はらり、はらり。
1頭の蝶が混沌の迷宮を彷徨う。
出口はいずこだろうか。光はまだ見えない。
出口はいずこだろうか。光はまだ見えない。
RESEARCH 01-01 スピードスター
Scene Player:ほしな歌唄
ライブ当日がやってきた。
会場は東京・秋葉原。今や日本を代表するサブカルチャーの聖地である。
何としてもイベントを成功させ、新生・ほしな歌唄の復活をアピールしたい。
会場は東京・秋葉原。今や日本を代表するサブカルチャーの聖地である。
何としてもイベントを成功させ、新生・ほしな歌唄の復活をアピールしたい。
「良くも悪くも、秋葉原は文化の発信地よ。しっかりね」
「……ええ、そうね」
「……ええ、そうね」
三条さんが運転する車の後部座席から、歌唄はぼんやり外を眺めていた。
青いシェードの貼られた窓越しに見えるのは大小のビル群と店構え。
最新のゲームからレトロな雰囲気の電子部品まで、色とりどりの商品が並んでいる。
青いシェードの貼られた窓越しに見えるのは大小のビル群と店構え。
最新のゲームからレトロな雰囲気の電子部品まで、色とりどりの商品が並んでいる。
数多の品々に歌唄は特に興味は沸かなかったが、その一瞬を彼女は見逃さなかった。
休日の人ゴミの奥、お世辞にも繁盛しているとは言えないような小さな店舗の奥に貼られた1枚のポスター。
漆黒の背景に浮かび上がる怪しげな蝶のデザインを、そうそう忘れるはずもない。
休日の人ゴミの奥、お世辞にも繁盛しているとは言えないような小さな店舗の奥に貼られた1枚のポスター。
漆黒の背景に浮かび上がる怪しげな蝶のデザインを、そうそう忘れるはずもない。
迷宮バタフライ。
歌唄のデビュータイトルにして、イースターから与えられた忌まわしき宿命の曲。
自分の販促ポスターを外で見かけたのはいつぶりだろう? 懐かしさに内心テンションが上がる。
歌唄のデビュータイトルにして、イースターから与えられた忌まわしき宿命の曲。
自分の販促ポスターを外で見かけたのはいつぶりだろう? 懐かしさに内心テンションが上がる。
「歌唄、そろそろ到着するわ。準備なさい」
中央通りから少し離れた路地裏に車が停止した。
TV局や地方の仕事と違って駐車場が近くに無いのは不便だけれど、公共交通機関を利用するわけにもいかないし。
TV局や地方の仕事と違って駐車場が近くに無いのは不便だけれど、公共交通機関を利用するわけにもいかないし。
「こっちは車を停めてくるから、先に中へ入ってて」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃい」
三条さんを見送り、改めて歌唄は今日の戦場を確認する。
築数十年は経っているだろう、かなり年季の入った雑居ビルの地下1階がそれだ。
1棟のビルにライブハウスとメイド喫茶、そしてお蕎麦屋さんが同居するという混沌さが実に秋葉原らしい。
築数十年は経っているだろう、かなり年季の入った雑居ビルの地下1階がそれだ。
1棟のビルにライブハウスとメイド喫茶、そしてお蕎麦屋さんが同居するという混沌さが実に秋葉原らしい。
狭い階段を下りた先にある、ずっしりとした黒い金属製の扉を開けると、途端に辺りの空気が変わった。
店の中は春だというのに少し肌寒い。
開催まではまだ時間がある。セッティング等のスタッフはいるものの、がらんとした空間がそう感じさせるのかもしれない。
店の中は春だというのに少し肌寒い。
開催まではまだ時間がある。セッティング等のスタッフはいるものの、がらんとした空間がそう感じさせるのかもしれない。
(……あら?)
ホールの壁を背にして、ブラウンスーツの男が立っていた。
薄暗い屋内だというのにサングラスをかけているせいか、何か無機質な印象を覚える。
薄暗い屋内だというのにサングラスをかけているせいか、何か無機質な印象を覚える。
(どこかで見たような……気のせいかもしれないけれど)
TVに出演していた時に見かけたか、もしくはイースター関係者。可能性が高いのはその辺だろう。
いずれにせよ、ビビってなんかいられない。歌唄自身が決めた道だ。
生まれ変わった私を見せつけてあげるんだから。
いずれにせよ、ビビってなんかいられない。歌唄自身が決めた道だ。
生まれ変わった私を見せつけてあげるんだから。
* * *
そしてライブが始まった。
舞台裏で待機していた歌唄たちにも、その盛り上がりが伝わってくる。
今回のライブは幾つかのグループが数曲ずつ担当する、俗に対バンなどと言われる形式。
インディーズバンドや地下アイドルなど、単独では開催が危うい者たちの寄り合いライブである。
舞台裏で待機していた歌唄たちにも、その盛り上がりが伝わってくる。
今回のライブは幾つかのグループが数曲ずつ担当する、俗に対バンなどと言われる形式。
インディーズバンドや地下アイドルなど、単独では開催が危うい者たちの寄り合いライブである。
プログラムが中盤に差し掛かったころ、イベントスタッフが声をかけてきた。
「ほしな歌唄さん、そろそろ準備よろしくお願いします」
パンフレットによると、次が歌唄の出番らしい。
今はその直前 ―― 若い男女4人組のバンドが演奏している頃だ。
喫茶店のウェイターのような服装の少年が3人、メイドさんの格好をした女性が1人。
いまいち意味の分からないグループだったが、ああいうスタイルも最近は許容されるらしい。
今はその直前 ―― 若い男女4人組のバンドが演奏している頃だ。
喫茶店のウェイターのような服装の少年が3人、メイドさんの格好をした女性が1人。
いまいち意味の分からないグループだったが、ああいうスタイルも最近は許容されるらしい。
『ギィーーーーン!』
ステージの方から、ひときわ甲高いギターの音が鳴り響く。続けて聞こえる拍手と歓声。
どうやら1曲終わったらしい。
思った通り、先のバンドのメンバーが次々と裏へ戻ってくる。
どうやら1曲終わったらしい。
思った通り、先のバンドのメンバーが次々と裏へ戻ってくる。
「お疲れさま、みんな」
「つ、疲れた……二度とやるもんじゃねぇな……」
「とか言いつつ先輩、一番ノリノリだったじゃないっすか」
「何はともあれ良かった。隼人もサムも、ボクが見込んだだけはあるね。もちろん椿も」
「つ、疲れた……二度とやるもんじゃねぇな……」
「とか言いつつ先輩、一番ノリノリだったじゃないっすか」
「何はともあれ良かった。隼人もサムも、ボクが見込んだだけはあるね。もちろん椿も」
彼らと入れ違いに、歌唄は舞台へと向かった。
緊張もあるが、自分の歌を聴いてくれる人々がいると思うと興奮を隠せない。
緊張もあるが、自分の歌を聴いてくれる人々がいると思うと興奮を隠せない。
「がんばれよっ、歌唄っ! あたしたちがついてるからな!」
「ファイトなんです、歌唄ちゃんはやれば出来る子なんです!」
「ファイトなんです、歌唄ちゃんはやれば出来る子なんです!」
舞台袖で深呼吸を1つ。気持ちを切り替え、自ら気合いを入れる。
大丈夫、コンディションは抜群だ。
大丈夫、コンディションは抜群だ。
「ありがと。じゃあ、行ってくるね」
歌唄は、小声でそう返した。