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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第03話04

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タバサと幽霊


―――スクールメイズ“旧校舎”

「はぁはぁ…なんとか…勝ちました…ね…」
魔法の使いすぎでふらつきながら、玲子が膝を落とす。
「…強かった」
辺りに転がる紅い魔石を拾う気力も無く、タバサもへたり込む。
「私はちょっとだけ、先の様子を見てきますので~、お二人はしっかり休んでいてくださいね~」
1人余裕があるように振舞う桜花だが、その桜花もボロボロになるまでダメージを引き受け、玲子のディアラマで回復したばかりだ。
「…正直、甘く見てました。ここは私の知る限りの…魔界以上に、辛い場所かも知れません」
「同感」
懐から水筒を取り出し、中に入れたMPポーションを飲んで精神力を回復する。
「それは?」
「精神力を回復する薬。レイコも」
玲子に水筒を手渡す。
「はい…ぷはっ。ありがとうございました」
返ってきた水筒がかなり軽くなっていることにタバサは危機感を覚える。
「一気に半分近く無くなった」
水筒の減りの速さ、それは魔法による精神力の消費速度が半端じゃないということ。
「…ダメ。やっぱり通じない」
一応はここも“学園世界”であるからとエヴァに0-Phoneをかけては見たが、通じない。
どうやらこの中は特殊な力で覆われていて、救助は期待できないと言う桜花の答えは、本当らしい。
「出口…ううん入口も消えちゃったから、あと戻りもできません…」
先ほどまであった軽子坂学園につながる道…魔界への道は既に消えている。
桜花の話によると、あの入口はこの“旧校舎”のどこかにランダムに現れては消え、また別の場所に現れると言うのを繰り返しているらしい。
「…私たち、生きて出られるんでしょうか…」
1部屋目で早くもこの“地獄”で生き残ることの難しさを思い知らされた玲子がタバサに尋ねる。
「…大丈夫。何とか生き残れそう」
玲子の問いかけに静かに目を閉じて沈黙したのち、タバサは答える。
「それよりも諦めて弱気になるのが、危険。諦めなければ、多分持つと思う」
「そう…ですよね。分かりました」
タバサの答えに勇気をもらい、玲子が立ち上がる。
「私、諦めません。必ず学園世界にたどり着きます。そして、みんなを助け出します」
「そう。それでいい。そろそろオウカも戻ってくる。準備を」
「はい!」
銃弾のチェック、アイテム…特に回復アイテムの確認、身体を温めるための準備運動…次の部屋に挑む準備をしていると、ちょうど桜花が戻ってくる。
「ただいま戻りました~」
「お帰りなさい。どうです?何か分かりましたか?桜花さん」
「はい~、私たち、今日は少しついてるかも知れません~」
玲子の問いに、桜花は笑顔を浮かべ、分かったことを言う。
「襲ってきた敵の強さからそんなに深くは無いと思ってましたが、確認が取れました~。ここは旧校舎の表層、第5階層です~」
「じゃあ…」
「はい~。出口まで4階層分上に登れば、出口…見事学園世界に到達~。ミッションコンプリートって奴ですね~」
桜花のもたらした朗報に玲子の表情が明るくなる。
「分りました!後4階ですね!」
「はい~。それに、この部屋の先で上への階段も見つけました~。それを登れば、あと3階層ですね~」
にっこりと笑い、更なる朗報を伝える。
「よし!さ、行きましょうタバサさん」
玲子の言葉に、タバサがこくんと頷いた。
そして一行は意気揚揚とスクールメイズを突き進む。
…その先を知ること無く。



