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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第05話04

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だれでも歓迎! 編集
―――キング

『戻ったよ。吹き矢の眠り薬は強めの奴使ったから全員昼までは目を覚まさないはず。これから一旦合流する』
『ナイトチーム、所定位置で待機中です』
『…ビショップ。準備完了』
『ルーク、ポーン。行動を開始する』

「―――皆様、準備が整ったようです」
各チームの報告を受け、茶々丸が自らのマスターにそれを告げる。
「そうか」
居住区に乱立する寮の1つ、その屋上、そこでターゲットがいると言う部屋を眺めながら、エヴァはニヤリと嗤う。
「時間どおりか」
隊長を含めた腕利きを集めたカゲモリの精鋭部隊。
この人数で一度に動くのは不安もあったが、どうやら連携に心配はなさそうだ。
「では始めるぞ…」
そして、エヴァは宣言する。
「狩りをな」
作戦の開始を。

…そして、陰たちは動き出す。静かに、大胆に。


―――学園世界居住区 無人寮

魔人たちの朝はあまり早くない。

10時。
平日の学生の起きる時間としては遅い時間に起き出してきたチャーリーが眠そうにしながら手を挙げる。
「…うーす」
「チャーリー。遅いよ」
それに派手な見た目に似合わず真面目なところのあるユミは眉をひそめる。
「んだよ。いいだろ?ど~せ俺らにはガッコ無いんだし、毎日が休みみてえなもんだろ?」
彼らは学校に通わなくなってからはもう4ヶ月経つし、魔神皇に命じられた仕事もこの時間には出来ない。
(彼らが学園世界に来た当初、玲子がいると言う輝明学園に送り込んでみた悪魔はものの数分で発見された揚句に、抵抗しようとして倒され、送り込むだけ無駄と言う結論が出た)
そんなわけで玲子が学校から出てくるまでの間、彼ら魔人は何処にでもいる若者のような暮らしをしていた。
「あん?」
眠そうだったチャーリーはそれを見咎めて、由美に尋ねる。
「何やってんだ?」
「さあ?何か魔人皇のところで研究してた奴を使うって…」
困惑気味に話す2人に気づき、熱心にアームターミナルをいじっていた佐藤が言う。
「ああ、僕らも『守り』を固めておかないとって思ってね」
「守り…だぁ?」
「うん。僕らが相手にしてる"カゲモリ"って連中は、僕らが思ってた以上に厄介な連中みたいだ。
 今までは僕らが人間より遙かに強い"魔人"だからって油断してたところがあったと思う」
昨晩の出来事を思い出し、佐藤はわずかに身震いする。
「んだよ…ブルってんのかよ?ダセエ」
そんな佐藤の震えをチャーリーは嘲笑する。
「こんな身体にされちまったことは気に食わねえけどよ、俺らが人間より遙かにつええのは事実だろ?
 大体よぉ、あの魔神皇だって魔人に1回"ぶっ殺された"んだぜ?」
かつて、自らを打ち破り、殺して見せた魔人と悪魔召喚師…サマナー。この2つを魔神皇は恐れ、それゆえに重用している。
「…ああ、そうだ。だからこそなんだ」
そんな、チャーリーの指摘に佐藤は頷き続ける。
「打てる手は打っておかないと」
そう言って再び準備にかかったその時だった。

バリィン!

何かの突撃を受けて、窓のガラスがはじけ飛ぶ。
「なんだぁ…!?」
その音に気づき、外を見たチャーリーが息を飲む。
「あれは…竜族!?」
ユミも驚いて声を上げる。魔界でも滅多に見られない種族である"竜"が覗きこんでいることに。
「あれは…」
佐藤は竜には驚かない。それよりも驚くべきものを見たから。
「あの時の…!?」
竜に乗った、大きな杖を持った小柄な少女。その青い髪とメガネは見間違えようも無い。
「伏せろ!」
慌てて2人に言った瞬間。
寮の部屋を、氷の矢の嵐が蹂躙した。


