…。
柊蓮司の、朝食の席での『爆弾発言』から遡る事。約1日ほどの朝のこと。
まだ朝日の昇りきらない刻限に、柊は与えられた客間の布団の中で目を覚ました。枕元に
おいたままにしている、充電器に接続しっぱなしの0-Phone(れいふぉん)がマナーモード
での着信を知らせる振動を鳴らしっぱなしだ。
おいたままにしている、充電器に接続しっぱなしの0-Phone(れいふぉん)がマナーモード
での着信を知らせる振動を鳴らしっぱなしだ。
まだはっきりしない意識の中、枕元の0-Phoneの電子表示板に写る時計を見ると朝の5時前。
はっきり言って他人に電話をするのはかなり非常識な時間といわざるを得ない。
はっきり言って他人に電話をするのはかなり非常識な時間といわざるを得ない。
「…ったく、誰だよこんな朝早k…」
愚痴りつつ送信者名を何気に見た瞬間に。柊の中の眠気はまさに秒単位で消し飛んだ。
『着信:アンゼロット』
断じて言おう。柊はあのエキセントリックな発言を繰り返す自称、世界の守護者の携帯
電話番号なぞ断じて登録してはいない。以前に勝手に電話帳登録をされたときは思わず激情
のままに電話帳履歴全部をまとめて消去したくらいだ。
電話番号なぞ断じて登録してはいない。以前に勝手に電話帳登録をされたときは思わず激情
のままに電話帳履歴全部をまとめて消去したくらいだ。
その後、数日にわたりえらい不自由な生活をしたのはまぁ、ご愛嬌として。
そのまま無視して眠りの世界に舞い戻ってやろうかとも考えたが、おそらくあの女の事だ
からいつまでも、しつこく、延々と鳴らし続けるに違いない。
からいつまでも、しつこく、延々と鳴らし続けるに違いない。
数秒の逡巡の後、出来得る限りの最も低く、不機嫌そうな声で「もしもし」と声を掛ける
と…朝も早くからえらくテンションの高めな、柊にとっての人生最悪の疫病神の声がした。
と…朝も早くからえらくテンションの高めな、柊にとっての人生最悪の疫病神の声がした。
「おはようございます柊さん♪…あら?随分テンションが低いですわね?いけませんよ?
そんな事では調査に差し支えます!」
「…今この瞬間に至る前まではテンションも普通だったんだアンゼロット!で、何だってん
だよこのクソ早い時間にわざわざ電話なんぞかけやがって!」
そんな事では調査に差し支えます!」
「…今この瞬間に至る前まではテンションも普通だったんだアンゼロット!で、何だってん
だよこのクソ早い時間にわざわざ電話なんぞかけやがって!」
柊の怒気もどこ吹く風か。アンゼロットはあくまで楽しげな雰囲気のまま、柊に現段階の
調査結果を尋ねてくる…まぁ、調査も何も進行していない。それは当然。自分はまだ調査の
現場に入って2日程度しか過ごしていない。目立つ出来事といえばあの無音の世界で出会った
女性の霊の話くらいしかない。
調査結果を尋ねてくる…まぁ、調査も何も進行していない。それは当然。自分はまだ調査の
現場に入って2日程度しか過ごしていない。目立つ出来事といえばあの無音の世界で出会った
女性の霊の話くらいしかない。
それでも一応その件については律儀に報告するあたり、彼のお人よし加減が良くわかろう
と言うものだが。
と言うものだが。
一通りの報告を口頭で伝えた後、しばしの沈黙があってから…アンゼロットはこのような
『爆弾発言』を述べだしたのである。
『爆弾発言』を述べだしたのである。
「なるほど…しかし柊さん?現地に入ったはいいですが、問題の陵桜学園の調査がロクに出
来ていないではありませんか?」
「あったりまえだろうが!俺はもう高校生じゃねぇんだ!部外者の社会人がノコノコ出かけ
てホイホイ入りまわれる学校じゃねぇんだぞ!陵桜はっ!?」
来ていないではありませんか?」
「あったりまえだろうが!俺はもう高校生じゃねぇんだ!部外者の社会人がノコノコ出かけ
てホイホイ入りまわれる学校じゃねぇんだぞ!陵桜はっ!?」
ちなみに輝明学園は『ウィザードの養成機関』としての側面に特化した運営がなされてお
り、進学校としてはあまりランクが高いほうではないが…陵桜はこの辺りではそこそこレベ
ルの高い進学校として有名である。その分部外者対策もしっかりしていて、初日の段階で現
地の調査をしようとしたところ、校門前の警備員に追い出されたりした。
り、進学校としてはあまりランクが高いほうではないが…陵桜はこの辺りではそこそこレベ
ルの高い進学校として有名である。その分部外者対策もしっかりしていて、初日の段階で現
地の調査をしようとしたところ、校門前の警備員に追い出されたりした。
「その辺はわかっています。しかしこのままでは、肝心要の現地での調査に大きな悪影響が
及ぶではありませんかっ!木を隠すなら森の中、学生隠すなら学校の中です」
及ぶではありませんかっ!木を隠すなら森の中、学生隠すなら学校の中です」
…この瞬間、柊 蓮司の脳裏には死の間際でも感じることのないような凄まじい『嫌な予感』