―――旧校舎 第4階層

「はぁはぁ…や、やっと階段ですね…」
息も絶え絶えで、玲子は数十m先に見える階段をじっと見る。
「ここにたどり着くまでに…何回死にかけたか…」
第5階層ですぐに見つかったのとは裏腹に、第4階層で階段を発見するまでに通った部屋数は、5部屋。
そのうちの2部屋では戦闘が発生。かなりの消耗を強いられた。
「…無くなった」
水筒の中のMPポーションが切れたのを確認し、タバサが眉をひそめる。
「こっちもです。魔石は0。宝玉も残りは1個だけ。後は回復力の弱い傷薬が何本か…正直、かなり厳しいです」
さっきまでの高揚が嘘のように憔悴しきって玲子が言う。
「はぁ…やっぱり普通に攻略しようとすると、厳しいですね~」
桜花も心なし元気が無い。仲間がいる今回はいつものように壁や天井を通り抜けて戦闘を回避するわけには行かない上に、
ガーディアンである今は玲子から大きく離れることもできない。
助けを呼びに行くことも無しに普通に攻略するしかないのだ。そしてその結果として、桜花は何度もHPが尽きそうになり、更にMPもプラーナも相当量消耗していた。
「これが後3階分…」
ダメだ。どう考えてももたない。そう感じ、玲子はへたり込みそうになる。
「…ううん!大丈夫!頑張ろう!」
それを気合いを振り絞ってそれを踏みとどまる。
「行きましょう!とにかく何が何でも3階分…」
そう言って玲子が歩き出そうとした、その時だった。
「レイコ!動かないで!」
珍しくタバサが声を張り上げて玲子を制止する。
「ひゃっ!?ど、どうしたんですかタバサさん!?」
思わず驚いて足を止め、タバサを見開いてみつめる。
「…オウカ」
「…ああ~、なるほど~任せてください~」
タバサは傍らの桜花に声をかける。それだけで事情を察した桜花は肉体を実体化させ、地面に降り立った。
それを確認し、タバサが玲子に言う。
「…罠がある。私が見つけられたのは、玲子の目の前の落とし穴だけ。多分これだけじゃないと思う」
「わ、罠!?」
タバサの言葉にギクリと玲子がこわばらせる。
今までの第4階層の探索で、旧校舎の恐ろしさがモンスターだけでは無いことを、玲子は知っていた。
「ここはオウカに任せる。下がって」
「は、はい!」
ゆっくりと前の部屋まで戻り、桜花に言う。
「…頼んだ」
「はい~、行きますよ~」
タバサに頷き返し、桜花はすぅ~と深呼吸をして、構える。
「必殺ぅ~…」
腰を落とし、尻を突き上げる。陸上競技で言うクラウチングスタートの体勢を取り、桜花は少しだけプラーナを“脚”へと貯める。

「漢女(おとめ)探知ぃ~!」

掛け声と共に階段へ向かって一気にダッシュを開始。
ガコンッ!
駆けだした瞬間にぱっくり開いた、あえて分り易いように偽装した落とし穴をジャンプで回避。
ボカァン!
その直後、今度は対照的に着地点に巧妙に隠された地雷が爆発し、桜花の肉体を爆風が焼く。だが、桜花は止まらない。
ビスビスビスッ!
床から突き出した無数の槍を自らの身体に刺さる前にダッシュで駆け抜ける。
バチンッ!
見えないように偽装されていた攻性防壁は体当たりで強引に突破。
「…これ以上のダメージは、受けられません~!」
階段の前で立ち止まりプラーナを開放、防御と魔防を飛躍的に高める。その次の瞬間。
ドゴンッ!ドガンッ!
地面から飛び出した物理型と魔法型、2つの魔導砲台の連射を一身に身に受けつつ、呼び出した人魂で破壊。
「ふぅ…これでもう通れると思いますよ~。くれぐれも私の通って無いところは通らないでくださいね~」
攻撃がやんだのを確認し、プスプスと煙を上げながらタバサと玲子に笑顔で手を振ってみせる。
「…やっぱり、桜花さんってすごいですね」
「…オウカがいなかったら、どうしようもなかった」
桜花の非常識な丈夫さに半ば唖然としながら、己の感想を口にする2人。
罠を見つける能力は【知覚】が“普通よりは上”程度の風のメイジであるタバサがいるだけ。
そして全員が魔法系であるために罠を解除する【器用】が高いものに至ってはゼロ。
そう、それこそがこの3人のパーティー最大の弱点。いつもならともかく、ダンジョン探索では致命的とも言える弱点。
「…私、少しは速さとかも鍛えておくべきだったんでしょうか?」
「ないものをねだっても仕方がない。あるもので何とかする」
罠(トラップ)への対処能力が欠如しているのだ。
(…卑怯番長か忍者の誰かがいれば…)
思わず浮かんだそんな考えを、頭を振って振り払う。
カゲモリの中には隊長を始めとしてこの手の罠に強い人間も何人かいるが、今いないものを求めてもしょうがないのだ。
「…行こう」
「…はい」
2人はそろそろと、桜花の作った“発動済みの罠の道”を歩き出した。
…ちなみに、最後の宝玉はこのあと速攻で桜花の治療に使われたのは言うまでも無い。



