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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第01話

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だれでも歓迎! 編集
     ※

 柊蓮司がその少女と出会ったのは、初めて訪れた見知らぬ街での、ある日の早朝のことだった。

     ※

 周囲の大気に充満する、肌を刺すような殺気。
 澱のように沈殿する淀んだ気配が、足元から胸元までせり上がって来るような感覚に、ごくりと音を立てながら思わず生唾を飲み込む。
 自分を格好の獲物と見たものか ――― 取り囲むように包囲の輪を狭めてくるのは、不恰好にねじくれた姿をした、到底人間のパロディーとしか思えぬような異形の姿をしたものどもだった。
 あるものは二本足で直立する獣であり。
 あるものは四肢の先端に巨大な鉤爪だけがグロテスクに強調されて生え揃った、四足歩行の“人間だったもの”。
 見回せばそんな連中が、ざっと数十体。ぐるりと、自分のことを取り囲んでいるのである。
 依然振り切ることの出来ない悪寒と吐き気は、目の当たりにした怪物たちの姿に違和感と嫌悪を覚えた所為ではない。この程度のクリーチャーとはかつて幾度も交戦を重ねてきたし、見てくれだけなら彼ら以上のおぞましいモノとも戦ったことがある。

 だが ―――

 やはり、空気が濁っている。
 やはり、大気に淀んでいるものがある。

 かつて感じたことの無いこの感覚は、彼の戦闘能力を削ぐほど深刻なものではなかったが、それでも決して気持ちのよいものではない。
「なんなんだよ、こりゃ……エミュレイターじゃ、ねえのか……?」
 彼 ――― 柊蓮司の口から、歯軋りと同時に疑問の言葉が漏れ聞こえてきた。
 見上げた空には、燦燦と降り注ぐ太陽の光。紅い月は、見えない。
 ただ、辺りを包む空気の“濁り”だけが、深々と降り積む雪のように濃度を増していた。
「んなこと言ってる場合じゃ、ねえけどよ」
 脳裏を蝕む疑問を振り払うように、吐き捨てる。
 手を虚空に差し伸べ、なにも無いはずの空間から彼自身の武器を引き抜いた。
 魔剣の柄が。ルーンの刻まれた刀身が。
 するり、するりとなにも無い空間から突如として現出する。
 月衣から、文字通り魔法のごとくに剣を引き抜いた柊の動作に、異形どもがたじろいだ。
 容易く蹂躙できる相手ではないと、獣の本能で悟ったのであろうか。
 大上段に構えた剣に渾身の膂力を込め、大地に楔を打つように脚を根差した磐石の構えは、どことなく物語に聞く剣豪を髣髴とさせる。
 言うまでもなく、数多の戦いを生き抜いてきた歴戦の猛者だけが持ち得る迫力と風格を、いまの柊蓮司は身に纏っていた。

「わけもわからず他所の街に放り出された挙句、また学校通い。しかも登校初日から戦闘とは、先が思いやられるぜ……」
 闘気が膨れ上がり、剣気が鋭さを増し。
 それでも口調だけは普段の彼がぼやくときの、いつもの口調で柊は言う。
 身を包む淡いグレーのブレザーは、これからしばらく彼が通うことになった、任地である学園の制服だ。たしか、私立瀬戸川学園 ――― そんな名前だったはずである。

