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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第22話

最終更新:

nwxss

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 激情の紅に燃えて、消え失せる。
 闇と共に運命が灼けて崩れていく。
 何もかもが赤く染まっていくひかりの中で、ただ一人漆黒の少女は呆然とその光景を見つめている事しかできなかった。
 知らず、手にしていた書物を固く抱き締める。
 その存在を、そこに記された記述を、絶対のはずの運命を。
 確かめるように――それに縋りつくように、強く強く書物を抱き締めた。
 無数の未来と運命から手繰り寄せたはずの結末。
 記述により導かれた道程を経た唯一つの結末。
 書にはそれ以外の結末など存在しない。
 しかし目の前に映る結末は、間違いなく現実だった。

 白銀の髪の少女を震わせた赤い極光は、しかし漆黒の髪の少女には忘我しか齎さなかった。
 そのひかりが残光と共に掠れて消えていく。
 それと同時に、漆黒の少女の胸中に小さく灯る火が生まれた。
 少女は苛立たしげに唇を噛む。
 それを認めるわけにはいかないと思うと同時に、燻る灯火は更に強く激しく勢いを増していく。
 認める訳にはいかなかった。
 ――己が導く運命が覆される事などありえない。
 ――己が司る運命に裏切られる事などあってはならない。
 そんな事を認める訳にはいかない。
 そんな事を可能にする人間など、赦しておけるわけがなかった。




 総ての闇が消えてなくなったのを確認すると、気が抜けたように蓮司の膝ががくんと折れた。
 その場に倒れこみそうになった身体を、脇から伸びたカズキの手が捕まえる。
「大丈夫か?」
「ちっとキツイか……お前は元気そうだな」
「……多分蓮司の分もオレが貰っちゃってるから、かな」
「あ……」
 苦笑交じりに言うカズキを蓮司はまじまじと見やった。
 最後の一撃で白い核鉄を失い、そして黒い核鉄を取り返したカズキの身体はヴィクターへと変質してしまっているのだ。
 月衣と斗貴子の核鉄のおかげでどうにか耐えられているようだが、言われて見れば僅かに力が抜けているのを実感できた。
「どうすんだ、それ」
「どうしようか。このまま地球に戻ったら色々まずいし……蝶野に新しい核鉄作ってもらうまでここで居候させてもらおうかな」
「おいおい……」
 地球を睥睨できるこの狭間の世界で立ち尽くしているカズキを想像して蓮司は溜息をついた。
 荒廃の魔王と呼ばれるアゼル=イヴリスも似たような事をしているらしいが、それはあまりにも寂しい光景だ。
「……まあ事後処理ならアンゼロットに任せとけばいいだろ。きっと何とかしてくれらあ」
 言って蓮司は後方にいるだろうアンゼロットを振り向く。
 ――振り向こうとして。
「……!?」
 不意に眼前の空間が揺らいだ。
 現われたのは巨大な書物を抱えたリオン=グンタ。
 常に無表情の仮面を被っていた彼女には珍しく険しい貌が浮かんでおり、それ以上に険悪な魔力が立ち上っている。
「しまっ――!」
 守護者の力を得たベリトに気を取られて完全に失念していた。
 二人が身構えるよりも速く、リオンは既に構築していた魔法を形にして撃ち放つ。
「――《ヴァニティ・ワールド》……っ!」
 避ける暇すらなかった。
 二人の周囲の空間が切り取られ虚無の世界の檻が構築され、その世界ごと二人を押し潰す――


「――残念」


 鈴のような声音が響く。
 二人の背後から伸びた白い手が世界の中心を掴み取る。
 秘密侯爵の渾身を込めた魔力を掌握し、『彼女』は正真正銘残された魔力を絞りつくして叩きつけた。
 虚無の世界が乾いた音を立てて崩壊する。
 同時に、その中心を握り締めていた白い手が腕ごと消し飛んだ。
 しかし彼女――ベール=ゼファーは失った腕をまったく意に介する事なく、普段通りの蟲惑的な微笑を称えて轟然と佇んでいた。
「ベル……」
「こっちはもういいから、あんた達はアンゼロットの所に行きなさい」
 呆気に取られている蓮司達にベルは残った片手をひらひらと動かして見せた。
 それに釣られる形で二人がアンゼロットの方を見やると――彼女は蹲ったまま動く気配がない。
「ア、アンゼロット?」
 一瞬だけ彼女の下に脚を向けかけて、次いでリオンとベルを見やる。
 しかし二人の意識からは既に蓮司達やアンゼロットからは離れているようで、眼を向けさえもしなかった。
 それを確認すると改めて蓮司とカズキは蹲る彼女の元へ走り出す。
 残された隻腕の少女は口元に穏やかな笑みを浮かべたまま、殺気を纏わせている漆黒の少女の視線を受け止めていた。




