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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第01話

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オープニング


「終わった……無事に今日も一日が過ごせた」
 東京都千代田区神田の外れの路上で、柊蓮司はささやかな幸せを噛み締めていた。
 不幸体質で頻繁に事件に巻き込まれては、登校を妨げられてばかりの彼であるが、ここ一週間ほどはそうしたトラブルに見舞われる事もなく、まるで普通の学生のような生活を送れていたのだった。
 世界の守護者に呼びだされることもなければ、異世界に召喚されることもなく、魔王にちょっかいかけられることもない。それがこんなにも幸せなことだったなんて……
「平和な日常って素晴らしい……」
 万感の思いを込めて呟く彼に、一緒に下校していた幼馴染の赤羽くれははそっと目元を押さえた。
「柊、相変わらず不憫だねえ」
「不憫って言うなっ。
 ていうかっ、やめろよ……そんな哀れんだ目で俺を見るのはよっ」
「今夜は一週間連続登校記念パーティだね」
「ねえよ、そんなパーティ。
 んな、当たり前のことで祝うなよ。これが普通なんだ。別に祝うことでもなんでもないんだ」
「あはははっ」
 一通りからかって満足したのか、くれはは軽く笑って話題を打ち切る。このあたりの呼吸は付き合いが長いゆえか、見事な彼女である。
「まあたしかに、他の連中よりはちょっぴり出席日数が少ねえがな」
 そしてこちらも長年のつきあいで、くれはのからかいモードが終了したのを悟った柊はあらためて自分の境遇に思いを巡らせた。
「せめて学校のない週末とかに事件が起こってくれると楽なんだがな」
「ひーらぎ、そんな事を言っていると現実になるよ」
 ぼやく柊。顔を覗き込むようにして忠告してくる幼馴染。
「それでなくたって、不幸でトラブルに好かれているんだから」
「うぐっ」
 幼馴染ゆえの的確な、そして容赦のない指摘。返す言葉もないとはこのことだろうか。
「はは、まさか……」
 否定する言葉にも力がない。いじめすぎたかな、とちょっと反省したくれはは慰めの言葉でもかけようと口を開く。
 その時だった。
「はわっ」
 彼女の足元が消失した。
「くれは!?」
 前触れもなく大地に漆黒の穴が開く。そこに吸い込まれようとしていた少女の腕を、超人的な反射神経で柊はつかみとっていた。
「柊……」
「あ、あぶねえ」
 ほっと安堵の息をつく二人。だが次の瞬間、凄まじい力で少女の体が暗闇へと引きずりこまれていく。
「くぅっくれはっ」
「ひ…ひぃらぎー」
 慌てて幼馴染の体を引き寄せるも、そこまでが限界だった。彼女を抱え込んだ柊の体ごと暗闇は少女を飲み込んでいく。わずかばかりの抵抗の後、二人の体は完全に闇にのまれ、

 きゅぽんっ

 という音と共にこの世界から完全に姿を消した。

マスターシーン アンゼロット宮殿


 世界の狭間に浮かぶアンゼロット宮殿。
 その主であり、世界の守護者たるアンゼロットは部下達の報告に眉をひそめていた。
「日本に魔王級エミュレイターの反応ですって?」
「はっ、わずかな時間の事ですが間違いようがありません。
 この反応は魔王と考えて差し支えないと思われます。
 具体的な固体名については、現在全力で特定中です」
「そうですか」
「なお、その反応の消滅と同時に、星の巫女の反応も消失しております」
「なんですってっ!」
 彼女が魔王ディングレイを巡る陰謀に巻き込まれたのは、まだこの春のことである。たてつづけの受難に、さしもの彼女の表情も曇った。
「また同時刻、柊蓮司の反応も消失しました」
「そっちはどうでもいいですわ。
 柊さんなら、ちょっと反応が消えたくらいでどうにかなるはずはありませんもの」
「はあ……」
「それにしても……」
 考え込むアンゼロット。その表情は憂いに満ち、星の巫女の安否を痛いほどに気遣っているのが見て取れた。
 わずかばかりの面識しか持たない一人の少女の事でここまで心を痛められるとは、この世界の守護者にふさわしいなんと慈愛に満ちた心の持ち主だろうか……
 その場に居合わせた側近たちは、改めて目の前の少女への畏敬の念を抱く。
 と、そこへ新たなロンギヌスが報告をたずさえて現れた。
「アンゼロット様、大変です。
 先ほどの魔王級エミュレイターの正体ですが……」
 言いながら渡された報告書に目を落としたアンゼロットの瞳が驚きに大きく見開かれた。
「こ、これはっ」
「はい、その通りです。間違いありません」
 報告に現れたロンギヌスの顔から血の気が失せていた。
 無理もない。アンゼロット自身ですら動揺を禁じえないのだから。
「これは、これは……」
 報告書を握る手が震える。

