「イクゾ!」
咆哮と共に佐藤…魔人ケルベロスの姿が掻き消える。
(…速い)
ケルベロスのやったことは超高速での移動。タバサの知るどんな亜人よりも素早いその動きはタバサの動体視力を易々と上回る。
だが、焦りは無い。ここまでの戦いでタバサは既に“理解”している。
「させませんよ~」
のんびりとした口調とは裏腹に、早く、正確に玲子を狙い飛んできた爪の前に立ちはだかるのは、幽霊勇者、倉沢桜花。
ドズンッ
並みの人間…否、悪魔であってもたやすく絶命するであろう一撃。
「…チィ!」
それを桜花は平然と“喰らって”みせる。
「う~ん。流石に強烈ですねえ…」
桜花の霊体で構成された肉体をもえぐり取る一撃を受けてなお、桜花はその笑みを消さない。
「ですが、まだまだ私を倒せるほどの威力ではありませんね~」
笑顔と共にえぐり取られた霊体部分を再構築してみせる。
「とりあえず、私の目が黒いうちは、お二人に攻撃が届くことは無いと思いますよ~…もう死んでますけど~」
桜花は軽口でもってケルベロスを挑発する。高レベルのガーディアン…ディフェンダーは伊達では無いのだ。
「ヤハリカ…」
“予想していた”事態にケルベロスは慌てない。
「ダガ、ソレガドウシタ?貴様ノ“炎”ハ俺ニハ効カン。ソレニ、何度モ攻撃スレバイズレハ貴様モ倒レルダロウ?」
そう、自分には、ケルベロスには桜花の得意とする人魂の攻撃…炎による攻撃は通用しない。
「別に問題ありませんよ~」
だが、それを聞かされても桜花の笑みが消えることは無い。
「私のお仕事は、お二人を守ること。攻撃は…」
「ごめんなさい!佐藤くん!ブフーラ!」
「…ジャベリン」
「…お二人にお任せしますから~」
桜花の言葉に応えるように2人の魔法使いが同時に魔法を完成させる。
「グゥ!?ソコノガキモ冷気ノ魔法ヲ使ウカ!」
強烈な冷気で脚元を氷に閉じ込められたとこで飛んでくる氷で出来た巨大な投槍。
脚が動かない状況で、最も回避の難しい腹を正確に狙って飛んできたそれをとっさに両手でつかんで受け止める。
運動エネルギーと冷気にケルベロスの手の皮が凍りついてはがれ、殺し切れなかった勢いで持って直進したジャベリンが腹に刺さる。
「オノレェ!」
凍りついた足もとの氷を忌々しげに砕き、ジャベリンを抜いて力任せに投げ捨てる。
腹からあふれ出る血を魔人の恐るべき治癒力で傷を塞いで止血し、ケルベロスはタバサを睨みつける。
“外”の相手は自らが苦手とする“氷”の魔法の使い手…
しかも玲子よりも優れた使い手である以上、力尽きるのはこちらの方が早い。
それを悟ったケルベロスは作戦を変更する。
アォォォォーン!