―――ビショップ

時は、数分だけさかのぼる。
『では始めるか…狩りをな』
エヴァの合図を受けて、タバサは行動を開始する。
「シルフィード」
人気のなくなった寮の屋上に出て、ついてきた自らの使い魔…一糸まとわぬ人の姿を取ったシルフィードに声をかける。
「了解なのね!きゅい!」
一声鳴き、次の瞬間、先住魔法を解いたシルフィードが本来の姿、身の丈6mの風韻竜の姿へと戻る。
「…静かに近づいて」
その上に乗り、タバサはターゲットのいる無人寮を指さす。
「分かったのね!」
シルフィードが1度だけ羽ばたいたあとは翼を動かさず、滑るように空をかける。
(このスピードなら数秒)
その身に風を受けながら、タバサはごく小さな声で詠唱する。
たどり着いた瞬間に、発動するように計算しながら。
「…ウィンディ・アイシクル」
果たしてシルフィードがその場所に到達し、尻尾で窓を破壊するのとタバサが呪文を完成させるのは同時だった。
タバサの氷の矢が部屋に一気に叩き込まれる。その数はざっと数十発。マシンガンのように部屋に飛び込んで部屋を破壊する。
「…行って」
きゅい!
魔法を叩き込んで、中にいた男の1人…髪を金色に染めた男が怒りに燃えて立ち上がるのを確認し、タバサはシルフィードに指示を出す。
「てめえ!待ちやがれ!」
怒りを迸らせ、人間離れした脚力で追ってくるその男を、追いつかれないように、同時に見失わせないようにタバサは冷静に"誘導"する。
『いいか、1チームで倒せるなんて考えるなよ。必ず2チーム以上で戦え』
それが、指揮を務めるエヴァからの指示だったから。

―――ナイト

「追い詰めたぜ!」
開けた広場に出たところで、地面に降り立ったシルフィードにチャーリーが吠える。
シルフィードがこちらを向く。その上には先ほど青い髪の小さな少女…タバサ。
「てめえらが…カゲモリとか言う連中か」
その姿を見ても、チャーリーは油断しない。悪魔がそうだった。見た目と力は比例するとは限らない。
「たかが2匹で挑んできたこと…後悔させてやるぜ!」
そう言ったチャーリーの肌が紫へと変わる。魔人としての本領…"悪魔の力"を開放した証として。
「…ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ!」
チャーリーの背後の路地裏から物音1つ立てずに出てきた2人の姿を視線を向けずに確認しながらタバサははっきりと呪文を詠唱し、作り出した"ジャベリン"を解き放つ。
「…っは!当たるかよ!」
チャーリーが余裕の表情でバックステップでかわした瞬間だった。
「ぐわっ!?」
背中から刺し込まれた痛みと、鋭い刃物で斬られた痛みに顔をしかめる。
とっさに距離を取って、悔しそうに言う。
「待ち伏せ…だと…」
そこに立っているのは、急所を刺し貫いた細剣の血を振り落とす黒髪お下げの少女と、日本刀を油断なく構えるあまり特徴のない少年。
「…しぶといわね」
「エヴァさんの読み通り、魔王級の相手みたいですね」
人間…否、並の悪魔なら確実に死んでいるであろう2人の一撃を受けてなお致命傷には程遠い様子のチャーリーを、ナイトチーム…一狼とライズが油断なく見据える。
「クソったれ…弱いくせに、群れやがって…」
「逆」
怒りのままにチャーリーが呟いた言葉に、タバサが首を振る。
「弱いから、協力しあう」
そう、それが負けることを許されぬ、カゲモリの戦い方なのだから。


―――ルーク

ターゲットのいる寮から離れた、同じ階の一室。
「…部屋に残ったのは2人か」
その部屋の窓際で銃を構え、ターゲットの様子をうかがいつつ玲二が言う。
玲二が手にした武器はM-16A2。突撃銃とも呼ばれるこの銃の有効射程はおよそ300m。
ちょうどここからターゲットまでの距離。
「一応言っとくが…多分倒せない」
この学園世界に来てからの"常識"に照らし合わせ、玲二が冷静にその事を告げる。
それは玲二の元いた世界の常識ではありえないことだった。
5.56mmのフルオート。その威力の前ではちゃちな障害物など紙くず同然。
だが、それは玲二の世界の常識…"人を殺す"ときの常識に過ぎない。
この世界には銃弾を弾き返したりたとえ眉間に風穴が開いても死なない"化け物"がごろごろいる。
それ故に当てれば死ぬと言う発想は非常に危険。そんな、今までに学んだ教訓が玲二にアサルトライフルを選ばせた。
この世界の"化け物"を殺そうと思うなら、遠くからの1発では無く、動かなくなるまで削り切る"連射"が事が必要となる。
「仕留めることもおびき寄せることもできなかった場合は、斎堂たちと合流する。そのつもりでいてくれ」
静かに照準を合わせながら、玲二が宣言する。
「分かったわ」
エレンは気負いも何もなく、まっすぐに玲二の横顔を見て言う。
2年間、玲二と共に歩んできた彼女の心に宿るのは、ただ1つの意思。
何があっても、何を犠牲にしても目の前の男を守り抜くと言う、ただ1つの誓い。
その誓いがある限り、エレンは折れない。
「了解です~」
桜花がいつもの間延びした声で答える。
生前も、死後も数多くの戦いと修羅場を越えてきた、歴戦の"勇者"である彼女に、恐れはない。
ここにいる皆を守り抜いて、勝つ。それ以外のことは考えない。そして。
「…はい」
玲子が最後に頷く。緊張と恐怖、そして迷いで顔を青くしながら。
(…やはり、相手が相手、か)
そんな様子の玲子に、玲二は内心で思う。
玲子は戦闘経験自体は魔界で積んでいる。実戦は初めてではない。問題は別にある。
(エヴァも酷いことをする)
今回の"敵"…魔人たちが玲子の元仲間だと言う話を玲二がエヴァから聞かされたのは、昨日。
それを聞いた時は思わず本気かと聞き返した玲二へのエヴァの答えは…
『…言っただろう。頭と"覚悟"があるか試すと。魔神皇と殺しあうなら遅かれ早かれぶつかることになる。
 …何も玲子に殺せとは言わん。お前らの足を引っ張らずに動ければ合格にしてやるさ』
(だからって、わざわざ玲子にやらせるか?)
玲二自身リズィやクロウディア、後はありえないがキャルを自らの手で殺すことになったら正直まともに動ける自信が無い。
…対象があの腐れ蛇野郎だったら躊躇も何もなく殺せるが。
「…なあ、玲子」
そんな考えを振り払い、玲二は玲子に言う。
「な、なんですか?」
「…安心しろ。今回は俺たちも…"幽霊"もついてる」
幽霊…その言葉にエレンがピクリと反応する。
「…そうですね。桜花さんもみんなもいます」
(そうだ…私は一人じゃない)
組織1位と2位の銃の使い手と、玲子を守る守護霊。これ以上に頼もしい仲間はそうは無い。
その事を思い出した玲子がふぅ…と息を吐く。心が落ち着き、緊張が解ける。
「守るのは桜花、お前に任せる。だから俺は…」
自分が守るなんてことは言えない…それは過去に2回失敗しているから。
「全力で、敵を倒す」
玲子が血に染まる前に、自分が自らの手を血で染める。玲子にやらせるよりは、よっぽどいい。
「…立ちあがったか」
スコープの先の相手が"狙える状態"になったのを確認し、焦らず玲二はゆっくりと狙いを定める。
(…人の姿か…やりにくいな)
そんな内心の思いは口には出さない。玲子に不安を与えるから。そして。
ズガガガガガッ
無慈悲な"2番目"だった時のように、絞るように引き金を引いた。