―――第3階層第1室 休憩所

「…ああ、さっきからラッキーとアンラッキーが交互に来てる気がします~」
桜花が噴水が備え付けられた部屋に喜びの声を上げる。
「…ここは?」
辺りを伺い、その部屋に一応危険が無いことを確認したタバサが、桜花に問う。
「はい~。ここは“休憩所”です~」
嬉々としてタバサに桜花が言う。
「冷たくて、奇麗な水ですね…それに、何かいい匂いがします」
何気なく噴水に手を入れた玲子が心地よい感覚を感じて、言う。
「桜花さん、これ、飲めますか?」
「大丈夫ですよ~。その分量だと、5回分ってところですね~」
玲子の問いに、桜花は笑顔で答える。
「5回分?」
「はい。飲めばHPかMPのどっちかが回復できます」
「MPと言うと、精神力?」
桜花の答えに、タバサが思わず聞き返す。
「そうです。そ~言う場所ですから~」
「わ、すごいです。これ。すごく…元気がでました」
噴水の水をすくって飲んだ玲子が驚きの声を上げる。
「…おいしい。それに、凄い回復力…」
乾いた喉に、すぅっと染み透る、清らかな水。疲れが取れて、精神力が一気に回復するのが分かる。
「あ、クリティカルって奴ですね~」
タバサの反応に、桜花が華やいだ声を上げる。
「じゃあ…私も1回分、貰いますね~」
近づいて水をすくい、笑顔でそれを口に含んで…

ぶふぁ!

盛大に吹き出した。
「うわ!?お、桜花さん!?大丈夫ですか!?」
ごほごほとむせる桜花に玲子が心配して近寄る。
「だ、大丈夫です…割とよくあることですから…」
涙目になりながら、解説する。
「と、このようにたま~にですが、ファンブルして逆にダメージを受けることがあるのには、注意して下さいね~」
その様子に思わず2人はちょっとだけ下がる。
「…さて~、後2回分は…」
桜花の笑顔の問いに。
「オウカが使って」
「桜花さん、残り2回分は桜花さんが使ってください!ほ、ほら桜花さんずっとMPポーション使って無かったし!」
2人はほぼ同時に答えた。

 *

「さて~、次はどちらに行きますかね~?」
回復を終え、桜花はキョロキョロと左右正面の3つの扉を見る。
「え~っと正面は…」
ぎぃ~っと少しだけ扉を開けて…すぐに閉じる。
「…で、左右どっちに行きましょう~?」
さらっと正面と言う選択肢は外す桜花であった。
「え、えっと…じゃあ…」
その様子に冷汗を流しながら、玲子が選ぼうとした、その時だった。
「正面」
タバサが一言、重々しく言う。
「「ええ~っ!?」」
玲子と桜花が同時に叫ぶ。
「ほ、本気ですか?さっきの桜花さんの反応を見るに、正面は無いって思うんですが!?」
「そ、そうですよ~。正面の敵は今のパーティーだとちょっと洒落になりません~。迂回しましょう~」
2人の説得に、タバサはふるふると首を横に振る。
「ならばなおさら。これが、一番助かる可能性が高い」
じっと2人を見る。ありったけの本気を込めて。
「…事情を説明している時間は無い。お願い。信じて」
「…分りました~。タバサさんの言うことなら~」
「わ、私もです。信じますからね!」
目の前の少女が、本気であることを知り、2人が同意する。
「1つだけ。必要なのは、速攻勝負です~!長引かせたら、ここで探索終了、全滅ですよ~!」
桜花が2人に忠告しながら、正面への扉を開いた。