「滅びたはずのっ!!」

オープニング2


 意識を取り戻した時、くれはは柊の腕の中にいた。
「は、はわっ」
 一瞬、前後の状況がわからずに硬直する。その混乱した頭脳が何とか動き出そうとぐるぐる回っている間に、柊も意識を取り戻した。
「あ、いててて。
 大丈夫か、くれは?怪我はねえか?」
「え、あっ。うん大丈夫だけど……」
「そうか。
 っつーかなんだっださっきのは。
 前に召喚された時の感じに似ているが、まさかまた異世界じゃないだろうな」
 月曜までに帰らないと出席が~とぼやいている柊を、ようやく混乱から立ち直ったくれはは軽くにらんでみた。
(もう少し、照れるとか赤くなるとかしなさいよ)
 別に期待していたわけではないが、こうもさらっと流されるとそれはそれで面白くない。
「えっと、月衣は使えると。0-Phoneは……つながんねえか。おいおい、マジで異世界かよ」
「柊?」
 とはいうものの、真面目に事態を把握しようとしている少年に、いつまでも腹を立てているのも彼女の流儀ではない。
 このくらいの事は今までだってあったのだ。目の前の鈍感男にその手の空気を読む事を要求するのが間違いだって、わかりすぎるほどにわかっている。気を取り直すと、妙に冷静に事態を把握しようとしている彼に改めて感心した。
「はわ~ずいぶんと落ち着いているね」
「まあな。非常識な巻き込まれ方をするのは初めてじゃないしな」
 言って苦笑いする幼馴染の顔は、いつもより少しだけ逞しく見える。そっかと笑い返して、
「んで、ここはなんだ?
 ぱっと見は庭園みたいだが」
 その言葉の通り、見渡す視界に映る景色はよく手入れされた庭園のそれだった。付け加えるならばカラフルで原色系の草花が多く、南国を思わせる作りだ。いや、草花ばかりではない。あたりに流れる空気も東京のそれとは違い、生命力に満ち溢れた南国特有のそれである。
「本当に異世界に来ちゃったのかな?」
 少なくとも、ここが東京近郊のどこかである可能性は非常に低い。
「まあ、そこらを歩き回っていればわかるだろうぜ。
 それに異世界に召喚されたってんなら、そのうちに呼びつけた奴が出て来んだろ。
 少なくともこの庭園を管理している誰かには会えるだろうぜ」
「うん、そだね」
 他に対案もなく、二人は警戒しながらそろそろと移動を開始する。
「罠は……見当たらないようだな」
 ここが月匣内部であれば当然の行為であるが、ごく普通の庭園では苦笑を誘うようなそれは警戒振りであった。
 だが若くとも戦場での経験が豊富な二人は、庭園全体に張りつめる微妙な空気を読み取っていた。それがなんであるかは解らない。
 嵐のように猛々しいプラーナの残滓。
 言ってみればそういうものだった。この場に残されているのは。
 それをもって判断するには不十分。しかしながら、警戒する理由としては十分な、その程度のものである。
 神経を研ぎ澄ませ、歩を進める柊。その後ろを、彼が歩いて安全を確認したところだけを辿るくれは。もちろん、互いに何かあったときに反応できるように準備は怠らない。
 そんな進み方であればこそ、そして熟練のウィザードであればこそ、その最初の一撃にかろうじて反応できた。
「でぇりゃぁぁぁ」
 ガサガサガサ……
 頭上の枝葉がざわめく。次の瞬間に降ってきたものの正体を柊は正確に認識している余裕はなかった。ただ殺気だけを感じて両腕を交差させただけ。
 ガッ
 次の瞬間、叩きつけられた衝撃が、その判断を正しいものと教えてくれた。月衣を通してすら感じられる重たい衝撃。何者かの踵蹴りを防御した反動である。振りほどくように交差を解いて、その踵をはらう。
「ほう、やるじゃねえか」
 一方、蹴りを放ったほうはバランスを崩すこともなく、余裕を持って距離を取った。
「ちっ、なんだ?いきなり」
 柊もまた、くれはを背後にかばえる位置に移動しながら、目の前の奇襲者を観察した。
 彼よりもやや年上であろうか。二十歳前後の目つきの鋭い青年である。デニムのパンツにジャケットとラフないでたちであるが、各所に刺繍された薔薇が奇妙なインパクトを与えている。
 さらに何のつもりか、胸に大きくSと描かれたシャツを着込んでいる。一歩間違えると鼻につくほどの気障っぽさであるが、青年の野性味あふれる風貌とあいまって、妙なけれん味を醸し出していた。
(そんなことよりも、問題は……あの手袋だ)
 中でも柊が注目したのは、両手を覆う漆黒のグローブである。彼のしているそれと違って、指を露出しない完全に手首から先を包むタイプである。
 皮製であろうか妙なつやのある手袋は、この南国の気候にあっては場違いなまでに暑苦しい。おそらく内部は地獄のサウナとなっているに違いない。それを押して着けるのは何故か。
(拳の保護ってセンが強いな。するとやつは拳法使いかなんかか?)
 最初の鋭い蹴りを見るかぎり、その可能性は高いだろう。
 見れば相手も同様にこちらを推し量っているのが見える。
(魔剣は月衣の中にしまったままだ。こっちの手の内はそうそう読めねえだろ。
 問題は、こっちも相手の手の内が読みきれてねえって事だがな)
 ここが異世界であるならば、目の前の青年がどんな能力を持っているか知れたものではない。
 つぅっと、一滴の汗が頬を伝った。

マスターシーン ???


「ついに見つけたぞ」
 薄暗い部屋で老人が悪魔の笑みを浮かべる。
 怪奇であった。
 老人の風貌は紳士と呼ぶにふさわしい、年齢相応に整い、知性に裏打ちされた落ち着きをまとったものである。
 身に着けるものも素人目にすら安くない仕立てとわかる洗練されたスーツ、そして優雅なマントでしかない。
 この組み合わせであれば、完成するのは穏やかな老教師、あるいは老貴族であろう。
 事実、スペインの古城あたりで古い蒐集品を整理でもしていたら、これほど似つかわしい姿はないだろう。
 であれば何故、何故この男の笑みは人をこれほどまでに不安にさせるのか。
 何故穏やかな老紳士の、その笑みの後ろにこうも狂気を見出せるのか。
 そのずれに気づいたとき、人はそこに怪奇を感じずにはいられないだろう。
「同質の存在は引き合う。
 ワシの理論によれば、檻は台湾にある……」
「それは重畳」
 怪紳士の言葉に、部屋の暗がりから言葉が返る。
 そこにいたのは一人の戦士であった。怪紳士の怪奇性が、その内面よりにじみ出てくるものだとすれば、戦士は外見からそうであった。
 その身にまとう甲冑は、甲殻類をモチーフとしたものであろうか。その生物と非生物とが融合したデザインは、やはり見る者の感性をひどく揺さぶる怪奇に満ちていた。
「ならば、俺の言は信用してもらえた、と言うことかな」
「キミが話してくれた部分に関してはね」
 穏やかな教師が教え子に諭すような口調であった。その裏には、戦士の思惑など全て見通していると言う自負も見え隠れする。
 そして戦士もそのことについて反論するでもない。もともと互いの利害が一致した以上の関係ではない。相手がこちらをどう思っていようと知ったことではない。自分の邪魔さえしなければいいのだ。
「では回収を始めるとしようかな」
「ああ、そうしよう」
 ふふふふふふふふふ
 くくくくくくくくく
 人知れぬこの世の闇に、二人の怪人の笑いが交錯した。
 それが新たな陰謀の始まりと、知る者はまだいない。

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