―――無人学生寮

「…まずいな」
チャーリーが飛び出して行ったことに、伏せの体勢を取ったまま、佐藤は顔をしかめる。
「どういうこと?」
佐藤にユミがたずねる。
「分断された」
立ち上がりつつ、佐藤が簡単に説明する。
「きちんとした連携さえできれば、強力な悪魔が相手でも勝てる。それはユミも知ってるだろう?」
「…ああ。そうだね」
同じく立ち上がったユミが頷く。かつて、4人、桜花が加わって5人で戦っていた頃、そのことは嫌ってほど学んだ。
非力な人間が悪魔に勝つには、協力して『頭』を使うしか、無い。
「…そう、僕らは勘違いをしていたんだ。今、僕らが戦っているのは…」
佐藤の、ケルベロスと合体してから大幅に強化された感覚がそれをとらえる。
ここからかなり離れたところから漂う、嫌な気配。
「っく!?」
とっさに獣の姿となりユミとアームターミナルを蔽うようにして立つ。
ユミならばくらっても平気だろうが、どうせくらうなら、1人の方がいい。
「…っぐう!?」
背中や頭に次々と刺さる、強い痛みに佐藤は顔をしかめながら、佐藤はユミを抱えて部屋を飛び出す。
流石にコンクリート製の壁を撃ち抜くほどの力は無いらしく、佐藤たちが飛び出すと同時に銃撃がやむ。
「だ、大丈夫かい!?メディアラハン!」
慌ててユミが回復魔法を佐藤に使い、佐藤の傷を癒す。
「…ありがとう。これで分かっただろ?」
ユミの魔法に感謝したあと、佐藤は先ほどの話を続ける。
「僕らが戦っているのは…『人間』だ。強いけど、それだけじゃない。力を合わせ、策略をめぐらし、強い悪魔が相手でも戦うことができる。そう言う連中なんだ…」
それは人間より遙かに強い力を持つ悪魔には無い戦い方。
そんな悪魔たちとの戦いを行ってきた元は人間である魔人たちにとって戦術を巡らせる『頭』で上回るカゲモリは、未知の相手であった。
「人間…待って、と言うことは」
その意味を飲み込んだユミの顔が曇る。
「ああ、多分今頃はチャーリーも苦戦しているはずだ…」
佐藤がユミの言わんとしていることを理解して頷く。
チャーリーは佐藤よりも遙かに強い悪魔…最強の種族たる"魔王"の一柱と合体した魔人だ。その強さは文字通りの意味で魔王に匹敵する。
カゲモリとてそう簡単に倒せるような相手では無い。だが。
「向こうもそれは分かってるはず。だからこそ、こうして分断して来たんだ」
おびき出された以上その先には罠なり待ち伏せなりがあるだろう。数で押されれば、いかに魔人と言えども苦戦は免れない。
「じゃあ、すぐにチャーリーと合流しないといけないってこと?」
ユミの問いかけに佐藤は首を振る。
「いや、チャーリーがどこに行ったか分からない。それに、僕たちを攻撃してきた連中がいる。探している間に間違いなく襲われるよ」
危険な状態だからこそ、佐藤は冷静に考える。何とかして相手を出し抜かなければ、勝機は無い。
「じゃあ、どうするのさ」
「これを使う」
ユミの問いかけに、佐藤はその腕に付けられたアームターミナルをさらす。
「魔人皇のところで作らされたプログラム。桜花さんをこっちに送り出した時に使った奴を改造したんだ」
先ほどまでの改造のお陰で、短時間なら佐藤のアームターミナルでも動かせる。その効果は…
「この辺一帯を"魔界"に繋ぐ。完成したのは桜花さんと玲子さんが逃げたあとだし、悪魔が出現するようになるから混乱させられるはずだ。
 膨大なマグネタイトが必要だから、僕のマシン内のマグネタイトじゃあ精々1時間ってところだけど、それでも逃げ出すなり戦うなりするには十分だ」
そして、佐藤はそれ…『魔界召喚プログラム』を起動させ、同時に悪魔を召喚する。
「…行け」
手元にベストメンバーを残し、佐藤は自らの仲魔たちを解き放った。


