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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第01話

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吸血鬼が多すぎる

 学園が現れた。

 背の低い草が青々と生い茂り、小さく可憐な花が咲くのどかな草原に、突然近代的な建物が現れた。
 塀に囲まれた敷地には複数の校舎と施設が立っている。中にはチャペルも存在し、この学園がミッション系のスクールであることを教えている。
 校舎の中の一つ、高等部校舎の一室に一人の少女がいた。
 年の頃は10歳前後。幼い肢体を藤色のブレザーと白のYシャツ、校章入りのネクタイに紺のプリーツスカートという制服に包み、夜明けの空のような薄紫色の髪をリボンで二つに分けている。
 少女は腕組みをして窓の前に立っていた。可愛らしくも美しい顔(かんばせ)を僅かに曇らせ、外を睨んでいる。
 ガラスの外に広がる空はどこまでも青い。ほんの数刻前まで低く垂れ込めていた灰色の雲はどこにも見当たらない。それどころか、空の高さが違う。気温が違う。季節が違う。
 冬の東京の、乾いて凍えた空気はどこにもない。ここは彼女の知らない世界───そう、異世界なのだ。

 不意にノックの音がした。両開きの大きな木製のドア。その向こうの見知った気配は、少女の返事を待たずに扉を開けた。
「どうじゃった?」
 振り向きもせずに少女が問う。部屋へと入ってきたのは長身の少年だった。
 年齢は16、7といったところか。少女と同じく制服を身に纏い、針金のような黒髪は大雑把にしか整えられておらずボサボサ。しかしそれが少年のワイルドな容貌に合っていて、不思議と不恰好には見えない。
「見渡す限りの原っぱさ。とりあえず危険はなさそうだ」
 少年は冷静にそう言った。『こちら』に着いてすぐ、少年は少女の命令で外の様子を探りに出ていた。
「人間が住んでるな。そう遠くない所に街がある」
 努めて冷静であろうとする少年の様子に、少女は漂わせていた憂鬱を引っ込めてこっそりと微笑した。
 おそらく内心では現在置かれている状況に困惑しているだろう。それを隠して澄まして見せる彼を愛しく思いつつ、少女は労いの言葉をかけた。
「そうか。アキラ、ご苦労じゃったな」
 少年───アキラは、ソファにどっかと腰を下ろし報告を続ける。
「ガソリンの臭いがしたし、知ってる食い物の臭いもした。多少嗅ぎ慣れない臭いもあったけど、俺たちの世界と同じような文明があるのは間違いない」
「ふむ……。とすると、ここはまるっきりの異世界というわけではなさそうじゃな」
「学校ごと異世界に飛ばされたって? マンガやアニメじゃあるまいし、そんなことあるかよ」
「では、この状況をどう説明するのじゃ? 海沿いに建てられた学園が、今は草原の上じゃ。妾たちの知らぬ不思議な力で何処かに飛ばされたとしか考えられまい。
 まだここが地球上なら、過去や未来に飛ばされたのであっても生き残る術もあろうが……さて、分かりやすく怪物でも襲ってこぬものかのぅ」
「縁起でもないこと言うなよ。ところで、由紀と会長は?」
「二人には教師やシスターたちとの連絡役を頼んだ。なにせ内線も通じぬのでな。今ごろ二人とも学園中を走り回っておるじゃろう」
 少女は窓から離れ、アキラの隣りに座った。とそこへ、バン! と大きな音を立ててドアが開き、人影が踊り込んできた。
 アキラが咄嗟に少女を背後に庇い、人影と対峙する。が、すぐにそれが二人の良く知る人物だと分かり、駆け寄った。