 詳しい成り行きの詳細は割愛するとして。

 相も変わらず飽きもせず、任務という名目で柊をこき使うことに微塵の躊躇も感じることのない銀髪の美少女によって、柊は目出度く二度目の学園生活を送る羽目となったのだ。
 今回もご他聞に漏れず、連れてこられるまでの状況の詳しい説明は一切なし。街中をぶらついていたところを問答無用で拉致されて、連れて来られたのは毎度お馴染みアンゼロット宮殿。
 宮殿の主たる“世界の守護者”は、
「これからするわたくしのお願いに、ハイかイエスで」
 定番の台詞を最後まで言わずに、そのほっそりとした繊手を頭上に伸ばした。
 途中で言葉を切ったのは、ただ単に恒例の儀式を端折っただけであろう。
 最近では、こんなことまで手を抜きやがる ――― 後にこのときのことを思い出して、柊はひどく憤慨したものだった。
 兎にも角にも、いつもの“お願い”の台詞を中途半端なところで切ったところで、天井からぶら下がった飾り紐を、少女 ――― アンゼロットはぐいっと思い切り良く引っ張った。
 足元の床がパクリと音を立てながら底を抜き、異空間に浮かぶ宮殿から、柊の身体が宇宙空間へと思い切り放り出されたのは言うまでもない。
 ウィザード固有の個人結界、『月衣』の存在がなければ到底できない暴挙に、
「アァァァァァンゼロットォォォォォっ! 憶えてやがれぇぇぇぇぇっ!」
 これもまたお決まりの台詞を叫びながら、柊は真っ逆さまに母なる地球へと落ちて行った。
 現地で協力者を募れ、と最後に笑いながら言い放ったアンゼロットが、ひらひらとハンカチを振りながら自分を見送る姿が視界の片隅に入る。
 そして ―――
 お決まりの手順をお約束通りに踏み、見知らぬ街に叩き落された柊は、現地で待ち受けていたロンギヌスに新しい学生服を手渡され、任務の間、彼が住むアパートへと案内されたのである。
 ならば初めからここの住所を教えてくれればいいものを、と内心アンゼロットに悪態をつくのだが、これもいまに始まったことではないことに改めて気づき、諦めの溜息を吐く。
「追って、任務の詳しい内容は連絡が入るかと思われます」
 ロンギヌスの仮面の向こうから、そんな事務的な調子で言われると、もうぼやく気力も失せた。
 どうして初めに任務の説明をしておかないのか、という愚痴も、この状況では今さらのような気がしないでもない。
 こうして、なんだかんだでいつものように始まった新しい任務。
 任務初日の朝を迎え、任地である瀬戸川学園への通学路を歩む柊は、さっそく異形のものの襲撃を受け、戦いに巻き込まれたわけであるが ―――

「なんだか訳のわからねえことだらけだ ――― ぜっ、と!」
 刀身が閃き、その切っ先が空間を真一文字に薙ぎ払った。耳障りな絶叫と、血飛沫が上がる。
 言葉と同時に振り払われた魔剣の一撃が、踊りかからんとした異形の一体の機先を制し、その胸元を切り裂いたのである。

 訳のわからないこと ――― それはこの異形のものたちの存在である。
 エミュレイターであれば、出現と時を同じくして空に昇るはずの紅い月が見えない。
 周囲に展開されるはずの月匣の存在も、感じられない。
 それなのにどういうわけか、この異様な感覚に満ち満ちた重苦しい大気は、所謂“結界”と同様の働きをしているようで、この戦いの喧騒が外部に漏れ聞こえている様子もないのである。
 しかし、この状況をいちいち検証している余裕は、さすがの柊にもない。
 とりあえず、こいつらをなんとかしなきゃな ―――
 そう思い定め、続く攻撃に備えるために剣の柄を握りなおした柊の視界に、そのとき突如として戦いの場に踊りこんできたものの姿が飛び込んでくる。
「……っ、おいっ! お前、こっち来るな! あぶねえぞっ!」
 柊の顔が一瞬にして青褪めた。彼の視線が捉えたものは、ひとりの少女の姿である。
 いったいなにを考えたものか。
 その少女は、人外のモノたちと、それに対峙しつつ剣を構える柊の姿を見て、逃げ去るどころかむしろこちらへと駆け寄ってきたのである。
 歳の頃は、柊よりも一つ、二つ年下であろうか。
 少し長めの後ろ髪を襟足の辺りで簡単に結んだ、快活そうな顔立ちの少女である。
 身に着けているものは、柊と同様の学校の制服。
 これから彼が通うことになった、瀬戸川学園の女子制服である、と柊は瞬時に察知した。
「私も、手伝うよ!」
 無謀にも、少女はそんな台詞を吐いた。
 その瞳には強い意志の光。迷いのない、よく通る声音。だが、しかし。
「馬鹿ヤロウっ! こっち来るんじゃねえよっ!?」
 つい、柊が叫んでしまったのも仕方のないことであっただろう。相手はなんといっても、見かけは普通の高校生の少女なのである。
(それに、あの手の顔つきと……この手の言動するヤツは ――― )
 困っているから助太刀しよう、大変そうだから私も協力しよう。
 そうやって、考えなしに飛び込んでくるような性格に違いないのである。
 柊は、普段の自分の言動は見て見ない振りをして ――― いや、彼のことだから本当に自覚がないのかもしれないが ――― 戦いの場に飛び込んできたこの少女に、随分と失礼な人物評を下したのだった。
(それにしたって、どう見てもここにいるのは化け物で、襲われている当の俺にしたって、物騒なモンを振り回しているんだぜ?)
 内心でそうぼやく。
(現地の協力者……アンゼロットの言ってたウィザード……ってことなら納得だが ――― )
 そうでもなければ危機管理意識のとことん欠如した、底抜けのお人よしだ。
 普段、自分が朴念仁だの、後先考えなしの猪武者だのと周囲に思われていることなど、彼は完全に度外視している。人間、他人のこととなると物事がよく見える、の良い見本であった。