―――ポーン

「…出てくる気配は無いな。移動しよう」
玲二がライフルのマガジンを慣れた手つきで交換しながら、3人に言う。
「あの…」
いきなりの銃撃の後も冷静さを保ったままの玲二に玲子がおずおずと尋ねる。
「なんだ?」
「今回の"敵"って…やっぱり…」
「…ああ」
歯切れの悪い玲子に、玲二は無表情に頷く。
「魔人が3人…多分全員が玲子の元仲間だ」
隠せば返って対峙した時に余計な動揺を与えるだけ。ショックを受けても大丈夫なタイミングは、今しか無い。
玲子の目が大きく見開かれ、ついで息をのむ。
「…このまま、戦うか?時間がない。今決めてくれ」
強制するつもりはない。むしろ、断って普通の学生として暮らしてくれる方が、ありがたいとすら思う。
それが、玲子の教育係であった玲二の、偽らざる考えだった。
そして、その場に沈黙が訪れる。全員が真剣な表情で玲子を見る。そして―――
「…やります」
玲子がただ一言、言う。
「…いいんだな?」
溜息をつき、玲二が確認する。
「はい。私は、最後まで見届けなくちゃいけない。ここで逃げるわけには、いかないんです」
その目には、確かな決意が宿っていた。例えどんな結末でも、最後まで見届けると言う決意。
「分かった」
玲子の顔を見て、玲二もまた、決意する。玲子を…一人前として扱うことを。
「十分気をつけて…!?」
そして、歩きだそうとしたその時だった。
「…なに?」
なんとも言えぬ奇妙な違和感を感じたエレンが、一言だけ言葉を発する。
「これは~!?」
桜花はその慣れ親しんだ感覚に桜花が驚きの声を上げる。
「この空気、異界化…いや、魔界?」
玲子がその違和感の正体をつかむ。
「…分断されたと言うことか」
外を見た玲二がその光景に冷静さを取り戻す。
外に広がるのは、寮の立ち並ぶ煉瓦の道…それだけならば先ほどと変わらない。
だが、先ほどまで見えていたゴール…ターゲットのいる寮は見えなくなり、更に道は奇妙なほどに入り組んだものとなっている。そして。
ぎゃあぎゃあ!
空には不快な鳴き声を上げる人面鳥が飛びかい、地は多種多様な異形が這いまわる。
路地の暗がりにはいくつもの怪しげな瞳が輝き、何かが息をひそめて佇んでいる。
「これは…?」
エレンが茫然と呟く。
「こいつが魔界って奴か…」
常識ではありえぬが、かつて見た侵魔の月匣とやらによく似た光景に、玲二はかえって冷静になる。
「ここから先は…向こうのターンと言うことですね~」
気負わず、されど緊張感をにじませながら、桜花が呟いた。


