アットウィキロゴ
ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第03話

最終更新:

nwxss

- view
だれでも歓迎! 編集

それぞれの溜息の理由――鈴木ぼたんの場合


「はあ……」

 公園のベンチに腰掛けながら、少女は小さく溜め息をついた。

「……何だあ? しょぼくれた顔して」
「……あんたに言われたくはなかったわね、柊蓮司」
「何でフルネームなんだよ!?」

 たまたま通りかかってしょげた顔を浮かべていた彼女を心配して柊が声をかけたというのにこの扱いである。
 また、少女は溜め息をつく。余程思い悩むことがあるのだろう。

「なあ、何があった? 俺でよければ相談に乗ってやるから、そんな顔するなよ、鈴木」
「苗字で呼ばないでよ」

 むくれた顔を浮かべる少女こと、鈴木ぼたん。
 彼女は光綾学園の冒険者候補。
 こんな休日の日にダンジョンに潜ることなく、一人公園のベンチで思い悩んだ顔を浮かべているのが珍しく、柊が思わず声をかけたのだが……

「……ネタがね、思い浮かばないのよ」
「……ネタ?」
「新作のネタ」

 次の瞬間、柊は脱兎のごとくベンチから逃げ出そうとする。
 だが。
 ぼたんはその襟首を掴みあげ、決して離すまいと力をこめる。
 華奢な身体をしているはずなのに、その手に込められた力は予想以上のものだ。

「ふふふ、こうしてあんたがあたしに話しかけてきたのも、何かの神の思し召しだわ。せっかくだから、あんたにも協力してもらうわよ、柊蓮司」
「何をだよ!?」
「決まってるでしょ?」

 ぼたんは邪悪な笑みを浮かべて、柊を見る。

「新作のモデル、一人はあんたに決めたわ」



 なおも逃げようとする柊を、どこから持ってきたのか首輪にくくりつけ、市街を引き連れていくばたん。
 目的は言うまでもない。
 柊のお相手となるモデルの候補である。

「あんたの相手なんだから、まずはあんたが見繕いなさい」
「……何で俺がこんな目に」
「なんか言った」
「わ、分かった! 分かったから拳を固めるな!」

 柊は慌ててぼたんを制し、街を歩いていく男たちに目を向ける。
 とりあえず、事故にならない程度にこっちの状況を理解してくれそうで、かつある程度顔見知り。
 そんな都合のいい存在なんているはずがない。

「はあ……」

 柊は肩を落としながら、周囲を見渡してみる。
 と。

「おお、あいつは……」

 その中に見知った顔があった。
 つるんとしたスキンヘッド。
 見覚えのある制服。
 二人ほど連れがいるようだが、話を通してみる価値があるかも。

「おーい!」
「おや、私たちのことを呼んでますね」
「お、あの人は……」
「準、知り合い?」
「まーな、魍魎の宴で一回だけ顔を知ったくらいだけどな」

 駆け寄ってきた柊に、準と呼ばれたスキンヘッドの男子は手を挙げて挨拶する。

「よお、あんたがあの柊先輩だったんだってな」
「ひーらぎ? ああ、下がる男!」

 ぽん、と色白の女子が納得したように手を叩いた。
 指をさして、面白そうに女子は「下がる男~」と連呼する。

「こーれ、人を指差すんじゃありません」
「えー」
「ユキ、準の言うとおりですよ。すみません、連れが失礼な真似を」
「あ、ああ、別に構わない」
「自己紹介がまだでしたね。私は葵冬馬。彼は井上準、こっちが榊原小雪です」
「そーいや、名乗ってなかったな。よろしく頼むぜ、先輩」
「よろしくー! ひーらぎ先輩!」

 冬馬と名乗った男子は、そっと柊に握手を求める。
 それを握り返す。

「……ふふ、あなたもなかなか可愛いですね」
「……え?」

 ぞくり、と柊の背中に氷柱を差し込まれたかのような悪寒が走る。

「もしよろしければ、今度私と二人っきりでお茶でもいかがですか?」
「い、いや、それはまた今度な」
「それは残念」
「で、なんか用があるのかよ、先輩?」
「あ、ああ、実はな、ちょっと頼みがある」