「おい、お前! 一応訊いとくが、ウィザードなんだろうな!?」
 それならそれで、少女と共闘したほうが簡単に事を済ませることができる。
 違うなら違うで、彼女にはやはりこの場は退場願わなければならない。
 どちらにしても、彼女がウィザードであるかどうかはキチンと確認しておかなければいけないことであろう。
 ところが柊の予想は悪い方向に当たったらしく。
「うぃざ………? なにそれ?」
 こちらに走りこみながら、少女は柊にしてみれば最悪の返答をしたのだった。
 きょとん、とそんな音が聞こえるほど。
 ? というマークが目にも見えるほど。
 ウィザードなんて私、知りません、とでも言うような、あまりにも朴訥そうな顔をして。
「だああああっ!? やっぱり来んなっ! 引き返せよ、おいっ!?」
 叫んでも、もう遅かった。少女の意外なほどの健脚は、ベースボールで二塁を盗むランナーよろしく、戦いの輪の中に滑り込み ―――
 結果として、むしろ柊よりも多くの人外に周囲を囲まれてしまったのであった。
 訂正。
 囲まれたのではない。
 少女は、わざわざ化物たちの密集する地点に、頼まれもしないのに飛び込んできたのである。
 最悪の想像が最悪の形で現実となり、柊の背筋に冷たいものが走った。
 自分の戦いに、なにも知らない善意の第三者(?)を巻き込んでしまった。もしそれで彼女に怪我でもさせてしまったら。いや、それどころか命に関わるような危機に陥れてしまったとしたら。
「……っ、それこそ、悔やんでも悔やみきれねえだろーがっ!!」
 叫んで、大地を思い切り蹴り。一足飛びに少女の立つ地点へと走る。疾風のごとく身を翻し、人外のモノたちの作る壁を突き抜ける。
 鉤爪が。牙が。凶器のごとき長い尾が。
 走る柊に襲い掛かる。
 それを魔剣で受け流し、巧みなステップでかわし、それでも避けきれなかった幾つかの打撃を身体に受けながら。痛みによって漏れそうになる呻きを噛み殺して、柊は走った。
 自分の身体の傷なんてなんということはない。それより一秒でも、いや何十分の一秒でも、あの人の良さそうな少女の前に立ち、自分が盾にならなければ ――― その想いだけで柊は走る。
 しかし。
 地の底から響くような咆哮と共に、少女の眼前に立つ化物のうち一体が、丸太のように太い腕を振り上げ、彼女の頭上へとその凶器を振り下ろした。
「くそっ、間に合わねえっ!?」
 身を切るような思いと共に、柊が叫ぶ。同時に、また“あの悪寒”が肌身を刺した。
 大気に満ちていく、微粒子のような不可視の異物。常識外の違和感。しかし、月匣やエミュレイターの放つ気配とは確実に異なる、未知の感覚。
 そして、柊は気がついた。
 その新しい違和感が、あの少女から発せられているのだということに。

「なにっ……!?」
 思わず、柊の口から驚嘆の叫びが漏れる。

 少女は、身構えていた。
 けっして怖れることなく。背を向けることなく。

 腰に溜めた腕の先端。虚空に開かれた手のひらに無数の輝きが生まれ、また収束していく。
 それは次第に確かな形を形作り、輝きは美しい白銀へと色彩を変えていった。
 光が濃縮され、凝縮され、生まれ出ずるその形は。
 まさしく、柊が手にしたものと同じ ――― 一本の剣の形をしているのだった。
 眩いばかりに光り輝く、一振りの剣。
 それが、ウィザードのように月衣から取り出したものではないことは柊の目にも看破できた。
 周囲の光源を意志の力で掻き集め、戦うための武器を作り出した ――― そんな形容が正しいような気がする。
 あまりにも唐突な展開に息を飲む柊の眼前で、光の剣が煌いた。
 耳障りな悲鳴と共に、瞬く間に胴体を両断される化物たち。
 思わず安堵の息を吐きながら、柊が振り返りもせずに自身の魔剣を背後に突き出した。
 ずぶり、と柔らかいものを貫く感覚。そして新たなる断末魔の悲鳴。
 背後からの襲撃に、柊が無造作に繰り出した魔剣の刺突は、確実に彼に襲いかかろうとして迫り来た化物の急所を寸分狂わず刺し貫いた。
「ったく。戦えるなら言ってくれって」
 頭を掻きながらブツブツとぼやく。そして、
「……まあ、文句を言うのはこいつらを片付けてからにすっか!!」
 そう叫ぶと同時に駆け出した柊と、光の剣を振るう少女が、この戦いを終えるのに、そう長い時間はかからなかった ―――