―――第3階層第2室 『魔蟲の住処』

そこは、巨大な蟲の巣だった。
「…こいつらは?」
「闇妖蟲…冥魔です~!ようするに侵魔以上にやばい連中です~!」
タバサの問いにいつもの余裕を見せること無く簡潔に桜花が答える。
「か、鍵が!?」
後ろの扉に鍵がかかり、開かなくなったのに気づき、玲子が狼狽する。
「逃がす気は、無いってことですか~」
桜花が呟く。
「良いですか~、タバサさん、玲子さん…」
2人に言い聞かせるように、桜花が言う。
「さっきも言いましたが、速攻勝負です…あの蟲が護っている“繭”を何が何でも破壊してください~」
蟲に護られ、不気味に胎動するそれを指さす。
「あれ…羽化寸前です。もし羽化して成体が出てきたら…今の私たちでは手に負えません~」
桜花たちに気づき、蟲たちが集う。羽化まで、繭を守るためだけに。
「あいつら、最後の1体になっても、絶対繭を守り続けるはずです~」
それは、今の“火力”にかけるパーティーでは、かなり厳しい条件。
「私も攻撃に回りますが~…正直、羽化するまえに壊せるかは、ギリギリです」
そして、桜花が解説を終えた瞬間。
ドグンッ!
繭がひときわ大きく震える。
「…来ますよ!」
そして、蟲たちが“侵入者たち”に糸を吐きかけようとした、その時だった。

ガチャンッ…ベキョ!

大きな音を立てて、扉の鍵…“タバサたちの向こう側の扉”の鍵が外れると同時に、重い鉄製の扉が吹っ飛ぶ。
ピギィ!?
繭を扉から守ろうとして闇幼蟲の1体が飛び出し、繭の代わりに無残に潰れる。

「ああああああああああああああ!!!!!!!!!!!見つけたのね~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!」

ひときわ大きな声が部屋いっぱいに響くと同時に“影”が飛び込んで行く。
ピギャ!?
その影…学生服を着た少年は銀色に輝く銘刀を潰れた闇妖蟲にとどめとばかりに突き刺し、瞬時に絶命させる。
「良かった~!無事だったんだね!タバサちゃん!」
茶色い髪を2つに結わえた少女がタバサに気づき、先ほど鉄製の扉を吹っ飛ばした手をぶんぶん振る。
「フン…お前がたやすく死ぬようなタマでは無いことは知っていたが、ずいぶんと面白いものを連れているじゃないか」
部屋にゆっくりと侵入してくる、金髪の少女が懐から魔法薬を取り出す。
「ちょうど良い。共同戦線だ。お前らの力、見せてみろ。さつき、斎堂。私の魔法が完成するまで、絶対にあいつらを私に近づけるなよ。
 リク・ラク・ラ・ラック・ライラック…」
詠唱を開始した少女を見て、タバサはホッと息をつく。
「あの~…」
「あの人たちは一体?何で旧校舎にいるんですか?」
事情がうまく呑み込めていない2人に、タバサは言う。
「彼らは…カゲモリ。私の、仲間」
若干誇らしげな響きを込めて。