空を見上げ、高らかに遠吠えをする。
それと共にケルベロスの肉体に変化が訪れる。
メキメキと音すら立てて筋肉が膨れ上がり、同時に身体の各部分がより攻撃的に引き締まる。
「…あれは?」
その様子を見たタバサが傍らの玲子に尋ねる。
「あれは、多分“パワーブレス”です。攻撃力と命中力を同時に挙げる、ケルベロスの特技(エクストラ)」
「つまり…」
「はい。今ので更にパワーとスピードが増しました」
玲子の背中を冷汗が伝う。いくら頑丈な桜花と言えどもパワーブレスで強化したケルベロスの攻撃を何度も受ければ、危険だ。
「ウォォォォ!」
雄たけびと共にケルベロスが先ほど以上の高速で桜花に迫る。
「た、大変!すぐに回復を!」
大したダメージでは無いとは言え、桜花は先ほどもケルベロスの攻撃を受けている。連続で受ければ、いずれは削りきられる。
「いいえ~。まだ大丈夫ですよ~。それよりも、攻撃した方がいいかも知れません~。長期戦になると、多分こっちが不利ですから~」
桜花が玲子に助言しつつも、真面目な顔でケルベロスの動きを追う。
ここからは全力でいかないと、危険だ。
「来なさい。受け止めてあげます~」
両手を広げ、仁王立ちになる。同時に人魂で玲子とタバサを囲み、盤石の陣形を引く。
「ククク!ヤット本気になったか!」
ケルベロスがニヤリと笑みを浮かべ、桜花に攻撃を仕掛ける。
まるで弾丸のような勢いで、ケルベロスは桜花にぶつかっていく。
「くっ…通しませんよ~!」
勇者の持つ膨大なプラーナを開放し、それを真正面から受け止める。
「はああああああああああああ!」
その言葉に嘘偽りは無く、桜花はトラックの衝突に匹敵するケルベロスの突撃をわずか数cmの後退で完全に止めきった。
「どうです?まだやりますか~?私としては、佐藤くんにも死んで貰いたくないんですけど~」
力を見せつけた上でニッコリ笑い、桜花がケルベロスに言う。その瞬間だった。
「…残念。貴方の負けです。桜花さん」
ケルベロスは“魔獣”の演技を捨てて、“佐藤の声”で桜花に語りかける。
「えっ!?」
その声に反応し、桜花に一瞬だけ隙が生まれる。その隙を、ケルベロスは見逃さない。
「…!レイコ!」
それに反応できたのは、つい昨日“同じ技”を見たばかりの、タバサだけだった。
グァワアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
桜花の耳元に口をよせ、ケルベロスが魂も凍るような咆哮を上げる。
「くはっ!?」
その声に桜花の身体が固まり、その場に崩れ落ちる。
「どうだい?僕のゼロ距離“バインドボイス”の味は?」
金縛りになった桜花を見下ろしながら、ケルベロスは、佐藤の声で嗤った。
咆哮と共に佐藤…魔人ケルベロスの姿が掻き消える。
(…速い)
ケルベロスのやったことは超高速での移動。タバサの知るどんな亜人よりも素早いその動きはタバサの動体視力を易々と上回る。
だが、焦りは無い。ここまでの戦いでタバサは既に“理解”している。
「させませんよ~」
のんびりとした口調とは裏腹に、早く、正確に玲子を狙い飛んできた爪の前に立ちはだかるのは、幽霊勇者、倉沢桜花。
ドズンッ
並みの人間…否、悪魔であってもたやすく絶命するであろう一撃。
「…チィ!」
それを桜花は平然と“喰らって”みせる。
「う~ん。流石に強烈ですねえ…」
桜花の霊体で構成された肉体をもえぐり取る一撃を受けてなお、桜花はその笑みを消さない。
「ですが、まだまだ私を倒せるほどの威力ではありませんね~」
笑顔と共にえぐり取られた霊体部分を再構築してみせる。
「とりあえず、私の目が黒いうちは、お二人に攻撃が届くことは無いと思いますよ~…もう死んでますけど~」
桜花は軽口でもってケルベロスを挑発する。高レベルのガーディアン…ディフェンダーは伊達では無いのだ。
「ヤハリカ…」
“予想していた”事態にケルベロスは慌てない。
「ダガ、ソレガドウシタ?貴様ノ“炎”ハ俺ニハ効カン。ソレニ、何度モ攻撃スレバイズレハ貴様モ倒レルダロウ?」
そう、自分には、ケルベロスには桜花の得意とする人魂の攻撃…炎による攻撃は通用しない。
「別に問題ありませんよ~」
だが、それを聞かされても桜花の笑みが消えることは無い。
「私のお仕事は、お二人を守ること。攻撃は…」
「ごめんなさい!佐藤くん!ブフーラ!」
「…ジャベリン」
「…お二人にお任せしますから~」
桜花の言葉に応えるように2人の魔法使いが同時に魔法を完成させる。
「グゥ!?ソコノガキモ冷気ノ魔法ヲ使ウカ!」
強烈な冷気で脚元を氷に閉じ込められたとこで飛んでくる氷で出来た巨大な投槍。
脚が動かない状況で、最も回避の難しい腹を正確に狙って飛んできたそれをとっさに両手でつかんで受け止める。
運動エネルギーと冷気にケルベロスの手の皮が凍りついてはがれ、殺し切れなかった勢いで持って直進したジャベリンが腹に刺さる。
「オノレェ!」
凍りついた足もとの氷を忌々しげに砕き、ジャベリンを抜いて力任せに投げ捨てる。
腹からあふれ出る血を魔人の恐るべき治癒力で傷を塞いで止血し、ケルベロスはタバサを睨みつける。
“外”の相手は自らが苦手とする“氷”の魔法の使い手…
しかも玲子よりも優れた使い手である以上、力尽きるのはこちらの方が早い。
それを悟ったケルベロスは作戦を変更する。
アォォォォーン!