     ※

 戦いは、思ったよりもあっけなく終結した。
 少女を無力な一般人と思い込み、彼女を助けようと防御や回避を度外視して駆け出した際に、多少のかすり傷を負いはしたが、それ以降柊が負傷することは決してなかった。
 また、少女は少女でこの手の戦いにはかなりの経験を積んでいるようで、怪我どころかわずかな汚れすら制服に負うこともなく、けろりとした顔をしているのである。
「おい、あのさ ――― 」
 聞きたいこと、確認したいことは山積みである。
 月衣に魔剣をしまいながら、柊が少女に声をかけた。
「あ、ごめん、ちょっとだけ待って」
 そんな柊を手で制しながら、少女は謝りつつポケットから携帯電話を取り出し、どこかへと連絡を取り始める。言葉の端々に、「戦いに巻き込まれて」とか、「結構大惨事だよ」とか、「処理をお願いしたいんだけど」とか、そんな言葉が漏れ聞こえてきた。
 おそらく、“この手の事情”に詳しい別の人間 ――― 事件の事後処理能力を持ったものか、そういった類いの人間や組織にコネのあるもの ――― と、話をつけているのであろう。
 わずか四、五分で会話は終わったようで、ふう、と深い溜息をつくと、少女はくるりと柊を振り向いた。

「見かけない顔だよね? 制服も新しいし ――― って言ってもボロボロか ――― 、もしかして君、転入生?」
 こちらから質問をぶつけようとした柊の機先を制するように、少女はそう言った。
 なぜか、その瞳がキラキラと輝いている。期待に満ちた、というか、そんな目の色だった。
「お、おう……柊、柊蓮司ってんだ。今日から瀬戸川に通うことに……」
 こちらに身を乗り出すほどの勢いで尋ねてくる少女の迫力にたじろぎながら、柊は『仮の身分』を名乗ることにする。同じ学園なら、今さら取り繕って適当なことを言うより、半分は本当のことを話しておいたほうが面倒はないだろう。
 それに。
 ウィザードではないにせよ、この少女がなにもないところから光の剣を生み出し、怪物を叩き伏せたのは事実なのだ。いずれにせよ只者ではないだろうし、現地でさっそく協力を仰ぐことの出来そうな人間と出会えたことは幸運であるかもしれない。
「やっぱり! 転入生なんだ!」
 両手をぱちん、と打ち合わせ、彼女は実に楽しそうに、嬉しそうにそう言った。
「この街も来たばかりでしょ? 新しい学校にも慣れるまでは大変かもしれないよね? ね?」
 俺が新しい環境に慣れるのが大変だと、なにがそんなに嬉しいのだろうか?
 訝しむ柊などお構いなしに、少女は早口でまくし立てる。
「困ったことあったら、色々聞いてくれていいからね? それと、買い物代行、テストの準備に探し物、物の貸し借り、先生への交渉、なんでもやるよ?」
「お、おい待てよ ――― 」
「あ、お代は結構。いつか役に立ってもらえればそれでOK」
「そ、そうじゃねえって! 大体、お前、なにもんだっ!?」
 なんだこの女は!?
 どうして俺の周りに居る女や、関わり合いになる女ときたら、どこかこう世間の常識を微妙に逸脱したり、浮世離れした連中ばっかりなんだ!?
 新しい任地でさっそく戦闘に巻き込まれた挙句、最初に接触した人間が“こんな”一風変わった少女であるということに、柊はいつものことながら前途多難の空気を敏感に察知し、激しく落ち込んでいた。
 しかし彼女が柊の内心の煩悶になど、これっぽっちも気づいた様子はなく。
「そっか。私の自己紹介がまだだったね」
 屈託なく、朗らかな笑顔を満面に浮かべると、柊に向かって右手を差し出した。
 それは多分、握手を求める仕草なのだろう。
 差し出された右手と、少女のにこにこ顔を見比べていた柊の手を、少女はぐいっと無理矢理に掴みあげた。
 あまりにも強引な握手である。
 しかし、その一見図々しくさえ見られがちな行動も、彼女の持ち前の明るさのおかげか、決して悪い気分はせず、むしろその単刀直入さが好ましくさえある。
「私の名前は、七村紫帆。瀬戸川学園の何でも屋」
「なん……でも屋……?」
 唐突に耳慣れない単語を聞かされて柊は硬直する。
 七村紫帆と名乗った少女は、その笑顔をますます深めると柊の手を解放し、
「お役に立ちますっ!」
 そう言って自信満々にサムズアップをして見せたのである。

 これが ―――

 ウィザードである“魔剣使い”柊蓮司と、“オーヴァード”七村紫帆の、あまりにも唐突といえば唐突な出会いであった ―――





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