―――輝明学園 旧校舎前

「ほんと~に…ほんと~に良かったのね!無茶苦茶心配したのね!きゅいきゅい!」
嬉しさのあまり、人型を解くのすら忘れたシルフィードが、ずりずりと泣きながらタバサに頬ずりをする。
タバサの顔に涙だか汗だか鼻汁だか涎だか分らないが、とにかく汁がつく。
「…シルフィードを連れて来たのは、エヴァの発案?」
そんな使い魔にされるがままになりながら、タバサがエヴァに尋ねる。
「ああ。正直人の姿では何の役にも立たんが、それでも“お前”を探すのにはうってつけだろう?」
ニヤリと嗤ったエヴァの言葉に、タバサはコクリと頷く。
「お陰で、エヴァたちの居場所が大体把握できた」
ハルケギニアのメイジは使い魔の見ているものの共有が可能。
旧校舎内で“シルフィードの目”を通して、2つのパーティーの状況を理解できたからこそ、タバサは攻略の計画を正確に立てることができた。
「しかし、よりによってあんな所にいるとはな。こんなことなら茶々丸をパソコンの解析に回すべきでは無かったか。
 お陰で見つけるのに、いらん手間と“出費”がかかったぞ?」
冗談めかして、タバサに言う。
「出費?」
タバサの疑問にはさつきが代わって答える。
「私が頼んどいたの。執行部の探しものとか探すのが得意な人に、ずっと占いっぱなしにして、タバサちゃんの居場所が分かったらすぐに教えてって」
「あのイタリアン傭兵め、代わりに“ろんぎぬす”で1日飲み食いし放題、それが報酬であります!とかぬかしやがったぞ?足元をみおってからに」
しっかり報酬を受け取っているのを知られたのは失敗だったかも知れん。などと呟きつつ、エヴァは気を取り直しさつきに言う。
「まあいい。今夜は祝いの席だ。久し振りに飲みに行く。さつき、お前も来い」
「え?いいの?」
「ああ、割り勘だとかケチ臭いことは言わん。好きなものを頼んでいいぞ」
エヴァの言葉にぴくりと反応したシルフィードが、ぽいっとタバサを捨ててエヴァの元へと向かう。
「ずるいのね~!私も行きたいのね~!」
「お?そーかそーか。そうだな…よし、シルフィード、お前も来て良いぞ。ただし、人間の姿でこいよ?」
「分かったのね!了解なのね!きゅいきゅい!」
「…っと。その前に、一応斎堂には礼を言っておけ。せっかくの休日を台無しにしたんだからな」
「…それも了解なのね」
「さてと…」
一通り話がまとまったところでエヴァがタバサに向きなおる。
「お前も来るか?タバサ」
「いいの?特にシルフィード」
この人数になると結構な額になる。特にシルフィードは文字通りの意味で“竜並み”の胃袋の持ち主だ。子牛まるごと一頭くらいはぺろりと行く。
「構わん。むしろ好都合だ」
タバサの問いにエヴァは“闇の福音”に相応しい邪悪な笑みで答える。
「好都合?」
「契約にあっただろう?“任務に必要なものは向こうが用意”とな。
 仲間を探し出し、情報を得ると言う“任務”ならば、“探すのにかかった費用”は全部“経費”だと思わないか?」
クックックとかな~り悪役っぽい笑い声つきだ。
「費用は全額じじぃどもに出させる。あいつへの報酬兼接待費として認めると言う言質は取っている。奴らの驚く顔もたまには悪く無かろう?」
「そう…」
「で、タバサ。お前はどうする?お前もかなりの戦力…大食漢だと聞いてるぞ?」
エヴァの問いにタバサは少し考え…答える。
「後で行く」
「分かった。ちゃんと来いよ」
頷いて背を向け、ひらひらと手を振る。
「行くぞさつき。あいつにはさっき連絡しといた。すぐ来るとさ」
「うん。じゃあ、いこっか。…2人は?」
「用事があるからそれを済ませてからだそうだ」
徐々に遠ざかって行く2人の声を聞きながら、タバサはシルフィードに尋ねる。
「それで、何があったの?シルフィード」
「え~と、あの、そのね…」
いつもの無表情と澄んだ瞳に見つめられ、ごにょごにょと口ごもりながら、シルフィードは事の顛末を説明した。