空を見上げ、高らかに遠吠えをする。
それと共にケルベロスの肉体に変化が訪れる。
メキメキと音すら立てて筋肉が膨れ上がり、同時に身体の各部分がより攻撃的に引き締まる。
「…あれは?」
その様子を見たタバサが傍らの玲子に尋ねる。
「あれは、多分“パワーブレス”です。攻撃力と命中力を同時に挙げる、ケルベロスの特技(エクストラ)」
「つまり…」
「はい。今ので更にパワーとスピードが増しました」
玲子の背中を冷汗が伝う。いくら頑丈な桜花と言えどもパワーブレスで強化したケルベロスの攻撃を何度も受ければ、危険だ。
「ウォォォォ!」
雄たけびと共にケルベロスが先ほど以上の高速で桜花に迫る。
「た、大変!すぐに回復を!」
大したダメージでは無いとは言え、桜花は先ほどもケルベロスの攻撃を受けている。連続で受ければ、いずれは削りきられる。
「いいえ~。まだ大丈夫ですよ~。それよりも、攻撃した方がいいかも知れません~。長期戦になると、多分こっちが不利ですから~」
桜花が玲子に助言しつつも、真面目な顔でケルベロスの動きを追う。
ここからは全力でいかないと、危険だ。
「来なさい。受け止めてあげます~」
両手を広げ、仁王立ちになる。同時に人魂で玲子とタバサを囲み、盤石の陣形を引く。
「ククク!ヤット本気になったか!」
ケルベロスがニヤリと笑みを浮かべ、桜花に攻撃を仕掛ける。
まるで弾丸のような勢いで、ケルベロスは桜花にぶつかっていく。
「くっ…通しませんよ~!」
勇者の持つ膨大なプラーナを開放し、それを真正面から受け止める。
「はああああああああああああ!」
その言葉に嘘偽りは無く、桜花はトラックの衝突に匹敵するケルベロスの突撃をわずか数cmの後退で完全に止めきった。
「どうです?まだやりますか~?私としては、佐藤くんにも死んで貰いたくないんですけど~」
力を見せつけた上でニッコリ笑い、桜花がケルベロスに言う。その瞬間だった。
「…残念。貴方の負けです。桜花さん」
ケルベロスは“魔獣”の演技を捨てて、“佐藤の声”で桜花に語りかける。
「えっ!?」
その声に反応し、桜花に一瞬だけ隙が生まれる。その隙を、ケルベロスは見逃さない。
「…!レイコ!」
それに反応できたのは、つい昨日“同じ技”を見たばかりの、タバサだけだった。
グァワアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
桜花の耳元に口をよせ、ケルベロスが魂も凍るような咆哮を上げる。
「くはっ!?」
その声に桜花の身体が固まり、その場に崩れ落ちる。
「どうだい?僕のゼロ距離“バインドボイス”の味は?」
金縛りになった桜花を見下ろしながら、ケルベロスは、佐藤の声で嗤った。
*
「く…あ…」
「ああ、気にしなくても桜花さんなら数分で動けるようになると思うよ。ただ、その頃には終わってると思うけど」
動くことも、まともに喋ることもできなくなった桜花に、ケルベロス…否、佐藤は優しく語りかける。
「これが、“魔人”の本領…本能に頼らない人間の“知恵”と圧倒的な悪魔の“力”のコラボレーションって奴さ」
佐藤は油断なく桜花の奥を見据える。
「…やれやれ。予定では全員動けなくしたところで玲子さんを1回“殺し”て桜花さんに退場願うつもりだったんだけどね」
タバサのとっさの判断で金縛りを免れた、2人の魔法使いを。
「まあ、いいや。どの道君たちじゃあ…僕のスピードにはついてこれない!」
地面を蹴り、一気に距離を詰める。桜花が動けるようになる前に、玲子を仕留めんがために。
だが、そんな佐藤の思惑は外される。
「アイスウォール」
「なにっ!?」
突如佐藤の目の前、玲子と佐藤を隔てるように現れた、氷の壁にぶち当たり、勢いを強制的に殺される。
「ウィンディ・アイシクル」
それに一気に畳みかけるように数十本もの氷の矢が現れ、佐藤に降り注ぐ。
「うわっ!?」
とっさにバックステップでかわした地面に次々と氷の矢が突き刺さる。
「…やるじゃないか。こりゃあチェフェイが負けたってのも頷ける」
かわし切れなかった氷の矢が数本突き刺さったまま、佐藤はタバサに話しかける。
「…確かに速いけど、軌道が単純。常にまっすぐ、確実に玲子が死ぬ軌道しか取らないから、予測は容易」
淡々とタバサは佐藤に弱点を告げる。
「予測できるなら、見えなくても対処可能。1回防いで、反撃で倒せばいい」
杖を向けて佐藤に言い放つ。
「レイコを守っているのは、オウカだけじゃない」
そう言うと同時に玲子の耳元に口をよせ玲子に何かをささやく。
「…――…―」
「…」
無言で、こくりと頷いた玲子を見た後、タバサは朗々と詠唱を開始する。
ラグーズ…
「くっ…分かった。良いだろう」
深く沈みこみ、脚にぐっと力を込める。
「先にあんたを、倒してやる!」
そう叫ぶと同時に再びタバサにも追い切れぬ速度で移動を開始した。
ウォータル…
(恐らくは、上か、後ろ…)
他は無い。前からでは防がれることは“学習”させたし、下から地面を掘って突っ込んでくるような芸当が可能なのは“隊長”くらいだ。
タバサは大きな杖を盾のようにして、攻撃に備える。
(怖いのは、一発で“死ぬ”ことだけ…)
頭と心臓。どう考えても即終わってしまう部分だけは死守できるように。
デル…
(…後ろ!)
ドズンッ!
タバサが攻撃の方向を悟った瞬間、タバサの身体が衝撃と浮遊感に包まれる。
「どうだ、これならかわせないだろ!?これで1人目だ!」
百舌の早贄の如く、腹を“貫通”され、タバサが高々と持ち上げられる。その瞬間。
「カハッ…ウィンデ!」
胃から逆流してきた胃液混じりの血と共に最後の一言を無理に吐き出し、呪文を完成させる。
「なにぃ!?攻撃魔法だと!?」
タバサを中心に巻き起こるは、冷気の旋風。
水蒸気が即座に凍る程の強烈な冷気が“タバサごと”佐藤を包み込み、嵐となる。
腕から滴るタバサの血ごと腕が凍りそうになる。口を開ければ内臓をも凍る。
本能的に佐藤はタバサを捨てて縮こまり、口と目を閉じて身を守る。
そうしなければ、死ぬと悟って。
「くぅぅぅぅ…」
(今畳みかけられたら、持ちこたえられない!)