「それがあんたのお相手かしら?」

 柊が用件を切り出すより早く、ぼたんが彼らの前までやってくる。

「おやおや、こちらもかわいらしいお嬢さんだ」
「……うーん、惜しいな、あと5年若かったら最高だったんだがなあ」

 冬馬と準が、それぞれ違う感想を述べる。

「それで、お相手というのはどういうことですか?」
「ああ、実はね……」

 ぼたんはこれまでの経緯を説明する。
 それを聞いて、準は露骨に嫌そうな顔を浮かべ、反対に冬馬は、興味をそそられるような表情を浮かべる。

「あんたのお相手って、こっちの優男のほう?」
「ちょっ」

 柊はぎょっとする。

「ふふ、私は別に構いませんよ。柊先輩」

 にこりと微笑む冬馬。
 その笑みが、柊に背筋を凍らせる。

「いっそ、その先まで行ってみても、構いませんよ」
「すまん! この話はなかったことに!」

 みなまで聞かず、柊はダッシュで逃げ出した。

「ちょ、待ちなさい! どこ行こうってのよ!?」

 それを追いかけるぼたん。
 残された3人は、一瞬ぽかんとした表情を浮かべるも、

「……やれやれ、残念なことです」
「あはは、とーま節操なさすぎー」
「若、ほどほどにしてくれよ」

 再び散策を始めるのだった。



「何で逃げるのよ!?」

 追いついたぼたんは、柊に激しい折檻を加えながら、冬馬から逃げたいきさつを問い詰めた。

「あいつは駄目だ。あいつと一緒にいた日には、俺の大事な何かが確実に失われる」
「別にいいじゃない。貞操の一つや二つ」
「よくねえよ!?」
「……はあ、もういいわよ。さっさと別の候補を見つけて頂戴」
「じゃあ…… あのいかにも女顔のやつなんかどうだ?」
「……没。もっと男らしさが欲しいわ」
「じゃあ、あっちの色黒のマッチョとか」
「却下、美しくないわ」
「それじゃあ、あっちの眼鏡とか」
「論外。あんないかにも体臭がザリガニ臭そうなやつをモデルにするくらいなら、あたしは喜んで筆を折るわ」

 何気に毒を吐くぼたん。

「じゃあ、あっちのいかにも男前な前方後円墳とか」
「人間ですらないじゃない!?」
「じゃあ、妥協してそっちの墳丘墓」
「いい加減にしなさいよ、あんた! 真面目に選ぶ気あるの!?」

 ぼたんは柊を蹴り飛ばした。



「いってー…… じゃあ、お前が選べよ!」
「……そう、いいの?」
「ああ、ここまで来たら、皿まで食い尽くしてやる」
「分かったわ、じゃあ……」

 ぼたんは周囲に目をめぐらせて、獲物を物色する。
 一通り見渡したぼたんの目に、ある人物が目に留まる。

「あれがいいわね」

 ボタンは指を指して、その人物を示す。
 柊がその指の先に目を向ける。
 吹き出した。

「み、命!?」

 そう。
 それは見間違えるはずもなく、ちょうど市街をデート中の灯と命のカップルであった。

「彼女持ちの男を寝取る男…… いい構図だわ」
「待て! あいつはまずい! あいつはいくらなんでもまずすぎる!」
「四の五の言わない! あんたがあたしに選べって言ったんでしょうが! あんたに拒否権は最初っからないのよ!」
「横暴だ!?」

 柊の叫びが木霊する。
 ぼたんは嫌がる柊を無理やり引きずって、命たちの元に近づいていく。

「あれ? 柊先輩、どうしたんですか?」
「……何か用? 柊蓮司」
「いや、用があるのは俺じゃなくて……」
「用があるのはあたしのほうよ」
「……貴方は確か、光綾学園の鈴木ぼたん」
「あら、知っててくれるの? ならいいわ。ちょっと彼氏を貸してほしいの」
「……どういうこと?」
「実はねえ……」

 ぼたんはここまでの経緯を事細かに説明する。

「……そういうこと」
「どう? 一日でいいから貸してもらえないかしら?」
「灯、気に入らなかったら断ってくれても構わないんだぞ?」

 むしろ断ってくれ。柊は心の奥で懇願する。
 だが、予想外の返事が柊の耳に突き刺さった。

「……了解した」
「何いいいいいいいい!?」
「あ、あかりん、何を!?」
「……その代わり条件がある」
「何かしら?」
「……出来た本は私にもきちんと見せて欲しい」
「おい! お前何でやおい本に興味あるんだよ!?」
「……西園美魚という女子に薦められた」
「…………おい」
「新体験だった……」

 ぽっと、頬を赤らめる灯。

「恨むぞ、西園とかいう奴!?」
「そういう条件なら了解したわ。じゃあ、彼氏のほう、借りていくわ」
「あ、あかりん!?」
「……きれいに描いてあげて」
「任せてよね。ふ、ふふふ……」
「うおおおおおお! 離せ! 離しやがれー!」
「あ、あかりーん!」

 ぼたんに襟首を掴まれながら。
 柊と命はいずこかへと連れて行かれていった。



「み、命……」
「柊先輩……」

 熱く見つめ合う二人。
 やがて。

「うおええええええええ……」

 柊がその視線に耐え切れず、気持ち悪そうに視線をはずした。

「何視線はずしてるのよ!?」
「こんなもん、耐えられるわけねーだろ! てゆーか、命は何で平気なんだよ!?」
「その…… 僕、昔は菊田先輩の事が好きだったわけじゃないですか?」
「……あ」

 柊はそんな事を思い出した。
 そうだ、こいつは昔そういう趣味だったんだっけ、と。

「だから僕、結構こういうの、いけます」
「いいわ、いい素材よ、あんた…… く、くくく。ほら、柊蓮司! あんたも視線合わせなさいよ!」
「ち、畜生……」

 泣きながら柊は、命と抱き合いながら、熱い視線を絡ませ続けた。
 柊の鳥肌は始終立ちっぱなしだった。



 数日後。
 鈴木ぼたん名義の新作が発表され、その筋の人間の間では高く評価されることになり、一部のマニアの間で超プレミアム価格で売買される事になる。



「……萌え」

 新作を眺めながら、灯は頬を赤らめた。



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー