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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第02話

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それぞれの溜息の理由――鮫氷新一の場合


「はあ……」

 しょぼくれた顔を浮かべながら、眼鏡の少年は溜め息をついた。
 その様子を見ているのは、やはり同じくらいの年頃の男女3人。

「んだよ、何溜め息なんかついてんだよフカヒレ? つかオメーの息くせーんだよ」
「幸せに、なりたいな、って思ってさ……」

 フカヒレと呼ばれた少年が、そんなことを言い出した。
 だが、その様子を見ていた3人はなんとも微妙な顔をする。
 その顔は、「ああ、またか」と言ったところだろうか。

「まーた、ナンパに失敗でもしたのかよ。いつものことじゃん」
「まあ、お前の場合、その欲望丸出しのところが問題なんだけどな」
「と言うか、その下心、少し抑えろ。俺たちだって少し引いてるんだよ」

 辛辣な言葉が次から次へと投げかける。
 彼らはいわゆる幼馴染。
 学園世界に来てからも、こうして4人はつるんでいる。
 伊達スバル。
 対馬レオ。
 蟹沢きぬ。
 鮫氷新一。
 学園世界の繁華街にあるカレー屋でよくたむろしている4人であったが、今回は席に座るなり、いきなり新一ことフカヒレが、そんなことを言い出したのだ。

「まあ、それもあるけどさ。俺たちこの世界についてから随分と立つわけじゃん」
「……まあ、そうだな。最初はびびったけど、慣れちまったら割と面白い世界だし、最近はすっかり馴染んできたけどな」
「レオは相変わらずヘタレですなー。ボクはちーっともびびってなかったぜ?」
「嘘付けお前。最初にこの世界に来たときに、がたがた震えて泣いてたじゃねーか」
「な、泣いてない、泣いてないもんね!」
「……まあ、カニが泣いてたかどうかともかくとしてだ、それがどうしたんだ、フカヒレ?」

 収拾がつかなくなる前に、スバルが話を促す。

「思うわけよ…… こんなに広い世界のどこかに、俺を受け入れてくれる素晴らしい女性が一人くらいは必ずいるんじゃないかって」
「まあ、可能性は0だと思うけどね」
「思うだけならタダだな。で?」
「色んな子に声をかけてみたわけよ…… だけどさ、俺のことを分かってくれるやつは今のところ、一人もいやしない」
「……で?」
「そのたびに俺は雑草のように踏まれ、肉体的にも精神的にも強くなってきた。つまりは磨きがかかってきたわけよ、俺の男気に」
「……要約するとナンパに失敗するたびに、女子に殴られ、蹴られしたわけだな」
「まあ、それで済んだらいいほうだと思うけどね」
「場合によっちゃ、もっとえげつねえ攻撃喰らったりもしたんだろ。想像したくねーけど」
「だからさ。もう俺にも幸せってやつが来てもいいと思うわけよ。俺のことを優しく受け止めて、何でも言うことを聞いてくれるような理想的な女の子たち…… ハァ、ハァ」
「……さり気に今、最低なこと言ったよね」
「つか、息荒くするな、キモい」

 いよいよ怪しい雰囲気をかもし出したフカヒレ。
 そろそろ誰にも彼を止められなくなってきたようだ。と言うか止めたくないのかもしれない。

「だからさあ、俺はもう少し自分の行動範囲を広げてみることにしようと思うわけよ」
「つまり、ナンパの行動範囲を広げるってことだろ? 無駄な努力しやがって」
「そうやって俺を馬鹿にしてられるのも今のうちだぜ、カニ? 俺はお前たちの誰よりも幸せになってやるからさ。その自身はある」
「その自身がどっから来るのかその脳みそに直接聞きたいね、ボクは」
「ふっふっふ。今度の場所は一味違うぜ? 何しろ、あのエルクレストカレッジにまで行動範囲を広げようと思うのよ」
「……普通の人間には見向きもされないから、異種族にまで手を広げようってことか」
「……なんか、段々哀れになってきたぜ」
「おいおい、そんなんじゃないって。俺、元の世界にいたときからエルフっ娘を横に侍らせられたらどんなに最高かとベッドの中で妄想してたんだから」

 段々とレオたちの視線が険しくなる。
 すなわち、「もうお前しゃべるな」と。
 ウェイトレスが、注文をとりに来ても、フカヒレの話は続く。
 もう、フカヒレの話に耳を傾けている人間は、この場のどこにもいなかった。



 翌日。
 カレー屋での宣言どおり、エルクレストカレッジにまで足を運んだフカヒレ。
 周囲を見渡せば、自分が漫画やゲームで見たことがあるような、ファンタジーの服装と街並み。
 横にすれ違う女の子たちも、フカヒレたちの世界では奇異に見られる髪の色や耳が、ごく当たり前のように行きかう。

「ああ、いい所だなあ、ここは。ここならきっと、俺の幸せが見つかるはずだ」

 うきうき気分で、フカヒレは今回の獲物を物色する。
 あっちの女の子もいい。
 向こうで楽しそうに話すエルフ耳の子も見る価値あり。
 あのロリっぽい子も、俺好みだ。

「どの子にしようかなあ、迷っちまうなあ…… あはは」

 だらしなく口元を緩めるフカヒレ。
 そこに。

「どうかされました?」
「うちに、何か用ですか?」

 女の子の声が背後からかけられた。
 最上の笑顔で振り返る。
 そこには、

「キターーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 フカヒレの興奮は最高潮に達した。
 魔女の帽子の奥からのぞく愛らしい顔。
 小柄な体格をしながらも、ぴょこんと伸びた長い耳。
 そこには、フカヒレの夢が詰まっていた。