全力でバックステップをして魔法の効果範囲から離れる。まともに喰らい続けたら、後は玲子のブフーラでも十分に死ねる。
それほどのダメージを佐藤は受けていた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
荒く息をつき、言葉を吐き出す。
「まさか、相討ち狙いで来るなんて…」
氷の嵐から逃れたことを確信して、佐藤はゆっくりと目を開き、一気に開き切る。
「そんな…馬鹿な…」
そこには、しっかりと地面に立つタバサの“元気な”姿があった。
「相討ち?私は、そんなことはしない」
先ほど佐藤に貫通され、穴があいたシャツには先ほど噴き出した多量の血がこびりついている。
だが、その下にあるのは、間違いなく“無傷”の白い腹。
「くっ…まさか、あの傷から再生したのか!?」
佐藤の問いに首を横に振る。否定。
「私は人間。そんなさつきみたいな再生能力は持ち合わせていない」
油断なくウィンディ・アイシクルを完成させ、周囲を囲む。
わずかでも佐藤が近付けば、間違いなくそれは容赦なく降り注ぎ…攻撃が届く前に、佐藤は死ぬ。
「私は、治療を受けただけ…」
呟いてタバサは傍らの“治療者”を見る。
「…まさか、完全治療がこうも簡単に出来るとは思わなかったけど」
治療者…宝玉の力を解放し、タバサを即座に癒した玲子の方を。
「攻撃魔法の直後に回復して欲しいって…まさかこれを狙っていたなんて…」
目の前の少女の半ば捨て身とも言える戦術に、玲子は茫然と呟く。
並みの人間じゃあ実行できない。そもそも思いつかないし、思いついても実行する“勇気”が持てない。
だが、それをこの少女はたやすく実行して見せた。そして、勝ったのだ。
「…残念。僕の負けだね」
それを悟った佐藤が、鼻を鳴らして後退…否、撤退を開始する。
「あんたら“外”の人間の強さ、とくと見せてもらった。僕は“尻尾を巻いて”逃げさせてもらうよ。“犬死に”はごめんだ」
ケルベロスの持つ身体能力で持ってあっという間に離れて行く。
「…それじゃ。今度会ったときは僕のサマナーとしての力も見せてあげる…1人で3人に挑むなんて真似は、もうしないよ」
挨拶をすると共に、佐藤は何処かへと去って行った。
「すみません~。私がしっかりして無かったせいで、危ない橋を渡らせてしまいました~」
ようやくバインドボイスから回復した桜花が、本当に申し訳なさそうにタバサに頭を下げる。
「いい。気にしないで」
その言葉に、ふるふると首を振り、タバサが言う。
「これぐらいは、慣れてるから」
多くの修羅場を乗り越えてきた、歴戦の“元北花壇騎士団”の顔で。
「ああ、気にしなくても桜花さんなら数分で動けるようになると思うよ。ただ、その頃には終わってると思うけど」
動くことも、まともに喋ることもできなくなった桜花に、ケルベロス…否、佐藤は優しく語りかける。
「これが、“魔人”の本領…本能に頼らない人間の“知恵”と圧倒的な悪魔の“力”のコラボレーションって奴さ」
佐藤は油断なく桜花の奥を見据える。
「…やれやれ。予定では全員動けなくしたところで玲子さんを1回“殺し”て桜花さんに退場願うつもりだったんだけどね」
タバサのとっさの判断で金縛りを免れた、2人の魔法使いを。
「まあ、いいや。どの道君たちじゃあ…僕のスピードにはついてこれない!」
地面を蹴り、一気に距離を詰める。桜花が動けるようになる前に、玲子を仕留めんがために。
だが、そんな佐藤の思惑は外される。
「アイスウォール」
「なにっ!?」
突如佐藤の目の前、玲子と佐藤を隔てるように現れた、氷の壁にぶち当たり、勢いを強制的に殺される。
「ウィンディ・アイシクル」
それに一気に畳みかけるように数十本もの氷の矢が現れ、佐藤に降り注ぐ。
「うわっ!?」