「ベール=ゼファー……」
 リオンが低い声で呟いた。心なし震えたその囁きと、その顔に浮かんだ表情は普段の”秘密侯爵”の姿からは程遠い。
 両の手で巨大な書物を抱え込む彼女の姿は、唯一の拠り所に縋りつく年相応の少女にしか見えなかった。
「……どうして」
 リオンの非難の呟きにベルはふんと鼻を鳴らす。
 髪をかきあげようとして腕を持ち上げかけ、その腕が既に消失している事に気付いて彼女は僅かに眉をゆがめた。
 改めて無事な逆の腕でそうするのは些か格好が悪かったので、ベルは小さく息を吐いてから言葉を紡ぐ。
「ゲームの決着が付いた後でもめるのはあんまりスマートじゃないわ。屈辱を呑み敗北を受け入れるのが敗者の誇り……コレ、先輩からのアドバイス」
「……っ」
 余裕たっぷりの笑みで言うベルに、リオンは更に表情を歪める。
 守護者の力の直撃を貰って余力……どころか現界しているのも危ういだろうにそれを表に見せないその態度。
 相手の感情を煽る様に皮肉気に語るその言葉。
 普段なら冷静に受け流してしまえるようなベルの一挙一動が、今のリオンには腹立たしい。
 そんな感情を隠しもせずに睨みつけているリオンを真正面から見据えたベルは、何故か嬉しそうに口の端を歪めた。
「そんな貌もできるんじゃない。普段の知った風なすまし顔よりずっと素敵よ?」
「――っ」
 きり、とリオンが歯を噛む。
 手にした書物を強く抱き締める。
 怒りと屈辱に肩を震わせる。
 そして彼女は――本当に久し振りに、感情を露にして叫んだ。
「……ベルッ!!」
 だからだろう。
 その声と同時に地を蹴ったベルに、リオンは全く反応ができなかった。
 二人の少女の姿が重なる。
 たったそれだけで、総てが終結した。




「……どうだった?」
 重なり合った二人の身体。
 漏れる吐息が頬にかかる距離で、ベルが囁くようにリオンに言った。
 リオンはベルに答えようとして、代わりに鮮血を漏らした。
 だが、手にした書物ごと貫かれた身体の痛みは全く感じない。
 それ以上に、耳元で囁かれる蝿の女王の声が、彼女を抉った。
「書物に記された運命を辿るのではなく、自らの手で栄光の果実を手にしようとした気分は」
「――」
 憎々しいはずの声にリオンの身体がざわりと揺れる。
 それは聞いてはいけない蛇の囁きだ。
 だが、胸の内に燻っている感情がその声を捉えて逃さない。
「その裡に灯る衝動の先にあるカタルシスに興味はないの?
 定められたルーチンをこなすのではなく、気まぐれに積み重ね打ち壊す悦びを得たくはない?」
「……わ、私は……」
 それはベール=ゼファーだからこそ言える言葉だ。
 "金色の魔王"と比肩する強者だけが行える特権。
 分類では大公の次の位にあたる公爵でさえ自由に動く事は叶わない。
 ましてそれ以下の魔王達はみな彼女等に頭を垂れるか眼を盗み蠢動するしかない。
 それほどまでに、裏界における"金色の魔王"の支配は絶対なのだ。
 だからそれは、絶対に赦される事ではない――
「――あたしが赦す」
「……っ」
「貴女の力をあたしに捧げなさい。
 その対価にあたしが――"蝿の女王"ベール=ゼファーが、"秘密侯爵"リオン=グンタの総てを受け入れ、赦してあげる」
 ベルは艶然と微笑んでそう告げる。
 そして彼女は言葉を失い震えるだけのリオンの唇に自らのそれを重ね合わせた。
 びくりと震える眼前のリオンに眼を細め、ベルは契約の口付けを交わす。
 静かに顔を離し、血色のルージュに濡れた唇を舐めとりながら、ベルは優しくリオンの黒髪を撫でた。
「待ってるわ、リオン。気が向いたらいつでもいらっしゃい」
「―――」
 言葉もなくリオンの身体が解けて消える。身に纏う黒衣が幾つもの紙片となって風に巻かれて消えていく。
 まるで行く先に惑うようにそれらが揺れて何処かに消え去ったのを見届けると、ベルは静かに瞑目した。
 知らず彼女の口元に笑みが浮かぶ。
 だがそれは今までリオンに見せていたものとは程遠い、人間達に見せる冷酷な微笑み。
「……あんたの力はあたしにこそ相応しいのよ、秘密侯爵」
 酷く冷たいその呟きを聞く者は誰もいなかった。