「いや、ごめんね。ちょっと道を間違えちゃってさ。学園世界の繁華街に行きたかったんだけど」
「ああ、それでうちではあまり見ない格好をされてたんですね」
「そう。俺、竜鳴館の鮫氷新一。シャークって呼んでね。」
「あら、ご丁寧にどうも。わたしはカミュラ。こっちの子はファムさんです」
「へー、カミュラたんにファムちゃんかあ、可愛い名前だなあ」
「は、はあ……」

 ファムはフカヒレの視線に、何か薄ら寒いものを感じる。

「でさ、二人にちょーっとお願いがあるんだけどさあ、繁華街まで俺を道案内してくれない? ご飯奢ったげるからさ」
「あら、それはいいですね。構いませんよ?」
「か、カミュラさん!?」

 ファムはカミュラに顔を寄せ、フカヒレに聞こえないよう、努めて小さい声で相談する。

(あ、あたし、あの人なんだか怖いんですけど……)
(ああ、たぶんナンパ目的の男だと思いますよ?)
(ふぇえ!? ナンパ!?)
(美しいって罪ですねえ)
(ど、どうするんですか!? お茶まで奢ってもらう約束までしてるんですよ!?)
(大丈夫ですよ、ファムさん)

 にこりとカミュラは、ファムを安心させるように微笑んだ。

(ああいう手合いの輩は、適当に利用して、ぽい、と捨ててしまえばいいんです)



 ファムとカミュラは、繁華街までフカヒレを案内し、存分に飲み食いさせてもらった。
 最初はにこやかな表情を浮かべていたフカヒレだったが、彼女たちの選んだ料理の値段を目にしたとたん、サーっと顔が青くなった。
 今日一日でこれまで溜めていた貯金全てがパーになることは確定のようだった。
 だが、それゆえに自分を奮い立たせる。ここまでしたんだから、少しは脈があるだろう、と。
 もちろんこれっぽちもその可能性がないことに、彼は欠片も気がついていない。

「今日はご馳走になりました」
「イエ、ドウイタシマシテ……」

 フカヒレが青い顔でつぶやいた。

「では、存分に繁華街で楽しんでください。わたし達はこれで失礼します」
「ちょ、ちょっと待とうよ!」
「何か?」
「何かじゃないでしょ。ここまで一緒に来たんだからさ、俺と一緒にもっと楽しく行こうよ」
「ごめんなさい。わたし達、これでも忙しい身ですので」

 まずい。フカヒレは焦りだす。
 このパターンは散々奢らされた挙句にポイ捨てされる最悪のパターンそのものじゃないか。
 しかし、ここはもっと強気に行けば……

「いいじゃない、それとも何? 俺と一緒だとつまらないとでも」
「はい」

 ばっさりだった。
 ぴしり、とフカヒレの中で何かが壊れる。

「こ、このくそガキ! 俺が怖くないと思って好き勝手言いやがって! 言っとくけどな、俺は女でもグーで……」
「《サモン・フェンリル》」

 ちゅどーん。
 フカヒレのすぐ脇が爆発した。

「何か言いました?」
「イイエ、ナニモイッテマセン……」
「では、わたし達はこれで。ファムさん、行きますよ?」
「は、はい!」

 カミュラはファムを連れ、そのままフカヒレの前から姿を消した。
 残されたフカヒレは固まったまま、二重のショックでしばらく立ち直れないほどの大ダメージを受け、硬直していた。



「畜生……」

 フカヒレはとぼとぼと一人、街道を歩き、やけに軽くなった財布を抱えながら、へこみ切っていた。

「現実のエルフっ娘も、魔女っ子もおっかねえなあ…… やっぱり二次元のエルフっ娘のほうが最高だよ。よし、帰ったらギャルゲでもやって心を和ませて…… あれ、なんか目から水がこぼれて……」

 フカヒレはぽろぽろと泣きながら、街道を練り歩いていた。
 と。

「お……」

 フカヒレの目に、恐ろしく興味をそそられる存在が飛び込んできた。
 細い身体を、黒い帯で巻いた、はかなげな雰囲気の美少女。
 フカヒレの視線は、一瞬で彼女に釘付けになった。

「い、いかん。彼女を一人にしてはいけない。そんな父性本能が、俺をくすぐるとびきりの美少女……」

 フカヒレの興奮が、徐々に高まる。

「これは…… ぜひともお近づきに!」

 フカヒレは全速力で美少女に駆け寄る。
 美少女もその様子に気がついたのか、「ひ……」と怯えた視線でフカヒレを見る。
 その仕草が、よりフカヒレの興奮を誘う。

「かーのじょ! ぜひとも俺と一緒に……」
「《ディバイン・コロナ》!」

 皆まで言う前に、フカヒレは空へと吹き飛ばされた。

「ったく…… 気持ちの悪い人間ったらありゃしない」
「べ、ベル……」
「アゼル、あの手の輩はふつーに無視して構わないわよ。つかむしろ殺したほうが……」

 がしりと。
 突然、ベルの足を誰かが掴んだ。

「え……?」

 恐る恐る足を見ると、そこには、さっき吹き飛ばしたはずのフカヒレが、虫の息になりながらも、何かを期待するかのようにベルを見上げていた。

「び、美少女に殺されるなら、それもまた本望……」
「ひ……」
「だからせめて、優しく俺を殺して……」
「な、なによこいつ! き、気持ち悪いわね……!」
「べ、ベル……」
「こ、殺すのもためらう気持ち悪さだわ…… 行きましょう、アゼル!」
「え、ええ……」

 まるでゴキブリに向けるような視線を浴びせかけ、ベルとアゼルはその場を後にした。
 残されたフカヒレは、地面に伏しながら、大粒の涙を流す。

「ち、畜生ー! 絶対幸せになってやるー!」

 鮫氷新一。
 彼に幸ある日はいつの日か。


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