とっさにバックステップでかわした地面に次々と氷の矢が突き刺さる。
「…やるじゃないか。こりゃあチェフェイが負けたってのも頷ける」
かわし切れなかった氷の矢が数本突き刺さったまま、佐藤はタバサに話しかける。
「…確かに速いけど、軌道が単純。常にまっすぐ、確実に玲子が死ぬ軌道しか取らないから、予測は容易」
淡々とタバサは佐藤に弱点を告げる。
「予測できるなら、見えなくても対処可能。1回防いで、反撃で倒せばいい」
杖を向けて佐藤に言い放つ。
「レイコを守っているのは、オウカだけじゃない」
そう言うと同時に玲子の耳元に口をよせ玲子に何かをささやく。
「…――…―」
「…」
無言で、こくりと頷いた玲子を見た後、タバサは朗々と詠唱を開始する。
ラグーズ…
「くっ…分かった。良いだろう」
深く沈みこみ、脚にぐっと力を込める。
「先にあんたを、倒してやる!」
そう叫ぶと同時に再びタバサにも追い切れぬ速度で移動を開始した。
ウォータル…
(恐らくは、上か、後ろ…)
他は無い。前からでは防がれることは“学習”させたし、下から地面を掘って突っ込んでくるような芸当が可能なのは“隊長”くらいだ。
タバサは大きな杖を盾のようにして、攻撃に備える。
(怖いのは、一発で“死ぬ”ことだけ…)
頭と心臓。どう考えても即終わってしまう部分だけは死守できるように。
デル…
(…後ろ!)
ドズンッ!
タバサが攻撃の方向を悟った瞬間、タバサの身体が衝撃と浮遊感に包まれる。
「どうだ、これならかわせないだろ!?これで1人目だ!」
百舌の早贄の如く、腹を“貫通”され、タバサが高々と持ち上げられる。その瞬間。
「カハッ…ウィンデ!」
胃から逆流してきた胃液混じりの血と共に最後の一言を無理に吐き出し、呪文を完成させる。
「なにぃ!?攻撃魔法だと!?」
タバサを中心に巻き起こるは、冷気の旋風。
水蒸気が即座に凍る程の強烈な冷気が“タバサごと”佐藤を包み込み、嵐となる。
腕から滴るタバサの血ごと腕が凍りそうになる。口を開ければ内臓をも凍る。
本能的に佐藤はタバサを捨てて縮こまり、口と目を閉じて身を守る。
そうしなければ、死ぬと悟って。
「くぅぅぅぅ…」
(今畳みかけられたら、持ちこたえられない!)
全力でバックステップをして魔法の効果範囲から離れる。まともに喰らい続けたら、後は玲子のブフーラでも十分に死ねる。
それほどのダメージを佐藤は受けていた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
荒く息をつき、言葉を吐き出す。
「まさか、相討ち狙いで来るなんて…」
氷の嵐から逃れたことを確信して、佐藤はゆっくりと目を開き、一気に開き切る。
「そんな…馬鹿な…」
そこには、しっかりと地面に立つタバサの“元気な”姿があった。
「相討ち?私は、そんなことはしない」
先ほど佐藤に貫通され、穴があいたシャツには先ほど噴き出した多量の血がこびりついている。
だが、その下にあるのは、間違いなく“無傷”の白い腹。
「くっ…まさか、あの傷から再生したのか!?」
佐藤の問いに首を横に振る。否定。
「私は人間。そんなさつきみたいな再生能力は持ち合わせていない」
油断なくウィンディ・アイシクルを完成させ、周囲を囲む。
わずかでも佐藤が近付けば、間違いなくそれは容赦なく降り注ぎ…攻撃が届く前に、佐藤は死ぬ。
「私は、治療を受けただけ…」
呟いてタバサは傍らの“治療者”を見る。
「…まさか、完全治療がこうも簡単に出来るとは思わなかったけど」
治療者…宝玉の力を解放し、タバサを即座に癒した玲子の方を。
「攻撃魔法の直後に回復して欲しいって…まさかこれを狙っていたなんて…」
目の前の少女の半ば捨て身とも言える戦術に、玲子は茫然と呟く。