―――クイーン

「魔法による異次元空間の形成…いや、異世界の強制結合と言ったところか」
異様な気配に包まれ、さながらダンジョンと化した下を見ながらエヴァは分析する。
「マスター。魔力異常により通信障害が発生しました。他チームとは交信不能です」
「分断された…か」
相手もどうやら少しは出来るらしい。エヴァは不敵に嗤う。
「向うも隠し球の1つや2つ用意する知恵はあると言うことだな」
ピンチであるこの状況。だが、これぐらいの修羅場なら、数え切れないほどくぐりぬけているエヴァに焦りは無い。
「いいだろう。そう来るならば…」
シュバッ
エヴァの傍らに突如現れた"気配"に目を向け、エヴァが言う。
「マモル。お前は敵の斥候…怪しい動きをしている悪魔をつぶせ。終わったらこっちと合流…判断はお前に任せる」
漆黒の戦闘装束を身にまとい、エヴァの指示をあおぎに来たマモルに指示を出す。
「それは構わないけど、いいのか?」
「ああ。連絡もままならん以上、下手に命令するよりお前の判断に頼った方がマシだ。それに、元々お前は単独で動く方が得意だろう?」
「…分かった。行くぞぶる丸」
ばう!
傍らにいたぶる丸が一声鳴くと同時にマモルが姿を消す。
「さてと、こちらは…」
空を見上げる。
きゃっ!?
空からじっと様子をうかがっていた腕が翼となった女が慌てて逃げ出す。
「捕捉されたか」
今、エヴァが使える魔力はタバサと同等程度。正直茶々丸と2人だけで魔人と殺しあうのは少し骨が折れる。
「移動する。ルークと合流だ。大体の位置は分かるな?」
「了解しました。失礼しますマスター」
茶々丸がこくりと頷き、エヴァを抱き上げる。
「さて、ここからが本番、と言ったところか」
これから始まる戦いに思いを馳せ、エヴァが呟くと同時に、エヴァを抱きかかえた茶々丸が移動を開始した。


―――無人学生寮

―――ここから西に行った広場でチャーリーを発見。現在人間3人と竜を相手に交戦中。戦況は5分5分
―――黒い服を着た男をはっけ(ここで交信が途切れる)
―――玲子と桜花を発見。銃で武装した男と女が一緒(ここまで報告したところで銃撃され死亡)
―――悪魔の気配を持つ、人形を連れた10歳くらいの女の子がいた。多分こいつがボスだと思う。
―――気絶中。交信不能

「…参ったな。例の黒い男もいるのか…」
放った斥候は全部で5体。そのうちの1体が死に、2体が殺すこと無く"無力化"されている。この調子だとすぐに斥候は使えなくなるだろう。
「とはいえ、大体状況は分かった」
敵は玲子を入れて全部で11。例の"黒い男"が未知数すぎて厄介だが、他は魔人ほどには強くなさそうだ。
「それで、どうするんだい?チャーリー助けに行く?」
ユミの提案に佐藤は首を振る。
「いや、今無理に合流しようとすると危険だ」
「じゃあ、どうするんだい?言っとくけど、チャーリー見捨てるってのは無しだよ」
苛立った声でユミが言う。軽子坂学園のみんなを助けるために戦ってきたユミに取って、仲間を見捨ててのうのうと生き残ると言う選択肢はあり得ない。
「そうだな…」
佐藤は考える。生き残るための方策を。
一番簡単なのはすぐに魔界へ逃げることだ。玲子を捕まえて魔界に連れ戻すための帰還用の装備は渡されている。
だが、ロクに情報も持ち帰れずにおめおめと尻尾を巻いて逃げれば佐藤たちの立場は最悪になる。
そうなれば、結局佐藤たちに明日は無い。それを防ぐには…
「僕ら2人で、玲子さんを捕まえるしかないと思う。玲子さんを捕まえた後、チャーリーと一緒に撤退すれば、最低限の任務は果たしたことになる」
淡々と佐藤は自らの結論を告げる。それにユミは溜息をついて答える。
「―――それはそれで難しいよ?玲子には桜花さんがついてるし、それに、何か別の護衛もついてるらしいじゃないか?」
玲子と一緒にいる"銃を持った男女"とやらの強さは未知数だが、この場にいる以上決して弱くは無いはずだ。
桜花だけでも厄介だと言うのに、更に他の奴を相手にするのは難しいだろう。
「ああ、だから、ちょっとした作戦で攻める。ユミさん、手伝ってくれ」
そして、佐藤は説明を始める。自らの作戦を。

