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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第01話

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だれでも歓迎! 編集
昨日と同じ今日が過ぎ、今日と同じ明日がくる。
世界はくりかえし時をきざみ、変わらない日々が続いているように見えていた。

だが……

人々の知らないところで、世界は滅亡の危機と戦い続けていた!



夕暮れの校舎の中庭で、黒い襟の白い半袖セーラー服の少女が座り込んで泣いている。
学生服を血まみれにした少年を抱きかかえながら。
少年の目は少女に向けられ、少女の目は少年に向けられていた。

校門に書いてある学校の名は三岬中学校、そしてふたりはこの学校に通う三年生であった。

当初は周囲には数人程度しかいなかったふたりの周囲に、何人もの生徒が集まってきた。
いったいそこで何が起こったのかを知ろうとして。

ふと誰かが言う、少年は屋上から落ちて負傷したのだと。

だが、この言葉を誰が言ったのかは、何年たってもわかることはなかった。
だれひとり、どこから聞こえた声なのかすら思い出すことができなかったのだ。
だがその言葉を疑うものはいなかった。
学生服を血に染めた少年の姿から、かなりの重態であることが見て取れたからだ。

事態を理解した生徒の一人が職員室へと走り出す。

あとに残った生徒はふたたび目をふたりに転じる。
そのせいであろう、だれも気がつかなかったのである。
ひとりの少女が非常階段を下りてきたことに。
そしてその少女が一抱えもあるほどの大きな本を抱えていたことに。

大勢の生徒が見つめる中、何も言えずにすすり泣く少女。
少年はそんな少女を見つめほほえみながら言う。

「……」

だがその言葉に力はなく、聞き取れたのは少女ただひとりだけであった。
何も見たくないとでも言うように目を閉じた少女は、首を大きく横にふってその言葉の中のなにかを否定する。
それを見た少年は困り果てたように笑うが、からだのあちこちに走る苦痛は隠すことができなかった。

「……」

少年がふたたび言葉を発した、荒い息をしながら途切れ途切れに。
その言葉が途切れるたびに少女は力なくうなずく、なにかを確かめるかのように。

やがて少女は、少年を見つめてほほえんだ。
少年が見る、少女の最後の顔を笑顔にするために。
少年にこれ以上辛い思いをさせないために。

目の焦点すら合わなくなりつつある少年は、自由になる右手を伸ばして少女の顔に触れようとする。
命のともし火が消えつつある少年に残された、最後の力をふりしぼって。
涙まみれでほほえみつづけている少女は、少年のするままに任せた。
これが少年にできる最後のことであると理解して。

やがて、少年の腕が力なく落ちる。
少女は真っ青な顔で少年の名を呼ぶが、少年がその呼びかけに答えることはなかった。
この瞬間、血まみれの少年は15年の生涯を閉じたのだった。

「いやあっ!」

多くの生徒が見つめる中庭に、少女の叫び声だけが響いた。



それから一ヶ月ほど過ぎたある日、少女はひとり列車に乗っていた。
三岬中から幸手中へ転入することが決まったためだ。
理由は親元に戻るため。

少女はもともと幸手市の出身だったのだが、とある理由から親元を離れ三岬町で暮らしていたのだ。
三岬町での暮らしは2年と少々、中学時代のほとんどを三岬町で過ごしたことになる。
今では第二のふるさとと言っていいほどに三岬町のことが好きになっていた。

幸手中から転入してきた当初は、友人も作らず孤立気味であった少女。
だがやがて、徐々にクラスに打ち解けていくことになった。

転落事故で死んだ、あの少年のおかげで。

少年はクラスで人望も厚く、友人も大勢いた。
そんな少年と係わるうちに、ひとり、またひとりと友人が増えていった。
無愛想で近寄りがたいオーラを発していた少女も、日がたつに連れほほえむことが多くなっていく。
すると少女自身に、友人になりたいと話しかけてくるものが多くなっていった。

それほどまでに少女に対して好意を抱くものが増えていったのだった。

とはいえ、少女に交際を申し込んでくるものはいなかった。
なにしろ少年と少女はクラスの公認カップルと言わており、そこに割って入ろうとする者は誰もいなかったからだ。
それゆえ少女の落ち込みは激しかった、数日は学校を休むほどに。