並みの人間じゃあ実行できない。そもそも思いつかないし、思いついても実行する“勇気”が持てない。
だが、それをこの少女はたやすく実行して見せた。そして、勝ったのだ。
「…残念。僕の負けだね」
それを悟った佐藤が、鼻を鳴らして後退…否、撤退を開始する。
「あんたら“外”の人間の強さ、とくと見せてもらった。僕は“尻尾を巻いて”逃げさせてもらうよ。“犬死に”はごめんだ」
ケルベロスの持つ身体能力で持ってあっという間に離れて行く。
「…それじゃ。今度会ったときは僕のサマナーとしての力も見せてあげる…1人で3人に挑むなんて真似は、もうしないよ」
挨拶をすると共に、佐藤は何処かへと去って行った。
「すみません~。私がしっかりして無かったせいで、危ない橋を渡らせてしまいました~」
ようやくバインドボイスから回復した桜花が、本当に申し訳なさそうにタバサに頭を下げる。
「いい。気にしないで」
その言葉に、ふるふると首を振り、タバサが言う。
「これぐらいは、慣れてるから」
多くの修羅場を乗り越えてきた、歴戦の“元北花壇騎士団”の顔で。
―――封印の間
再び傲慢界のキャンプと回復の泉でたっぷりと休んだ翌日。
3人は傲慢界で入手した『粗食のリング』を使用する。
次の魔界…飽食界への扉が開き、同時に魔神皇の封印の力が少しだけ弱まる。
「これで~、私の通ってきた道も通れるようになったはずです~」
「じゃあ…」
「はい。学園世界に向かう道ができました~」
玲子の問いに浮かない顔で、桜花が頷く。
「…?どうしたの?」
その顔に怪訝そうに、タバサが問う。
「…心配なんです」
タバサの問いに桜花はごまかしも何も無しに2人に率直に言う。
「前にも話しましたが~、この道は本当に危険なんです。恐らくは~昨日の佐藤さんとの戦い、アレが普通に連発する位。
それにこの編成では~…しかし、無いものねだりをしても始まりません~、一気に抜けます。覚悟して下さいね~?」
真剣な表情で、2人に注意を促す。
「分りました」
「分かった」
2人が頷いたのを確認し、目的地…軽子坂学園の用務員室へと向かう。
用務員室にある、“外”へと繋がるマンホール。かつて、幽閉の塔と呼ばれた場所につながっていたそれこそが、
魔界から学園世界につながる唯一の道の、入口だった。
「いいですか~?重ねて言います。絶対に油断しないでください~。ちょっとの判断ミスが即、死につながる。これから通る道は、そう言う場所です」
暗がりを延々歩きながら、桜花は再三2人に言う。
「一体、どういう場所なんですか?」
玲子が桜花に尋ねる。
「…そう言えば、まだ話してませんでしたね~」
その事に思い当たり、桜花は2人にこれから行く場所について、説明することにする。
「タバサさん、“スクールメイズ”ってご存知ですか~?」
「知ってる。確か輝明学園にある、巨大ダンジョン。許可を得れば、他校の生徒でも、探索が可能と聞いている」
「その通りです~」
タバサの答えににっこりと笑って頷く。
「じゃあ私たちが行こうとしているのは、もしかして、その“スクールメイズ”なんですか?」
「う~ん。その答えは半分当たりで半分外れです~」
玲子の答えには顔をしかめて正解を言う。
「実はですね~…スクールメイズには2つあるんです」
淡々と、解説をする。
「2つ?」
「はい~。1つは輝明学園内にある、学園世界名物の方のスクールメイズ。そしてもう1つは…封印されたスクールメイズ」
出口が近いのだろう。辺りがゆっくりと明るくなる。
「封印された?」
「はい~。かつて、私たち“ウィザード”の総力をあげてもどうしようもなかった“怪物”を純粋に封印するために作られた、巨大な檻。
高レベルのウィザード…柊さんクラスでも表層を抜けるのが精いっぱいってくらいの、超高レベル対応のスクールメイズ…」