…数分後

「…分かった。任せときな」
そう言い残し、ユミは佐藤に背を向けて力を入れる。
ビリィ!
服を裂いて、ユミの魔人たる証…2枚の"女神の翼"が背中から飛び出す。
「…くれぐれも、無茶はするなよ。アタシら全員が生き残るのが、当面の目的なんだから」
言い残し、ユミは飛び立つ。玲子たちの方へ向かって。
「…無茶はするな、か…」
1人残された佐藤が呟く。
「ごめん。それは無理だ」
その心に、2人にすら明かさぬ、静かな決意を込めて。
「僕は、許せない。悪魔や人間を玩具みたいにする、アイツのことが」
魔人…魔神皇に逆らう事を許されぬ身となった今となっては果たせぬ、この願い。
「だから…僕はそのためならなんだって利用する。敵だろうと、仲間だろうと…」
怖いけど、方法は他にはない。
「…自分の命だろうとね」
そのために、今まで生きて来たのだから。


―――居住区

ガガガガガッ
パン!パン!
ひっきりなし続く銃声。それが響き渡るたびに、玲子たちに襲いかかってきた悪魔たちが物言わぬ緑の液体へとなり果てる。
「…強い」
「私たち、出番ありませんね~」
玲子と桜花がそれを為している者たち…吾妻兄妹を見ながら言う。
玲二と、エレン。2人共に人間の限界近いところまで鍛え抜かれているものの、
彼らにはさつきのような怪力や一狼のような素早さ、玲子のような魔法の技…人間離れした能力は無い。
2人の最大の武器は、抜群のコンビネーション。玲二が的確に相手を選んで攻撃し、エレンが玲二の心を読んだかのようにサポートする。
無駄が一切ない2人の動きに、悪魔たちはたやすく制圧されていく。
2人に恐れを為して、襲ってくる敵がいなくなったところで玲二が後ろを向く。
「大丈夫か?玲子」
玲子の無事を確認する。
「…はい」
「って言うか~強すぎですよ~」
「そんなことはないさ」
桜花の言葉に、玲二は真顔のまま答える。それにエレンが頷いて続ける。
「訓練を受けていない上に"撃てば死ぬ"程度の相手だから、何とかなっている。それだけよ」
「元々大勢を相手に不意打ちするのには慣れてるからな」
2人の戦闘スタイルはとにかく"攻める"方に向いている。如何に早く護衛に守られた"ターゲット"を殺した上で生きて帰るか…そんな、"暗殺"の技を追求してきた結果だ。
「だから…」
目の端でそれをとらえた玲二がすっと銃を向けて引き金を引く。
ガガガガガ…バスバスバスバスッ!
その銃弾を翼を盾代わりに強引に突破して飛びこんでくるのは、1人の女。先ほど、スコープ越しに見た顔に、玲二は確信する。
「…銃弾喰らっても死なない"魔人"なんかの相手には、あまり向いていない」
油断なく銃を女に向け、打ちつくしたマガジンを交換しながら、玲二が言った。

バサリと、銃弾を受けて血がにじんだを広げ、女が姿を見せる。
茶色に染められた髪に、着崩されたブレザーとスカートの制服。背中から翼が生えていなければ、どこにでも居そうな普通の女子高生。
「…由美さん」
あの頃とまるで変わらないその姿に、玲子は悲しげにその名前を口にする。
「…久し振りだね。玲子、桜花」
歯切れ悪く、ユミが応じる。
「その姿、やっぱり~」
「ああ、そうさ」
桜花の問いに頷いて、答える。
「佐藤だけじゃない。アタシとチャーリーも、魔神皇の手で魔人にさせられた。ご丁寧に逆らえないように呪いつき。魔神皇に定められた"ルール"に反すれば、呪いで死ぬ」
ばさりと翼を鳴らす。もはや自らの新たな手のように自在に動かせるようになった、それを。
「それに、アタシだけじゃない。アタシが死んだらまだ生きている2-Dの…アタシのクラスのみんなも殺す。そう、魔神皇に言われてんだ」
すぅっと息を吸い込む。これからやろうとしていることへの、決意のために。
「…そんなわけだからさ、手は抜けないよ。だから…」
玲子に告げる。別れの言葉の代わりに。
「死にたくなけりゃ、アタシをぶっ殺すんだね」
闘いの、始まりを。


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