「由紀!」
「どうした、何事か起こったのかえ?」
 ここまで全力疾走してきたのだろう、由紀と呼ばれた少女は顎の線で切り揃えられた艶やかな黒髪を振り乱し、息を切らしながら少女に近寄る。
「ひ……姫さま……!」
「落ち着け、由紀。その様では報告にならん」
 少女はテーブルに置いてあった水差しからコップに水を注ぎ由紀に手渡す。由紀はそれを一息であおり、深呼吸をしてから少女に向き合った。
「いま、校門の前に『この世界の統括機関からの使いだ』って名乗る人が……」
 由紀の口から出た言葉に、少女は面白そうに目を細める。
「ほぅ……怪物ではなく人間、襲撃ではなく話し合いときたか。平和的でなによりじゃな」
「どうだか。怪物より人間の方が厄介かもしれないぜ」
 少女とは反対に、アキラは警戒心を剥き出しにして鼻をひくつかせる。
「そうじゃな。だが、まず会ってみなくてはの。由紀、その使いとやらは今どうしておる?」
「今は会長が側に付いて、校門の外で待ってもらってるわ。なにかあったとき自分の方が対処できるから、って……」
「なに? ななみめ、余計な気をまわしおって……。この天気では遮光ジェルもそう持たぬ。早く呼び戻してやらねば」
 少女は心配げな表情で窓の外を見た。由紀はその背中に戸惑いの視線を投げ掛ける。
「待って、姫さま。……本当に、会うの?」
「当然。今は少しでもこの世界についての情報が欲しい。その情報が自ら飛び込んで来たのじゃ。これを活用せぬ手はない」
 少女は一切迷うことなく答えた。それどころか、腕組みをして不敵に笑う。
 対照的に、由紀は不安げな顔でうつむいた。
「でも、危ないよ。向こうが何を考えてるのか分からないし、姫さまにもしものことがあったりしたら……」 
「案ずるな」
 少女の明朗な声が由紀の逡巡を断った。
「妾たちも、学園も、アキラが守ってくれる。のう、アキラ?」
 少女は隣に立つアキラの腕を引き、彼の顔を見上げた。その視線に込められた全幅の信頼に、アキラは渋面を作ってそっぽを向く。
「……俺はそんなに大きな男じゃないぜ」
「大丈夫じゃ。お主は妾だけを守っておればよい。学園は妾が背負おう。そうすれば、結果的に学園を守ることにもなるであろ?」
「そういう言葉遊びをしてるんじゃねえよ!」
「なんじゃ、照れておるのか? ふふっ、愛い奴じゃのぅ」
「て、照れてなんかねーよっ!」
 二人の微笑ましい様子に、由紀はついつい口元を綻ばせる。少女は横目にそれを見て一瞬安堵したような顔をすると、すぐに真顔になって由紀に向き直った。
「では由紀。その使者とやらをここへ連れて参れ」
「……はい」
「少し急いでな。ななみのことが心配じゃ」
「はい!」
 しっかりとした声で返事をして、由紀は小走りで部屋を出て行った。

「いいのかよ、由紀だけで行かせて。俺も行った方が……」
「わざわざ使者を名乗って代表者との面会を求めておるのじゃ、手荒な真似はすまいよ」
 部屋にはまた二人きり。少女はそっとアキラの手を取り、握った。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
 気丈に振舞ってはいるが、その実、少女も緊張していた。あらゆる苦難に晒されてきた彼女の生の中でも、このような事態は初めてだった。
 そしてなにより、彼女には責任があった。学園を、より大きな共同体を背負う者としての責任が。
 湧き上がる焦燥感に胸を焼かれそうになったその時、強く手を握り返されて、少女はハッとアキラの顔を見た。
「……大丈夫だ。姫さんのことは、オレが守る」
「───ああ。信じておるとも」
 ぎこちない微笑みと力強い掌───アキラの不器用な優しさに触れて、少女は肩の力を少しだけ抜いた。 


 ***


 由紀が部屋を出て行ってから数分後、再びノックの音が響いた。
「入れ」
 短く答えると、ゆっくりとドアが開いた。
「使者の方をお連れいたしました」
 まず部屋に入ってきたのは、栗色の髪を腰まで伸ばし、縁無しの眼鏡を掛けた知的な容貌の少女だった。その後ろに見知らぬ少女───あれが使者だろう───が、さらに後ろに由紀が続く。
「うむ。ななみ、ご苦労であった」
 少女は大きな木製の執務机を前に、革張りの立派なイスに腰掛けて一同を迎えた。
 ななみは緊張した面持ちで少女に一礼する。主を前にして緊張しているのではない。ななみの意識は背後にいる使者に向いていた。
 ななみは眼差しで少女に警戒を訴える。少女が鷹揚に頷いて了解の意を伝えると、ななみは脇へと下がった。そこでようやく使者の姿がはっきりと目に入った。
「お目にかかれて光栄であります」
 使者はスカートの裾をつまんで優雅に礼をした。
 いわゆるゴシックロリータファッションに身を包み、銀糸の髪を二つに結んだ、およそ使者という言葉が似つかわしくない美少女がそこにいた。
「わたくし、極上生徒会からの使者として参りました、ノーチェと申す者であります」
 使者は取り澄ました様子で名乗った。ルビーのように紅い瞳を細め、にこりと微笑む。その口元にちらりと覗いた、鋭い牙───。
 なるほど、と少女は内心で一人ごちた。由紀とななみが強く警戒している理由が分かった。後ろに控えるアキラが臨戦態勢に入っている。
 少女は軽く手をかざしてアキラを制すると、ニヤリと笑った。
(───おもしろい)
 どこへ行こうとも、運命は追いかけてくるらしい。ならば、いっそ───。
「よく参られた、ノーチェ殿。妾はミナ・ツェペッシュ。この学園の理事長であり───」
 いっそ───踊ろう。
「───漆黒の夜闇を統べる、ヴァンパイアの王じゃ───」


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