出口…否、入口にたどり着き、桜花は後ろを振り返る。
「行きますよ~。ここからが本番です」
後ろからの強い光…“紅色の月の光”をバックに桜花が言う。
「えっ!?なんで地下に月が!?それに…紅い月!?」
玲子が見慣れぬ現象に思わず辺りを見渡し、息を飲む。その部屋にいた、大量の“侵魔”を見て。
「…ここが」
タバサに頷いて、桜花が言う。
「はい~。こここそが輝明学園スクールメイズ“上級”…通称、旧校舎」
辺りに気を配り、戦闘プランを組立てながら、桜花は呟く。
「ようこそ。地獄へ…」
と。
3人は傲慢界で入手した『粗食のリング』を使用する。
次の魔界…飽食界への扉が開き、同時に魔神皇の封印の力が少しだけ弱まる。
「これで~、私の通ってきた道も通れるようになったはずです~」
「じゃあ…」
「はい。学園世界に向かう道ができました~」
玲子の問いに浮かない顔で、桜花が頷く。
「…?どうしたの?」
その顔に怪訝そうに、タバサが問う。
「…心配なんです」
タバサの問いに桜花はごまかしも何も無しに2人に率直に言う。
「前にも話しましたが~、この道は本当に危険なんです。恐らくは~昨日の佐藤さんとの戦い、アレが普通に連発する位。
それにこの編成では~…しかし、無いものねだりをしても始まりません~、一気に抜けます。覚悟して下さいね~?」
真剣な表情で、2人に注意を促す。
「分りました」
「分かった」
2人が頷いたのを確認し、目的地…軽子坂学園の用務員室へと向かう。
用務員室にある、“外”へと繋がるマンホール。かつて、幽閉の塔と呼ばれた場所につながっていたそれこそが、
魔界から学園世界につながる唯一の道の、入口だった。
「いいですか~?重ねて言います。絶対に油断しないでください~。ちょっとの判断ミスが即、死につながる。これから通る道は、そう言う場所です」
暗がりを延々歩きながら、桜花は再三2人に言う。
「一体、どういう場所なんですか?」
玲子が桜花に尋ねる。
「…そう言えば、まだ話してませんでしたね~」
その事に思い当たり、桜花は2人にこれから行く場所について、説明することにする。
「タバサさん、“スクールメイズ”ってご存知ですか~?」
「知ってる。確か輝明学園にある、巨大ダンジョン。許可を得れば、他校の生徒でも、探索が可能と聞いている」
「その通りです~」
タバサの答えににっこりと笑って頷く。
「じゃあ私たちが行こうとしているのは、もしかして、その“スクールメイズ”なんですか?」
「う~ん。その答えは半分当たりで半分外れです~」
玲子の答えには顔をしかめて正解を言う。
「実はですね~…スクールメイズには2つあるんです」
淡々と、解説をする。
「2つ?」
「はい~。1つは輝明学園内にある、学園世界名物の方のスクールメイズ。そしてもう1つは…封印されたスクールメイズ」
出口が近いのだろう。辺りがゆっくりと明るくなる。
「封印された?」
「はい~。かつて、私たち“ウィザード”の総力をあげてもどうしようもなかった“怪物”を純粋に封印するために作られた、巨大な檻。
高レベルのウィザード…柊さんクラスでも表層を抜けるのが精いっぱいってくらいの、超高レベル対応のスクールメイズ…」
出口…否、入口にたどり着き、桜花は後ろを振り返る。
「行きますよ~。ここからが本番です」
後ろからの強い光…“紅色の月の光”をバックに桜花が言う。
「えっ!?なんで地下に月が!?それに…紅い月!?」
玲子が見慣れぬ現象に思わず辺りを見渡し、息を飲む。その部屋にいた、大量の“侵魔”を見て。
「…ここが」
タバサに頷いて、桜花が言う。
「はい~。こここそが輝明学園スクールメイズ“上級”…通称、旧校舎」
辺りに気を配り、戦闘プランを組立てながら、桜花は呟く。
「ようこそ。地獄へ…」
と。