少女が学校に出てくるようになっても、数日は誰も声をかけることができなかった。

だが、誰いうとなく少女を支えようとクラス中が動き出した。
少年とすごした日々を、無駄にしないでほしいと。
それから数週間が過ぎ、少女は心からの笑顔を取り戻すようになった。

そんな矢先の転校であった。

転校を指示したのは、少女が幸手小学校時代から通いなれた道場の師範である。
実を言うと、幸手中学から三岬中学への転校も師範の指示であったのだった。

小学校の高学年になると、片親だけであることへの同情が重荷になり、少女の社交性が失われていった。
それまで仲良くしていた友だちとの付き合いもなくなり、自宅に引きこもり気味になっていた。
道場には顔を出すものの稽古はひとりだけですることが多くなり、学校でも道場でも完全に孤立してしまっていた。

師範は熟慮の上、みんなと一度距離を置いたほうがいいと考え、少女の父に申し出た。
三岬町に自分の知り合いがいるので、落ち着くまでそこに少女を預けさせてもらえないだろうかと。
少女の父は少女のおばにあたる自分の妹や、その娘たちと何日もかけて話し合った。
その上で決断したのだ、師範の申し出を受けようと。

それから足かけ三年の月日が流れ、普段は近況を聞くだけの師範から再び指示があった。
高校受験のこともあり一度親元に帰ったほうがいいというのが、師範が幸手へ戻ることになった理由であった。

かつての同級生とも元通りとは行かなくても、それなりにつきあえるようになったのではないか。
少女の様子からそう考えた、というのが師範が口にしたもうひとつの理由ではあった。
だがひょっとして、今度のことの記憶が蘇りにくい場所にいた方がいいとの判断もあったのではないか。
そんな風に、少女は指示の裏にある師範の配慮を感じていた。

「戻ったら、また友達になってもらえるかなあ……」

窓の外に目をやりながらも、どこも見つめることなく少女は一人つぶやいた。
だがその問いに答えるものはだれもいない。

検札以外で少女に話しかけるものはなく、時間だけが少女の周りを過ぎていく。



乗り継ぎに乗り継ぎを重ね、少女は生まれ育った町、幸手の駅に着いた。

列車から降りると、目に映る懐かしい風景に心が弾む。
少し歩いたあとで人の動きを邪魔しない場所に立ち、少女は周囲をぐるりと見回した。
旅立つ時には、こんな思いでこの風景を見つめることになるとは思ってもいなかったことに苦笑しつつ、歩き出す。
軽い手荷物だけを持って改札口を出ると、中年男性が少女を待っていた。

「お帰り」

男性は少女を優しく見つめながら言葉をかける。
その目はとても優しく、少女を大きく包み込むようであった。
旅立つ前には二度と見たくないと思っていたことが嘘のように、今では思えた。

少女は笑顔で男性に駆け寄ると、大きな声で言葉を返す。

「ただいま! お父さん!」

手荷物を地面に落として少女は父親に抱きつき、およそ3年ぶりになる父親との再会を喜んだ。
しばらくそのまま抱きついていると、脇から近寄ってくる気配を感じる。
ふと見ると、そこは幼いころから仲良くしていたふたりの従姉妹の姿が。
既に就職済みの姉と、中学一年の妹は目を潤ませて少女と父親を見つめていた。

「ゆい姉さん! ゆうちゃん! 来てくれたの?」

驚きの言葉と共に父親から離れ、少女は満面の笑みで従姉妹を見つめる。
その少女の目にも涙が浮かんでいた。

父親も、少女のそばで目を潤ませている、娘が笑顔を取り戻したことへの喜びで。

「あたりまえじゃない……」

ゆいと呼ばれた姉が、笑顔のまま流れる涙をぬぐうこともせずに涙声で答える。
ゆうちゃんと呼ばれた妹は言葉が出ないらしい。
ただ少女に抱きついて泣きじゃくるだけだった。