 ※ ※ ※




「おい、本当に大丈夫なのかよお前……」
 蹲ったまま動かないアンゼロットの下に駆け寄った蓮司は覗き込むように彼女を見やると、アンゼロットは白い顔のままで僅かに微笑を返した。
「問題ありません、肉体的にはもう完治していますから。ただ……」
「ただ?」
 肉体的に、という事は別の部分に問題があるのか――と蓮司はアンゼロットに詰め寄る。
 自らの魔剣に秘められた力を知らない彼には何が何だかわからないが、ただ彼女を傷つけた事だけは事実なので流石に心配になったのだ。
 そんな蓮司の顔を見ると彼女は可笑しそうに口角を吊り上げると、
「柊さんの固くて太くて超巨大なアレで貫かれたおかげで、わたくしの大切なモノが破れてしまっただけですから……わたくし、キズモノにされてしまいましたわー」
「お、お前なぁ……っ!」
 頬を染めて言葉を棒読みするアンゼロットに蓮司は思わず呻く。
 彼は肩を怒らせて口をぱくぱくさせたが結局何の声にもならず、ややあってから大きな嘆息と共に肩を落とした。
「そうやって茶化すのやめろよ、ほんとに……」
「貴方が心配するようなものではない、という事ですわ」
 ふふ、と笑みを零してから、アンゼロットは顔を上げる。
 そして二人から少し距離を置いた場所から心配そうに見つめているカズキに眼を向けて彼女は語りかけた。
「ですから、カズキさんも気になさらなくていいですよ」
「え……」
 はっとするカズキに彼女は小さく微笑むと、ゆっくりと立ち上がった。
 蓮司の手を借りて彼女は立ち上がると、顔色は悪くはあったが比較的しっかりとした足取りでカズキの下に歩み寄り、赤銅色に変質している彼の手を取った。
「貴方くらいのエネルギードレインなら別に影響はありませんわ」
「そうなんだ……でも、本当に大丈夫なの?」
「ええ。宮殿の再構築を並行していますからちょっと手間取っているだけで」
「……うお、何時の間に」
 蓮司の声にカズキが振り返れば、遠めには闇に喰われたはずのアンゼロット宮殿が姿を現していた。
「もうちっと落ち着いてからやればいいのによ」
「そうはいきません。エミュレイターとの戦いはここだけで行われている訳ではありませんし、司令所としての機能は可及的速やかに復帰させなければなりませんからね」
 守護者としての顔を取り戻して語るアンゼロットをじっと見やったカズキは、ようやく安堵したかのように息を吐いて子供のように破顔した。
 そして自分の手を握るアンゼロットの白い手を握り返してから口を開く。
「よかった……でも、あんまり無理しない方がいいよ」
「はい」
 カズキの笑顔に釣られるようにして彼女は笑みを返し、答える。
 張り詰めていた空気がようやく柔らかくなっていくのを三人は実感した。
「そうだ、カズキの事なんだけどよ」
「ええ、わかっています……が、その前に」
 蓮司の言葉を遮ってアンゼロットは二人から眼を切って振り返った。
 彼女の視線の先には――三人の様子を生暖かい表情で見つめている、隻腕のベール=ゼファーがいた。
 そこで彼女の存在を思い出した蓮司は僅かに身を固くしたが、空気は相変わらず緩んだままだ。
 何よりベール=ゼファーの気配そのものが、はっきりとわかるほどに希薄になっていた。