 *

「…はい。分かりました。夜分遅くのお骨折り、感謝いたします」
ピッと0-phoneを切って、一狼は玲子と桜花に向きなおる。
「荻原様より、連絡を頂きました。赤羽理事長代理は、明日の朝ならばお二人にお会いできるとのことです」
正直、今の玲子と桜花の立場は微妙なものだった。何しろ“モンスター改め悪魔連続襲撃事件”の真相の一端を握る存在なのだ。
特に悪魔の中でも狐…チェフェイは各所で問題を起こしている。場合によっては『執行部』や『心霊部』にも事の次第を伝達しなければならない。
問題は、山積みなのだ。
「とりあえず、今夜はお疲れでしょう。桜花寮の客間…8号室にお泊りください。
 赤根沢さんの今後の処遇については、明日、赤羽理事長代理から何かしら話があると思います。
 …それと、カゲモリのことはくれぐれも口外為されぬよう、お頼みします」
「はい。分かりました。色々とありがとうございました」
「私からも、ありがとうございました~」
2人の少女から礼を言われ、ちょっと照れて一狼は目をそらす。
「い、いえ、これも任務のうちですので…あ、そうだ。今から桜花寮に案内しますね」
「…いいえ~。それには及びません~」
そんな一狼を微笑ましく見ていた桜花が、一狼の後ろに立ったタバサに気づき、にこやかに断る。
「これでも~学園を、守り続けて、30年。なので~、と~ぜん桜花寮の場所も知ってますよ~。と、言うわけでついてきてくださいね~」
「…あ、はい。案内よろしくお願いします。桜花さん」
玲子の方も桜花の態度で何かに気づいたのだろう。そそくさと桜花について行ってしまう。
「うん?どうしたんだろう急に?」
「イチロウ、話がある」
「のわあ!?」
思いっきり油断していたせいでタバサの接近に気付かなかった一狼が、驚いて声を上げた。
「な、なんですかタバサさん?」
いつもの無表情のまま、タバサが言う。
「…シルフィードから、話は聞いた。私に、任せて」
「え~と、何を?」
一狼の問いは、さらっと無視された。

―――麻帆良学園 上空

「うまく行くといいのね!そうすればお姉さまったら愛のキューピッドなのね!きゅいきゅい!」
世界樹の前に置いてきた2人のラブラブっぷりに大いに満足し、空を駆けながらシルフィードが興奮してわめく。
「…大丈夫。あの2人は、相性が良い」
似たもの同士と言う言葉がぴったりのあの2人なら、きっと紆余曲折はあれど、最終的にはうまく行く。多分。
「そうなのね!次はお姉さまの番なのね!今にあの使い魔を悩殺なのね!ピンク髪なんてお姉さまの敵じゃないのね!きゅいきゅい!」
浮かれたままシルフィードが迂闊なことを口にして。
「…それは無い」
タバサに杖で殴られる。
「痛いのね!きゅい~!」
そう叫ぶシルフィードの声にも、どこか喜びが込められている。
シルフィードは、嬉しかった。この“いつものお姉さま”が無事戻ってきたことが。
やっぱり自分の片割れとも言えるお姉さまがいるのといないのとでは、全然違うのだ。
「それじゃあ、次はろんぎぬすなのね!朝まで生騒ぎなのね!きゅいきゅい!」
「違う」
涎をちょっぴりこぼしながら言ったシルフィードに、タバサはふるふると首を振る。
「えええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
不満を隠そうともせず、シルフィードが大声で叫ぶ。
「シルフィは今日は朝からイチロウの持ってたまず~い保存食しか口にしてないのね!お腹ぺっこぺこなのね!
 今すぐご飯にしないと飢えて死ぬのね!きゅい~!」
じたばたと空で暴れるシルフィードをとりあえず杖で殴って黙らせる。
「…うう~、それで、どこに行けばいいのね」
観念したのか、シルフィードが泣きそうになりながらタバサに尋ねる。
「大丈夫。すぐ済む」
今回頑張った使い魔を労いながら、タバサが口にした、その場所は…