「ゆたか、大丈夫?」

ゆいに声をかけられ、涙をぬぐったゆたかは、少女から離れてやっとの思いでほほえむ。
そうして誰もが落ち着いたところで、改めて少女は言う。

「みんな……ただいま!」

少女はふたたび父親に飛びつく。
そして、ゆたかは少女に飛びつく。
ゆいは3人を見つめ、目頭を熱くしていた。

「こなた、お帰り」

「お帰りなさい、こなたお姉ちゃん」

「お帰り、こなた」

ゆいが、ゆたかが、父親が口々に少女の名を言う。

少女の名は、『泉こなた』と言った。



こなたの新たな日々が、きょう、ここに始まることになった。
そしてこなたは、進学した陵桜学園で生涯の親友と出会うことになる。

大勢と親しくしていたにもかかわらず、三岬中時代のこなたに親友はいなかった。
死んだ少年と『もう一人の少女』を除いては。

けれど、その少女とは事故以来、顔を合わせることはなかった。
なぜなら、こなたが中学に復帰して以来、その少女は行方不明になっていたからだ。
こなたはふたりの友人を失ったことに、ショックを受けた。

クラスメートや教師、宿泊先の人たちのフォローがなかったら、自暴自棄になっていたかもしれない。
気持ちの落ち着いた今、みんなに感謝しているこなたであった。

事故の翌日から、彼女は姿を消していた。

警察が懸命に捜索したにもかかわらず、彼女の足取りを追うことができなかった。
ショックを受けた家族は引っ越し、来年三岬中に入るはずの彼女の弟も転校していき、彼女を知るものは深い悲しみにつつまれることとなった。
そしてそれは少年を失ったこなたに追い討ちをかける結果となり、クラスメートがこなたのために動くきっかけともなったのだった。

幸手に戻ってからも、こなたはかつてのクラスメートにその後の様子を問い合わせていた。
メールはもちろんのこと、電話や手紙でも。

だが何年たっても少女が見つかったという話を聞くことができなかった。
やがて誰もがそのことに触れることを望まなくなり、こなたの問い合わせに答えることはなくなっていった。
こなた自身も少女が見つかることをあきらめ、思い出すこともなくなっていく。
事件のことは忘れ去られようとしており、それが新たな悲劇を呼ぶことになるとは、誰も予想しなかった。

そして、こなたが幸手市の実家に戻ってきてから、3年近い日が過ぎようとしていた……



さらさらさらさらさら……

あと数日で夏休みだという日の夜のこと。
机を照らす明かりの下から発せられるシャープペンシルが紙にこすれる音だけが、静まり返った部屋に響いている。
長い髪をリボンでツーテールに結わえた高校一年生の少女、柊かがみは参考書を広げ、予習復習に余念がない。

宿題も夕食前には終わっており、明日の準備は万全のはずだった。

「きょうはここまで、かな? なんか、調子出ないし」

だが順調だったはずの勉強も、だいぶ前からケアレスミスが続出しており、能率がかなり下がっていた。
なぜかはわからないが、気分が乗らなくなっているのだ。

参考書を閉じ、固まったからだをほぐすように伸びをする。
ふと見ると、脇においてある時計の針は午前1時を回っていた。
いつもなら、これから調子が出てくるはずの時間だった。

(どうしたんだろ、特に気になることがあったわけでもないし……)

ぶるんと頭をふり、かがみは仕方なしに席を立つ。
ふいに、すぐとなりの部屋にいる双子の妹、つかさのことが頭に浮かんでくる。

(陵桜は進学校だっていうのに、だいじょうぶなのかな?)

やっとの思いで入学できた陵桜学園は、受験の時だけではなく授業のレベルも高かった。
教師の説明にわからないことが多く、かがみは必死になって付いていこうとしていた。
とはいえ勢いあまったせいか、中間テストでは学年で10位以内に入っていたのだが。
だからと言って、ここで力を抜く気になれないかがみではあった。

ため息ひとつついて、引っ込み思案で、ほとんど友人のいないつかさのことを心配する。

「つかさ、そろそろ自分で友達作ることを覚えないとね……」

ため息混じりにつぶやくと、時間割表に目をやる。
すぐに手馴れた動作であすの予定を確認し、テキパキと教科書やノートなどをしまい始める。
もっとも夜遅いこともあり、音をあまり立てないように気を配りながらではあるが。

「……よし、準備OK」

予定どおりのものがカバンの中に入ったことを確認し、登校準備を終える。
ふだんならこのまま着がえて就寝するはずなのだが、きょうのかがみは違った。

カバンのふたを閉じたあと、ひざ立ちのままで考え込んでいたのだ。

 - 何を考えることがあるのだろう? -

家族が見たらそんな問いが帰ってくるに違いない状況がしばらく続いた。

「しばらくぶりに……やるか」

ふいに立ち上がり、ドアへとむかう。
息をひそめ、音をなるべく立てないように気を配ってドアを開け、そのまま部屋を出る。



トン、トン、トン、トン……

しのび足でなるべく音を立てないように気をつけながら階下へ降り、そのまままっすぐ玄関へ向かう。
そっと外へ出たあと静かに玄関のドアを閉めると、急に吹きつける夜風の冷たさにからだがぶるっと震える。

「ううう、もう夏だといっても夜は寒いか、やっぱり」

そのまま足早に鷹宮神社の拝殿へと向かう、かがみ。

社務所兼用の自宅から拝殿まではあっという間であった。
拝殿手前の手水舎で手や口を濯ぎ、あまり音を立てないように軽く鈴をゆらしてから参拝。
自分とつかさの、はじまって間もない高校生活が、よりよいものになるように祈りをささげた。

中学に入ってからかがみはたまに、就寝前に参拝に行くことがあった。
ふだん現実的なことを言っているだけに、人目のある時間帯には行きづらいためだ。

だれも気にしないとは思ってはいるのだが、かがみの心からは気恥ずかしさがどうしても抜けないでいた。
こんな感じで素直になれない性格がうらめしいと思うときもある。
だが、どうしても日中に参拝に行く気にはなれなかったのだ。

(さて……と、そろそろ戻らないとね。誰かお手洗いに起きてくるかもしれないし)

戻ったらトイレに行ってから寝ようと思いながら空を見上げる。
有名な星々の瞬きがはっきりと見える透き通った夜空の東側には、下弦の月がこうこうと輝いていた。

(月がきれい。雲ひとつ見えないし、明日も暑くなるわね)

そう思って空を仰ぎ見た時、ふいに違和感を感じるかがみ。

(なんか……変な感じ。何か違う気がする)

よく見てみると、南の空に満月が輝いている。
東の空に下弦の月が輝いているのに。

「えっ?」

思わず驚きの声を上げてしまう、かがみ。
見間違いではないかと何度も見直すが、天空に二つの月が輝いて見える事実に変わりはなかった。
そこで気づいたのだ、南の空に輝いている満月が紅いことに。

「赤い……月?」

あたりが急に静まり返り、虫の音やカエルの声すら聞こえなくなる。
かがみは何が起こったのかと、あたりをキョロキョロ見回すしかなかった。

「あら? おとり作戦が成功したと思ったら、こんなところに伏兵がいたなんて」

ふいに頭の上から聞こえてくる声に驚き、夜空を見上げて声の主を探す。
そこでかがみは信じられないものを目にしたのだった!

「え? 女の子? なんで?」

かがみが目にしたのはひとりの少女。
少女は、どこかの学校の制服の上にポンチョを羽織っている。
それだけなら、何もおかしなところはなかった。

だが少女は、下弦の月が輝いている東の空に、まるで空中に立っているかのように浮かんでいたのだった!

「どうやらまだ覚醒前みたいね…… こんなのを配置するなんて、あいつらも甘いわね」

少女は不適に微笑むと、左手をかざす。
かざした先はかがみの右手、鷹宮神社の神楽殿の建っている方向である。
にやりと少女が笑うと共に、右手に赤い輝きが生まれたことを感じる。
だが、かがみの目は少女に釘付けだった。

ズン!

少女が手をかざした先から、大きなものが落ちるような音が聞こえる。
その音に、かがみは反射的にそこにあるはずの建物、神楽殿に目を向ける。

そしてそこに、とんでもないものを見てしまったのだ!



神楽殿を背後に立っていたのは、異形の存在。
首を痛くなるほど見上げるほどの巨人が立っていた。
デコボコした土色の肌に大きく歪んだフォルム、生命の輝きを感じさせない顔。

土くれでできた巨大な人形、伝承の怪物ゴーレムである。

かがみは以前読んだファンタジー小説を思い出していた。
主人公たちですら苦戦して倒していたゴーレム。
今の自分にどうやって倒すことができるのだろう。

第一実際に目の前に立つゴーレムを倒す力を、かがみは持っていないのだ。
ゲームでは何度も退治したことはあるが、それがここで役に立つとは思えなかった。

なんでこんなところにこんなのがと、思う間もなく後ずさる。
からだじゅうがふるえ、思うとおりに動くことを拒否しているようだった。
気づくと空に浮かんでいた少女の姿は……ない。

「え? うそ?」

思わず驚きの言葉を発するが、驚いてばかりもいられなかった。

ゴーレムの目のない顔がかがみに向いた瞬間、背すじに寒気が走る。
このままでは殺されてしまうと思ったとき、怪物から少し離れた場所が円を描いて赤く輝きだした。

(魔法陣?)

まるでラノベの世界に入り込んでみたいだと、目の前で起きていることに見とれる。
何でもいい、これが助けであってほしいと祈るばかりであった。

そして……奇跡は起こった!



輝きが収まると、そこに立っているのはひとりの少女。
低い身長、スレンダーな体形、腰までの長い髪。
かがみが見たところ、少女は小学校の高学年くらいに見えた。
だが少女には、目の前の怪物に対する恐怖を感じている様子は見えなかった。

少女はふいに、黒いコートの中から鈍い光を放つ日本刀を取り出す。
それは、かがみがはじめて見る不思議な光景。
だがかがみは、その光景を何度も目にした気がしてならなかった。

瞬間、赤く輝く炎が少女を取り囲む。
そして刀を構え、気合と共に一閃!
炎の塊がゴーレムに直撃、一瞬にしてゴーレムは崩れ去る。

うめき声のようなものを残して出来上がった土くれの山も、間もなく消えた。
少女は土くれの山があった場所に近づくと、なにやら鈍い光を放つものを手に取る。
そしてまだ何かを待つかのように、その場で刀を握りしめていた。
その間、かがみは少女の行動を見つめることしかできなかった。

そしてその間ずっと少女の周りには、赤い炎にも似た陽炎がまとわりついていた。
そんな赤い炎のゆらぎの中で、少女の髪と瞳も赤く輝いていた。

(炎髪……灼眼?)

かがみの脳裏にラノベで読んだことのあるフレーズが浮かんだ。

「フレイム……ヘイズ、なの?」

思わず発した言葉に少女が鋭い目つきでかがみを見つめる。
炎のゆらぎは消え、少女の手元に刀はない。

『あら、そこのウィザードはおとりだったってわけね』

先ほどの少女の声が聞こえる。
だが、いくら探しても姿が見えない。

『まあ、いいわ。ゲームはしばらくお預けね。
次に会ったときは覚醒していてね。
じゃ、楽しみにしているわよ』

「どこ? どこにいるの? あなた誰?」

答えが返ってくるとは思わなかったが、かがみは叫ばずにいられなかった。

『裏界の大公、蠅の女王、大魔王ベール=ゼファーよ。覚えておいてね、未熟者のウィザードさん』

クスクス笑いが小さくなっていくと共に紅い月が姿を消す。

残ったのはかがみと、ゴーレムを倒した少女だけだった。
少女を見つめるかがみは何も言えずに立ち尽くす。

「……」

「えっ?」

少女が小声で何かをつぶやくと、再び魔法陣が現れる。
かがみが驚きの言葉を発する目の前で、少女は姿を消してしまった。

「待って!」

あわてて少女の下に駆け寄るが、たどり着くころには魔法陣の輝きは消えていた。
あきらめきれずに周囲を見ても誰の姿もなく、東の空に下弦の月が出ているだけだった。


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