「まさかここからまた揉めようなんて気はありませんよね?」
「まあね」
 アンゼロットの揶揄するような声に、ベルはつまらなそうに鼻を鳴らして答えた。
 ベルは面倒くさそうに銀の髪を掻くと、自分を見やるアンゼロットと、蓮司と、そして最後にカズキに眼を移してから懐に手を伸ばした。
 そして彼女は何かを取り出すと、カズキに向かってそれを無造作に放り投げた。
「……?」
 カズキは反射的にそれを受け取る。
 見てみれば、それは黒い帯のようなモノだった。
 どこかで見たような、と思った瞬間に帯がひとりでに動き出しカズキの腕に絡まっていく。
「うわ、うわわわ!?」
「落ち着きなさい、武藤カズキ」
 驚いて振り払おうとするカズキにベルが口を出す。
 彼は彼女の言葉というより、次いで顕れた変化に言葉を失った。
 帯が絡まった腕が赤銅色から元の肌色に変化していく。
 腕から始まった変化は次第に身体全体に広がっていき……そしてカズキはヴィクターから元の状態へと戻っていた。
「これって確かベリトに使ってた……えっと、魔殺の帯?」
「そう。残った切れ端だけど、アンタ程度の能力を抑えるには十分でしょう。あの変態が新しい核鉄を作るまで着けとくといいわ」
「……どういう風の吹き回しだ?」
 勘繰るような蓮司の声にベルは自信に満ちた笑みを浮かべ、アンゼロットを一瞥して口を開く。
「あたしはどっかの守護者とは違って正当な働きには相応の対価を以って報いるもの」
「うおっ……お前ワリとデキる奴だったのかっ!?」
「当たり前じゃない。あたしは裏界の大公様なのよ?」
 ふふんと得意気に胸をはるベルに、アンゼロットは眉を吊り上げて憤慨し、地を蹴って叫んだ。
「何を言ってるのです! わたくしだってウィザード達の働きに対する報酬はちゃんと渡してあります!」
「え……俺、貰った覚えないんだけど」
「世界の平和。これ以上ない報酬じゃないですか」
「おい……」
 半眼になって呻く蓮司にアンゼロットはそっぽを向いた。
 そんな二人のやり取りをよそに、自分の身体の様子を見ていたカズキは腕に絡まった魔殺の帯を手でなぞると、ベルに向かって声をかけた。
「ありがとう。本当に助かったよ」
「……認めたくないけど、アンタ達がリオンの計画を阻止したのは事実だもの。
 よくやった、と言っておくわ……おかげで、あたしの目的も全部達成できたし」
 小さく漏らしたベルの言葉で、蓮司は最初にベルに会った時言っていた事を思い出した。
 彼女がここにきた目的は三つほどある、と。




「お前……一体何をしたんだ?」
 一つは彼女が語っていた通り、リオンの計画を阻止するためだろう。
 だが残りの二つに関しては蓮司達は一切知らない。
 一体何が目的で何を果したというのか。
 しかしベルは蓮司の問いには何も答えず――ただ金色の瞳でアンゼロットを見据え、にい、と歪んだ笑みを見せた。
「……『疵』の具合はどうかしら、アンゼロット?」
 その言葉で、アンゼロットだけがベルの意図に気付いた。
 彼女は僅かに表情に険を入らせ、射抜くようにベルを睨みつける。
 しかし当のベルは笑みを浮かべたまま愉しそうにアンゼロットへと更に声をかけた。
「ディングレイの時から何となく気にはなっていたのよ。とんだ鬼札を隠し持っていたものね」
「………」
 アンゼロットは答えない。だが、その沈黙がベルにとっては十分な回答だった。


 一時的にせよ"監視者"との契約を断ち切るほどの因果を持つ『神殺し』の力。
 それは古代神であるベルにとっても危険な代物だが、使いようによっては最近動き始めている『あの女』に対する有効な手にもなるだろう。
 些かリスクの高い札だが――だからこそ、ベール=ゼファーとしては魅力的な札とも言える。
 殊更に確かめようとした訳ではなかったが、これ以上ないほどの確証が得られたのは彼女にとっては大きかった。


「ディングレイの時からって何だ。もしかして俺の事なのか?」
「……。そんなところね。今だにしぶとく生き残ってアンゼロットに駆りだされてるんだもの……もうコイツの右腕みたいなものかしら」
「恐ろしい事言うんじゃねえよ!」
 泡を食って反論する蓮司はベルは肩を竦めて見せた。
 それと同時に、糸が切れたかのようにベルの身体が掠れていく。
「……っと。そろそろ限界か」
「おい、結局なんなんだよ!」
 なおも食い下がろうとする蓮司にベルは面倒臭そうに溜息をつくと、そっぽを向いてから吐き捨てるように呟いた。
「あんた達には関係ない事よ。これ以上はプライバシーの侵害だからね」
「プライバシーって、お前な……」
 白い眼で呻く蓮司を無視して、ベルは話は終わりとばかりに三人に背を向けた。
 所々が破れたポンチョを翻し、艶やかな銀の髪を揺らしてベール=ゼファーは謳う。
「また遊びましょう。勿論今度はあたしの主催でね」
 そう言って、気だるげにひらひらと手を振りながら、"蝿の女王"は虚空へと融けて消えていった。



 ※ ※ ※


 そうして残ったのは二人の少年と一人の少女。
 しばしの沈黙の後、蓮司は大きく息を吐いてから頭をかいた。
「はぁ……まあ何にしろこれで全部終わりか」
「ですね」
「……あっ」
 そこで思い出したように声を上げたのはカズキだった。
 振り向いた二人に、腕に巻き付いている魔殺の帯を見せながら彼は首を傾げた。
「そういえばこの帯って核鉄ができたらどうすればいいのかな。蓮司に渡しとけば返してくれる?」
「いや、逢うかどうかもわかんねえって。捨てとけばいい……のか?」
 何しろ魔王の一人であるアゼル=イヴリスが使っている魔導具だ。そこらに捨ててしまっていいものかもわからない。
 返答に窮して蓮司がアンゼロットを覗き見ると、彼女は小さく頷いてから言った。
「魔殺の帯そのものに危険性はありませんから、カズキさんのご自由になされて結構です。
 なんならブラボーさん経由でこちらに回してくださってもいいですし」
「そっか……じゃあ記念に貰っとこうかな」
「記念ってお前な……」
 仮にも世界滅亡を狙う魔王に渡されたものを記念にしてしまうカズキに蓮司は小さく溜息をついた。
 そして気だるげに頭を掻きながら、
「ま、いいか。問題ないならさっさと帰ろうぜ」
「そうですね。ロンギヌス達もそろそろ戻ってくるでしょうし、宮殿の方が落ち着けますから」
「アンゼロットさん、大丈夫? 辛いなら肩貸すけど」
 宮殿まで歩いて戻ると思っているのか、アンゼロットに向かって手を差し出したカズキを見て蓮司は何事かを言いかけて、口を噤んだ。
 彼は少しの間難しそうな表情を浮かべた後、諦めたように彼女に向かって手を差し出す。
「……柊さん?」
「……。まあ、事情はよくわかんねえけどやっちまったのは俺だからな」
 視線を合わせないようにして漏らす蓮司を見てアンゼロットはまじまじと差し出された二つの手と二人の顔を見やり、顔を綻ばせる。
「二人の殿方にエスコートされるなんて光栄です。しかし残念ながらそんな余裕はないでしょう……そろそろ"来る"でしょうから」
「余裕?」
「来る? ロンギヌスでも来るっての……え?」
 そこで蓮司は自分の身体の異常に気付いた。
 アンゼロットに向かって差し出した手が振るえているのだ。見てみれば自分だけではなく、カズキの手も震えていた。
 彼もまた何が起こっているのかわからず、不思議そうに自分の手を見やっている。
 手の震えは次第に強くなり、それは違和感となって腕を伝って身体に昇り、そして――スイッチが切り替わったように全身に激痛が走った。



「ぐああぁああぁっっ!?」
「痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い!! 何だこれ! 何だこれ!?」
 戦いによる負傷の痛みとは全く別種の激痛。全身が引きつるような感覚に二人は立つ事も叶わずにその場に崩れ落ちた。
 例えていうならそれは、全身が筋肉痛になったような感じだ。
 動くと痛いがじっとして堪える事もできない地獄のような責め苦だった。
 芋虫のようにのた打ち回る二人を見下ろしながら、アンゼロットは何故か勝ち誇ったような微笑を浮かべて謳う。
「わたくしの力を受けたフィードバックですわ。矮小な人間ごときが守護者の力を得て無事で済むとでも思っていたのですか?」
「何ラスボスみたいな事言ってんだ! ……てか、お前か!? お前がラスボスなのか!?」
「まあ、失礼な。……そうだ、先程のベルではありませんがお二人の働きの報酬にわたくしがてずからマッサージをして差し上げましょう」
 満面の笑みを浮かべながら手をわきわきさせるアンゼロットに、二人は文字通り這うようにして後ずさる。
「ま、待って! オレには斗貴子さんという人がっ!?」
「わかっています。これは今日だけの秘め事……一夜の過ちなのです」
「頬を染めて訳のわからん事を言うな! って、おい、こっち来んな! 俺達に近付くんじゃねぇ!!」
 にじり寄る銀髪の少女に二人は必死に逃げようともがくが、全身の痛みで動く事もままならない。
「ささ、遠慮なさらず。女に恥をかかせないで……」
「ひっ……!」
「やめっ……!」
 少女の細く白い腕が恐れおののく二人にゆっくりと伸び――


「「あ゛あ゛あぁーーーーーーっっ!!」」


 平穏を取り戻した地球を見下ろす荒野に、少年達の絶叫が響き渡った。


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