―――ザールブルグアカデミー

コン、コン、コン…
裏口で、正確にリズムを刻むように3回。
「は~い」
その子が訪ねて来たと言う合図を受けて、マルローネ…マリーはドアを開けた。
マリーの予想通り、そこに立ってたのは…
「こんばんわシャルちゃん。ここ3日間くらい来なかったから、どうしたのかってちょっと心配してたんだァ~」
大きな杖を抱えた青い髪とメガネの女の子…シャルにマリーは気さくに声をかける。
「ちょっと外せない用事があった…そちらの状況は、どう?」
「はいはい。ちょっと待っててね~」
マリーは机をがさごそと漁り、今週分の報告書(レポート)を探し出す。
「はいこれ。…実は今ちょっぴり煮つまっててあんまし進展してないんだよねェ~」
頭をぽりぽり掻きながら、あはははと笑ってみせる。だが。
「…赤系統の材料と火の属性魔石の減りが速すぎる。特に火竜の舌を何に使ったの?
 それと賢者の石はこの前作ったばかりなのに、もう使用した?」
目の前の少女には通用しない。的確に情報を見抜き、正確に問題点を指摘する。
「…あははは」
ポリポリ頬を掻き、目をそらす。それを醒めた目でじっと見つめる、シャル。
「…ごめん!今週は別の研究してた!」
突然ぱんと手を打ち鳴らし、マリーは頭を下げる。
「…説明を」
至極冷静にシャルはマリーに問う。
「いや、実はさ…この前アカデミーで知り合った冒険者の女の子が“深精霊干渉症”って言うヤバい病気でさ…
 ほっといたら卒業まで生きられないんじゃないかって話で…
 その…治すのに賢者の石と赤系統のアイテム大判振る舞いしちゃった!ほんと~に、ごめん!」
ぺこぺことシャルに謝る。
(ほんとこれ…二重の意味で罪悪感感じるんだよねェ~)
マリーは知っている。目の前の少女…マリーの“パトロン”はこういう風に言えば。
「…分かった。新しい材料の費用は、明日持って来る」
特に非難も何もせずに受け入れてしまう。
「…ね、シャルちゃん?」
「なに?」
「その…怒らないの?」
流石に罪悪感が募り、マリーはシャルに聞く。
だが、その問いにシャルはふるふると首を横に振る。
「…“依頼の品”の研究に役に立つなら、それでいい。むしろまた1つ、“治す”方法が分かったのだから、喜ぶべきこと」
そう言うとシャルはついと後ろを向く。
「用事があるから今日はもう帰る。それじゃあまた」
そのままふらりと行ってしまいそうになるシャルをマリーは呼びとめる。

「あ!シャルちゃん!」
「…まだ何か?」
立ち止まったシャルに、マリーはタンスを漁って取り出した、1着の服を渡す。
「…?これは?」
「とりあえず、穴の開いたシャツだとあれだから、それに着替えなよ。エリーちゃんの服だからちょっと大きいかもだけどさ」
「…ありがとう」
礼を言い、その場で着替え始める。あっという間に着替えを終え、袖口を折って丈を合わせる。
「感謝する。次回洗って返す」
ぺこりと頭を下げ、シャルは走り去っていく。少しして何かが飛び立つような羽音が聞こえてくる。
「…う~ん。やっぱりど~考えても危ないお仕事してるんだよねェ…」
マリーがため息をつく。その手に持った、血のついたボロボロのシャツを抱えて。
マリーは知っている。
パトロンとして学生とは思えないような研究費(本人は大貴族の娘だから資金も豊富とかのたまっていたが)をマリーに対して出資しているって他にも、
シャルが学長の秘密の研究室によく出入りしてるとか、夜中にモンスターと竜に乗って戦ってたとか、執行部並みにあちこちで目撃されているとか、色々。
「…けど、やめろって言ってやめる子じゃあないんだよねェ~」
あの深く静かな情熱を秘めた瞳…あれはかつて、未熟だった自分が親友を助けるために初めてエリキシル剤を完成させたときと同じ瞳だ。
そんな瞳を持った子は…成し遂げるまでは簡単には折れないし曲がらない。
「…よっしこうなったら意地でも完成させる!そんでシャルちゃんを安心させる!」
パンと頬を叩いて気合を入れ直し、再び研究に打ち込むことにする。
「やってやろうじゃん!『ありとあらゆる病気、毒、呪いを治療できる、究極の万能薬』!伝説の2人の片割れを…錬金術師をなめるなヨ!」
決め台詞と共に、マリーの新たなる挑戦が始まった。

―――推薦状

学園世界長老衆代表 荻原宗一郎様

陰守推薦権限保持者として以下の二名を陰守に推薦する。

輝明学園所属     倉沢 桜花
軽子坂学園高校所属 赤根沢 玲子

トリステイン魔術学院学院長 オールド・オスマン直属陰守(シュヴァリエ・ド・オーンブルガルド)
シャルロット・エレーヌ・オルレアン


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