が瞬いたりした。
が瞬いたりした。
「つまり、今回の調査に関してのロンギヌスからの支援の一環として…柊さんには陵桜学園高
等部の3年B組の『転入生』として、学内に潜入しての調査を願いたいのです♪」
「ことわるっ!!!!!!」
等部の3年B組の『転入生』として、学内に潜入しての調査を願いたいのです♪」
「ことわるっ!!!!!!」
返事が飛び出すまでの感覚は0.5秒以下。
まさに即位即答という感じで怒鳴る柊。彼はもう既に、紆余曲折の上に、かろうじてだが
はっきりと高校を卒業しているのだ。
何がうれしくて卒業して2ヶ月経たないうちに、再び高校生に逆戻りしなくてはならないの
かと考えるだけで、全身の血が沸騰しそうになる。
はっきりと高校を卒業しているのだ。
何がうれしくて卒業して2ヶ月経たないうちに、再び高校生に逆戻りしなくてはならないの
かと考えるだけで、全身の血が沸騰しそうになる。
「あらあら?しかし良いのですか、柊さん。本来の目的はこの地域で起こっている巻き戻り
事件の調査。そして推測される巻き戻り事件の中心地域は陵桜学園。
このままでは学内の有効な調査が出来ないまま、致命的な惨劇が起きてしまうかもしれま
せんよ?大事な親戚の皆さんに不幸が降り注ぐかもしれませんよ?」
事件の調査。そして推測される巻き戻り事件の中心地域は陵桜学園。
このままでは学内の有効な調査が出来ないまま、致命的な惨劇が起きてしまうかもしれま
せんよ?大事な親戚の皆さんに不幸が降り注ぐかもしれませんよ?」
このアンゼロットの反論を聞いてしまうと、その瞬間にぐうの音も出なくなってしまう。
確かに現状のままでは肝心の陵桜の内部事情がさっぱり判らないままだ。だが…。
確かに現状のままでは肝心の陵桜の内部事情がさっぱり判らないままだ。だが…。
「なら灯だ!緋室灯!あいつにでも頼め!あいつなら現役の高校生だっ!」
「緋室灯さんには、現在別案件の調査対処を依頼しています。この状況でのそちらへの派遣
は残念ながら無理です」
「緋室灯さんには、現在別案件の調査対処を依頼しています。この状況でのそちらへの派遣
は残念ながら無理です」
即座に名案が否定された。もうにべもないとしか言いようがない。そこにさらに痛烈な、
まさにトドメとしか言えないアンゼロットの一言が叩き込まれた。
まさにトドメとしか言えないアンゼロットの一言が叩き込まれた。
「ちなみにロンギヌスの精鋭スタッフの手により、既に柊さんの転入手続きその他は完璧に
終わっています。翌週月曜から晴れて、柊さんは陵桜の3年生ですっ♪
過ぎ去った青春の日々を追体験するいい機会でもあるわけです、存分に高校ライフを…」
「やっかましいぃぃぃぃぃぃぃ!?余計な事するなこの野郎っ!?
俺が既に現地に入ってて、んで更に親戚の家に世話になってるってのは知ってるだろ!?」
「ええ、その辺はもうこれ以上ないほど存じ上げておりますよ?」
終わっています。翌週月曜から晴れて、柊さんは陵桜の3年生ですっ♪
過ぎ去った青春の日々を追体験するいい機会でもあるわけです、存分に高校ライフを…」
「やっかましいぃぃぃぃぃぃぃ!?余計な事するなこの野郎っ!?
俺が既に現地に入ってて、んで更に親戚の家に世話になってるってのは知ってるだろ!?」
「ええ、その辺はもうこれ以上ないほど存じ上げておりますよ?」
酸素が足りなくなってきた。視界の端が赤くなるのを深呼吸だけでなんとか持ち直させて
さらに言葉を叩き付ける柊。脳内でアンゼロットの後頭部を遠慮なく張り倒す光景を夢想し
つつ叫んだ内容は…。
さらに言葉を叩き付ける柊。脳内でアンゼロットの後頭部を遠慮なく張り倒す光景を夢想し
つつ叫んだ内容は…。
「従姉妹たちは俺が輝明学園を卒業したって知ってるんだぞっ!?俺はもう社会人だぞっ!?
それなのに卒業してから2ヶ月経たずに高校生に逆戻りってなんだっ!?面白すぎるだろうが
そいつわよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
それなのに卒業してから2ヶ月経たずに高校生に逆戻りってなんだっ!?面白すぎるだろうが
そいつわよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
まさに血の絶叫。柊蓮司19歳、心の底からの叫びを叩きつけるものの…。
「しかし、現状で生きた情報を得るには他の方法はありませんもの♪がんばってくださいね?
柊さん?」
柊さん?」
明らかに声が笑っているアンゼロット。ほぼ一方的な通達事項が届け終わった後、柊は手に
した0-Phoneを握りつぶし…。
した0-Phoneを握りつぶし…。
「アンゼロットのぉぉぉぉぉぉっ!!!! 大馬鹿野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
夜明けの遠い紺色の空の下、柊の魂の絶叫は遠くまで響き渡ったという…合掌。